風紀の狂犬   作:モノクロさん

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巡り合わせ

 ガラス細工が砕ける音が聞こえた。

 

 音源は頭上に浮かぶ半壊したヘイロー。

 

 エデン条約での一件以来、少しずつ修復していたそれが、また少し欠けてしまった。

 

 いや、欠けたというよりは、消費したといって良いのかもしれない。

 

 以前、消滅する世界線にて、レンの身体を治す為に、自身の神秘であるフェネクスが司る『再生』の権限を込めた銃弾を生み出し、それをレンの身体に撃ち込んだ。

 

 結果としては、撃つ前に目覚めたレンを撃ってしまい一悶着あったが、それでも成果としては十分以上のものだった。

 

 自身のヘイローを消費すれば、フェネクスが司る『死』と『再生』の権限が込められた銃弾を生み出す事が出来る。

 

 零から生み出すわけではない為、数には限りがあるが、破損したヘイローも、時間が経てば修復する為、有限ではあるが神秘を宿した銃弾には事欠かない。

 

 だが、それは自身の神秘を削る行為であり、またヘイローが欠けたという事は、それだけ寿命を削る自傷行為とも言えるだろう。

 

 それでも、小鳥は掌の上に転がる銃弾を握り締め、再び意識を集中させた。

 

 イメージするは、神秘の上書き。

 

 『死』の概念が込められた銃弾に、更なる神秘で『死』の概念を上書きし、銃弾に込めていく。

 

 凝縮された『死』の概念が銃弾に込められ、神秘が銃弾に刻まれた事を確認した小鳥は、そのまま息を吐き捨て、実験が成功した事に安堵の息を漏らす。

 

「しかしこれは……中々に疲れますね……」

 

 神秘の概念を銃弾に込めるという行為は、想像以上に消耗が激しい。身体にのし掛かる疲労感を堪えつつ、小鳥は手にした銃弾を眺め続ける。

 

「それでも、上手く出来た」

 

 掌の上に転がる銃弾は、最初のものと比べると神秘が濃くなっているように感じる。

 

「これなら……」

 

 レンの神秘で過去に飛ぶ行為に、新しい意味合いを持たせる事が出来る。

 

 より確実に、起こりえる未来に対し、対策が取れるというものだ。

 

 

 

 

 

 

「成程なぁ。過去に飛んで、ヘイローの回復に時間を充てる……かぁ」

 

「はい。私の神秘は使えば使う程、ヘイローが欠けてしまいますので、それを修復する時間が必要になります。そこで、レンちゃんの神秘で過去に飛び……」

 

「修復の時間に充てつつ、フェネクスを調伏するって事か」

 

「その通りです。ただ、これはあくまで私の案に過ぎません。なので、レンちゃんも思う所があれば是非ご意見をと思いまして」

 

「んぁ……いや、良いと思うぜぇ」

 

 小鳥からの提案に、レンはそう言うと口を大きく開ける。

 

 そんなレンに、小鳥はお菓子を取り出すと、レンの口へと運んだ。

 

 レンは小鳥の手からお菓子を食べると、ご満悦な表情を浮かべている。

 

 小鳥の膝の間に座り、小鳥に身体を預けながらお菓子を頬張るレンの姿は、まるで小動物のようだと小鳥は思う。

 

 華奢な身体ながら、抱き心地は良く、サラサラの長髪からは良い香りがする。

 

 成程、これが楽園の証明というわけか。小鳥は、レンの頭を撫でながら、そんな事を考えていた。

 

 因みに、レンが間延びした口調ではないのは、彼女の神秘であるクロノス曰く、『百合の間に挟まるは、許されざる行為』らしく、その為、共存関係を一時的に遮断しており、今は大人しくしているそうだ。

 

 難儀な性格の神秘だなと小鳥は思いつつ、レンが再び口を開けるので、お菓子を口へと運んでいく。

 

 無警戒にお菓子を頬張る姿は小動物のようで可愛いなと思いながら、そろそろジュースを欲しがると思い、テーブルのコップとジュースの入ったペットボトルへと目をやる。

 

「おや? ジュースが残り少ないですね」

 

