思っていた以上に鼻が痛む。
便利屋68との戦闘中に車上から放り出され、勢いよく電柱にぶつかった時の傷が思っていた以上に深いようだ。
折れた骨を無理矢理元の位置に戻した事もあり、後に風紀委員に回収され、救急医学部に送られた際は、部長の氷室 セナにこっぴどく叱られ、傷が完治するまでは安静にする事と、ガーゼは毎日張り替える事を約束させられた。
次の日、鼻の傷自体はほぼ完治した。異常なまでの回復力にセナは呆れていたが、当の本人は笑顔でピースと満足気だ。
しかし、傷の痛みは中々治まらなかった。痛みが酷いというわけではない。鼻に違和感が残る。ガーゼの代わりに使用している絆創膏を剥がせば、瘡蓋が顔を出し、ついつい弄ってしまう。
その度に瘡蓋が剥げ、血が滲み出て絆創膏を貼りなおす事の繰り返しだ。
そんな訳で、小鳥はムズムズとした違和感を感じながら日々を過ごしていた。
ある日の夕方、癖になりつつある鼻の上の瘡蓋を弄る行為に及んでいると、背後から声を掛けられた。振り返ると、別件の仕事で外出していたヒナの姿。
「お疲れ様」
「お疲れ様であります。ヒナ先輩」
「…………」
「すみません、ヒナ委員長」
ジッと顔を見られ、思わず謝罪の言葉が出る。
何か怒らせるような事をしてしまったかと、冷や汗をかく小鳥に、ヒナは口を開く。その口から出てきたのは、便利屋68との戦闘で負った怪我に対する労りの言葉だった。
「便利屋を相手に、結構派手にやったみたいね」
身長差がある為か、小鳥の鼻に触れようと、ヒナは背伸びする。
「セナから聞いた。瘡蓋を弄ってばかりだから治りが遅いって」
「あはは……いやぁ、これはつい弄ってしまうといいますか……」
気まずそうに視線を逸らす小鳥に、ヒナは溜息を一つ零した後、ポケットから絆創膏を取り出した。
それを小鳥の鼻の頭に貼り付けると、絆創膏を撫でながら再び口を開いた。
「痛いの痛いの、飛んでいけ~」
「……!?」
突如、ヒナの口から出た言葉に、小鳥は衝撃を覚えた。
普段のヒナからは想像もつかない発言に、小鳥は目を丸くし、言葉を失った。
ヒナは小鳥のそんな様子を気にする事なく、絆創膏を撫でている。
「気になるかもしれないけれど、無暗に弄ったらダメよ。痕が残ったら大変だからね」
そう言って満足気に頷くと、残っていた仕事に取り掛かる為、デスクに戻る。
そんなヒナの姿を、小鳥は鼻に貼られた絆創膏に触れながら見ていた。瘡蓋の上をなぞらないように。