魔王とは
複数の魔物が集まり儀式を行うことで誕生する存在。
魔王は強大な力を持ち、自身を生み出した魔物達に力を与え魔族へと昇華させる。
魔王は配下の魔族に対して絶対的な権力を持っており、魔族達は魔王の命令であれば命さえも捧げる。
魔物とは
特有の魔力を根源として世界各地に誕生し、人類と並んで文明を発展させた種族達の総称。
時に魔物は人間を襲うこともあり、人間は例外無く魔物を忌み嫌う種族である。
対する魔物は人間を特別に敵視することも無く、魔物が人を襲う時は個人的な敵意があるか、或いは魔王から命令を受けた時だけだ。
そして、この時代にもまた新たな魔王が魔王が誕生するのであった。
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「ここはどこだ?私は誰だ?」
廃墟のような建物の中、祭壇のような場所で目が覚めた。
「おお、儀式が成功したのですね!ついに私達の魔王様が誕生したのですね!」
「「「おおぉぉぉぉ!!」」」
新たなる魔王の誕生。
体型は人間に近く、悪魔か或いは竜のような羽と角と尻尾が生えており、男か女かもわからない白髪赤目の魔王が目覚めた。
「「「魔王様バンザイ!!魔王様バンザイ!! 」」」
「おい待て…一番前のお前…まずお前は誰だ?」
「私はこの群れの中では五本の指に入る戦力を持つヴァンパイアです。」
一人のヴァンパイアと恐らくゴブリンと思われる数体の魔物が、魔王の誕生に歓喜していた。
「つまり群れのトップか…ところで中々に整った顔立ちだが、お前はオスか?メスか?」
「フフッ、こう見えてメスでございます。そして後ろにいるゴブリン達も半分はメスでございます。」
「そうか。バンパイアよ、お前達は何故私を生み出した?」
「それはそうと魔王様を生み出した理由ですが、最近我々の群れが人間に身をつけられたからでございます。それと細かい話ですがバンパイアではなくヴァンパイアですよ。」
「そうか、それで目をつけられたというのは?」
「私がついうっかり人間に見つかってしまい、その時の攻撃でこの通り、私の左の頬に火傷跡がついてしまいました。本当は魔王様をお迎えするための精一杯の準備をしたかったのですが、群れの生存を優先し一か八かの儀式を行ってみましたら、この通り成功しました。」
「なるほど、それが理由で出迎えの物が少ないのか?」
「半分正解でございます。」
「半分なのか。」
「はい、もう半分は魔王様に献上するお夜食を調達しております。今夜は宴でございますよ。」
「そうか、それは楽しみだ。」
そうして会話をしていると、ヴァンパイアの耳が何かの音を聞きとったようだ。
「おや、こうして喜ばしい出来事に心を踊らせているというのに…。」
「どうかしたのか?」
「どうやら我々の…いえ、魔王様の縄張りに悪い虫が入ったようですね。」
「…?無視など気にする事ではないだろう?」
「失礼、今のは比喩表現です。人間がこの屋敷に侵入しました。」
「何だそういう事だったのか。それで、どうするのだ?対話を試みるか?」
「人間は我々魔物の…いや今は魔族でしたね。奴らが我々魔族の話に耳を傾けることはありません。悲しい事に人間と魔族では殺るか殺られるかしか無いのです。」
「そうか。ならば仕方あるまい。ヴァンパイアよ、忍び込んだ人間を始末する仕事、お前に任せても良いか?」
「勿論でございます!貴方様の誕生によって授かったこの力、当然貴方様のために使いましょう!」
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古い屋敷の入口
「おい、確かにこの場所に魔物が住んでるんだろうな?」
「ああ、間違いないぜ。魔物が出ていく所をこの目で見たからな。」
「とにかく、魔物を倒した証拠を持ち帰って報酬金を受け取るのが今回の仕事の流れだったな。ゴブリン程度さっさと片付けて帰るぞ。」
屋敷の二階、暗闇の中から魔物が姿を表した。
「おや、私の顔に傷をつけた魔法使いとは別人でしたか。」
「喋る魔物、つまり魔族か。厄介な相手に出会したな。」
「なぁあんた、魔族相手に勝てるのか?」
「俺はシルバーランクの冒険者だぞ?ただの魔族に負ける訳ないじゃないか。」
