元の世界線に戻ってから数日、小鳥は自室にて銃の手入れをしていた。
キヴォトスに住まう生徒にとって、銃は必需品であり、日常的に携帯する事は、銃を所持していない生徒より、裸で歩いている生徒の方が多いと比喩される程度には当たり前の事だ。
しかし、レンは銃を所持していない。その理由は、重たくて持ち運ぶのがしんどいとの事だった。
本人曰く、別に外出する事もないし、何かあれば小鳥が対処するとの事で、銃は不要という事らしい。
比喩された話の事を本人に伝えると、レンよりもクロノスの方が話に食いつき、レンから『バカ、アホ、変態』と罵詈雑言を浴びせるという一幕があったのは別の話だ。
閑話休題
銃の手入れも終わり、一段落付いた所で居間に移動すると、そこにはレンの姿があった。
彼女はソファに寝転びながら、ジュースとお菓子を堪能している。
他の世界線の時もそうだが、レンは基本的に何かを口にする事が多い。
それがお菓子だったり、ジュースだったり、アイスだったりと、様々なのだが、その殆どがお菓子類である。
偏食家というのか、基本的に甘いものが好きだが、時折自分専用にと野菜を丸齧りする時もある。
そして、お菓子は平気で分けてくれるのだが、野菜に関してはこだわりがあるのか、絶対に分けてくれない。
試しに、こっそり近場のコンビニで購入したミニトマトをレンに食べさせようとしたが、手に取っただけで、明確な殺意を宿した眼差しで睨まれた。
「おぉ~小鳥~入れ替えたな~」
間延びした口調だが、明らかに怒気を孕んでいた。とはいえ、暴力に訴えるわけではなかったので、そのままコンビニの野菜をレンの口に放り込む。
すると、彼女はそれを咀嚼する事すらせず、即座に吐き出した。そして、立ち上がると同時にポカポカと殴り始めた。きっと本人は本気で殴っているのだろうが、程よい刺激でマッサージされているような心地よさすら感じる。
暫く続いたポカポカ音も、レンの息切れをキッカケに止まる。そして、そのままソファへと倒れ込むと、今度は不貞腐れながら、小鳥にお菓子を催促した。
その不貞腐れた表情も可愛らしく、思わず笑みがこぼれる。
小鳥は、レンが吐き出した野菜を拾い上げると、それを水洗いし、レンの元へと戻る。
「レンちゃん。そう不貞腐れずに。ほら、お菓子を持ってきましたよ。その可愛いお口を開けて下さいな」
お菓子をレンの視界にチラつかせ、小鳥は笑みを浮かべる。
レンは相変わらず不貞腐れたままだが、チラリと視線を向けてお菓子の在り処を確認すると、そのまま身体を起こし、口を開けてお菓子をねだった。
口を開けた瞬間、レンの目が閉じる。その仕草の可愛さに悶えつつ、小鳥はレンの口にお菓子を入れるふりをして水で洗ったミニトマトをレンの口元へと持っていこうとし……。
『ガブリッ!』と指を噛まれた。
「バレバレだぞ~小鳥~」
「……痛いです。レンちゃん」
目を瞑っていた筈なのに何故?
そう思いながら、レンの神秘がクロノスだった事を思い出し、納得する。
レンは小鳥の指から口を離すと、小鳥からお菓子を奪い取り、そのままソファに寝そべった。
「食べて寝てを繰り返していると。我儘ボディになりますよ」
「おぉ? 大丈夫だぞぉ~まだ若いからよ~代謝がいいぜ~」
「数年後に、悲しい未来が見えるんじゃないですか?」
「…………」
小鳥の言葉に、レンは硬直し、静かに顔を背けた。どうやら心当たりがあるらしい。
そして暫くの間、2人の間に沈黙が流れ続けたが、不意にレンが口を開いた。
「……楽によ~痩せる方法ないか~?」
未来の自分でも見たのだろうか?
