申し訳ないが人化はNG   作:息抜き栓抜き飯抜き

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スレンダーマンの夢女になりたい。女の子じゃないけど。


誰も知らない有名人

 突然だが、人外は好きだろうか。人外、とは言ってもエルフやドワーフの様に人に近い姿の存在──もっとも心根や価値観が人外のソレである場合は除く──ではなく獣、怪異、宇宙人、機械など、人ならざる者。人から外れた者と言うよりは、人の外の存在達の事だ。

 

 私は、どうだろうか。胸を張って好きと言えるか、全てをそうは言い切れないものの、好きな部類だろう。

 いつ自覚したか、恐らくネットの片隅の個人サイトに置かれたフラッシュが原因な気はするが、それはどうでも良い。

 

 ……いや、どうでも良くなかった。

 私は今、そのフラッシュに端を発したゲームシリーズの世界に居るのだから。

 

「っと、危ない」

 

 今日は王都の地下。下水道の改修工事中に掘り当てられた太古の遺跡に調査の為足を踏み入れている。ドブの匂いを濃縮還元した様な空気にあてられ気分は最悪だった。それでもここに居るのは、お金の為、だけではない。

 

 目の前には竜、あれがターゲット。

 

『──やるではないか! 矮小なる人間如きが!』

「そんなに楽しい?」

 

 竜がヘラ型の尻尾で掬い上げ投げつける汚物を紙一重に避けながら、相手の話を聞いてみる。

 

『どいつもこいつも潔癖で軟弱惰弱、オレ様の泥を見ただけで悲鳴をあげて逃げ出すが、貴様は違うからな!』

 

「そりゃう◯こ投げつける竜が居たら逃げるでしょ」と反射的に言いたくなったが、気を取られてたら本当に当たりそう。私だって全身鎧を着込んで過保護にカイトシールドを()()に使うスタイルじゃなかったら入らなかったよ。汚過ぎて。

 

『ならばこれはどうだ!』

 

 一瞬、攻撃に間が空いた。嫌な予感がする。前を見れば、尾を横に薙ぎ払った事で汚物が全てを呑み込む海嘯さながら私に向かって殺到していた。人生で見たくない光景ベスト3には入りそう。

 

「……面倒だけど、やるしかないか」

 

 私は片方の盾を汚物の波に投げつけ、その上に飛び乗る。人生で二度は無いと祈りたいサーフィンの時間だ。

 

『はははっ、器用な真似を──!』

 

 今更だが、私は竜を殺しに来た訳じゃない。倒しには来ているが、それは私を認めさせる過程の中で必要だからしているだけ。──だから私は身軽さよりも頑丈さ、受け止める硬さを優先してこの両手に盾のスタイルを貫いている。一応、ダガーも一本腰には差してるけどこれは非常時にしか使わない。

 

「そっちだって、尻尾をまるで手みたいに。私はずっと不器用」

『そう遠慮するな、矮小と言う言葉は撤回しようではないか。オレ様は豊穣の神とも言われた竜。その力を振るうに値する相手(そんざい)と!』

 

 竜が魅せる、持ち上げた首へ、口元へ空気が集まっていく。部屋が萎む様な錯覚を覚える程の豪快な呼吸。吸えば、吐く。そんな生物の当たり前の道理。それが竜にとっては必殺の一撃と化す。生まれながらの強者とは誰が言ったか全くその通りだ。

 

 口元へ溜め込まれる力の流れ。波の上で眺めるそれはいつも神秘的だ。ここが汚物塗れでなければもっとマシだったろうに。

 

『──受けてみよ!』

 

 処刑人の様に鋭く振り下ろされた頭。勢い良く開かれた顎を飛び出す程の光の奔流(ブレス)が私目掛けて飛んで来る。

 

「『エンチャント・ウォーター』」

 

 鎧が、構えた盾が水を纏う。

 竜のブレスは力の表れ。汚物と言うから闇に寄った力の可能性もあった、けどあの竜が豊穣の神としての存在であるのなら、その力は恵み。大地に恵みを与える力と言えば水か光か。どちらにせよ水の力である程度まで軽減出来るはず。

