【推しの子】視点I(&U)   作:天星結衣

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この話以降、アニメ【推しの子】1期のネタバレを含みます。ご注意ください。


第2節 この能力で星を産む

(あたし)は彼を探しつつも、平穏な大学生活を過ごしていた。取得できた単位が少なく、このままでは留年が確定するらしいが。

彼に縁のありそうな同好会があったが、入会していない。時間を上手く使えないことを、自分でもよく分かっていたから。

そんな中、4回生になった頃のことである。彼女を目にしたのは。

 

メディアを荒らして回れるほどの、無敵にも思える笑顔。少なくとも表向きには、それを絶やすことがない。

抜けているところでさえ彼女の領分(エリア)だと勘違いさせるような、凄まじい対応力。自らの秘密も、知りたい、暴きたいと思う者の魔の手から遠ざけ、最期まで隠しきった。(あたし)、ひいては我々に必要なのも、この力ではないだろうか。

そう、彼女こそ、天才的なほど『完璧で究極のアイドル』、B小町の絶対的エース、アイ。

次第にその偶像性ばかり強調されるようになった彼女だが。アニメ【推しの子】を見続ける内に、(あたし)はこう思うようになっていた。

 

確かに、メディアに映るときだけ、衆目にさらされているときだけ切り取れば、どこまでもアイドルなんだと思っても仕方ない。とある魔法が使えない王女の言い回しを借りるなら、アイドルという生き物になっていた。「弱いとこなんて見せちゃダメ」「唯一無二じゃなくちゃイヤ」という周囲の欲を体現するかのように。

でも、こんなに一生懸命に生きた人が、生涯愛に直向きだったアイが、そんなものであるわけがない。愛のためならと、悪感情の一切を切り捨て、弱い自分を嘘で隠し通した幼気(いたいけ)な少女の、何が人外だ。どこが偶像だ。

この懸命さ、完璧であることへの希求心は、彼に通ずるものがある。彼に、女になってみたいという思いがあったことも踏まえて考えると、彼女は彼よりも彼らしい。彼女のそばなら、彼が居ない寂しさも少しは和らぐだろう。

そうだ。あの世界で、何者かがアクアとルビーにしたように、アイをこの現実世界に生きさせよう。彼女には、子供たちがどう育つかを見届ける権利がある。あそこで死んでそれきりになってしまうのはもったいない。

 

ここまで思いを巡らせたある日、ふと、ある疑問を抱く。

どうして、アイは転生しないと自然に思ったんだろう。一応あれはフィクション、転生というファンタジーがある世界だというのに。

 

ネットで【推しの子】の情報を集めていると、いつかどこかで目か耳にしたのだろう台詞が見つかった。作中では謎の子供と言われている者の、あの台詞。

 

「星野アイの魂は確かに崩れて星と海に還っていった もう二度と再形成されることはない」

 

……

は?

 

 

確かに、“自然には”そうだろうね。崩れて散り散りになったのなら、元に戻って再形成される確率は天文学的、有意に0だ。

ある量子力学の研究者は言いました、「人間が死ねば、その脳内にあった量子状態は周囲に散逸する」と。

でもそれなら、その量子状態をすべて集めて、人為的に元通りにすれば復活できるということではないだろうか。

(あたし)(1P)の設定にある『主に事象を操る程度の能力』。これで量子状態をまとめる。

(あたし)が作られたばかりのころ、(あたし)の元ネタになっていた人物の『記憶を保持したまま世界線を渡る程度の能力《リーディングシュタイナー》』。これでさっきのをこっちに持ってくる。世界をまたいでの移動が駄目なら、最悪複製すればいい。

そして、おそらく、(あたし)の生みの親である彼から引き継いだのであろう『人格を産む程度の能力』。これで再形成する。

尚、複製は完全でなくともよい。完全に複製できたとしても、形を自由に変えられるジグソーパズルのピースが全てそろった、ぐらいの状態になるだけだから。

これで計画は整った。あとは…やったれ、(あたし)

 

星野アイの魂片の位置の全特定......完了。

現実世界へ移動...失敗。

代わりに、現実世界に複製を生産...成功。

生成した複製をもとに、人格『星野アイ』を構成...

......

 

不完全ながら実行完了、ってとこかな。やっぱりここまですれば、産めない人格なんて無いんだね。あとは【推しの子】のアニメや漫画に出てくる情報をもとに微調整を繰り返せば、限りなくアイらしくなるだろう。

 

こうして、(あたし)は星野アイと生きることにした。というより、星野アイをもう一度生きさせることにした。

その過程で、黒川あかねのプロファイリングが役に立ったのは言うまでも無い。表の『アイ』に対する正確無比な洞察と共に、アイの『素顔』に対する示唆も与えられたためである。癖も学習に組み込めた。

驚くべきは、星野アイの性格の多くが彼と共通していたことだ。例えば、プロファイリングには「発達障害の傾向」とあったが、彼もASD、自閉症スペクトラムである可能性が大いに認められていた。彼女は嘘を自ら許容して外聞を高めたのに対し、彼が嘘を認めることはなかった、というのは大きな違いと言えるが。

そうして『星野アイ』を育て、大凡それらしくなった頃、夏休みも終わりを迎えようとしていた。


ユーノ「もしかして、アイちゃんがあの世界で転生できなくなったのって、

    あたしのせい?ナンカゴメン

    いやでも、あのときにはすでに崩壊してたし…」

 




次話は9月後半に投稿予定です。

歌詞使用楽曲: アイドル/YOASOBI

↑の彼女、許す?

  • むしろよくやった
  • 許す
  • 真犯人じゃないし…
  • 許さんっ!
  • 滅茶苦茶やって帰るか
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