 冷蔵庫の中も、確か飲料水は水とお茶しか残っていなかった筈。つまり、此処にある分しかジュースがない事になる。

 

 小鳥は、レンの頭を撫でる手を止めて立ち上がる。そして冷蔵庫へと向かい、中を確認するが、やはり残っている飲み物といえば水とお茶だけだった。

 

 これは、買い出しに行かないといけないな。小鳥はそんな事を考えながら、レンの元に戻ると、残ったジュースをコップに注ぎ、レンに手渡した。

 

「冷蔵庫の中が心許ないので、少し買い出しに行ってきます。何か欲しい物はありますか?」

 

 コップに注がれたジュースを一気に飲み干したレンは、口元を拭いながら立ち上がると、小鳥に向かって手を差し出す。

 

 どうやら一緒に行きたいらしい。

 

 小鳥は、レンが差し出した手を握り締めると、そのまま一緒に外へと出た。

 

 外は数日前から相変わらずの雨模様だったが、それでも少しはマシになったようだ。

 

 降り注ぐ雨は霧のように町全体を包み込み、視界を遮っている。だが、それでも建物の窓から漏れ出る光や街灯の灯りが、街を薄っすらと照らしていた。

 

「レンちゃんは、何処か行きたい所がありますか?」

 

「んぁ……特にねぇなぁ」

 

「そうですか。なら少し歩きましょうか」

 

「5分以上歩くと荷物がもれなく追加されるぞぉ」

 

「構いませんよ。レンちゃん軽いですし」

 

「……なら、良いぜぇ」

 

 小鳥とレンは手を繋ぎ、雨音を聞きながら、大通りへと出た。大通りは、相変わらずの雨で視界が悪い。まるで霧の中を歩いているような感覚を覚えながら歩いていると、突然レンが足を止める。

 

「どうかしましたか?」

 

「いやぁ、銃声がしたなぁってなぁ」

 

「銃声なんて日常茶飯事ですよ。ゲヘナでは目覚し代わりに爆発と悲鳴が鳴り響くんですから」

 

「嫌な目覚め方だなぁ。でも、あの銃声は……少し気になるぜぇ」

 

 レンの言葉に、小鳥は彼女の手を離すと、肩に担いでいた愛銃を構え直した。

 

「……つまり、こういう事でいいんですね」

 

「だなぁ」

 

 小鳥は、レンの言いたい事を瞬時に理解した。クロノスとは、未だ共存状態ではないものの、恐らく少し前から、この未来を見ていた可能性がある。

 

『5分以上歩くと荷物がもれなく追加されるぞぉ』

 

 もしやこれは、レンではなく、別の人物を指していたのか?

 

 相変わらず、報連相が出来ない小動物だなと思う。

 

「小鳥……お前、今失礼な事考えたろ?」

 

 レンはそう言いながら、ジト目を向けてくるが、小鳥は彼女の頭を撫で、銃を構えて警戒しながら大通りから銃声がした裏通りを進む。

 

「レンちゃん。少し離れていた方が良いかもしれません」

 

「おぉ、分かった」

 

 銃声と共に足音が聞こえる。数は複数。かなり多い。追われている方は、負傷者がいるのか、足並みはバラバラで、後ろから追うものは統率の取れた動きをしているようだ。

 

「……少し走ります。レンちゃんは大丈夫ですか?」

 

「おぉ、私は大丈夫だ。追い付いた時には……」

 

 言葉が途切れる。どうやら、あまり未来については話せないようだ。

 

 『私は大丈夫』という事は、レンと離れても問題ない筈。問題があるとしたら、寧ろ自分の事かもしれないと小鳥は考える。

 

 だが、今はそんな事を考えている場合ではない。

 

「分かりました。では、行きます」

 

「おぉ、行ってこい」

 

 レンの激励を背に受けながら、小鳥は銃を構えて走る速度を上げた。

 

 裏通りを駆け抜け、そのまま開けた広場に出ると、見覚えのある集団を視認した。

 

 追手はアリウス分校の生徒。そして……。

 

「何で……貴女達が……?」

 

 追われている側もまた、アリウス分校の……アリウススクワッドのメンバーだった。




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