それとは別に、単に不安になっただけかもしれない。
どちらにせよ、レンの言葉に小鳥は考える。そして、暫くしてから口を開いた。
「運動しましょう。それが一番です」
「おぉ~そっかぁ~」
「最初はちょっとの運動でいいんです。それこそ、普段所持していない銃を持ち運んで歩くだけでもいい運動になりますし、何より射撃の訓練だっていい運動になりますよ」
ですので、これを機に銃を所持するのはどうかと提案する小鳥だったが、レンは首を横に振る。
そして、ボソリと呟いた。
「持ちたくねぇ」
その呟きには、確かな拒絶の意思が込められており、小鳥はそれ以上の言葉をかけなかった。
再び沈黙が流れ、2人の間に微妙な空気が流れるが、不意にレンが口を開いた。
「なぁ~小鳥はよ~なんでその銃を選んだんだ~」
レンの視線の先には、小鳥が所持する銃があった。
その銃は、他の銃と比べても特に目立つ事のない普通の銃だ。
この銃を選んだ理由は幼少期に遡る。
幼少期の小鳥は、その体躯もあってか、銃の反動に耐えきれず、まともに撃つ事すら出来ずにいた。
1発撃てば反動で吹き飛び、2発目を撃つ事もままならない。
HGですらまともに扱えなかった小鳥だったが、何度も自分にあった銃を探し求め、SRやAR、SMG、MGやRPGと様々な銃を試してきた。
そして、自分に合った銃を探し求める過程で、小鳥は1つの答えに辿り着き、その銃を選んだ。
SG……何故これを選んだのか、その理由は2つある。
1つは至近距離で発砲すれば、特に照準を合わせる必要もなく、『撃てば当たる』という安易なものだった。
そしてもう1つは。撃たずに至近距離まで近付く事を前提と考えれば、銃を鈍器として使用すればいいし、その後に倒れた相手の目と鼻の先で発砲すれば確実に相手を再起不能にする事が出来る。
その後、ゆっくり観察すればいい。
何処までやれば壊れるのか。一挙手一投足、全てをつぶさに観察し、その全てを記録する。
そうする事で、相手の行動パターンや思考回路を読み取り、次に何をしようとしているか、それを読み取る事が出来るのだ。
そこからはSGを主体に、様々な銃を試し、そして最終的にはこの銃に辿り着いたのだ。
この銃は、他の銃と比べても特に目立つ事のない普通の銃だ。しかし、持ち手を変える際に、ストック部分が握りやすく、鈍器として扱いやすい。
撃たれる事にも抵抗はなく、寧ろ、撃たれた方が心置きなく観察対象として見れる。
それを続けている内に体幹が強くなり、どんな体勢でもブレる事も、反動で吹き飛ぶ事もなくなった。
何より、体躯に合わぬM30を抱き抱えて歩く姿は、不良生徒の目に留まる事が多く、絡まれるきっかけにもなった。今となっては、小鳥に絡んで来る不良生徒が少なくなったのだが、その経験から学んだ事が多く、今でもM30を愛用するに至ったのだ。
その事をレンに話すと、彼女は何処か納得したように頷いた。
「小鳥はよ~物騒だなぁ~」
「いやぁ、照れますねぇ」
「褒めてねぇぞ~」
そう言って、レンはお菓子を口に放り込むと、ジュースを手に取り、ゴクゴクと飲み干す。そして、一息ついた後、小鳥に視線を向けながら、静かに呟く。
「やっぱ、私には銃は似合わねぇな~」
レンの呟きに、小鳥は何かを返そうとするが、その前にレンはソファから起き上がると、そのまま部屋へと向かった。そして、部屋に戻ったレンは、ベッドに横になると、そのまま静かに眠りにつくのだった。
小鳥も、これ以上レンに何かを言うつもりはなかった。彼女の気持ちを蔑ろにするつもりはないし、押し付けるつもりもない。とはいえ、食生活の改善は必要だろう。小鳥はそう考えながら、結局食べさせ損なったミニトマトを口の中に放り込み、そのままレンの部屋を後にした。
あとがき
小鳥がM30をチョイスした理由は意外と単純なものです。
持ちやすかったという事と小さい頃の体躯に合わないアンバランスな銃が不良の目を引き、絡まれる事を狙ってのチョイスです。
作者が選んだ理由
ゲヘナの武器のモチーフがドイツだから。
ドイツの武器→SG→M30→いいね!!
レンちゃん
所持武器なし、つまり裸で歩いている生徒よりも珍しい。
今は痩せている、肋骨が浮き出ているくらいに痩せている。
きっと肋骨で大根をおろしが出来る。
太る事はないが、言われたら不安になる。
年頃だから仕方がない。
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