風紀の狂犬   作:モノクロさん

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誤字報告ありがとうございます。
訂正させて頂きました。


歴史の歯車

 時間は稼いだ。

 

 その言葉の真意を確認する前に、エレベーターの扉が開き、そこからレンが姿を表した。辺りを見渡し、ホシノと小鳥の姿を確認すると、銃口を突き付けられた状態の小鳥に話し掛ける。

 

「おぉ、無事かぁ?」

 

「えぇ、なんとか。と言っても、ボロボロですがね」

 

「だなぁ、ボロボロだな」

 

 苦笑混じりに答える小鳥に、レンはホッとしたような表情を浮かべる。決して、楽観的になれる状況ではない筈なのに、レンは落ち着いた様子でエレベーターから降り、そしてすぐにホシノの方へと視線を向けた。

 

「という事でよぉ、私達は此処いらでおさらばするなぁ」

 

 にへらっと笑みを浮かべ、レンはホシノにそう告げる。その佇まいは無防備そのもの。特に警戒するに値しない筈なのに、今の彼女からは、小鳥以上の危険性をはらんでいると、ホシノの直感がそう告げていた。

 

「うーん、悪いんだけどさぁ、黒服と何を話していたのか教えて……っ」

 

 レンに問い掛けようとしたその瞬間、ホシノは自身の身体に違和感を感じた。身体が動かないのだ。指先一つ、動く事すら叶わない。何かされたのは間違いない。だが、何をされたのか、それを知る術を持たないホシノは、ただ困惑する事しか出来なかった。

 

「おぉ〜わりぃけどよ〜企業秘密なんだわ〜」

 

 レンの間延びした声が響き渡る。いつの間に移動したのか、レンは小鳥の隣に立っていた。

 

「すげぇなぁ〜意識があるのかよ。神秘の格が……いやぁ〜私が弱々なだけだなぁ〜」

 

 レンが何を言っているのか、ホシノには分からない。しかし、それが自身にとって良くない事である事は理解出来た。レンは小鳥の腕をギュッと掴むと、それに呼応するように小鳥の身体が動き出す。

 

「レンちゃん……これは……」

 

「し〜内緒なぁ〜今は何も言えねぇ〜」

 

 小鳥の問い掛けに、レンは人差し指を口元に当ててそう答えた。それを見て、小鳥もそれ以上は何も言わなかった。

 

「行くぞ〜小鳥〜長居は無用だ〜」

 

 レンは小鳥の腕を掴んだまま、ホシノに背を向けて歩き出す。しかし、すぐさま背負ってくれと要求し、小鳥はレンを背負うと、そのままビルを後にしたのだった。

 

 時間にして数分後、ホシノの身体が動くようになった。時間はそう経っていない。急ぎビルの外に出たものの、小鳥達の姿はなく、追跡は不可能だった。

 

 小鳥達が何処へ行ったのか。ホシノにはそれを知る術はない。そして、彼女達が自分達の前に現れる事も二度と無いだろう。

 

 ホシノは溜息を吐くと、空を仰いだ。見上げた空は深夜の為か、いまだに薄暗い。そんな当たり前の事が、今日ほど虚しく思えた日は無かった。

 

 

 

 

 目的地を定めず、小鳥はレンを背負ってアビドスの自治区を駆け回る。静寂が包む深夜の自治区。その静けさ故に背中の温もりを、息遣いを強く感じる。

 

「レンちゃん」

 

「……なんだぁ〜?」

 

「無理をしすぎです」

 

「……お〜すまねぇ〜」

 

 声色で分かる。相当体力を消耗していると。レンが黒服と交渉していた時間は短い。それこそ、黒服と対峙して直ぐに交渉が終わったようなものだ。

 

 レンの神秘、時を司るクロノスの権限を行使したのだろう。彼女からすれば、瞬き程の時間でしかない。

 

 交渉を終え、急ぎエレベーターで一階に戻り、時を止めて小鳥と共にビルを出た。そこまでは良かったものの、やはり無理があったようだ。

 

「……小鳥〜」

 

「なんですか?」

 

「あ〜まぁ〜なんだぁ〜」

 

 歯切れが悪い。言い辛いという事は、この先の未来の事だろう。余程、ろくでもない未来が見えたのだろう。『ミスった』と口にしていた事から、彼女なりに上手く調整を加えていたのだろう。

 

 それが、何かの手違いで未来を大きく変えてしまった事で、急遽黒服の元へ行き、帳尻合わせをした。

 

 ……いや、もしかしたら、本来辿る筈だった未来を外され、その調整に奔走していたが、それに失敗したのか。ならば、その分岐点はもしかすると……。

 

「レンちゃん。あの時、ホテルに泊まろうと言った本当の理由は……っ」

 

 小鳥の口を、レンの両手が塞いだ。レンは顔を伏せたまま、小さな声で囁く。

 

「駄目だぁ〜それ以上言うのはぁ〜」

 

 それ以上は言わせない。そう言わんばかりに、レンは小鳥の口を塞ぎ続ける。だが、その行動こそが、全てを物語っていた。

 

 あの時、ホテルに泊まろうと言った理由は、アビドス高等学校に到着するのを1日遅らせたかったのだろう。

 

 そうする事で、セリカとアヤネが留守を任されていた学校が、カタカタヘルメット団に占拠され、学校を奪還する最中に小鳥とレンが学校を訪れ、彼女達と繋がりを持つ。これが本来の歴史の形になる筈だったのだ。それなのに、それを察する事が出来なかった。

 

 レンは言っていた。弾丸1発で歴史が変わり、世界が切り離されて消失した事を。その事から、未来に起こる出来事を伝える事に躊躇した。

 

 ……いや、これは違う。レンが躊躇った理由は他にある。彼女が言わなかった本当の理由が何か。それは……

 

 何かを監視していた?

 

 そして、それに気付かれ、歴史が狂い始めた?

 

 レンの神秘に気付ける者は限られる筈だ。それこそ、彼女が警戒する程の相手ともなれば……。

 

 あぁ、なるほど……『私』か。




おまけ
・本来の歴史
ホテルで一泊

翌日、カタカタヘルメット団に占拠されたアビドス高等学校に到着
ヘルメット団を退ける(捕虜なし)

ゲヘナの風紀委員会、先生の協力の元、狂乱の不死鳥再逮捕

幾度かの戦闘でカタカタヘルメット団の拠点を把握&壊滅

此処から正史の世界線のアビドス編
(風紀委員会との戦闘は無し)

カイザーコーポレーションとの戦闘で神秘を発現させ成長

ハッピーエンド


・小鳥のやらかし歴史表
アビドス高等学校に1日早く到着

カタカタヘルメット団と交戦(捕虜をゲット)

翌日、捕虜から得た情報で拠点壊滅&ヴァルキューレに報告

空崎 ヒナおよび、狂乱の不死鳥に気付かれる
空崎 ヒナ「アビドスに小鳥がいる。行かねば」
狂乱ちゃん「小生のキャンペーンに割り込むなァーーーー!!」

帳尻合わせで黒服と交渉

ホシノと戦闘&撤退←いまここ



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