申し訳ないが人化はNG   作:息抜き栓抜き飯抜き

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よくある一日

 金はあるが娯楽がない。現代からファンタジーな世界に生まれ変わった私からすれば、不便な事は幾らでもある。その一つが、娯楽だ。

 

 私は娼館には興味も無いし、葉巻も酒も嗜まない。周りからは敬虔なシスターか何かと思われてる程にこの世界の娯楽とは縁がない。全て私の好き嫌いでしかないのだが。

 

 唯一の娯楽はライフワークでもあるモンスター探しだけ。しかしこの世界でコミニュケーションを取れるモンスターは皆人化する定めなのである。ならばそこら辺のモンスターを探して調教でもすれば良いと思われるかもしれないが、それは違うのだ。それで手に入るのはあくまでもペットであり、対話出来るモンスターとは意味合いが変わってしまう。

 

 私はケモナーではなく、人の外に居る者達のそのままの姿を好むだけなのだ。

 

「地下神殿の調査、お疲れ様でした」

 

 そんな事を考えながら戻って来た職場、ファンタジーで良くある冒険者ギルド。今日も依頼達成を報告すると、受付嬢がニコニコ顔で頭を下げる。

 

「別に大した事はしてないですよ」

「いえいえ、ジエンさんがこの冒険者ギルドに来てから、塩漬けになっていた依頼がどんどん消化される様になったんですから。もっと大きな顔をしても良いんですよ」

 

 単なる趣味でやってる。なんて言っても今更信じてもらえないだろう。私は余りにもやり過ぎた。今では何やら守護騎士なんて大層なあだ名まで貰っている。

 

「そういうのは、慣れてなくて」

 

 そう言うと、受付嬢は少し笑ってみせた。

 

「そういう所も、美徳だとは思います。けど、ジエンさんは私みたいな女の子の元冒険者からすれば、希望の星なんですよ?」

「……そ、それ以上は、勘弁して欲しい」

 

 前世ではここまで褒められた事なんて滅多にないから、どうも恥ずかしさが優ってしまう。もしや、私は揶揄われているのだろうか。

 

「ふふっ、分かりました。でももう少し自分を誇っても良いと思うのは本気なんですからね」

「……頑張っては、みる」

「はい、頑張って下さい」

 

 

 

 ──そんな風に、私は毎日を過ごしている。

 

 さっきまでのは昨日の話。今日は街道の外れにある古い霊廟に足を運んでいる。今回も調査探索系の依頼だ。

 

「──ジエンセンパ〜イ、ちょっと早過ぎなんですけど〜?」

「……ああ、ごめん。いつものペースで歩いてたから」

 

 いつもは一人で攻略しているが、今回は同行者も居る。

 

「マーソンさんは、左利き? 右利き?」

「えー? 何その質問。エリンは左利きですけどぉ?」

 

 背中に小ぶりな弓を背負った金髪ポニーテールの少女、彼女は後輩冒険者のエリン・マーソンである。若く腕の立つ斥候と聞いている。受付嬢からは、後進の育成の一環として少し手を貸して欲しいと言われていた。冒険者ギルドに恩を売っておけば優先的に依頼が回って来るかもしれないという打算ありきではある。

 

 なんて思ったのは良いけど、思ったより癖のある子だった。

 

「センパイって独身なんですかぁ?」

「はい、それが何か」

「まだ若いのに、センパイのそういう噂、聞いた事ないなぁって。もしかして、人はタイプじゃなかったり?」

「……ある意味、そうかも知れない」

 

 ふ〜ん、と納得した様な様子の彼女。まるでピクニックにでも来た様な雰囲気だった。けれど、これまで順風満帆だったのなら、無理もないかも知れない。

 

「センパイが変わり者なのは昔からですしね」

「昔?」

「こっちの話ですぅ」

「そう、ならいい」

 

 私は、目の前の事に集中しよう。

『人外娘RPG』、初代では霊廟なんてステージは無かったけれど、実質的な続編の『モンストーリー』シリーズではよく見たステージだ。

 

