風紀の狂犬   作:モノクロさん

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情報収集

「……ごめんてレンちゃん」

 

「……やだ」

 

「本当にごめん」

 

「許さない」

 

「今度からはおまるを買ってきますから、明日からはそれを使って下さい」

 

「やだ!!」

 

 レンの尊厳を傷付けてしまった小鳥は、申しなさげに謝るが、彼女の怒りは収まらない。そもそもおまるで済む問題ではないのだが……。

 

 事が済んだレンはトイレから出ようとしない。その気になれば、持ち上げて教室まで運べるのだが、脱いだズボンと下着すら穿いてない状態の彼女を連れて帰れば、色々と誤解を招く可能性がある。

 

 しかし、このままでは埒が明かない。どうしたものかと、小鳥が考えていると、レンの顔が急に真っ赤に染まり、小声で誰かと話す素振りを見せた後……

 

「変態、バカ、アホ、まぬけ!!」

 

 と、罵倒してきた。小鳥は訳が分からず首を傾げる。一体誰と話しているのか、そう疑問に思った瞬間だった。

 

 レンの顔が再び真っ赤に染まり、ポツリポツリと言葉を紡ぎ出す。その言葉を聞き、小鳥は驚愕に目を見開いた。

 

「……クロノスから伝言」

 

「え、レンちゃんの神秘の?」

 

「ん」

 

 レンが話している人物は、自身の神秘の元であるクロノスだったのだ。レンとクロノスは共存関係にある。そのクロノスが、レンを通じて小鳥に伝言を頼んで来た。

 

 そして、その伝言の内容は……

 

「……『良きものを見た。大義である』」

 

「……おぅ」

 

 小鳥は、その言葉の意味を察して複雑な気持ちになった。レンはレンで、自身の神秘が、何を見て、それをお気持ちとして伝えたのかは理解している。

 

 そして、その事実を理解した上で……

レンもまた涙目になりながら顔を赤らめた。

 

「私"の"神"秘"、頭"お"がじい"よ"ぉ"〜……」

 

 レンのその言葉に、小鳥は同意する。しかし、それは口にしなかった。

 

 

 

 

 その後、なんとかレンを宥めた小鳥は、アヤネから空き教室を借り、そこで寝泊まりする事にした。夜は意外と涼しい。暑さで目が覚める事はないだろう。

 

 空調がしっかりと完備されたマンションの一室と違いはするが、十分すぎるほど快適だ。

 

「夜の学校怖い」

 

 それでもレンは、夜の学校が怖いからと、小鳥の布団に潜り込んできた。そんな彼女を優しく抱きしめながら、小鳥は呟く。

 

「本当に恐ろしいのは人間ですよ」

 

「なんでそんな事言うかな」

 

 なお、レンの口調が戻っているのは、クロノスからの感謝の気持ちらしい。

 

「レンちゃん」

 

「おぅ?」

 

「レンちゃんが眠るまでは一緒にいますが、私はこの後、ヘルメット団の子とお話をしてきます」

 

「……明日で良いだろぉ」

 

「こういうのは早めが一番ですからね。ですが、ご安心下さい。隣の部屋でしますので、何かあったらすぐに対処出来ますから」

 

 そう言って、小鳥はレンを安心させようとするが、レンは不安そうな表情を浮かべたままだ。

 

「トイレならほら、アヤネちゃんが、良さげなおまるを用意して……」

 

「小鳥のバーカ!!」

 

 レンはそう言って、小鳥の頬を軽く抓った。そしてそのまま、ムスッとした表情のまま目を閉じ、すぐに寝息を立て始めた。

 

 そんなレンを優しく撫でながら、小鳥は暫く彼女の背中を撫で続けた。

 

 レンが寝静まった後、小鳥は隣の部屋に移動し、ヘルメット団の少女に話しかけた。

 

「はろはろ〜こんばんはぁ。小鳥ちゃんですよぉ。改めまして初めましてぇ」

 

 フレンドリーに話しかけるも、彼女は口を開かない。小鳥が何を言っても、何も反応しないのだ。

 

 これでは埒が開かない。これは困ったと、小鳥は苦笑を浮かべながら、ふぅっと溜息を吐く。

 

「これは疲れるのですが、仕方がありませんね」

 

 そう言って、小鳥は彼女に近付き、鼻先が触れ合うギリギリまで顔を近付けた。

 

 彼女の僅かな吐息が小鳥の唇に掛かる。震えている。目線も彼方此方にと忙しなく動いている。成程、こういう事には慣れてないな。

 

 それなら簡単だ。

 

 小鳥はニヤリと笑みを浮かべ、静かに彼女の前で囁いた。

 

 

 

 

 

 もぞりと身じろぎをした後、レンは目を覚ました。眠気まなこで身体を起こし、隣にいた筈の小鳥がいない事に気付き、辺りを見渡す。

 

 そういえば、ヘルメット団の少女と話してくると言っていた。それなら、今は隣の教室か。そう考えながら、レンは再び横になった。小鳥が戻ってくるまでは二度寝するとしよう。そんな事を思いながら、目を閉じようとした時だった。

 

「……トイレ」

 

 唐突に尿意に襲われたのだ。トイレに行きたい。だが、1人で行くには、夜のトイレは恐ろしすぎる。部屋の隅に、自然と視線が向けられる。

 

「なんで、学校におまるがあるのぉ……?」

 

 そんな事を呟きながら、おまるに跨る自分の姿を思い浮かべる。

 

 いや、恥ずかしい。それは嫌だ。しかし、一人で行くのは怖い。小鳥が戻ってくるまでの辛抱だ。それまで我慢していよう。

 

「…………うぅ」

 

 だが、ついつい意識してしまう。そして、意識すればするほど、尿意は高まるばかりだ。

 

 仕方がない。隣の教室にいる小鳥にお願いしよう。そう思い、立ち上がった後、恐る恐る扉を開けて、廊下を見渡す。

 

 やはり、夜の学校は恐ろしい。だが、ここで立ち往生していても仕方ない。レンは勇気を振り絞って廊下に出ると、隣の教室に向かおうとしたのだが、その教室から、小鳥の声が聞こえた。

 

 何かあったのだろうか?

 

 レンは疑問に思いながらも、その教室の扉を少し開け、中を覗いたのだが、そこには、驚愕の光景が広がっていた。

 

 ヘルメット団の少女の頭を両手で固定して、身動きが取れないようにし、鼻先が触れ合う距離で見つめ合いながら、小鳥が何かを一方的に話している。

 

 対して、ヘルメット団の少女は、大量の汗を流しながら目を見開き、恐怖に顔を歪ませていた。

 

 小声で上手くは聞き取れないが、それでも、内容は……いや、あれを内容と言って良いのか分からない代物だった。

 

 それは、何の意味もない文字の羅列。文章として成り立たないそれを延々と繰り返し、相手の反応を確かめているようだ。そして、その反応を見ては、小鳥がニタリと笑みを浮かべる。

 

 ヘルメット団の少女は恐怖に震え、目には涙が浮かんでいた。その異様な光景に、レンは慌ててその場を後にした。そして、そのまま寝室に戻ると、涙ながらにズボンと下着を脱ぎ、おまるに跨る事となった。

 

 小鳥のバカ、アホ、まぬけ。レンは泣きながらに、そう呟いた。

 

 その後、ヘルメット団の少女から情報を入手出来たとほくほく顔で戻った小鳥だったが、使用済みのおまるを見て、『やれやれ、一声かければトイレまでついていったのに』と、溜息混じりに言い。レンは、顔を真っ赤にしながら、涙ながらに小鳥の事をポカポカと叩いたのだった。




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