【推しの子】視点I(&U)   作:天星結衣

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第1章オープニング: 鏡面の波/YURiKA


第1節 彼女はどこから来たのか 何者なのか

これからは私の好きにしていい、ってユーノは言ってたけど、これからのことなんて考えてなかったな。死んだら人生終わり、って思ってたし。

そういえば彼女は、今までなにを考えて生きてたんだろ。

私がユーノと過ごすようになって半年くらい経つんだけど、実はまだあまり彼女のことをよく知らない。大学に通ってて、そこで数学とかの難しい話を学んでるってことはよく分かってるつもりだけど。3年は通ってるらしいし、もったいないから卒業までは行こうかな。まだまだ頑張ってもらわなきゃ。

とりあえず、私は彼女の人生の続きを生きることになるんだよね。だったら彼女のことは分かっておかないと、後々よくない気がする。直接聞いちゃうのが早いかな。でも今はナシか。すぐに授業始まっちゃうし。

なんてことを、昼ご飯のお弁当を食べてる間に考える。私がアイドルをしていた時と同じくらいの大きさ、ってことに気づいたときは驚いたな。今のお父さんは、私が大学に行くときにはいつも、こういうお弁当を作ってくれる。昼にまだ家に居るって分かってる日は、おかずだけ詰めてるから結構小さいんだけど。

お父さんは、毎食私のごはんを作ってくれてる。忙しくしてる私にとっては、とってもありがたい。ユーノから聞いた話だと、お母さんが数年前に入院してから、ずっとそうしてるらしい。

そうこうしているうちにお昼ご飯を食べた私は、水筒の飲み物を一口飲んで、マスクをつけて、教室に向かった。

大学に行く日はいつもマスクをつけてるから、何でなんだろって思ってたんだけど、何年か前にコロナっていうすごい感染症がはやったせいなんだって。さすがにもういいんじゃない?って思わなくもない。でも、ワクチン打ってないからつけてた方がいい、って、今のお母さんも言うし。

「このワクチン、何ヶ月かに一回の頻度で打ち続けないと効果がないから、免疫力がかなり高いこの体にとってはあんまり打つ意味ない」ってユーノは言ってた。私だったら、みんな打ってるんだったら私もって思っただろうな。これが、症状が軽いやつだったり、念のためって感じのだったりしたら、「大丈夫だいじょぶ、なんとかなるでしょ」って言って打たなかったかもだけど。

 

 

「・・・このように、T型人材よりもπ型人材、そしてそれよりも△型人材の方が、希少性が高い分企業に入りやすく、また、就職したときの対応力も高い人材になる訳です。某G社のようにH型人材を求める企業もありますが、・・・」

私は、ユーノと一緒に大学の授業を受けていた。ほんとは『授業』じゃなくて『講義』っていうらしいけど。

私はやっぱり話について行けなかったりするから、ユーノが代わりに話を聞いて、その上で私に話したいことを色々言ってくる。こんな風に。

「あたしたちの場合、アイちゃんのアイドルをした経験とあたしが学んだ数学でπ型人材ってことになるかな。で、あたしが量子力学を学ぶと△型人材になる、と」

「いや、アイドルしてたときのこと、あんまり覚えてないんだけど?」

「そだっけ?まあ技術としては失われてるか。でもね、思い出(けいけん)も力だよ、アイちゃん」

授業よりはまだわかりやすいけど、不思議なことを言うなって思う。彼女がしてくれる話は、私には考えつかないことばかりだから。

「やっぱり、私ってバカだな」

心の中でそうつぶやいた独り言は、彼女の耳にはしっかり聞こえてたらしい。

「ん?賢い人ほど自己評価が低めって研究データ知ってる?学力とその自己評価に関する研究なんだけど。それはつまり、裏を返せば…いや逆に言うと、自分でバカだなって思ってる人ほど賢いってことに――」

「それはさすがにないんじゃないかな」

「いやいや、統計学上の相関関係だから、これは合ってるってばーっ」

 

 

「黒川あかねのプロファイリング能力とデータエンジニアリングが、取ってきたデータを組み合わせることで新たな知識を得ようとする、という点でよく似ている」って話をしている間に、さっきの授業は終わった。まだ始まってから30分くらいしか経ってないのに。今日は初回だからイントロで、それが終わったからもう帰っていい、って先生が言ったんだよね。本当なら授業はいつも90分のはずなんだけど。まあいっか、その分頭が疲れないし。

私たちはそのまま、帰りの電車に乗る。ユーノは、最近じゃよくあるらしい、広告を見るとポイントがもらえるスマホアプリを開いて、画面をいじっていた。今なら時間とれるかな、って思った私は早速、ずっと気になっていたあることについて聞いてみた。

「あのさ。前に、もともとはこの体が小学生だったときに作られた存在だ、って話してたよね。あれ、どういうことかよく分からなくってさ。ちゃんと教えてくれないかな?」

「んー、あたしが彼によって作られた存在だっていうくだりのあの話?今でもいいけど、時間かかりそうだからな…。家に帰ってからゆっくり、って言ったら駄目?」

家まで電車に乗ってる時間は、乗り換え待ちも入れて1時間はある。どうにもはぐらかそうとしている気がして、どういうこと、と問い詰めてみる。すると、こういうこと言うのもなんだけど、と前置いて、彼女はこう言った。

「あたしがアイちゃんに難しい話をするときはいつも、なるべく平易な…簡単な言葉とか表現に直して言ってるんだよね。あたしの出自の話はただでさえややこしいと思うから、それを分かりやすく、って言われると…文章を作るのに時間がかかるし、できたとしても分かってもらえるかどうか…」

