訂正させて頂きました。
食事を終え、漸く一息つく間が与えられたアリウス分校の生徒達。
皆、疲労困憊からの食事による満腹感からか、睡魔に抗えず、うつらうつらとしている。
「掛け布団を用意しますので、そのまま寝ても構いませんよ」
「いや、流石にそれは……」
「此処まできて、食事を終えたら出ていけなんて、そんな薄情な事は出来ませんよ。私の部屋でしたら、此処にいる半数は横になっても大丈夫なスペースはあると思いますし」
「おぉ、それなら、私の部屋をいれたら、全員ゆっくり休めるな」
「というわけです。明日に備えて、休んで下さい」
小鳥がそう言うと、サオリは暫く考え込んだ後、静かに頷いた。
「すまない。感謝する」
サオリはそう言うと、他の生徒達に休むよう促し、彼女達はそれに従って寝室へと移動を始めた。
小鳥の部屋のベッドは負傷した生徒が使い、レンのベッドにはレンとヒヨリが……いや、なんでさ?
普通、他の生徒達に守られていた子(アツコ)がベッドに寝るものじゃないのか?
当の本人は、他の生徒と同様に床に横になって掛け布団を被り、既に夢の世界へと旅立っている。
何故誰も、この違和感を指摘せずに、当たり前の様に受け入れているのか?
小鳥は、そんな疑問を抱きながらも、サオリにも休むよう告げるが、本人は首を横に振り、そのまま部屋の壁にもたれ掛かった。
「私は良い。雨風を凌げる場所を提供してもらっただけで十分だからな」
「……分かりました。では1時間後に起こしますので、それで見張り交代でいきましょう」
「いや、私は……」
「いざという時、判断が鈍ると困るのは、貴女だけではないんですよ」
小鳥がそう言うと、サオリは暫し考え込んだ後、小さく頷いた。
「分かった。1時間後に起こしてくれ」
「はい。分かりました」
サオリは、ソファーに横たわると、そのまま静かに寝息を立てた。どうやら、相当疲れが溜まっていたようだ。
小鳥は、サオリに毛布を掛けると、近くの椅子に座り、物思いに耽る。
本当に、何の因果だろうか?
少し前までは敵として相対した筈のアリウスの生徒達と、こうして共にいる。
一時的な関係とはいえ、関わってしまった以上、彼女達の今後についても考えなければならない。
同胞から追われる身となり、頼れる者もなく、ただ彷徨うばかりの彼女達。
彼女達はこれから、どう生きていくのだろうか?
小鳥はそんな事を考えながら、静かに目を瞑り、昔の自分と彼女達を重ね合わせる。
自分は、つくづく運が良かったのだと実感する。
いや、己の境遇とアリウスの生徒達の境遇を同一視するのは、彼女達に対して失礼か。
そう自戒しつつ、それでも重ねてしまう傲慢さに、小鳥は苦笑を浮かべた。
さて、これからどうしたものか?
このまま彼女達を匿い続けるわけにはいかない。彼女達は黒服が所属するゲマトリアのメンバーの『所有物』……関係者だ。
そして自分は、黒服の協力者として、この一室を借りている立場にすぎない。この事がゲマトリアに知られれば、いや、もう既に向こうは知っていると考えた方がいいだろう。
『それは私の所有物だ。返せ』……そう言われれば、返すしかない。
それはそれで、彼女達に逃げられたと言い訳する事が出来る。
元々は監督不行届き。黒服も、それ相応の対処をする筈だ。
だが……と小鳥は目を瞑る。
関わってしまったのだ。どんな形であれ、それを見捨てる形で終わらせて良いのかと、自問する。
それに……。
小鳥は、サオリの姿を眺める。
応急処置を施したとはいえボロボロだ。もしかすると、今回のような襲撃を何度も受け、その度に仲間を庇い続けてきたのかもしれない。
小鳥の脳裏に、サオリが仲間を庇う姿と、その身体に刻まれた無数の傷跡が浮かぶ。
彼女達は、今までどんな気持ちで生きてきたのか、想像すら出来ない。
『所有物』として『消耗品』として扱われてきた。それも、それが正しいと教えられてきたのか、それとも、それが彼女達にとって当たり前の事だったのか。
小鳥には分からない。
ただ、唯一分かる事は、彼女達がその教えに反し、必死に抗い、自分の意思で生きようとしているという事だ。
その過程の中……いや、それに至る前に、彼女達が犯した罪の事を考えれば、それは決して褒められた事ではない。
それでも……。
そこまで考え、小鳥は大きく息を吐く。
らしくない。考える事は大事だが、問題はそこではない筈だ。
気持ちを一度切り替える必要がある。
まず、重要なのは、自分が彼女達と関わった事だ。それは覆しようがない事実であり結果でもある。
ならば、先ずは彼女達の考えを聞こうじゃないか。彼女達が何を考え、どうしたいのか、それを本人から直接聞く必要がある。
そして、その内容次第ではあるが、出来る範囲で協力しよう。
幸いにも、黒服となら取引も可能だ。
彼女達の今後を思えば、黒服との取引で、ある程度の譲歩も可能かもしれない。
アリウス分校の現状は未だに未知数だが、自治区と外の世界、彼女達が望むのはどちらか、それを聞くだけでも、今後の方針がある程度は定まる。
小鳥はそう結論付けると、時計に目を向ける。
考えている間に、時間が経っていたようだ。
サオリからは起こすよう言われていたが、安らかな表情を浮かべながら寝息をたてる彼女を起こすのは、どうにも忍びない。
もう少し寝かせておこう。何か言われたとしても、その時はその時だ。
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