早朝から学校を出発し、歩き続ける事数時間。小鳥とホシノは、カタカタヘルメット団の拠点付近まで足を運んでいた。
「…………」
小鳥が先行し、その後をホシノが続く。今の所、監視カメラやトラップの類はない。彼女達からすれば、此方から攻めて来る事は想定していないのだろう。
不用心な話だ。此方には捕虜がいて、拠点の情報を聞き出しているかもしれないというのに。
しかし、それならそれで好都合だ。得られる情報が多ければ多いほど、此方が有利となる。このチャンスを逃す手はない。
ある程度近付けば、流石に見張りが周囲を警戒しながら巡回している。だが、その警戒心は緩く、周囲に視線を向けてはいるものの、少し離れた位置に居る小鳥とホシノには気付いていない様子だ。
小鳥は、拠点から死角となる場所まで移動し、ホシノに声をかける。
「此処からなら安全に確認出来ますよ」
そう言って、小鳥はホシノに双眼鏡を渡す。拠点周辺の地形を精査し、襲撃・潜入ポイントを確認する為だ。
「ありがとう小鳥ちゃん」
ホシノは双眼鏡を受け取り、そのレンズを拠点に向けて覗き込んだ後、暫くの間、無言で拠点周辺を観察していた。そして、双眼鏡を下ろし……
「うん、確かに情報通りだね。しかも、拠点としては結構大きそうだよ」
そう呟いた。
「そうですね。それに、彼女達の装備も充実しています。定期的に物資を仕入れているのでしょう」
「凄いねぇ。なんの旨みもない学校を占拠する為に此処までするなんて。スポンサーは一体、何を考えてるんだろうねぇ?」
「ははは、流石にコメントし辛い内容ですが、それだけの価値があるという事は確かでしょう。それについてはホシノさんの方が詳しいのでは?」
ホシノにそう問うが、ホシノは首を横に振る。彼女からしても、ヘルメット団がアビドスに固執する理由が分からないらしい。
「おじさんもそこまでは……でも、何かありそうだねぇ。一体、何を企んでいるんだろう」
「いずれにしろ、彼女達の拠点を潰す事に変わりはないでしょうが、何かめぼしい情報が入れば御の字くらいの感覚で良いのかもしれませんね」
「あはは、確かにそうだねぇ」
ホシノはそう言って笑うと、双眼鏡を小鳥に返す。そして……
「さてと、偵察のつもりできたけど、どうしよっか?」
「そうですねぇ……見た所、油断しきってますし、ちょうどあそこに、巡回をサボってる子が2人」
「あ、ホントだ。じゃあ……」
「やっちゃいますか」
「おっけー」
そう言って、2人は巡回をサボってるヘルメット団の背後から忍び寄り、口元を抑えて抵抗する間も与えず気絶させる。そして、着ていた衣服とヘルメットを拝借し、拠点に忍び込んだ。
そこから先は、単純作業だった。1人1人、空き部屋に連れ込んでは気絶させ、拘束する。少しずつ、数が減っているにも関わらず、彼女達はそれに気付いた様子もなく、呑気に会話をしていたり、食事や睡眠をとっている。
そんな彼女達を、言葉巧みに誘導し、部屋に連れ込んでは気絶させる。目を覚ました者もいたが、口を塞がれている為、助けを呼ぶことも出来ず、犠牲者が出る度に、恐怖に慄き、身体を震わせていた。
「手慣れてるねぇ。もしかして本当に前科持ちだったりして」
「あはは、こういう作業に慣れているだけですよ」
「それにしたって手慣れすぎてるよぉ。まるで、治安維持組織に勤めてる人みたい。例えば、ゲヘナの風紀委員会とか」
その指摘に、小鳥は内心ドキッとしたが、表情には出さずに微笑む。
「あはは、まさか。ゲヘナは相当治安が悪いと聞いています。私のような半端者では、風紀委員会なんてとても務まりませんよ」
「……そっかぁ」
ホシノはそれ以上深く言及する事はなかった。恐らく、小鳥がゲヘナの出身である事は予想がついているのだろう。しかし、本人が否定している以上、深入りする事は出来ない。
「さてと、こんな所ですかね」
全てのヘルメット団を拘束し終えた後、小鳥は背伸びをして、身体を解す。ホシノも同じく『お疲れ〜』と言いながら肩を回していた。
「それじゃ、後はお楽しみの」
「戦利品の物色といきますか」
「おっ、わかってるねぇ小鳥ちゃん。おじさんそういうノリ好きだよ」