 

「っ……ぐっ」

 

 でも、重い。マトモに受けたら耐えられる気がそんなにしない。最悪即死かも。でも、今はまだ耐えられる。ただ、足元が不安定なのが気掛かり。

 

『正面から受け切る気か──どこまでオレ様を楽しませる!』

「勿論っ……最後まで」

 

 けど、その拮抗は長く続かなかった。どちらかが敗れた訳じゃない。波に押されて私の身体が動いたせいで、ブレスの射線から逸れてしまった。

 

「あっ……」

『むっ』

 

 なんとも言えない空気。波が収まり、汚い泥濘と化した地面に浮いたままの私と竜の間に沈黙が走る。ブレスより耐え難い、早く帰りたい。

 

『くっ、ふははははっ! 締まらない終わりだな!』

「なら、もう一度やりますか?」

『──いや、久しぶりの全力のブレスだ。暫くは放てぬ』

 

 竜は笑っているけど、向こうは白黒はっきり付けたかったのではなかろうか。そんな不安から、つい頭を下げてしまう。

 

「すいません、避けちゃったみたいで」

『まさか貴様、オレ様の本気を受け止める気だったか? とんだ奴よ。……これは、認めざるをえんな』

 

 あ……この流れ。不味い。何が不味いって、竜系のお決まりの台詞だからだ。この台詞みたいなのが来ると十中八九あの展開が来るから。

 

「ま、待って下さい」

『オレ様の真の姿を──』

「それはだから待っ」

 

 竜の姿が光に包まれ、そのシルエットが見る見る内に小さく、()()へ変わっていく。それは、見覚えしかない光景。

 

 

 

 ──私は、あるゲームシリーズの世界に居る。

 

 その世界はよくある剣と魔法のファンタジーな世界に続編では妖怪や宇宙人などあらゆる人外が登場する闇鍋の様な作品だった。その世界は、どこか明るくも暗くて、年頃だった私の痛い部分に良く刺さってしまった。それから私は、ずっとファンとして追っかけていた。

 

 でも、初めはその世界を楽しんでいた私だったが、ある時からモヤモヤとした物を覚えてしまう。

 

 圧倒的な力で立ち塞がり、プレイヤーを苦しめた初代の裏ボス。『暗黒竜』、シンプルな竜でありながらも厨二心をくすぐる良デザイン、これまで数々の苦難を潜り抜けたプレイヤーであっても苦戦は必死、挑発的ながらもどこかプレイヤーを信じる様な口振りにはカリスマ性もあった。

 

 楽しいひとときだった。悩んで、慣れないインターネットサーフィンで情報をかき集め、ようやく攻略した時、その『暗黒竜』にもお決まりの展開が来た。

 

 それは真の姿。このゲームには、強力なモンスターを倒すと、老若男女様々の人の姿となりプレイヤーの仲間となってくれる。

 

 今まで当たり前の様に繰り返した事、私はどんな姿になるのだろうとワクワクしながら待っていた。

 

 ──『暗黒竜』は、高貴なる黒の女王へと姿を変えた。

 

「うん……うん?」無意識に、そんな間の抜けた声が出ていた。

 

 楽しみだった筈だ。それに竜の女王として真の姿のデザインは非の打ち所がない程上質だった筈だ。

 

 カリスマ性、プレイアブルとしての強さは言わずもがな。

 

 なのに、腑に落ちなかった。今まで楽しんでおいて何を、と言うかも知れないが、何かが違う気がした。

 あの竜のまま、あの力と言葉を見せ続けて欲しかった。私と死闘を繰り広げたのはあの竜で、人間の姿の竜ではないのだから。不完全に言語化すれば、そんな所なのかもしれない。

 

 ゲームはずっと楽しんでいた。けどもそれ以来、どこか喉に小骨が引っかかった様な心持ちだった事は確かだった。

 