 出てくるモンスターとしては、アンデット、スケルトン、デュラハン、ウーズ、ゴブリンといった所。一応、全種に人化する個体が存在するけれど、そう簡単には出会えない。ゲームでは主人公が特別そうした個体に巡り合いやすい体質……ある種のフェロモンを発する存在だったから、ゲームとして話が成り立っていたけれど。

 

 そうでない私は、とにかく試行回数を積んだ。足で稼ぐなんて、昔気質の刑事でもあるまいし。

 

「そう言えばセンパイってぇ、()()()()と良く遭遇するって本当ですかぁ?」

「確かに私は色々な場所に出向いた。噂と違って影すら掴めてないけど」

 

 けどそうした結果、主人公でない私も言葉を扱うコミニュケーション可能なモンスター、知性個体とのコンタクトと何度も成功している。けど、私の理想にはまだ会えないまま。

 

 婚活サイトで沼にハマる三十路って、こんな気分なのだろうか。……考えるのはやめとこう。

 

 と、和気藹々とまでは行かないにしても、穏やかな雰囲気で私達は霊廟を歩く。

 隅々に掛かった蜘蛛の巣も、荒らされた石櫃も、過ぎ去った時でこの空間が満たされている。腰に下げたカンテラで照らす道はまだまだ先がありそうだ。

 

 そのまま歩いていると、突然にT字の曲がり角が見えてくる。いかにも待ち伏せがありそうな地形。念の為、振り返って彼女の方を見てみると、頷いた。

 

「……センパイ、その先」

「ありがとう」

 

 エビデンスの取れた私は、片手の盾を構え角からゆっくり身を出す。すると、待ち構えていたスケルトンが斧を振り上げている所だった。

 

 挨拶代わりに頭蓋骨を盾の縁で砕くと、糸の切れた操り人形の様にバラバラとスケルトンは崩れていく。呆気ない終わりだ。

 

「本気で盾だけで戦ってるし……」

「盾だからあれだけど、ガントレットとかも似たような物だと思う」

「似てない〜絶対似てない〜」

 

 それからは、いよいよ遺跡の攻略らしくなって来た。モンスターがチラホラと現れ、エリンの弓の腕前も垣間見える。

 

「前衛は私に任せて」

 

 予め聞いていた利き手を元に立ち回りを柔軟に変えていく。射線を保ち、後方のモンスターを倒す為、時にはこじ開ける。突破力のある拳闘士でありながら硬い盾役でもあるのが私だ。

 

 霊廟の攻略は、順調そのものだった。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

 ジエンセンパイは実はモンスターが好き。そんな噂を聞いた事がある。

 男女問わず、態度があまり変わらない所から来ているのだと思う。

 

 けれど、私にとっては重大な問題だ。物語に登場する様な騎士とは程遠い、煤けた色味の鎧に、褪せた深緑のマント、ぱっと見は地味なセンパイでも、守護騎士なんて呼ばれ方をするだけあって、割と人気がある。

 

 慣れた冒険者は、ある程度慣れた土地の依頼を好む為、土地の好き嫌いなく依頼を受注するセンパイは珍しいタイプになる。それ故か、様々な冒険者仲間の危機を救った事も多い。かくいう私もその一人だ。加えてあっさりとした態度も相まって、仲間内では誰もが『自分だけがセンパイの良いところを分かってる』なんて思い上がりを誘発している。

 

 実際には皆同じなのに。

 

 それは置いておいて、今もこうしてセンパイと一時的にパーティを組んでみると改めて思う。

 

『戦いやすい』

 

 私に集まる敵視(ヘイト)を掠め取り、かつ私の射線を意識した立ち回り。偶然じゃない、明らかに意図的だった。冒険者は良くも悪くも我が強い筈なのに、センパイは常に誰かを立てる立ち回りを意識している様だ。

 

 一体、誰が隣に立つことを想像しているのか。考えようとして、止めた。自分が立っている光景が見えないから。

 

