訂正させて頂きました。
狂乱の不死鳥は、自分の知る世界との違いに愕然としていた。
この世界の私は、刑期を終える前に脱走し、ヒナに構ってもらいたくてゲヘナの自治区を破壊した。
そうすれば、風紀委員会に所属するヒナが、必ず来てくれると知っていたからだ。
私が暴れれば暴れる程、そこに風紀委員会が介入し、そしてヒナが現れる。
だから私は、ゲヘナの自治区を暴れ回り、そしてヒナに構ってもらう。そんな歪んだ愛情表現をしていたのだ。
フェネクスも、それが良いと後押ししてくれた。脱走の件だって、フェネクスがそうした方が良いと囁いたから……
精神的なダメージは極大といった所か?
狂乱ちゃんを観察しながら、小鳥は先程の嘘が思っていた以上にダメージになっている事に、ちょっとだけ、申し訳なく思った。
そもそも正規ルートである小鳥は矯正局に送られていない。出所した日にヒナが迎えに来たとなれば、それはもう結婚と同義ではないか。
寧ろ、そんな展開もありだなと、思いつつ、狂乱ちゃんにとって……ひいては、自分が絶対に言われたくない言葉を組み立て、それを捲し立てる作戦を決行した。
「まぁ、大方、フェネクスが唆したのでしょうねぇ。その方が良いって。そして現に、ゲヘナで暴れれば暴れる程に、ヒナ先輩が構ってくれるって、安易な方に走ってしまった」
「うぅ……」
小鳥の言葉に何も言えなくなった。そんな狂乱ちゃんに、小鳥は話を続けた。
「確かあの時は……そうそう、出所して住む家がない私に、部屋探しを手伝って貰いましたね」
勿論嘘である。しかし、判断力が鈍っている狂乱ちゃんにはそれが嘘か真か判断しようがないようだ。
「あ、あぁ……ああああ……」
頭を抱えて蹲る。部屋探しとか……それはもう付き合ってるじゃないか。
違う世界線の私はそんな羨ましい事を……と、きっとそんな事を思っているだろう。
「で、でも、その後はどうなんですか!! 私は……私は現在進行形でヒナ先輩にいっぱい構ってもらってます!! それにもうすぐ、此処にヒナ先輩が……」
やはり、此処に彼女が来る事も視野に入れていたようだ。此処で私を仕留めた後、彼女と楽しく遊ぶといった所か。
それにしても、構って貰えるか。私にとっては確かにご褒美だと思いながら、それでも尚、口撃の手を緩めない。
「勿論、その後も、いっぱい構って貰ってますよ。2人で買い物に行ったり服を買ったりで……」
「……は?」
呆然。そんな表情をして小鳥凝視する狂乱ちゃんに、一枚の写真を取り出した。
「信じられないといった顔ですね。まぁ、それに関しては証拠もありますゆえ」
「そ、それは……っ!!」
写真と思っていたものはプリクラだった。しかも、そこに写っていたのは、ヒナと小鳥がくっついて写っているものだった。
私服姿の小鳥と、制服姿のヒナ。小鳥は満面の笑みを浮かべ、ヒナは恥ずかしげに控えめな笑みを浮かべている。
「あ、あぁ……そんな……」
「あぁ、そうそう、他にもあるのですが……」
「ま、待って!! お願いだから……ちょっとだけでいいからっ!! お願い待って!! 頭がおかしくなる!!」
気持ちの整理がついていない今でこそ、精神的なダメージが入る。小鳥は間髪入れずに、これまでの思い出を話し始めた。
ヒナとのお出かけ内容を事細かに打ち明ける。そんな事を話し続ける小鳥に、狂乱ちゃんの精神はズタボロだった。
「うぅ……私は……私は……」
もう立ち直れない。ヒナにデザートを食べさせた辺りから大量の汗と過呼吸で一杯一杯な状態の彼女に、小鳥は追い討ちをかけるようにこう言った。
「悲しんでいる所、申し訳ありませんが、他にも沢山あるのですが……聞きたいですか?」
「い、いやだ……やだやだやだ!! 聞きたく無い!! 聞きたく無い!! やめてやめてやめてお願いっ!!」
「そうですか。残念です」
残念そうに、小鳥はそう言いながら、狂乱ちゃんにそっと寄り添い、耳元で囁いた。
「私はヒナ先輩とハグした事がありますし、された事もあります」
ハグ……またの名を抱擁。
それは、愛情表現の1つだと、ネットで見た事がある。つまり、ヒナ先輩と違う世界線の小鳥は……。
「それって……付き合ってるって……こと?」
「はい。付き合ってます」
将来的に付き合う事になるのだから問題ない。嘘にはならない筈だ。言ったもの勝ちだ。
「っ!! う、うぅ……うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
狂乱ちゃんは涙を浮かべていた。それだけショックだったという事だろう。脳が破壊されるとは、こういう事なのだろうか?
暫く発狂しかけた狂乱ちゃんが落ち着くのを見計らい、優しく背中を撫でながら声をかける。
「ほらほら、ヒナ先輩をNTRれた私」
「……NTRれてないもん」
ないもんって、可愛いかよ。まぁ、それはさて置き、そろそろ頃合いか。
此処まで追い詰めれば大丈夫だろうか?
いや、まだだな。もう少しだけ追い討ちをかけよう。
そう思い、狂乱ちゃんの耳元で囁く。
「では、暴れ回るしか出来ない狂乱ちゃんは、ハグされすぎた勢いで鯖折りされたり、スキンシップで関節技を決められ、骨を砕かれるような関係に、今からなれるとでもいうのですか?」
指名手配されている狂乱ちゃんは、捕まれば再び矯正局に送られるだろう。そうなれば、ヒナが卒業するまでに出所する事は不可能だろう。
つまり、今後、ありえたかもしれないヒナとの思い出は、体験する事が出来ないという事だ。
それ以前に、この世界がそこまで保つかも不明な為、どちらにせよ詰んでいるのだが。
小鳥の言葉は、狂乱ちゃんの心を深く抉ったようだ。膝をつき、絶望に打ちひしがれる姿はあまりにも痛々しいものだった。
「あ、あぁ……いや、いやだ……そんなの嫌だっ!!」
そんな狂乱ちゃんを見つめながら、小鳥は優しく微笑みながら問い掛けた。
「そんなの嫌だよね?」
「やだっ!!」
「ヒナ先輩との思い出、沢山作りたいもんね?」
「作"り"だい"」
「そうだよねぇ、作りたいよねぇ、本当は作れた筈の思い出なのにねぇ」
「ゔわ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"ん"!!」
狂乱ちゃんの慟哭が響き渡る。それは、小鳥の狙い通りの結果だった。
「よしよし、可哀想にねぇ」
優しく抱きしめながら頭を撫でる。まるで子供をあやす母親のようだと思いながら、小鳥は狂乱ちゃんの頭を撫で続けた。
「辛いよねぇ、悔しいよねぇ……」
そして……
「一体誰が、原因なんだろうねぇ?」
狂乱ちゃんと共存関係にあるフェネクスにとって、特大級の爆弾を投下した。
フェネクス
「あ、あの野郎……ぶっこんできやがった!!」
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