訂正させて頂きました。
協力の理由
小鳥に協力しようと思った理由なんて、簡単な事だった。
助けられた。救われた。理由なんてそれだけで十分だった。
例えそれが、私とは関係のない、消失した世界の記録であろうとも。
そこに、もう1つ理由を付け加えるとするならば……
どれだけ眠っていただろう?
不意に目を覚ましたレンは、自室のベットから気怠げに起き上がる。
チラリと時計に目を向けると、もうすぐ日付が変わる時間。
レンは身体を起こし、ベットから降りると、そのまま部屋の外へ出た。
薄暗い居間を見渡しながら歩き続け、小鳥の自室の前で立ち止まり、扉をノックしようと手を挙げる。
しかし、その手はノックをする事なく、ゆっくりと降ろされた。
寝ている。少し先の未来を見たレンは、ノックした後も返事がないという事実に小さく息を吐き、そのまま踵を返すと、自室へと戻って行った。
ベットに寝転び、布団をかぶりながら目を閉じると、クロノスとの神秘と深く繋がり、消えゆく世界線の過去から未来にかけての記録を垣間見た。
多くの歴史が枝分かれし、そして伐採されるように切り離され、消失していく。レンは、それらを見届け続けた。全てを見た後に、そっと瞼を開く。
汗が止まらない。胸の奥がジカジカと熱くなる。
シャーレの先生がアビドスを訪れなかった世界線は、切り捨てられた世界線において、最も平和な世界線の1つだった。
他の世界線も、何処で狂いが生じたのか分からないものが多かったが、アビドスに次いで平和的な世界線ではそれぞれ『ミレニアム』『SRT』が関わっており、『百鬼夜行』はそこそこの脅威。
最も最悪なのが『エデン条約』だ。
これまで見てきた分岐点と成り得るエデン条約は、その全てが最悪であり災厄であった。
その多くが、破滅への道を歩んでおり、その全てが未来を閉ざす結果へと繋がっていた。
そしてそのきっかけは、全て小鳥が関わっている。この世界線の小鳥は本当に上手く立ち回り、1つでも選択を違えていたならば、この世界は破滅の道を歩んでいただろう。
便利屋68を雇っていなかった世界線。彼女達がいなければ、負傷した風紀委員会や正義実現委員会が体制を立て直す事もままならず、ヒナが小鳥のもとに駆け付けるのが遅れてしまった。
その結果、フェネクスに完全に取り込まれた小鳥を止める事が出来ず、ヒナの手により小鳥が倒され、ヒナがその命を狩り取るという、最悪の結末を迎えてしまう。
面倒を見続けた小鳥をその手にかける事となったヒナは、それ以降塞ぎ込んでしまい、風紀委員会を去り、ゲヘナからも姿を消してしまった。
そして、その世界線の結末は、ゲヘナ学園の崩壊という形で終わった。
他にも、細かな選択肢を誤った事が原因で、最悪な結末を迎え続けた記録だが、最も最悪なのはやはりこれだ。
『小鳥が間に合わなかった』世界線だ。
経緯は殆ど変わらない。先生を庇った際に銃を手放したヒナが、アリウスの生徒達とユスティナ聖徒会に囲まれ、先生を守る為にその身を挺して守り続けた。
本来ならば、早くに駆け付けた小鳥によって助け出される筈だった。しかし、この世界線は、小鳥の介入を良しとはしなかった。
本来であれば起こり得ない戦闘を繰り返し、小鳥が2人の元へと到着した時には……
「ヒナ……委員長」
既に手遅れな状態だった。
翼はボロボロに千切れ、服はボロ切れ同然で、覗く肌は幾百にも及ぶ銃弾の雨に撃たれ、傷のない所はなく、その命は風前の灯火同然だった。
そんな状態であるにも関わらず、ヒナは必死に守り続けていた。
シャーレの先生だったものの残骸を。
唯一、彼だったものの頭部を、ヒナは守り続けていたのだ。
それを見た小鳥は、その場に崩れ落ちた。
この結末が見たかった訳ではない。こんな未来は望んでいない。
どのような形であれ、先生も、そしてヒナも、報われる結末が見たかった。
こんな残酷な結末を、2人には迎えて欲しくはなかった。
身体の内側から、何かが壊れる音が聴こえる。視界は涙で歪み、怒りの感情が、憎悪の感情が沸々と沸き起こる。
小鳥は叫んだ。それは、まるで獣の咆哮の如く響き渡り、小鳥の肉体が内側から膨れ上がったのだ。
神秘の顕現……フェネクスと完全に同化した小鳥は、破壊の限りを尽くした。
アリウス分校の生徒も、アリウススクワッドのメンバーも、ユスティナ聖徒会も、フェネクスと一体化した小鳥にとっては等しく敵であり、塵芥と何ら変わらなかった。
悲鳴を上げ逃げ惑う彼女達に向け、フェネクスと同化した小鳥は、容赦なく破壊の限りを尽くした。
その、あまりにも残酷な光景に、レンは言葉を失った。
フェネクスと同化した小鳥には、確かな自我があった。怒りに我を忘れてはいるが、神秘と完全に同化していながら、その主導権は、小鳥が掌握していたのだ。
