魔王ホワイト・リリー誕生の翌日、魔族達は丸一日かけて屋敷の清掃を行った。
屋敷は広いので、リリーを司令塔にして掃除場所を三箇所に分担、それぞれラキア・ミタマ・モデウスを幹部として配属した。
各箇所毎にゴブリン達を均等に送り、ゴブリン達への指示は幹部三人に任せた。
信じて送り出した三人の幹部達は、見事なまでに掃除を理解しておらず、結局リリーが幹部三人に懇切丁寧に説明する羽目になった。
教育の甲斐もあってなんとか一日で掃除を終わらせ、翌日から本格的に方針を決める事になった。
「まずは集まってくれた者たちに感謝しよう。それと、昨日は清掃作業ご苦労だった。さて、それでは第一回『今後の方針を考えよう会議』の開催をここに宣言する。」
まだ始まりの挨拶をしただけだが、既に配下の魔族達は嬉しそうな顔をしている。
基本的に魔族は魔王に仕え魔王の役に立つ事が一番の喜びだと考える。
あくまで基本であり、本能的な物で優先順位が変わる種族も一定数いる。
「さて、まず最初に説明したい事がある。お前達魔族は私が誕生した時、魔族としての特別な能力…いわゆる特殊スキルというのが目覚めただろう?」
「この私、ラキアに目覚めた特殊スキルを例とするならば、触れた液体を瞬時に凍結させる『瞬間冷凍』のスキルですね。」
「今ラキアが例を挙げた特殊スキルだが、私にも生まれつき目覚めていたようなのだが、その内容をどうか落ち着いて聞いてほしい。」
「なんと魔王様にも特殊スキルが目覚めていたのですね!いったいどんな強力なスキルなのでしょう!」
ハードルが上がっている気がする。
リリーは言い出しにくそうな渋い顔をしている。
「私の特殊スキルは……あらゆる種族と交尾し子作りできるスキルだ……。」
「こ、子作りですか?」
「うわぁ〜!なんて素敵な特殊スキルなのでしょう!あらゆる種族という事はメスしかいない魔物とも交配可能という事!つまり魔王様には□□□□□があるのですね!」
「ちょっとモデウス!会議中にキモイ事言わないでよ!」
「まぁ許してやってくれミタマ。モデウスの問題発言は今に始まった事では無いし、私がアレな事も間違いでは無い。今話したいのは、このスキルをどう活用するかという話だ。」
「と、言いますと?」
「我々の群れは小規模で非力だ。とりあえずの仮目標である世界征服のためにも戦力増強は必須だろう。基本的には野良の魔物を群れに取り込むつもりだったが、それが失敗した場合はこのスキルで混血種を生み出す事も視野に入れることになるだろう。」
「つまり、我々が魔王様の子を孕むと?」
「いや、私は基本的に交尾するつもりは無いぞ?」
「え?」
「魔王である私が子育てで忙しくなってしまったら世界征服が進まないだろう?」
「いやしかし、異種交配は魔王様の特殊スキルだと先程魔王様の口から……」
「ああ、アレは私だけが交配可能という意味では無いぞ?私と私の配下の魔族全員が対象だ。」
「配下の魔族全員が対象!?つまり私が魔王様と□□□できるという事!?」
「やめなよモデウス!隣で聞いてる僕が恥ずかしくなってくるよ!」
「落ち着け。幹部であるお前達にも余計な仕事はさせられない。実行するとすればゴブリン達にやってもらうだろうな。」
「そうですか…それは残念です…シュン……。」
「さて、私の事はこれくらいにしておいて、そろそろ今後の方針について詳しく話していくとしようか。」
リリーは議題を移した。
次の議題は、今後人間とどう関わっていくかという物だった。
「フフッ、簡単なことです。我々の力をもって愚かな人類を支配し、家畜として飼い慣らすべきでしょう。」
「ラキアがそう言うならそうなんじゃないかな?僕はよくわかんないけど。」
「私も賛成しま〜す!人間を飼い慣らせばいつでもヤりたいほうだいです!」
「まぁそう言うだろうなとは思っていた。だが、私はお前達の意見に反対する。」
「おや、それは何故です?」
「人間を皆等しく攻撃対象としてしまっては、やっている事が人間と変わらないからだ。彼らの愚かな部分は魔物を皆等しく敵と判断し、魔物も魔族も魔王も見境なく攻撃する事だ。我々まで無差別に人間を襲ってしまっては一生先に進めないだろう。」
「ん〜そう言われるとそうかも?」
「そうなの?僕はよくわかんないけど。」
