過去、未来の記憶の同期。砂山の上の旗を落とさぬように、慎重に。
例え消滅する世界であろうとも、その世界の在りし日の記憶を読み取り、それを小鳥に伝える必要がある。
そう遠くない未来……いや、これは少し誇張して言い過ぎか。後数秒後の未来の話。カタカタヘルメット団がアビドスを奇襲する未来が見えた。
伝えた所で問題のない記録だ。
気を付けろと伝えただけで直ぐに察してくれた。そこから先は早かった。必要最低限の行動で撤退に追い込み、アビドスの生徒達に必要な物資を与えた。
これで、ある程度の信頼を得る事は出来ただろう。しかし、此処からが問題だ。コンビニからアビドス高等学校までの移動中、過去と未来に同期し続けた結果、この世界が消失する理由は分かった。
何故、先生が来なかったのか。その理由が分かったのだ。有り得たかもしれない分岐点とは、本当に恐ろしいものだ。
コレならば納得がいく。手紙を読む前に、あんな事が起これば、先生だって、そちらを優先するだろう。
何故なら、今もゲヘナの自治区では、アレが暴れているのだから……
ゲヘナ自治区
時は少し遡る。
ゲヘナ自治区は、混乱を極めていた。建物という建物が次々に爆破され、その残骸が辺り一面に散乱している。
そして、それを実行した存在が、ゲヘナ学園の校舎屋上で、楽しげな表情を浮かべながら佇んでいた。
「あぁ、楽しいなぁ」
その少女はそう呟きながら、腕に抱く怯えた少女の頭を頬擦りする。少女の背後には、怯えた少女の仲間達が気を失った状態で倒れていた。
「ヒ……ヒィ……ヒィ……タ、タスケ……タスケ……テ……」
「ねぇ、カスミちゃん。私がカスミちゃんの所で盗んだ爆薬……確か、1tくらいあったけどさ、どこに仕掛けたと思う?」
「し、知らない……わ、私は何も……」
その解答に少女は、カスミの頭を優しく撫でる。そして、その耳元に顔を近づけると囁いた。
「場所はね……こーこ」
「ヒィッ……!!」
少女はそう言うと、カスミは恐怖から彼女から逃げ出そうと試みるも、少女の腕が、カスミの首を締め上げた。
「ねぇねぇ、なんで逃げようとするの? 怖くないよ。痛くもないし……私がこれからする事はね」
少女はそう言うと、カスミを宥めるように優しく抱き締める。そして、彼女の耳元で囁いた。
「気持ち良くて……幸せになる事だから。よく言うでしょ? 赤信号だって、みんなで渡れば怖くないんだよ」
「や……やめ……」
「それにさ、カスミちゃん。花火ってさ、下から見るよりも、横から見るよりも、間近で見た方が綺麗なんだよ」
ポケットからスイッチを取り出し、ボタンを押すと、予め録音されていた音声が学校の放送機器から流れ始めた。
『ヤッホーみんなわっぴ〜! 元気にしてるー? 狂乱ちゃんだよ〜!! 現在この校舎に大量の爆弾を仕掛けてまーす!! 後5分後に爆発するから楽しみにしていてね〜!!』
少女はそう言うと、スイッチを押して音声を停止する。そしてカスミの頭に顔を埋めて余韻にひたる。
「今から5分後に爆発するよ。楽しみだね」
「や、やめて……たす……」
カスミはそう言うと、涙を流しながら懇願するが、少女には聞こえている様子はない。
「大丈夫大丈夫。これもさ、唯の余興だから。本命はさ、もうすぐ来るから楽しみだね」
「た……す……けて……」
「あっ、来た」
少女がそう言うと同時に、屋上目掛けて弾幕の雨が降り注ぐ。少女はカスミを抱き締めながら、その弾幕を回避するも、その射線上はビームで焼き払われたが如く抉れていた。
「うわ〜相変わらず凄いや。惚れ惚れするね」
少女はそう言うと、満面の笑みでその相手を見つめる。視線の先には、ゲヘナ学園の風紀委員会の制服を纏った生徒がいた。
ゲヘナ学園、風紀委員会所属、風紀委員長の空崎 ヒナである。
彼女の周囲には校舎から離れようと逃げ惑う生徒達で溢れている。しかし、彼女はそれを歯牙にもかけず、銃を構えながら少女のいる屋上を見つめていた。
あの時と変わらない。懐かしい感覚に、少女は笑った。
「あはははははっ!! 来てくれた!! 来てくれた!! やっぱり貴女は来てくれた!!」
「……久し振りね。1年ぶりかしら?」
「はいっ!! 1年ぶりです!! ヒナ先輩!!」
