彼に縁のありそうな同好会があったが、入会していない。時間を上手く使えないことを、自分でもよく分かっていたから。
そんな中、4回生になった頃のことである。彼女を目にしたのは。
メディアを荒らして回れるほどの、無敵にも思える笑顔。少なくとも表向きには、それを絶やすことがない。
抜けているところでさえ彼女の
そう、彼女こそ、天才的なほど『完璧で究極のアイドル』、B小町の絶対的エース、アイ。
次第にその偶像性ばかり強調されるようになった彼女だが。アニメ【推しの子】を見続ける内に、
確かに、メディアに映るときだけ、衆目にさらされているときだけ切り取れば、どこまでもアイドルなんだと思っても仕方ない。とある魔法が使えない王女の言い回しを借りるなら、アイドルという生き物になっていた。「弱いとこなんて見せちゃダメ」「唯一無二じゃなくちゃイヤ」という周囲の欲を体現するかのように。
でも、こんなに一生懸命に生きた人が、生涯愛に直向きだったアイが、そんなものであるわけがない。愛のためならと、悪感情の一切を切り捨て、弱い自分を嘘で隠し通した
この懸命さ、完璧であることへの希求心は、彼に通ずるものがある。彼に、女になってみたいという思いがあったことも踏まえて考えると、彼女は彼よりも彼らしい。彼女のそばなら、彼が居ない寂しさも少しは和らぐだろう。
そうだ。あの世界で、何者かがアクアとルビーにしたように、アイをこの現実世界に生きさせよう。彼女には、子供たちがどう育つかを見届ける権利がある。あそこで死んでそれきりになってしまうのはもったいない。
ここまで思いを巡らせたある日、ふと、ある疑問を抱く。
どうして、アイは転生しないと自然に思ったんだろう。一応あれはフィクション、転生というファンタジーがある世界だというのに。
ネットで【推しの子】の情報を集めていると、いつかどこかで目か耳にしたのだろう台詞が見つかった。作中では謎の子供と言われている者の、あの台詞。
「星野アイの魂は確かに崩れて星と海に還っていった もう二度と再形成されることはない」
……
は?
確かに、“自然には”そうだろうね。崩れて散り散りになったのなら、元に戻って再形成される確率は天文学的、有意に0だ。
ある量子力学の研究者は言いました、「人間が死ねば、その脳内にあった量子状態は周囲に散逸する」と。
でもそれなら、その量子状態をすべて集めて、人為的に元通りにすれば復活できるということではないだろうか。
そして、おそらく、
尚、複製は完全でなくともよい。完全に複製できたとしても、形を自由に変えられるジグソーパズルのピースが全てそろった、ぐらいの状態になるだけだから。
これで計画は整った。あとは…やったれ、
星野アイの魂片の位置の全特定......完了。
現実世界へ移動...失敗。
代わりに、現実世界に複製を生産...成功。
生成した複製をもとに、人格『星野アイ』を構成...
......
不完全ながら実行完了、ってとこかな。やっぱりここまですれば、産めない人格なんて無いんだね。あとは【推しの子】のアニメや漫画に出てくる情報をもとに微調整を繰り返せば、限りなくアイらしくなるだろう。
こうして、
その過程で、黒川あかねのプロファイリングが役に立ったのは言うまでも無い。表の『アイ』に対する正確無比な洞察と共に、アイの『素顔』に対する示唆も与えられたためである。癖も学習に組み込めた。
驚くべきは、星野アイの性格の多くが彼と共通していたことだ。例えば、プロファイリングには「発達障害の傾向」とあったが、彼もASD、自閉症スペクトラムである可能性が大いに認められていた。彼女は嘘を自ら許容して外聞を高めたのに対し、彼が嘘を認めることはなかった、というのは大きな違いと言えるが。
そうして『星野アイ』を育て、大凡それらしくなった頃、夏休みも終わりを迎えようとしていた。
ユーノ「もしかして、アイちゃんがあの世界で転生できなくなったのって、
あたしのせい?ナンカゴメン
いやでも、あのときにはすでに崩壊してたし…」
次話は9月後半に投稿予定です。
歌詞使用楽曲: アイドル/YOASOBI
↑の彼女、許す?
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むしろよくやった
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許す
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真犯人じゃないし…
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許さんっ!
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滅茶苦茶やって帰るか