サオリ達を連れ、路地裏を進む。
負傷したアリウス分校の生徒を担ぎ、先頭を歩く小鳥からは、彼女達の様子を伺う事は出来ない。
寧ろ、後ろから彼女達に襲われてもおかしくない状況だが、何も仕掛けてこない事から、此方の指示に従う意思があるとみて良いのだろう。
それでも、油断する事は出来ない。
背後を警戒しつつ、帰路に着く途中、遠目にレンの姿を確認した。
その両手には袋いっぱいの缶詰があり、レンが今回の一件を見通していた事を再認識する。
「おぉ、お疲れだな小鳥。少し遅かったんじゃねぇかぁ?」
「すみません。ちょっと色々ありまして」
「おぉ、そっかぁ。まぁ……あれだな」
言い淀んでいる辺り、まだ話す事が出来ない内容があるのだろう。
サオリ達には、レンの事は知人とだけ説明し、そのまま拠点へと案内する事にした。
「此処は……お前達の住居か? それとも……」
「知人から借りている仮住居です。気にしないで下さい。私達にも色々と事情がありますので」
だから深くは詮索するなと釘を刺し、エレベーターで最上階まで上がると、そのまま拠点の玄関を開ける。
「お帰りだぜぇ」
レンはそう言うと、買い物袋をテーブルに置きながら、サオリ達をジッと見つめる。
「おぉ……まぁ、あれだ。小鳥」
「はいはい。傷の手当てをしますが、そのままだと衛生的に良くありません。先にシャワーを浴びて下さい。その間に、手当ての準備をしておきますので」
「……助かる」
サオリは小鳥に礼を言うと、先に他の仲間達に順番にシャワーを浴びさせる。
着ている服は洗濯するとして、予備の下着と服は……。
「レンちゃん、予備の下着ってありますか?」
「おぉ、確か……クローゼットの中だ」
「ありがとうございます」
小鳥は、レンの指差すクローゼットを開けると、新品の下着類をサオリ達に渡す。
「サイズが合わないかもしれませんが、我慢して下さい。それと、着替えは其処にあります。シャワーが済んだら、着替えて下さい」
「あぁ……すまないな」
サオリは小鳥に礼を言い、他の皆が上がるのを見計らい、最後にシャワーを浴びに行った。
「さて……と、私も準備をしないと……」
医療キットを取り出し、傷の具合を確認しながら、必要な物を揃える。
彼女達の傷の具合は大小あれ、致命傷には至っていないものの、放置すれば感染症等のリスクがある為、適切な処置をする必要がある。
特に、手榴弾で自爆した子に至っては、応急処置では対処出来ないだろう。
仕方がない。彼女に関しては、直接治した方が早い。
サオリがシャワーから上がり、着替え終わったのを確認した小鳥は、サオリをリビングのソファに座らせると、重症を負った子の対応について相談する。
「他の子達は兎も角、この子は危険な状態です。傷もそうですが、大分衰弱しています。応急処置では間に合いません。なので、直接治した方が早いかと」
「治せるのか?」
サオリの問いに小鳥は静かに頷くと、ポケットから1発の銃弾を取り出した。
「これを使います」
その言葉に、サオリの目から、一瞬の戸惑いを感じだが、直ぐに元の状態へと戻った。
あぁ、成程。サオリ達が自分を畏れている理由が分かったかもしれない。
少なくとも、フェネクスは、彼女達に自分の力を見せつけたのだろう。
『死』と『再生』……先に『死』の概念で身体を弱らせた後に『再生』の概念で元に戻したか。
自身の神秘ながら、悪趣味な事を。
ある意味で私らしく、そして忌避したくもある私の本質なのかもしれない。
「理解が早くて助かります。見覚えがあるのでしたら恐らくはその通りです。どうしますか?」
「……頼む」
サオリの答えを聞き、小鳥は愛銃に銃弾を装填し迷いなく引き金を引いた。
銃声と共に、重傷を負ったアリウス生徒の腹部へと銃弾が吸い込まれる。
被弾し、身体がビクリと反応するも、次の瞬間には、傷口が塞がり始め、穏やかな表情で寝息をたてた。
「これで大丈夫そうですね。後は身体を拭いてあげて、ベットで寝かせて下さい。私のベットを使って構いませんので」
「何から何まですまないな」
サオリはそう言うと、眠ったままの仲間を抱き上げて小鳥の部屋のベットに寝かせた。
これで、一通りの問題は解決した。その代わり、大きな問題も発生したが、そこは交渉するしかないだろう。
名前も知らないゲマトリアの……所謂『所有物』に手を出したのだ。黒服経由か、それとも直接本人から、何かしらのアクションはあるだろう。
その件に関しては仕方がない。最悪、黒服に頼るしかないだろう。
何を要求されるかは不明だが、手札はあるにはある。それで満足するかは彼次第だが、今はそれよりも、彼女達の事が先決だ。
「さて、手当も無事に終わりましたし、後は食事をとって、身体を休めて下さい」
そう言って、レンが買い出した缶詰や冷蔵庫の中の水とお茶を用意し、それらをテーブルの上に並べる。
缶詰を見た途端、誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。余程空腹だったのだろう。
「食べたいものを好きに選んで食べて下さい。ベットで寝ている子の分は別に用意してますので」
そう言うと、アリウスの生徒達は、最初は戸惑いながらも各々に好きな缶詰を手に取り、食べ始める。
尚、1人だけ速攻で何かを嘆きながら1番高そうな缶詰を選び、美味しいですと感想を述べながら別の缶詰にも手を出している。
この子は結構しっかりしている。そう思いながらも、心の何処かで、その子の事を避けたいと思っている事に気付き、そんな自分に首を傾げた。
もしかすると、この子とは何かしらの形で縁があったのかもしれない。
そう思いながら小鳥は、美味しそうに3つ目の缶詰に手を出す彼女こと槌永 ヒヨリをじっと見つめた。
おまけ
「うわーん!! きっとこの一宿一飯の恩を理由に私達は人権のない地下で永遠に労働する未来しか残されていないんです。それならこの1番高そうなカニの缶詰を一生分食べるしかありません!!」
※
小鳥は槌永 ヒヨリに関しては、本能的に避けたいと思っている。理由はヒナの件。記憶にはないし、寧ろ本人ですら彼女を避けたいと思っている理由がわからず困惑している。尚、本編のエデン条約にて、アリウススクワッドのメンバーの中で、唯一、武器破壊を受けた人物である。これも小鳥が無意識に行ったものだ。
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