「クックックッ……ヴァンパイアであるこの私を完全になめているようですね。あなたのようなブ男の血に興味は無いですが、まぁ前菜には調度良いでしょう。」
「ヴァンパイアなら報酬も高くつくだろうな。さあ、さっさと倒して帰るぞ!」
冒険者の剣士は、シルバーランクの称号に合わせてか、銀の剣と銀の鎧を纏っていた。
ヴァンパイアにとって銀製の武具は積極的には相手にしない面倒な的だ。
初めはお互い余裕の態度を見せていたが、お互いに想定以上にしぶといので、冒険者のブ男は焦りを見せ始め、ヴァンパイアは自分の未熟さに苛立った。
「クッ……私とした事が、たかが人間ごときに手間取ってしまうとは……。」
「おいヴァンパイアよ、まだ終わらないのか?」
「えっちょっ、魔王様何してんですか!?」
「たかが人間と侮っていたな?そんなザマでは足元をすくわれるぞ。」
「えっと…ゴホンッ…。申し訳ございません魔王様。」
「まぁ良い。未だかつて無い程の力を手にして浮かれてしまったのだろう?誰にでも起こり得る事だ。どれ、技の手本を見せてやろう。」
そう言うと魔王は右手の人差し指を前に向け、指先に極小の魔力弾を生成した。
「よく見ていろヴァンパイアよ。」
そう言うと魔王は魔力弾を冒険者に向けて放った。
その魔力弾は、ギリギリの所で避けたシルバーランクの冒険者の右耳に穴を開け、その後ろにいたカッパーランクの冒険者の頭を撃ち抜いた。
「おっと、手前の人間は外したか、まあ良いだろう。知っていると思うが人間の弱点は脳と心臓、つまり頭と胸の二箇所だ。ここを破壊すれば大抵の人間は息絶える。眉間を撃ち抜けばほとんど苦しませずにトドメを刺せるらしいぞ。ちなみに今放った魔力弾は貫通力と弾速を優先した物だ。」
「なんと!目覚めた直後からこれほどの技を扱えるとは!さすが我らの魔王様!」
「うむ、今回は二人とも私が始末しよう。倒した後の血肉はお前が食べろ。沢山食べてその分強くなるのだぞ?」
「クソォ!こんな化け物相手してられるか!」
「逃がしはしないぞ。今度は5発だ。」
魔王は再び魔力弾を五本の指それぞれに生成し、それぞれ胸と両手両足を狙うように分散させて放った。
背を向けて逃げ出した冒険者は、反応が遅れて左足と右の肺を撃ち抜かれ、その場に倒れ込んだ。
「急所は外れたか。配下に食わせるなら息の根は止めておかねばな。」
倒れ込んだ冒険者の場所まで歩いていく。
すると隙を狙っていた冒険者が手に持っていた剣で魔王を切りつけた。
魔王は咄嗟の判断で左手を出して剣を掴んだ。
「流石に油断しすぎたな。しかし、武器の手入れを怠ったな。このようなナマクラでは私の肉を切れても骨までは切れない。そして切断された皮膚も少し時間が経てば元通りだ。最後まで諦めずに抵抗したその精神力は評価しよう。」
「ま、待ってくれ!見逃してくれないか?今度別の仲間を連れてきてそいつを差し出す!だから見逃してくれ!」
「交渉技術は皆無のようだな。平気で仲間を売る様なやつが約束を守るとは思えん。予定通りお前を配下の魔族の夕食にする。」
冒険者が再び何か交渉を持ちかけようと声を出すが、言い終える前に魔王はその冒険者の男にとどめを刺した。
「うむ、抵抗できぬよう殺してしまったが、これでは鮮度が落ちるな。お前達も鮮度の良い血肉の方が好ましいだろう?次からは気をつけよう。」
「いえいえそんな滅相もない。貴方様が我らに与えてくださるのであれば多少鮮度が落ちていても喜んで食べますとも。」
「……ではゴキ〇リでも食べるのか?」
「えぇっ……いや、貴方様のご命令とあらばそれも受け入れましょう。」
「……これは後ほど教育が必要だな。」
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それから3時間ほどが経過した頃、ようやく食料調達へ向かった配下の者たちが帰ってきた。
「ああ、貴方が私達の魔王様なんですね!なんて愛らしい姿なのでしょう!」
「僕はてっきりゴツゴツしてて大きくておっかない悪魔が出てくると思ってたよ。」