 

 

 ──今、目の前には褐色の肌をした金髪の美女が居る。

 

「どうだ、オレ様の姿に見惚れたか、人間」

「はぁぁぁぁぁぁ……」

「何だそのため息は?!」

 

 ここに入る為の出入り口が人間サイズの時点で薄々気付いていたが、やっぱりこうなるのか。落胆よりも先に納得してしまう。諦めた事はなくても、同じ事がずっと続くと、少し疲れてしまう。勝手な都合と認めても、顔が出てしまう。

 

「知ってた」

「む、まさか既に同胞にも認められていたか。通りで強い訳だ」

 

 たわわとくびれが眩しい。綺麗なのは当たり前だけど、それだけじゃなく、自信に満ち溢れた姿は確かに魅力的なのだろう。

 

 けど、私は。

 

「じゃあ、ちょっと着いてきて下さい」

「お、おう? どうしたいきなり」

 

 でも臭いがキツい。幾ら美人でもドブ以下の臭いだとダメだ。

 

「まずは身体を洗います」

「ま、まさかいきなりするのか? いや、別に構わんが順序と言う物が──」

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「──新人です、どうぞお納め下さい」

「は?」

 

 ──私達は、地上に帰って来た。

 

 地上に出て真っ先に私は彼女を宿の風呂に叩き込んだ。歩く公害状態のままでは、流石に困るからだ。何に困るかと言えば、彼女を預けるのに困るのだ。そして翌朝、日が登り切る前にここに来た。

 

 私が頭を下げる先には、真っ赤な髪をポニーテールにした耳の長い女の子。見た目にそぐわぬ目の鋭さ、細い体に似つかわしくない大樹の様な落ち着いた佇まい。得物はその手になくても分かる、歴戦の存在である。

 

 今その女の子は私達の姿を見て道端の汚物を見る様な目をしていた。いやはや、最近は世話になり過ぎてしまったらしい。

 

「お前、ここを託児所か何かと勘違いしてないか?」

「分かってます。奴隷市場……でしたよね?」

「何故疑問系なんだ、お前看板見たのか、目は付いてるのか、頭は空なのか?」

 

 彼女は大手奴隷商会のトップオブトップ。鬼畜姫、ノーブル・マターさん。私にはコネがあり、こうして顔を通せる。普通なら門前払いだろう。

 

「ノーブルさん、だから来たんじゃないですか、彼女を売りに」

「その背中で眠りこけている奴か。一応聞いておくが、人間か?」

「人間デスヨ?」

 

 そう言うと脛を蹴られた。思い切りだったけど、ブーツを吐いているからそこまで気にならない。寧ろ素足で蹴りつけて無傷のノーブルさんの足の方が凄まじい。

 

「嘘だな。お前に限ってそんな()()()()()()()の人間を売りに来る筈もない。いつものだろう?」

「分かってるなら態々聞く必要は……?」

「お前のロクデナシっぷりを再認識するには必要だろう? 側から見れば厄災を人知れず未然に防ぐ英雄だが、実際の所ただの嘘吐きの変態だ」

 

 私は彼女に直接、こうして人化した存在を卸している。正確には、保護と監視と言うべきか。彼女は私より遥かに厄介な事に慣れているので、私がどうこうするよりもマシに扱ってくれるのだ。

 

「今日は何だ? 獣か、ゴーレムか、幽霊か?」

「竜です。本人は豊穣の神だったと言ってますけど」

「久しぶりだな竜は? で、そんな奴をお前なんて言って売ろうとした?」

「人間です」

「お前、それを私が信じて誰かに売って客の元で暴れたら、商売が傾くって分かってるよな?」

「言葉がなくても分かるって、格好いいじゃないですか……へへっ」

「へへっ、で済ませるなら衛兵も勇者も要らないんだぞ?」

「あ、部屋は空いてるんですよね?」

「檻のことを宿みたいに言うな」

 