 仮にそれがモンスターなのだとすれば、心穏やかでは居られない。まあ、無いとは思っている。私の情報網では、偶にセンパイは夜明け前に美男美女と共に宿を抜け出しているというらしい。ああ見えて、やり手なのかもしれない。

 

 それなら、少しでも。私にチャンスが──。

 

「マーソンさん、どうしたの」

「あっ、いや! 何でもないですけどぉ?」

 

 霊廟の探索も、もう直ぐ終わりそうだ。潜るにつれ、副葬品が手付かずのまま残っているのが増えて来た。盗掘に来たであろう人間の遺骨も。恐らくは、この霊廟の主が待ち構えているに違いない。

 

「センパイ、この依頼が終わったら〜食事に付き合ってくれませんかぁ?」

「いいよ。どこでも構わない」

 

 やっぱり、名残惜しい──。

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 白く冷気が立ち込める。ぱきり、ぱきり、歩く石畳には氷が薄く張っている。別にここは寒冷地ではない。とすれば、そこに居るモンスターの仕業だ。

 

「……あれがここの主か」

 

 半月を思わせるショーテル、それを握る黒いマントを棚引かせた蒼銀の騎士。しかし、それは人ではない。首から上には、ある筈の頭部が無く、代わりにその腕に魔力で作られた青白い生首が抱かれている。

 

「首無し騎士、デュラハン」

 

 私はその姿を認めた瞬間、マーソンさんの腕を掴み抱き寄せた。

 

「ひゃっ!?」

「『エンチャント・ファイア』」

 

 ガキン! 両腕の中に収まった彼女目掛け、薙ぎ払われたショーテルの一撃を防ぎ魔法を使う、炎を纏った盾で鳩尾を殴り返すとデュラハンはたたらを踏んで後退した。

 

 デュラハン……ゲームでは嫌な敵だった。2作目から常連になったモンスターで、得意技は後衛キャラクターに対する確率即死技『首刈り』。前衛の即死耐性付きのヘイト誘引技が無ければ魔法使いや弓使いは即座に倒れマトモな戦いにはならない。

 

 しかし、私が一番嫌だったのは、既にあのデュラハンが知性個体で無い事が確定している事だ。知性個体とそうでない個体、ゲームでは立ち絵が異なっており、知性個体のデュラハンは魔力で作った偽物ではなく、本物の生首を持っている。

 

「デュラハンは、後衛を優先して潰しに来る」

「……センパイ」

 

 私の腕の中で、不安げな瞳が揺らいでいた。腕にも震えが伝わる。デュラハンはゲーム中、一定確率で行動を制限する異常状態『恐慌』をばら撒くが、恐らく彼女は今その状態だ。

 

 だから、真っ直ぐに彼女の目を見て答える。

 

「大丈夫、私から離れない様に。そうしたら何が来ても守れる」

 

 デュラハンは霧の様にかき消えてはそれぞれの背後に現れ攻撃を仕掛けてくる。けど初見の相手ではないのなら対応も出来る。行動パターンも大体は痛い思いをして覚えてきた。最初は知性個体以外にもコミニュケーションを測っては、攻撃されまくった経験が今も生きているのだ。

 

 互いにカバー出来る範囲で私は防御とカウンターを行いつつ、合間合間の攻撃はマーソンさんの弓に任せる。デュラハンは徐々に追い込まれていった。

 

 そして、距離を取ったデュラハンは首を掲げ、声を発そうとする。『黄泉からの呼び声』複数のスケルトンを取り巻きとして召喚する技──だが、この世界はゲームが元でもゲームそのものではない。発生は潰す。

 

「マーソンさん」

「っ、分かってるんですけど!」

 

 放たれた矢が、首を貫いた。と同時に、私の拳がデュラハンの身体を打ち抜く。

 

 膝をついたデュラハンはそのまま倒れ、動くことはなかった。

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 そうして霊廟の調査を終えた私達は、酒場で打ち上げを行っていた。

 

