切り離された過去の世界。そこで己の神秘と向かい合う事となった小鳥だが、先ずは一つの目標を立てる事にした。
「それならよ〜人助けでい〜んじゃね〜か〜?」
消えゆく世界とはいえ、そこはその瞬間まで生きている。干渉するのであれば、無作為にではなく、明確な目的を持って行動した方が良いだろう。そう考えた小鳥は、レンに意見を求めた所、そんな答えが返ってきたのだ。
人助けとは簡単に言うが、誰をどのように助けるのか。それが問題だ。小鳥がそう尋ねると、レンは笑いながら答える。
「簡単だぜ〜切り離された世界ってのはよ〜本来、あるべきものが欠如してるってこった。だからよ〜過去に飛んだ後、パパッと調べっから任せな〜」
「レンちゃんも過去に行くのでありますか?」
「お〜当然だぁ〜私がいね〜とよ〜そもそも過去には行けねぇ〜からな〜」
レンが言うには、過去に行くとしても、彼女を同行させなければ実現は不可能との事。そして何より、過去から現在に戻る上でもだ。
つまり、過去に飛んだレンの身に何かあれば、元の世界に戻る事が出来ない上に、そのまま消失する可能性もある。
そう考えると、少し難易度が上がった気がする。しかし、小鳥は首を横に振ると、レンに笑みを向けながら了承した。1人よりも2人いれば心強い。それは間違いないのだ。だからこそ、小鳥は彼女の提案を受け入れた。
「それでは、荷物を用意しないといけないですな」
「そだな〜お菓子にジュースにお野菜に〜」
「レンちゃん。食材は現地調達するので必要ありませんよ」
「……お〜それじゃ〜トマトだけでもよぉ〜」
「まぁ……1つくらいでしたら良いでしょう」
小鳥がそう言うと、レンは嬉しそうに笑みを浮かべる。
予備の銃弾や簡易救急セットなど、必要最低限のものだけを持ち、キャリーケースの中身と入れ替える。その作業中、小鳥はレンに尋ねる。
「因みにですが、過去に戻る時ってどんな感じなんですか?」
小鳥の言葉に、レンは顎に手を当てて考える。そして、少し考えてから答えた。
「お〜こう……ぴか〜ってなってぎゅ〜んってなってスタンって感じだなぁ〜」
「……成程」
感覚型か……と小鳥は内心思った。しかし、何となくだがイメージはついた。
そして、準備を終えると、小鳥はレンに視線を向けると、レンも準備を終えたようで、袋にトマトを1つと、小さめの炭酸飲料が入ったペットボトルを抱き締めていた。
「……ジュースも持って行きたいでありますか?」
「お〜」
小鳥の言葉に、レンは頷く。まぁ、ペットボトル1本くらいならと、小鳥はそれを許した。
そして、準備を終えた小鳥は、レンの荷物をキャリーケース内に入れると、レンに視線を向ける。
「後は任せろ〜過去に飛ぶ時ってな〜酔う事もあるからよ〜気を付けな〜」
そう言って、小鳥の手をレンが握ると、そのまま目を閉じた。
静かに、僅かに聞こえる程度の声量で、レンが何かと話をしている。己の神秘と向かい合い、交渉しているのだろう。少しずつ、レンの内側から神秘が溢れてくるのがわかる。
レンの神秘は、神秘との共存に呼応して力を発揮する。そしてそれは、互いが望めば望む程にその効果を高めるのだ。
やがて、レンの神秘が小鳥と混じり合い、世界が一瞬揺らいだ。そして、その次の瞬間には、視界が切り替わり、見覚えのある景色が目に映った。
視界に映るのは、砂に埋もれた建築物。砂漠地帯に隣接した地域であるこの場所は、アビドスで間違い無いだろう。
直ぐにポケットから携帯を取り出し、日付けを確認する。画面に映る日付は数ヶ月前のもの。そして、小鳥は理解する。此処が過去の世界であり『切り離された世界』であると。
「これがレンちゃんの神秘でありますか、いやはや、これは驚きですね。疑っていたわけではありませんが……レンちゃん?」
小鳥が視線をレンに向けると、レンは蹲っていた。
「レ、レンちゃん!! 大丈夫ですか!!」
慌てて駆け寄る小鳥に、レンは顔を上げると、
「小"鳥"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"……あ"づぃ"ぃ"ぃ"ぃ"……づら"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"……」
そう言って、レンは涙目で顔を真っ赤にしていた。見れば、彼女の全身から大粒の汗が浮き上がっている。
