「……どういう事だ。黒服は一体、何を考えている?」
アビドス砂漠に築かれたカイザーコーポレーションPMCの一大拠点。その一画にあるオフィスの一室で、カイザーPMC理事は怒りを露にしながら机を叩いた。協力者である黒服から、此度の一件から手を引くよう通達があったのだ。
理由も不明。説明もなく、淡々と事務作業のように通達されたその文面に、理事は怒りを隠せない。
しかし、その怒りも一瞬の事。理事は直ぐに冷静さを取り戻すと、待機する部下達に指示を送る。
黒服がいなくとも、やる事に変わりはない。その為に時間と資金を投資し続けてきたのだ。今更、手を引く事など出来る筈がない。
皆が慌ただしく動き始める中、基地周辺を監視していた部下が異変に気付いた。
「ん? なんだこれは……侵入者?」
アビドス自治区、廃墟となった一軒家に身を寄せ、仮眠をとっていたレンだったが、未来が再び更新されたのを察知して目を覚ます。
「……そんな……なんで?」
黒服と接触し、歴史の歪みを修正した筈だった。しかし、その歴史が再び更新され、そこに映し出された光景に、レンは言葉を失った。
何が起こった?
黒服と交渉した後、新たに更新された未来では、最悪な状況を打破した筈だった。それなのに何故、再び同じ状況になっているのか?
この未来に辿り着く事は不可能。その筈だ。しかし、目の前の現実は無情にもレンを嘲笑うかのように突き付けてくる。
現実と未来がレンの中でぶつかり合い、答えが出ないまま、ただ時間だけが過ぎて行く。
修正が効かない。神秘を駆使し、何度も未来を元に戻そうと試みるが、その全てが同じ結果に終わる。
何をどう修正しても、そこに辿り着く未来を変える事が出来ない。何が起きている?
この未来に辿り着く条件はなんだ?
答えが分からない。改変へと導き出す為のピースが足りない。既にこの未来は決定している。それを覆す事は出来ないとでも言うのか?
いや、そんな筈はない。レンは考える。考え続ける。過去、現在、未来……意識を飛ばし、ありとあらゆる可能性を模索する。
……そして、彼女は辿り着いた。歴史を改変させた張本人を、ついに捉える事が出来たのだ。
レンの意識が彼女へと向けられる。
刹那。
妖しく光る眼光がレンの意識を捉えた。
「「「見〜つけた」」」
過去、現在、未来に張り巡らされたレンの意識へと、それは銃口を向け、引き金を引いた。
「っ!!」
その銃口が火を吹いた瞬間、レンの意識は、本体へと戻り、そして、現実に引き戻される。
撃たれた。だが、それはあくまでも、神秘によって飛ばされた意識だ。撃たれたからとて、レンの身体に異常は……。
「…………ぁ」
レンの身体に激痛が走った。
撃たれた?
いや、これは違う。この痛みは……っ!!
レンは痛みの原因を探ろうと自身の身体を見る。そして、その原因に気付き、思わず言葉を失った。
撃たれたのは自分ではない。撃たれたのは……クロノスだ。
レンの神秘が、撃たれたのだ。
レンの意識と神秘が、同時に撃たれた。神秘と共存関係にあるレンにとって、それは致命の一撃となるには十分な代物だった。
痛い、熱い……意識が途切れるそうになる。痛みと熱によって朦朧とする意識の中、レンは小鳥の身体にしがみつく。
「レンちゃん……っ、どうしたんですか!! レンちゃん!!」
目を覚ました小鳥が、レンの異常に気付き、慌てて彼女の身体を抱き締める。
レンは小鳥の腕の中で浅い呼吸を繰り返しながら、必死にその意識を保っていた。
駄目だ……倒れるな。まだ……終わりじゃない。ここで、倒れる訳にはいかない。 痛みを堪えながらレンは唇を噛み締め、意識を保ち続ける。
伝えなければ。小鳥に……伝えなければならない事がある。未来は変えられない。変える術は失われた。だが、その未来を乗り越える術はある。彼女に協力してもらえば、まだ……。
レンは震える唇を動かし、言葉を紡ぎ出す。
「ヒ…………ナ……っ」
それを告げた後、レンは小鳥の胸に顔を埋めたまま意識を失った。最後に紡がれたその言葉の意味を、小鳥は直ぐに理解出来た。
レンの口元に手をかざし、呼吸を確認、心臓も鼓動を続けている。小鳥はレンの身体を優しく抱きかかえながら立ち上がると、彼女が口にした言葉を呟いた。
鼻歌混じりに、狂乱の不死鳥は笑みを浮かべる。
舞台は整った。後は盛大なパーティーを開こう。
楽しい楽しい宴の始まりだ。
リカバリー失敗
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