 テーブルに並ぶ、ピザ、グラタン、チキン……中々豪勢だ。艶があり香ばしい。作中の料理と相違ない見た目、ゲーム飯とは何故こうも美味そうに見えるのだろう。

 

「センパ〜イ、今日は私の奢りで〜す!」

「えっ、別にいいのに」

「センパイが居なかったら、私死んでたんですけど。ここは気前良く奢られるべきですよね、センパイ?」

 

 知的個体が居なかった事は非常に残念だったが、昨日今日で出会える方が稀な存在だ。会えなくても仕方ないと思う方が精神衛生上に良い。今は目の前の彼女と依頼達成を喜ぶべきだろう。

 

「そうじゃそうじゃ!」

 

 と、見知った第三者が隣からピザを一切れ掴み、貪りながら便乗していた。マーソンさんは一切気付いていない。

 

「……で、何でここに? 『ぬらりひょん』」

 

 ファンタジーなモンスターに飽き足らず妖怪や宇宙人まで出る闇鍋ゲーム。当然そこには有名な妖怪だって居る。和服を着崩した俗に言う所のロリジジイ、うなじに垂らした長い髪は青く半透明で透き通っている。

 

 彼女は、初代に居た隠しキャラ『ぬらりひょん』である。相手する分には別に強くはないが、出会う為にはひたすら酒場で料理を食べ、低確率のエンカウントを狙うしかなく、エンカウントしても一発で終わらせなければ1ターン後には逃げると言う嫌がらせっぷりである。

 

 代わりに味方になった時は頼もしく、どんな攻撃も必中となる効果をパーティ全体にばら撒いてくれる。本人曰く、意識の間隙に潜り込む力の応用、らしい。因みに人化する前の姿はクラゲの頭部に和服というなんとも言えない組み合わせ。一歩間違えると何処かの邪神みたいな見た目だった。綺麗で可愛かったけど。

 

「なんじゃ、つれないのぅ。ワシをあれだけ熱心に口説いて、餌もやらん気か?」

「口説いたつもりはなかったけど」

 

 私は別にぬらりひょんを見つけようとして見つけた訳じゃなく、偶々酒場で食事をしていたらぬらりと現れたので『独りで食べるより、私と一緒に食べませんか』と誘っただけである。ゲームではこんな風にはいかなかったのに。

 

「ほれ、あ〜んしてやるぞ」

「兜の中が見たいだけですよね」

「なんじゃ、バレたか」

 

 私は1日の殆どを鎧のまま過ごしている。これは元のゲームがぬらりひょんよろしく街中でも宿でもエンカウントするシステムであるからだ。例えば屋敷を買えば妖精ライクなゴブリンや幽霊や座敷童子の様な屋敷に関わるモンスターと遭遇する可能性がある。

 

 ゲームでなら宿屋で寝ていても、どこかで遊んでいても装備を変える必要はない。ただそれが現実となるとそうもいかない。宿屋で『休む』を選択すれば次の瞬間夜が明けるなんて事はなく、鎧を付けたまま寝るのは難しい。だからと言って装備無しでは突然エンカウントした際に対処出来ない可能性がある。

 

 だからか、私の頭の中は割と殺伐としている。部屋の中だとしても部屋の角からティンダロスの犬が出て来るかもしれない……は少し盛ったが、そのくらい注意を払って生活しているのだ。

 

 つまり、用もないのに装備を外す気はさらさら無い、と言う事である。

 

「しゃーないのぅ。じゃワシ、帰る」

 

 気付けば、私とマーソンさんの2人だけの光景に戻っていた。クラゲ姿なら、もう少し眺めていたかも知れないけれど、口に出すと調子に乗られそうなのでやめておく。

 

「どうしたんですかぁ? ぼぉ〜っとして」

「……いや、何でもない」

「あれ? センパイ、ピザ食べてる? 私、もしかしてセンパイの食事シーン見逃しちゃった!?」

 

 マーソンさんが何かを嘆いているが、私は気にせずチキンを兜の下から差し込み、齧り付く。

 

 うん……ちょっとチキン冷めてた。悲しい。

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