「それだけでは無いぞ?我々が対話の意思を見せ、対話が可能な知性と理性を持ち合わせていると理解させれば、一昨日お前達に振舞った焼き肉よりも更に美味い食事が手に入るかもしれぬぞ?寝具を仕入れれば硬い床で寝る必要も無くなる。美しい衣装で着飾る事もできるだろう。」
「美味しい食事!?」
「美しい衣装!?」
「床以外の寝床!?」
「興味が湧いたようだな。人間と友好的な関係を築くことができればそれが手に入るかもしれないのだ。」
「なるほど…魔王様は我々では想像もつかない事をお考えになられているのですね。」
「だからこそ人間を見下すような態度は改めるべきだろう。上でも下でもない、対等な関係を目指して進むべきという事だ。」
「魔王様の考えは理解しました。しかし疑問なのですが、人類と対等な関係になったとして、それは世界征服と言えるのでしょうか?」
「……確かにそうだな。まぁ表向きには対等な関係という事にしておくのが良いだろう。何となくで良いのだよ何となくで。」
この魔王、行き当たりばったりである。
「そもそも『人間と友好的な関係を』と言っても、一昨日やってきた冒険者二人の命を奪っておいて仲良くしましょうと言うのは無理な話。遅かれ早かれ我々の存在は人間達に認知され、排除する流れになるだろう。」
「では、攻め込まれても反撃できるような武力を身につける必要がありますね。」
「それもそうだが、それと同時に『争わずにやり過ごす方法』も考えなくてはな。例えば人間のフリをするとか。」
「そんな事が可能なのでしょうか?」
「我々では無理だろうな。私とモデウスには角や尻尾があるし、お前は羽があるし、ミタマは獣の耳が生えている。何より20人はいるゴブリン達は肌が緑色だ。どう見ても人間では無い。」
「ミタマは化け狐ですので変化の術で誤魔化せますが、彼女だけでは不安ですね。やはり屋敷の住人を増やす他ありませんね。しかし人の姿に化けられる魔物などいるのでしょうか?」
「見つかるまで探すしかあるまいよ。」
そういうわけなので、リリーは新たな配下の魔族を求めて、屋敷の周辺に広がる森林へ向かった。
魔物は、基本的に群れを作って暮らしている。
群れにはリーダーとなる魔物が一体存在し、リーダーより強い魔物が現れた場合は、その魔物が新たなリーダーになる仕組みだ。
野生の魔物は言葉を発することも無ければ自我も弱いため、魔族へと昇華しない限りは、負けを認めてすんなりと別の群れへ取り込まれ何事も無く生活する。
「さて、私はこの森の生態系について何も知らないのだが、サキュバスにヴァンパイアに化け狐にゴブリンに…それ以外はどんな魔物が住んでいるのだ?」
「オオグモにオオムカデ、オークやオーガは定番として、人間に近い種族ですと獣人やエルフもいるのではないかと。まぁ亜人種は魔物では無いので魔王様に歯向かう可能性もありますが。」
「なるほど?他にも何かいるか?このままではオーガに人間を出迎えさせることになるが。流石にエルフや獣人もすんなり魔王に従うほど阿呆では無いだろう。」
「戦力として心許ないですが、一応スライムや小型の妖精等もいますね。希少な種族で言うならラミアやハーピー等も少数ながら確認されていますね。」
「う〜ん…妖精では小さすぎるし、ラミアやハーピーでは人っぽくないな。スライムに関しては人型ですらない不定形だ。まぁ贅沢は言っていられない状況だし、ここはとりあえず虫系の魔物やスライムを迎えて様子見か。」
「数が増えすぎても食料調達が間に合いませんし、屋敷の部屋数も無限では無いですからね。ではここからさらに奥に進んだ場所にある薄暗い森へ……と思いましたが、まずは別の魔物の相手をする事になりそうですね。」
「魔物の気配を感じたか?」
「ええ、この粘液の滴るような音はスライムですね。我々にとっては容易に処理できる相手です。」
「そうか、だが油断はするなよ?」
「お任せ下さい魔王様!」
「おっと、出来れば群れのリーダーだけ倒してくれ。それと、私の事は魔王様では無くリリー様と呼んでほしい。いつまでも役職呼びでは寂しいからな。」
「はい、リリー様!仰せのままに!」
生い茂った低木の向こう側には、六匹程で群れを成すスライム達が、隠れて様子を伺っていた。
リーダー格と思われるスライムは、酒樽に収まるかどうかの大きな体をしていた。
