風紀の狂犬   作:モノクロさん

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誤字報告ありがとうございます。
訂正させて頂きました。


狂乱の終極

 空崎 ヒナを見て、私は美しいと思った。体躯にそぐわない銃火器を用いて、不良生徒を薙ぎ払う彼女の姿は、まさに戦場の戦乙女と言えるだろう。

 

 そんな彼女を一目見た時、私はこの世界に価値を見出した。

 

 化物と、怪物と、悪魔と言われ続けた私の最後を飾るには、彼女が良いと、そう思った。

 

「初めまして、空崎 ヒナさん。私は不死川 小鳥と申します」

 

 ヒナの前に立ちふさがり、愛銃を構える私に、彼女と共に巡回していた風紀委員会の生徒が警戒を露わにするも、私には関係なかった。

 

「……そう。初めまして。空崎 ヒナよ」

 

 その声と、その眼差しに私は魅了された。あぁ、やはり彼女は美しい。

 

「突然ですが申し訳ありません。今から貴女を襲います。ご了承下さい。空崎 ヒナさん」

 

「出来れば遠慮願いたいけど、無理なのね」

 

「はい。宜しくお願いします」

 

「……そう。分かったわ」

 

 私と同じく、愛銃を構え、風紀委員達に下がるよう命じる。

 

 制止する声が聞こえたが、ヒナはそれを振り切り、私の前に立った。

 

「此処だと皆の迷惑になるわ。私に用があるなら、場所を変えてくれる?」

 

 そう提案する彼女の言葉に、私は……。

 

「……いいえ、ごめんなさい」

 

 後、ほんの少しだけの我慢すら、できなかった。

 

「今すぐ、此処で、やりたい!!」

 

 既に私の身体は動いていた。地を蹴り、ヒナの懐に潜り込むと、そのまま鳩尾目掛けて銃口を向けていた。

 

「そう、分かったわ」

 

 引き金を引く瞬間、彼女の言葉が耳に届いた。そして、気が付けば、私は仰向けで倒れていた。

 

 痛い……身体が動かない……

 

 痛い……痛い……痛い……痛いが嬉しい……

 

 あぁ……楽しかった…………

 

 また遊びたいな……

 

 小鳥とヒナの両名による戦闘は、その区画の建物を破壊し尽くし、小鳥の凶暴性と、反省の色が見えない態度、そして、万魔殿のマコトを撃った事も相まって、学園側は小鳥を矯正局送りにする事を決定した。

 

 唯一、襲われた張本人であるヒナは、彼女の減刑を申し出たが、過去の小鳥が起こし続けた事件もあり、その決定が覆ることはなかった。

 

 矯正局で時間を浪費する最中においても、小鳥はヒナの事を思い続けた。刑期を終え、出所したら何をしよう。

 

 ずっとその事を考え続けていた彼女に、蓄積され、その身を侵食していた神秘がそっと囁きかけた。

 

 空崎 ヒナは、お前の事を犯罪者としか見ていない。此処を出所したとしても、彼女がお前に振り向く事はない。

 

 そう囁く神秘に、心が未熟な小鳥は、その言葉を鵜呑みにし、そして……

 

 刑期を終える直前に起きた七囚人の脱走の混乱に乗じて、小鳥は矯正局を脱走した。

 

 犯罪者としてしか扱われないなら、犯罪者のままでいよう。彼女は風紀委員会。犯罪者を取り締まる側の人間だ。

 

 犯罪者と風紀委員会。その関係さえ成立していれば、ヒナは私を見てくれる。そして沢山、遊んでくれるのだと、そう信じていた。

 

 

 

 

 ……でも。

 

 有り得たかもしれない未来の話を聞き、私は、自分が犯した過ちの大きさに気付かされた。

 

 ヒナ先輩と一緒に沢山遊びたい。仲良くなりたい。そして、彼女に認めて貰いたかった。そんな思いで行った所業は、ただの犯罪でしかなく、それは彼女を失望させるには十分なものだった。

 

『…………おい』

 

 ヒナ先輩は、もう私を見てくれない。ただの犯罪者としか、見てくれない。

 

 ちゃんと真っ当に、犯した罪を償った上で、ヒナ先輩に会いに行けば良かった。

 

 そうすれば、こんな事にはならなかったのに……

 

『…………まて』

 

 後悔の念が私を包む。

 

 何故、何故、何故、何故……私はこんな浅はかな事を?

 

 何故、私はこんな馬鹿を?

 

 後悔しても、もう遅い。ヒナ先輩はもう……私の事なんて……

 

『私の話を聞け!!』

 

 あぁ、目の前にいる私が羨ましい。

 

 有り得たかもしれない思い出の数々に、私は頭の中がぐちゃぐちゃに掻き回されるような感覚を覚えた。

 

 あの時、選択肢を間違えなければ、そもそも犯罪さえ起こさなければ、ヒナの提案を受け入れ、後少しだけでも我慢すれば……そんな後悔が、私の頭を駆け巡る。

 

『奴の言葉に、耳を傾けるな!!』

 

 でも、もう、遅いのだ。私は既に矯正局を脱走した身だ。犯罪者だ。

 

 街を破壊した、破壊を扇動した、学校だって爆破した。

 

 私にはもう後がない、犯罪者の末路に相応しい最期を迎える事しか、私には残されていないのだ。

 

 そんな私に、彼女は慰めて、そして囁いた。

 

「一体誰が、原因なんだろうねぇ?」

 

 ………………あぁ。

 

『っ!! 待て!!』

 

 これは、きっと八つ当たりだ。

 

『よせっ!! 止めろ!!』

 

 ただの自業自得なのに、それでも誰かに当たらなければ気が済まない。

 

『私の話を聞け!! 今ならまだ、立て直す事だって!!』

 

 それ以上に。

 

『っ!! この痴れ者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!』

 

 私は私を許せない。

 

 銃声が鼓膜を震わせ、それと同時に、頭の中に響いてくる声が消失した。

 

 最後の最後に、私に相応しい暴言を吐き捨てたそれは、私の中から抜け落ちていく。

 

 そしてそれは、目の前の私に取り込まれ、そして……




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