だからこそ、小鳥はその怒りの矛先を、破壊の限りを尽くす事で発散させていた。感情を爆発させ、暴走する小鳥から放たれる一撃は、逃げ惑うアリウスの生徒達を飲み込み、そして、アリウススクワッドのメンバーをも飲み込んだ。
全てが終わった後、そこには何も残っていなかった。
先生の残骸と、瀕死のヒナ。そして、全てを破壊しつくし、フェネクスと同化した小鳥。
小鳥は、そのままヒナに近付くと、そっと彼女を抱き上げる。
既に虫の息だった彼女は、焦点の定まらない視線を小鳥へと向けると、小さく口を動かし、そのまま目を閉じた。
声は聞こえない。
ヘイローも消失し、それが意識を失った事からなのか、それとも、彼女の命が途切れたのか定かでは無い。
どちらにせよ、レンは耐え切れず、この世界線から目を背けようとした。
この世界はダメだ。介入の余地もない。そう思い、文字通り切り離された世界線として、切り捨てようとした彼女だったが、不意に足を止めて振り返る。
次の瞬間、小鳥の身体が発光し、その光がヒナの身体を包み込んだのだ。
その光はヒナの肉体を修復させ、その傷を癒して行く。フェネクスの持つ権限の1つ『再生』を行使したのだろう。
そのままヒナの傷を癒した小鳥は、そっと彼女を地面に降ろすと、今度は先生へと目を向けた。
そして、ヒナにそうしたように、『再生』の権限を行使し、先生の肉体を再生し始めた。
しかし、破壊の限りを尽くし、瀕死のヒナを傷1つ残さず再生させた小鳥の神秘は薄れ始め、肉体が小鳥の姿へと戻っていく。
それでも、小鳥は先生を癒すのを止めはしなかった。損傷が激しく、失った臓器が殆どだ。それらを再生させるに至らないのであれば、代用品を用意すれば良い。
丁度、此処にあるのだから。
小鳥の身体から、代用品となる臓器や血液が生成され、先生の中へと送り込まれていく。
肉体の再生と、血液等の代用品の生成により、先生を蘇生させ、傷を癒し終えた小鳥は、静かに笑みを浮かべた。
そして……
『良かった……間に合った』
最後にそう言い残し、小鳥の肉体は崩壊した。
そこに、彼女がいた痕跡を全て消し去り、小鳥はこの世界から完全に消滅した。
その結末を見届けたレンは、強く拳を握り締める。そして、噛み締めていた唇から血が流れ出すのも構わず、ただ一言呟いた。
「……すげぇな」
小鳥の怒りも、憎悪も、絶望も。そして、最後の彼女の有り様を全てを肌で感じ取ったからこそ、レンはその一言しか呟けなかった。
誰かの為に、その身を犠牲にする事など、レンには出来ない。もし自分が同じ立場であったなら、あの場面では怒りに身を任せ、その破壊の限りを尽くし、そして全てを終わらせただろう。
しかし、小鳥はそうしなかった。大切な存在であるヒナの傷を癒し、先生を蘇生させ、そして自分の力を使い果たした。
自己犠牲の極致。その身も、心すらも犠牲にして、小鳥は2人を守り抜いたのだ。
この世界が消えゆく世界線だとしても、小鳥が守り抜いた2人が生きる世界である事は変わらない。
しかし、その代償はあまりにも大きく、そして残酷なものだった。
小鳥の最後を、2人は知らない。
行方不明という形で、2人の中では処理される事になるだろう。
フェネクスと同化した小鳥が、最後に残した言葉。それを知る者は、この世界にはもういない。
レンはこの世界線の結末を見届けた後、意識を切り離し、現実の世界へと帰還する。
身体が怠い。過去の記憶を読み漁った後は何時もこうだ。レンは、そのままベットから降りると、軽く伸びをする。そして、隣の部屋がある壁へと目を向けると、ボソリと呟いた。
「すげぇな、小鳥」
小鳥に協力する理由なんて、そんなものだ。純粋に誰かを守りたいという気持ちを持つ彼女だからこそ協力する。
理由なんてそんなものだ。
ただちょっと、自分と同じだったからこそ、協力したいと思ってしまっただけの事なのだ。
レンはそれだけを呟き、気怠さと眠気が残る身体に従い、再びベッドに潜り込むと、そのまま眠りに落ちた。
お知らせ
Prologue前のエデン条約編を執筆していきます。
次の話は、リクエストにあった話を投稿させていきますので、宜しくお願いします。
ネタバレ
今回のエデン条約編は小鳥とアリウスが主体となります。
小鳥とアリウススクワッドの共同戦線です。
対戦カードの1つは、壁を壁とも感じる事なく走り抜けるピンク髪のお姫様vs小鳥&サオリとなっております。楽しみにして頂けると幸いです。
感想ありがとうございます。
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