「血が無いのでヴァンパイアとしては興味の湧かない相手でしたが、最低限の知識はもっていますよ。あなた方はコアを中心に動き、そのコアを破壊されると形を保てなくなるのでしょう?しかし液体状の生物に物理的攻撃は効果が見込めない。ならば私のスキル『瞬間凍結』で液体から個体にしてしまいましょう。」
スライムの攻撃を回避しながらリーダーのスライムに接近し、手の届く距離まで接近すると右手でスライムに接触し、一瞬で水分を凍結させた。
凍結したスライムを粉砕し、むき出しになったコアを握り潰そうとする。
「まぁ待てラキア。」
「リリー様?どういたしましたか?」
「彼らはもう敗北を認めているようだ。コアを返して解凍してやれ。」
「群れのリーダーになる条件は強さを証明する事…確かに相手が負けを認めたなら殺す必要はありませんね。しかし問題がありまして、凍結させることはできても解凍することはできないのです。」
「ああ…それは…まぁ仕方ないな。」
凍ってしまったスライムの自然解凍を待っている間に、オオグモとオオムカデを配下に加え、それでもスライムが溶けていないので仕方なくそのまま屋敷まで持ち帰った。
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屋敷でスライムを解凍し、改めて配下に加えた。
ゴブリン達はともかくとして、ミタマとモデウスはあまりにもしょっぱい収穫に微妙な表情を浮かべていた。
「まぁまぁ、そんな露骨に残念そうな顔をするな。魔族化させれば案外使えるかもしれぬだろう?」
「いや、私はそういう意味で顔をしかめたわけではなくてですね。」
「モデウスは虫が苦手なんですよ。そういう僕も好きでは無いですけど。」
「まぁ物は試しだ。さて、儀式を始めようか。」
そう言うと、リリーは各種族のリーダーだった魔物達を自分の前に立たせ、片手を前に向けた。
「我に敗北せし魔物の長達よ、我に忠誠を誓うならば我の前に跪く、そしてその手を我が右手に重ねるのだ。」
「儀式を行う魔王様もカッコイイなぁ。」
「静かにしなさいミタマ。」
儀式の途中に遠くで跪いていたミタマとラキアが小声で話しているのが気になるが、無事に儀式を終えて魔族へ昇華した魔物たちは新たなスキルと姿、そして声を手に入れた。
「オオグモにオオムカデよ、早速お前たちの新たなスキルを見せてもらおうか。」
「はい!私は吐き出す糸の性質を変化させられるようになりました!硬さや伸縮性に粘着力まで自由自在です!手先の器用さには自信があるので立派な巣を作ってみせましょう!」
「うむ、この前屋敷の掃除で蜘蛛の巣を取り除いたばかりだから巣は屋敷の外に作ってくれ。では次はオオムカデのスキルを見せてもらおうか。」
「はい。私は体の表面がカチカチになりました。恐らく金属に匹敵する硬度ですよ。顎も鋭く丈夫で力強くなりました。こらで邪魔な木を切ったり地面に穴を掘りやすくなりました。感謝します。」
「なるほど、今後は屋敷の周辺を整地してもらおうか。さてと、最後はスライムのスキルだな。お前たちの新たなスキルを見せてもらおうか。」
「はい、私達は捕食した生物に擬態する能力を手に入れました。髪の毛一本でも食べれば再現可能ですよ。」
「なるほど、それは中々…待て、髪の毛一本でも再現可能だと!?」
「はい。」
「なんと、これが棚からぼたもちと言うやつか!」
「ぼた……何?」
「こっちの話しだ。しかし髪の毛一本で擬態可能となれば人間の髪の毛を食わせれば人間に擬態可能という事!早速問題が解決したぞ!」
「リリー様、以前現れた人間の死体から髪の毛をむしり取ってきました。」
「さぁスライムよ!この髪の毛を捕食して人間に擬態するのだ!」
スライムは人間の髪の毛を捕食し、人間に擬態することに成功した。
そして、その姿は人間の女性に近い姿だった。
「取り込んだのは男の髪の毛だったが、見たところ女性型の擬態のようだな。」
「はい、魔王様や他の魔族の皆様を参考にしましたので。」
「なるほど…では姿はある程度自分で変えられるのか。随分と都合のいいスキルだ。」
新たに三種の魔族を迎え入れたリリー。
スライムは人に擬態可能でオオムカデやオオグモも便利なスキルを持っている。
リリーとしてもこのスキルを上手く活用していきたい所だ。