小鳥は慌てて駆け寄り、キャリーケースからタオルを取り出すと、それでレンの汗を拭う。
「だ……大丈夫でありますか?」
「あ"ぁ〜……な"ん"かよ〜……あ"づぐでボーッとしてんだぁ……」
そう言って、ゆっくりと立ち上がるも、その足取りはとても不安定であり、今にも倒れてしまいそうだ。
「これは……ちょっと拙いですね」
小鳥はそう呟くと、レンに肩を貸す。そして、そのまま彼女の体を支えながら歩き出した。取り敢えず、コンビニでもなんでもいい。涼しい場所に行かなくては。
「あ"〜……悪ぃな〜小鳥ぃ……」
レンが申し訳なさそうに言うと、小鳥は首を横に振る。
「気にしないでください」
そう言って、小鳥とレンは歩き出した。そして、歩く事数十分。既に歩く気力すら無くしたレンを背負っていた小鳥は漸くコンビニへと到着した。
「あ〜……助かったぁ〜……」
冷房の効いた店内に入った瞬間、レンは大きく息を吐き出した。そして、そのまま店内のイートインコーナーの椅子に座り込む。
「レンちゃん、何か欲しいものはありますか?」
小鳥がそう尋ねると、レンは首を縦に振り、ある方向を指差した。
「あ"〜……そこの炭酸飲料をくれぇ〜」
レンが指差したのは、過去に飛び立つ前に、レンが抱えていた炭酸飲料と同じものだった。小鳥はそれを手に取ると、レジへと向かい会計を済ませた。そして、その袋をレンに差し出す。
「どうぞ」
小鳥がそう言うと、レンは袋を受け取り、中身を確認する。すると、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「お〜これだよ〜これ〜ありがとな〜小鳥〜ついでに開けてくれ〜」
「はいはい」
レンに頼まれ、小鳥は炭酸飲料の蓋を開けると、それを彼女に渡す。すると、レンはそれを受け取り、ゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み干し、大きく息を吐き出した。
「はぁ〜……生き返ったぜぇ〜」
「それは良かったであります」
なんとか落ち着いたようで、小鳥は安堵すると、レンに尋ねる。
「それで、これからどうするんですか?」
すると、レンは困った表情を浮かべながら答える。
「あのよ〜今日は頑張ったからさぁ〜何処かのホテルで一泊しよ〜ぜ〜」
「頑張ったって、まだ来て時間は経ってないですよ?」
「いや〜私が限界だったろ〜? これでも頑張ったんだぜぇ〜」
そう言って、レンは欠伸をする。その表情は眠た気だ。
「……もしかしてレンちゃん」
「お〜体力とかメンタルとかクソ雑魚だぁ〜」
「やっぱり……」
そんなやり取りをしながら、どうしたものかと思案する。せめてアビドス高等学校までは行きたいが、この状態のレンを連れて行くのは難しい。
恐らく歩けない。歩けても数十メートルごとに休憩を挟む可能性がある。そうこうしている間に、コンビニで補充した物資が底を尽き、大変な事になる。
どうしたものかと思考を巡らせる小鳥だが、ふと、ある事を思いつく。それは……。
「仕方がありません」
「お〜ホテルに行くか〜ついでに此処でごh…「レンちゃん」んぉ〜?」
言葉を遮られ、レンは頭の上に『?』マークを浮かべる。対して、小鳥はキャリーケースをレンの目の前に置き、その蓋を開けた。
「どうぞ」
そう言って、小鳥はキャリーケースの中を見せる。そこには、お互いの荷物が入っていた。
「なぁ〜荷物がどうしたってんだ〜?」
「今から、このキャリーケース内の荷物をどかすので、レンちゃんはこの中に入って下さい」
「……おぉ?」
小鳥の言葉に、レンは首を傾げる。しかし、小鳥はそのまま言葉を続けた。
「このコンビニ、何故かリュックやらクーラーボックスやら、色んな物が揃っています。保冷剤を沢山買って、この中に入れますので、レンちゃんはこの中で涼みながら寛いでいて下さい。その間に私がキャリーケースを引いてアビドス高等学校まで向かいます」
小鳥の提案に、レンは目を見開く。
「いや〜でもよ〜」
「レンちゃん、大丈夫です。このキャリーケースは以前にも人を入れた事がありますので」
「おぉ……ゆ〜かいかぁ〜?」
「暑い所はダメ、移動もダメ、体力もなければメンタルもクソ雑魚なレンちゃんと行動を共にするにはこれしかないのです。さぁ、食べたいものとか飲みたいものとか、色々と買って良いので、大人しく従いなさい」