ホシノは子供のような笑みを浮かべると、早速拠点の探索を始める。
そこそこ大きな拠点という事もあり、物資は潤沢に揃えられており、食料や弾薬、衣類から医薬品に至るまで、ありとあらゆる物資が揃っている。
まさに、宝の山だ。
「凄いね小鳥ちゃん。これなら暫くは大丈夫そうだよ」
「そうですねぇ……あ、ホシノさん。これこれ」
「ん〜どれどれ〜……おぉ、これはこれは」
小鳥が見つけたのは、戦車を動かす為の燃料が詰まったタンク。しかも、かなりの量だ。これがあれば暫くは戦車を動かす事が出来るだろう。
「これだけあれば充分ですね」
「うん、そうだね」
想像以上に良い物が見つかった。これらを持ち帰るには、それなりの時間を要するだろう。
「流石にこれは、他の皆に協力してもらわないと、日が暮れちゃうね」
「では、応援を呼びますか?」
「うん、そうしよう」
ホシノはそう言うと、端末を取り出し、何処かに電話を掛ける。この物資の量を見れば、きっと驚くだろう。そう思いながら、他に見落としがないか、確認する事にした。
その後、応援が来るまでの間、小鳥とホシノは、ヘルメット団の拠点から、運び出せる物は全て運び込んだ。そこには、彼女達が装備していた武器や弾薬、ヘルメットも含まれており、涙ながらに『それだけは勘弁してくれ!!』と懇願されたが、小鳥から『黙れ』と一喝され、大人しくなった。
「さてと、こんなものですかね?」
「だねぇ、それで、あの子達はどうするの?」
「私達が学校に戻ったタイミングで、ヴァルキューレにでも匿名で連絡を入れましょう。流石に放置するのは可哀想ですし」
「……それは良い考えだねぇ。おじさんも賛成だよ」
「……?」
一瞬だけ、ホシノの瞳に揺らぎを感じた。それが何を意味するかは分からなかったが、その事について、深く追及する事はなかった。恐らくそれは、踏み越えてはいけない領域だろう。
その後、対策委員会のメンバーと合流し、物資を運び込んだ小鳥達は、アビドスに戻った後、ヴァルキューレに匿名で連絡を入れた。これで、彼女達の身柄はヴァルキューレが確保するだろう。いずれにせよ、カタカタヘルメット団は壊滅し、1つの脅威は去った。
アビドスが抱える問題は山積みだが、出来る事を、出来る範囲で片付ければ、きっと良い方向に向かうはずだ。
小鳥はそう信じ、レンが待つ教室へと戻った。
ゲヘナ自治区
「そう、分かったわ。ご苦労様」
爆破された校舎の残骸を視界に捉えながら、ヒナは携帯を耳から離し、通話を切る。
そして……
「全く、あの子は……」
そう呟きながら、溜息をつく。
狂乱の不死鳥こと、不死川 小鳥が齎す被害は後を絶たず、その尻拭いをするヒナの気苦労は絶えない。
先程の電話も、小鳥による被害の報告だった。幸い、規模は大きくなかったので事なきを得たが、場合によっては大惨事にもなり得ただろう。
このままでは被害が増える一方だ。現状では、小鳥の情報を入手し、潜伏場所を特定し、その拠点を潰す事で被害の拡大を抑えているが、それがいつまで続けられるか。
「はぁ……」
再び溜息を吐きながら、目撃情報を精査し、地図と照らし合わせる。
「……これは」
ヒナは、入手した情報の中に、アビドス自治区の地図が紛れている事に気付いた。
「まさか、あの子……」
ヒナは嫌な予感を感じ、ここ最近で起きたアビドスに関する情報を更に収集する。そして、ヒナの予感は的中した。
新しく流れてきた情報の中に、アビドス地区にて、拘束されたヘルメット団をヴァルキューレが保護したというものがあった。
その情報を見た時、ヒナは確信する。小鳥が、この一連の騒動に関わっていると。彼女達は銃火器を含む、全ての物資を奪われたと主張していた。
小鳥は、アビドスに潜伏し、彼女達から物資を奪った。そして、ヴァルキューレに匿名で連絡を入れ、その身柄を引き渡したのだ。
「……そう、あの子は今、アビドスに」
そう呟くと、端末を操作しシャーレの先生に連絡を入れる。
「もしもし、先生。今大丈夫かしら?」
『うん。大丈夫だよ』
「そう……良かった。少し相談があるのだけれど……」
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