 腕を組み、呆れてため息をつく彼女に一抹の申し訳なさを覚えつつも、私は背中の竜を彼女にそっと押し付ける。彼女も、魔法で浮かせた担架に竜を乗せてくれた。

 

「でも私も定命の存在です。脆く儚い人間でしかない私に興味を持たれても、返せるものがない。それならよっぽど長生きで私より強くて頼りになるノーブルさんに彼ら彼女は任せた方が良いと思ってるんですよ。それは、本当です」

「はぁ、頼めば幾らでも奴らに不老不死に出来るだろうに」

「まだ、この世界に長居する覚悟も理由も無いですから。それは勘弁願います」

「やれやれ、また面倒な在庫が増える……」

 

 頭を抱えながら担架を奥へ送っていくノーブルさん。その奥から、三人の少年が現れる。全員顔も背格好も同じ、世界にはそっくりさんが三人はいると言うが、実際に見ると不思議な光景だ。

 

『あ、ご主人様だ!』

「……お前ら、奥で見張りをしていろと言った筈だが」

『ご主人様〜!』

 

 ぴったり重なった三人の声。黒髪に赤のメッシュ。頭頂部と尾骶骨の辺りから伸びる犬の耳と尻尾。誰もがご存知、冥界の番犬ケルベロスである。

 

 素早く三方を囲まれた私は、抱きしめられ柔らかな圧を感じている。目はキラキラとしているし、尻尾を今に千切れそうな程振り回している。

 

『あれ? 今日はケーキ、持ってきてないの?』

 

 つぶらな瞳、どこか甘える様な声色。どこが地獄の番犬なのかと突っ込みたくなる。因みにこの子らとは戦ってすらいない、手作りのケーキをあげたら何故か満足して今の姿になっていた。

 

「ごめんね。今日は作ってないんだ。お利口にしてたら、次の機会に持ってくるから。今は彼女の言葉に従ってて」

『はぁ〜い!』

 

 素直に従って奴隷市場の奥へ彼らは手を繋いで横並びに戻って行った。彼らはこの奴隷市場ではすっかり名物の獣人従業員となっている。勿論、ケルベロスである事は伏せているが。

 

「あの駄犬ども……私を苛立たせるのだけは上手くなっていくな」

「は、はは、ごめんなさい」

「まあ、組織ぐるみでもなければあれらの面倒を見切れないと言うのも一理はある。個人に任せれば必ずどこかがちょっかいを掛けるし、かと言ってどこか国の組織に任せれば火種になるのは間違いない」

 

 ノーブルさんの奴隷商会は、もはやどの国にも欠かせない存在となりつつある。労働力や、そうでない特殊な用途、困った犯罪者の受け入れ先として幅広くやって来た結果だろう。そんな組織にちょっかいを掛けて怒らせれば、利益よりも不利益が上回ると言う事もあり、今のところ目立った手出しはされていない。

 

「今日も勘弁してやる。ただし、趣味に生きるのは結構だが、さっさと死んでくれるなよ? 遺された奴等が面倒になる。死ぬなら私の前にしろ、どうにかしてやる」

「ありがとうございます。やはり分かってくれますよね、流石、私の同志です」

 

 また、脛を蹴られた。

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『人外娘RPG』

 

 シンプルながら分かりやすいフラッシュ時代の初代タイトル。私がプレイしたのはずっと前だったが今でも内容ははっきりと思い出せる。ストーリーよりはキャラを見せる事に重きを置いてはいるものの、大まかなストーリーはある。

 

 モンスター図鑑をコンプリートする為に各地を旅する。なんて危うい設定だったが、当時の私は気付かずに遊んでいた。

 

 いい思い出には違いない。ただ、私にとってそれは深い傷跡でもある。

 だってそうだろう、私が捻れてしまったのはこれが原因だ。

 

 転生者──ジエン・アニマ。しがない冒険者である。

 私は、程々の人外好きだ。ただし地雷が一つ。

 

 

 

 ──申し訳ないが、人化はNG。

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