風紀の狂犬   作:モノクロさん

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誤字報告ありがとうございます。
訂正させて頂きました。


葛藤

 忘れもしない。

 

 アリウススクワッド。

 

 エデン条約を破綻させ、シャーレの先生とヒナを傷付けた張本人達。

 

 例えそれが、小鳥が身を寄せている黒服と同じ、ゲマトリアのメンバーの差金だったとしても、小鳥にとって彼女達が許せない相手である事には変わりない。

 

 咄嗟に身を隠し、様子を伺う。

 

 気付かれてはいない。

 

 何故、同じアリウスの生徒に追われているのか、その理由は定かではないが、大凡の見当はつく。

 

 任務に失敗し、その責を問われ、逃げ出した。或いは、逃げざるを得ない理由が出来た。

 

 その理由も、彼女達の立ち位置から想像がつく。

 

 ユスティナ聖徒会の複製を使役していた少女。名前までは覚えていないが、特徴的なマスクは、記憶に強く残っている。

 

 彼女を守るべく、数名が盾となり、追手の攻撃を防いでいる。

 

 リーダー格のサオリはというと、倒れている仲間を庇いながら他の仲間に指示を送り、追手を足止めしている。

 

 だが、多勢に無勢。

 

 それでいて、まともに物資を補充出来ていないのか、彼女達の装備はボロボロだ。

 

 このままでは、そう遠くない内に全滅するだろう。小鳥は、そんな光景を眺めながら、静かに銃を構えた。

 

 助けるか否か。本音を言えば、助ける道理はない。

 

 敵である彼女達を、助ける理由はない。今回の粛清も、その責任の全ては彼女達にある。

 

 なにより、アリウスがエデン条約を破綻させなければ、今頃ヒナ委員長は……。

 

 しかし、そんな思いとは相反し、小鳥の心境に迷いが生じる。

 

 それでも、もしヒナ委員長だったら、きっと彼女達を助けるのではないかと。

 

 そして、その迷いが、小鳥の身体を硬直させる。

 

 私は……どうすればいい?

 

 ヒナ委員長ならどうする?

 

 彼女達を助けるのか?

 

 本当に?

 

 いや……きっと……小鳥の迷いが、銃を構えていた手から力を奪い、銃を下ろさせる。

 

 小鳥の脳裏に、彼女達を『見捨てる』という選択肢が過ぎった時、サオリが庇っていた少女が手榴弾を手に、追手に向かって走り出していた。

 

 捨て身の特攻だ。

 

 放たれる銃弾に身を晒されながら、彼女は臆する事なく敵陣深くに切り込み、追手の1人に覆い被さりながら自爆した。

 

 爆発の衝撃で、追手達が吹き飛ばされる。サオリは、その光景を目の当たりにして一瞬硬直するが、すぐに我に帰ると、仲間と共に敵陣へと切り込んでいく。

 

 一度崩された体勢を立て直す事も出来ず、追手の部隊は全滅。アリウススクワッドと他の生徒達は、何とか難を逃れる事が出来た。

 

 それでも、きっと次の追手が来る。ゲヘナやトリニティ、そして他の学園の自治区でも、彼女達を迎え入れる所はないだろう。

 

 その上、彼女達の帰る場所も、今はない。このまま、彼女達に待っているのは破滅だ。

 

 それでも……。

 

 サオリは動かなくなった仲間を背負うと、裏路地から大通りへと歩き出す。

 

 その後を追いかけると、サオリ達は小さな診療所の前で立ち止まり、背負っていた仲間を下ろすと、銃口を空へと向け、引き金を引いた。

 

 銃声を上げれば、その分追手に居場所を知られてしまう。

 

 それでも、サオリ達は引き金を引き続けた。銃声を聞けば、誰かが彼女に気付き、手当をしてくれるかもしれない。

 

 そう思っての事だろう。

 

 残弾を撃ち尽くした後、暫しの沈黙と共に、辺りに人の気配が増え始める。

 

 銃声など、此処では日常茶飯事。野次馬や物見がてらに近付く事はあれ、負傷者を介抱する者はなかなか現れない。

 

 そして、サオリ達はそのまま裏路地へと引き返す。

 

 彼女達が裏路地へと消えていくのを見届けた後、小鳥は診療所まで走り、負傷したアリウス分校の生徒の状態を確認し、サオリが引き返した路地を交互に見つめる。

 

 そして、暫し考え込み、大きく息を吐くと、負傷したアリウス分校の生徒を担ぎ、裏路地へと駆けた。

 

「……おい、待て」

 

 小鳥の声に、アリウス分校の生徒達が一斉に身構える。

 

 そして、小鳥の顔を視認すると同時に動揺が走り、手に持つ銃をカタカタと震わせた。

 

 小鳥自身は、フェネクスを顕現させた後の事は覚えていない。しかし、この様子から見るに、相当酷い事でもしたのだろう。

 

 怯えと警戒が入り交じる眼差しから目を逸らしながら、小鳥はサオリへと目を向ける。

 

「……不死川 小鳥か。何故此処に? いや、お前からすれば、私達は敵だったな」

 

 サオリは、負傷した仲間達を庇うように立ちながら、小鳥を睨み付ける。

 

 敵か……確かにその通りだ。

 

 他でもない私自身も、サオリ達の事は敵としてしか認識出来ていない。

 

 仲間に追われて手傷を負った彼女達を見て、同情はすれど、この感情だけは、きっとこの先も変わりはしないのだろう。

 

 それでも、彼女達をこのまま見捨てる事は出来なかった。

 

 ヒナ委員長なら、きっと見捨てない。

 

 だから……私は……。

 

「えぇ、その通りです。私達は敵です。それでも、今の貴女達を、放置する事は出来ません」

 

 小鳥は、サオリの瞳を真っ直ぐに見つめながら、そう告げた。

 

「信用も何もしなくて構いません。それでも、仲間を思うのであれば、ついて来て下さい」




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