ヒナは銃を構えたまま、少女を見つめる。そして、少し間を開けると口を開いた。
「それで……用件は何かしら? 街中に爆弾を仕掛けて風紀委員会の戦力を分散させて、その上で校舎に爆弾を仕掛けた意図を聞いても良いかしら?」
「はい、それは勿論……」
少女はそう言うと、カスミを優しく地面に座らせ、銃を構える。少女の愛銃はSG……M30。
それを愛おしそうに撫でながら、少女は口を開いた。
「貴女と遊ぶ為です。ヒナ先輩。あの時のように。心地良い痛みを味わいたくて、愛おしくて、狂おしい程に、貴女が欲しくて、此処まで来ました」
「そう……残念だけどお断りするわ。貴女の遊びに付き合うつもりはないから」
ヒナはそう言うと同時に、引き金を引いた。それと同時に、校舎内に仕掛けられていた爆弾が爆発し、校舎全体が崩れ落ちていく。
爆発に巻き込まれ、校舎の中に落ちていくカスミの悲鳴が木霊する中、弾幕を回避し、崩壊する屋上から飛び降りた少女は、真っ直ぐにヒナのもとへと駆けていく。
「あははっ!! 相変わらず容赦ないですね!!」
少女はそう言うと、銃の引き金を引いた。放たれた銃弾がヒナに襲いかかるも、彼女はそれを正面から受け切り。そのままの勢いで引き金を引いた。
放たれた弾幕が少女の全身をくまなく穿つ。それでもなお、少女は笑みを浮かべたままだった。
「あははっ!! やっぱり、楽しいなぁ!!」
少女はそう言うと同時に、銃を持ち直し、思い切り振り上げる。そして、そのままの勢いで振り下ろした。
振り下ろされた銃を受け止め、鍔迫り合いとなる少女とヒナ。力は拮抗……否、徐々にヒナに軍配が上がる中、ヒナは溜息混じりに口を開いた。
「相変わらず、強引な子ね……でも残念。反省が足りていない貴女は、もう一度連邦矯正局に収監するしかないわ」
「あははっ!! それは酷いなぁ」
ヒナの言葉に、少女は満面の笑みで答える。
「私はまだ、貴女と遊び足りないのです。どうか、どうかもう少しだけ、私と付き合って下さいよ。ヒナ先輩」
「そう……なら」
ヒナはそう言うと同時に、少女を思い切り蹴り飛ばす。そして、銃を構えた。
「もう1度、反省してきなさい」
ヒナはそう言うと同時に、引き金を引いた。放たれた弾幕が少女の身体を穿ち、少女の身体はそのまま宙に舞う。
大抵の相手であれば、これで決着はついていた。しかし、ヒナの目の前にいる少女はその例に当てはまらない。
傷の再生速度もさることながら、その耐久力も桁違いに高いのだ。
その規格外の身体能力を以ってして、彼女は自身の名も兼ねてこと呼ばれている。
『狂乱の不死鳥』不死川 小鳥と。
「あははっ!! 痛い……痛いなぁ!!」
小鳥は空中で身体を捻り、崩れた校舎の壁に足を付けた。そして、そのままの勢いで壁を強く蹴る。
「でも、まだ……まだ足りない!! もっと、もっともっと!!」
小鳥はそう言うと同時に、ヒナに向けて駆け出した。その速度は凄まじく、瞬く間にヒナの目の前まで迫ると、そのまま再び銃を振り上げる。
「だから、もっと遊ぼうよ!!」
「くっ!!」
ヒナは咄嗟に身を反らし、その一撃を回避する。しかし、小鳥はそのままの勢いで地面に着地すると、そのまま地面を蹴り飛ばして、再びヒナに迫った。
「あははっ!! 楽しいなぁ!!」
「まったく……本当に手がかかる子」
呆れ気味に呟くと、ヒナは迫り来る小鳥に向けて引き金を引いた。放たれた銃弾が小鳥の身体に突き刺さるも、彼女は笑みを崩さない。
両者のぶつかり合いは暫く続き、そして小鳥の撤退という形で幕を下ろした。
まだ遊び足りない。
そう言い残した彼女は、撤退用の爆弾を起爆させ、混乱に乗じてゲヘナ自治区から脱出する。
ヒナはそんな小鳥をただ見つめる事しかできなかった。
犯人は小鳥ちゃんでした。
なんの因果か、色々あって矯正局に送られていた小鳥ちゃんが、他の七囚人と共に脱走し、ゲヘナで悪さをかましてました。それが原因で先生は緊急の案件として、現在ゲヘナにいます。
なお、カスミちゃん達温泉開発部は、純粋な犠牲者です。
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