「我々が儀式に用いた供物は貧相なものでしたから、魔王様のお身体が想定より小さく非力な物になっしまったのでしょう。ですが魔王様のお力の前ではそのような事は問題ではありません。それより今気にするべき事は、あなた達の帰りが予定より遅れた事です。これはどういう事なのか説明してもらいますよ?」
「アハハ…森の動物の中で僕でも狩れるような奴を探してたら時間がかかっちゃって。」
「私も丁度いい人間を探すのに時間がかかってしまって。」
ヴァンパイアから説教を受けているのは、彼女の次に強い魔族である化け狐とサキュバスだ。
「それで、サキュバスは聞くまでもないとして化け狐もメスなのか?」
「はい!僕こう見えてメスですよ!」
「メスばかりだなここの魔族達は。まぁそれは今は置いておくとしよう。夕食のための食料調達は上手くいったのか?」
「はい!頑張って森中走り回ってウサギをいっぱい捕まえてきました!」
「ウサギか…食感は鶏肉に近いと言うが…サキュバスの方はどうだ?」
「はい!勿論ご用意して参りました!人間から搾り取ってきた□□でございます♡」
「□□だと!?」
「はい!この通り!」
「よせ!出さなくても…ウッ、酷い臭いだ…。」
「おい貴様!偉大なる魔王様に向かって人間の□□など持ち出すとは何事だ!」
「ひ〜ん!可愛い冗談じゃないですか〜、そんなに怒らないでくださいよ〜!ちゃんと果物摘み取ってきたんですよ!」
「なら最初からそれを出せ!というか人間から搾り取った事は変わりないでは無いか!今日くらい真面目にやれ!」
「まぁ良いではないか。さて、調理はだれがやるのだ?」
「ちょうり…とは何ですか?」
「……お前達今まで何を食べて生きてきたのだ?」
「血液。」
「肉。」
「□□。」
「……その様子では周りのゴブリン達も果物をそのまま食べていたのだろうな。では私が調理と言うものを教えてやろう。」
そう言うと魔王は屋敷の調理場へ移動した。
「やはりどれもこれもホコリを被っているな。というかこの屋敷、魔物が住むにも不潔すぎるぞ。こんな場所で生活し続ければ喉を痛めてしまうぞ?」
「我々は元々住処を転々としていたので…。しかし、今後魔王様と共にこの場所で生活すると決めた以上は、魔王様が清潔にしろと命ずるならば清掃するのが我らの務めですね。」
「ああ、明日の朝食の後にでも清掃を開始しろ。それと、調理を教える等と言ったが調味料が無いのでは、私には精々肉を焼く程度の事しかできない。調味料の調達についても考えなくてはな。」
「ちょうみりょう、と言うのは何か分かりませんがとにかく頑張ります。」
「……それと、いい加減種族名で呼んでいては素っ気ないな。ヴァンパイアよ、お前に名はあるのか?」
「魔物に固有の名前はございません。魔族へと昇華し魔王様から名を与えられることで、初めて自分の名前を名乗ることができるのです。」
「そうか名付け親は私か…責任重大だな。…ではヴァンパイアよ、お前にはラキアという名を与えよう。今からお前はラキアと名乗るのだ。」
「魔王様から名をいただけるとは、有り難き幸せでございます。この私ラキアは、より一層貴方様のために尽くす事を誓いましょう。」
「それと先程の化け狐とサキュバスにも私が名を与えよう。そうだな…。化け狐にはミタマ、サキュバスにはモデウスの名を与えよう。ラキア、お前に彼女らの名を伝える仕事を与えよう。」
「かしこまりました。魔王様、一つ質問をよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないが。」
「魔王様の名は何と名乗るのでしょうか?」
「ああそうか、私も名を決めなくては呼びにくいな。ふむ、ではこうしよう。私の名はリリーというのはどうだろうか?」
「リリー…百合の花ですか。どうしてその名前を?」
「深い意味は無い。だが可愛いだろう?どうせならホワイト・リリーと呼んでも構わないぞ?」
「白百合…素晴らしい名前ですね。美しい白髪を持つ魔王様に相応しい名前でしょう。」
「では魔族達に伝えるのだ。偉大なる魔王ホワイト・リリー様がお前達を導くとな。ついでに今から焼肉という物を作るから楽しみに待っていろ、と伝えろ。」
この世界に新たなる魔王、ホワイト・リリーが誕生した。
魔王ホワイト・リリー、とっても可愛らしい名前ですね。