小鳥がそう言うと、レンは暫し考え込む。そして、諦めがついたのか、大きく息を吐くと頷いた。
「わかったよ〜。小鳥、悪ぃけど私の代わりに頑張ってくれよ〜」
「えぇ、お任せあれ」
「それじゃ〜欲しいもの買って良いか〜?」
「どうぞ」
そう言って、小鳥は買い物かごを取り、買い出しを始めた。
「小鳥ぃ……お菓子買って良いかぁ?」
「良いですよ。ですが、嵩張る物はダメですよ」
「小鳥ぃ……ジュースも良いかぁ?」
「良いですけど、クーラーボックスがあるとはいえ、温くなったら美味しくなくなりますからね。それをふまえて選んでくださいよ」
「おぉ〜大丈夫だ〜温くなる前に飲むからよ〜」
「お腹、壊さないで下さいね」
「小鳥ぃ……このアイス食いてぇ」
「1人で食べられますか?」
「お〜任せろ〜」
「全く、本当にお腹を壊しても知りませんからね。というより、先にトイレに行った方が良いんじゃないですか?」
「お〜そだな〜……小鳥ぃ、ウォッシュレットがついてねぇ〜」
「あぁ……ど、どうしましょうか?」
レンの我儘に、小鳥は1つずつ丁寧に答えていく。そして、買い物を終えてコンビニを出ると、小鳥はレンに声をかける。
「レンちゃん。荷物を纏めました」
「お〜悪ぃな〜」
「大丈夫です。さぁ、入って下さい」
小鳥はレンの前にクーラーボックス入りのキャリーケースを持ってくると、蓋を開けてレンに見せる。すると、レンはキャリーケースの中へと入った。
「お〜意外と心地良い?」
クーラーボックスから保冷剤を取り出し、それを薄手のタオルに包んでレンの体に当てる。
「おぉ〜良い感じだ〜小鳥ぃ、気持ち良いぞぉ〜それじゃあ……後は頼んだ〜」
そう言ってレンは笑みを浮かべると、そのまま目を閉じた。
「……寝ちゃった」
小鳥がレンに視線を向けると、彼女は既に寝息を立てていた。余程眠たかったのだろう。しかし、これで漸く移動が出来る。
「さて……行きますか」
小鳥はレンが起きないようにキャリーケースを閉じると、そのままアビドス高等学校へと向かって歩き出した。
おまけ
黒服とレンのやりとり集
「よぉ〜おめぇ〜が黒服だなぁ〜神秘の研究をしてんだろぉ〜協力すっからちょっと手ぇ貸せやぁ〜」
「おやおや、突然の来訪者かと思えば……取り敢えず、お話をする前に何か飲まれますか?」
「お〜ありがて〜炭酸飲料水をしょも〜するぞぉ〜」
「黒服ぅ……缶詰開けてくれぇ」
「おやおや、これはまた……随分と沢山買いましたね」
「缶詰は調理いらずだからよぉ〜多めに買っておいたんだよ〜」
「……ふむ。しかし、開けられなければ意味がありませんね」
「黒服ぅ……ボトルの蓋が開かねぇ〜」
「ふむ。これは困りましたね(ボトルの蓋すら開けられないのですか)」
「黒服ぅ……服が無くなった〜」
「おやおや、一度着た服は洗濯しないといけませんよ」
「やった事ねぇんだ〜助けてくれ〜」
「黒服ぅ……トイレ行きてぇ〜」
「おや、それはいけませんね。早くトイレに行った方が良いのでは?」
「運んでくれ〜」
「……おやおや」
「黒服ぅ……このトマト、指定した農園で買わなかっただろ〜分かるんだぞ〜」
「…………」
「……んぉ〜? 黒服〜?」
ベランダにポイッ!!
「黒"服"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!! ごめ"ん"な"ざぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"い"!! 開"げでよ"ぉ"!! づら"い"よ"ぉ"!! 我"儘"い"わ"な"い"がら"ざぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!! ゔぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
黒服の気遣いに気付いた小鳥
『協力者にも、番号は違いますが同じものを渡しています。共同生活になるとはいえ、プライベートな時間は必要でしょう。そのカードは、貴女が自由に使って下さい』
「……成程、そういう事か」
おまけのおまけ
龍巳 レンは神秘極振りのその他はクソ雑魚生徒である。
恐らく、先生より弱い。
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