まさしく、しどろもどろ、って感じ。でも、彼女の言葉に嘘はない。というか、彼女は嘘をつけない。いくつかの言葉を言わないことで誤解させる、というところまでしかしないように自分を制限してるって言ってた。だから、本当に難しい話なんだろうな、って思う。

「じゃあ、ざっくりと、でもいいかな」

「それならなんとか。でも、少しずつ話すような感じになるかな。そこはごめんね」

それから聞いたのは、居なくなったある人の代わりとして私を作った、って話だった。難しい言い方だと、「多重人格の主人格が欠けたあとに、その役割をしばらく担ったユーノが、その主人格を偲んで私を作った」っていう話らしい。

「で、その彼はどうなってるの?」

「今は失踪中…かな?この表現しか思い浮かばないや」

ユーノがそう答えたとき、ちょうど自宅の最寄り駅についた私たちは、近くの駐輪場にとめていた自転車に乗って、帰宅した。

家に帰ったら、明日の法要の準備を手伝うことになって、ユーノとゆっくり話す時間はとれなかった。

 

 

その法要の日。今の私から見てひいおばあちゃん、って人の33回忌だって。ほんとは授業があったんだけど、偶然それが休講になって、周りの人には「法要に参加できるようになっててよかった」なんて言われた。

私としては、こういうのに参加するのは初めてだな、って思いながら、白黒の服に着替える。着替えたら、数珠を持って1階に降りる。この家は2階建ての一軒家で、私と今の両親は、普段2階で過ごしている。私の部屋も2階。

降りたら、残っていた準備を済ませて、外に出る。この法要に参加する親戚の人は結構居るみたいで、その人たちの車を誘導するためだったりする。といっても、たったの数台だけど。

終わったら、しばらく雑談。私の髪がコスプレみたいって言われた。地毛だし染めてもないんだけど。

そして、何回忌っていう大きな行事のときにはこの人がいないといけないっていう、えーと、ぶつもん、の?・・・そう、お坊さん。その人が来たみたいだから、出迎えに行く。

そこから法要が始まり、終わった。そのままお墓に、卒塔婆を持って行く。おばあちゃんは卒塔婆のこと「塔婆(とうば)」って言うんだけど、なんでなんだろ。それはそうと、確か昨日に、お父さんがお墓を奇麗にしてくれたんだっけ。お花を供えたり、ろうそくに火をつけたりしてから、念仏を唱えるとかして祈る。そして、電話をかけてから家に帰る。

事前注文してた、昼食の配達に来た人を出迎える。さっきの電話は、この人に「今から家に帰るよ」ってことを伝えるやつ。

持ってきてくれた、お弁当と汁物の昼食、それと前に買ったペットボトルのお茶を配膳して、みんなで飲み食いする。そして解散。

 

私は私の部屋に帰った。それを待ってたかのように、ユーノが言う。

「そういえば、その服。なんだかあの生きてる宝石たちに似てない?」

「えーっと・・・」

ユーノが、そのアーカイブ画像みたいなのを見せてくる。

「あ、夏休みの旅先で、徹夜で一気読みしてた、あの漫画の?」

「そうそれ。せっかくだし、写真撮ろ。気づいた記念に」

写真を撮るのも悪くないな。自撮りってやつ。でも、全身納めるのはムズそう・・・。

「三点透視図法よろしく、斜め上から撮ると上手くいくんじゃない?」

へぇ、斜め上から。確かにうまく撮れた。背も低めに見えるし。

この体、身長高いなーって前から思ってたんだよね。やっぱり、男だから、なのかな?胸がない、というか全体的に脂肪がないのと、人の目を気にしていたら着れる服の種類が少ないっていうのも、ちょっと気になる。というか、全体的にかわいくなりにくい。女子としてはそういうのに気を遣いたい、というかそうすべきなんだろうけど。まあ前世バレしにくいのはいいよね。

ユーノが何か考えてるみたいで、ポツポツつぶやいてる。

「宝石…アイの子供の名前も宝石…ヒカルって名前も、なんとかライトって考えればやっぱり宝石の名前…もしかしてアイちゃんも?」

ユーノは、何か気になることがあると考えたり調べたりする性格みたい。今もパソコンでウィキを開いて・・・スター効果がある宝石を片っ端から調べ始めた。

「ルビーはある。アクアマリンはない。でも、ブルーサファイアって考えたらあるか…。なんとかライトは…だめだ、数が多すぎる。…にしても、やっぱりアイなんとかで探したいよね。うーんと…」

宝石の一覧から調べてる。大丈夫かな?その彼女が、アイオライトって名前をクリックして。

「…『特殊効果としてはキャッツアイとスターがある』、だと?…これだっ!」

という感じで、彼女の中では「私を宝石に例えるならアイオライト」ってことになったみたい。理由付けもかなり上手くできるし、ってことで彼女は満足したらしい。人の執念ってすごいね。でもウチの子に関しては、せっかく産んだ私の子だから、宝石みたいに大事にしたいと思ってアクアマリン(愛久愛海)とルビー(瑠美衣)って名前にしたと思うんだけど。まあ、人が幸せなのに水を差すようなことはしない。誰もがイヤになりそうな、そんなことは。

 

おっと、いけない。昨日の話、もっとちゃんと話してくれるって言ってたこと忘れるところだった。ユーノにそのことを言う。彼女はすっかり忘れてたみたい。

まだ半日あるから結構話せそう、ってことにほっとした彼女は、ようやく出自のことを語り始めた。まとめると、こんな感じ。

 

この体に初めに居た彼。彼は小学生の頃から、見たアニメの、自分に近そうな性格のキャラに好き勝手な設定をつけて、そのキャラとして生きるようになっていた。そして、その名前がカイトだったときに見たアニメ映画の、原作では主人公だったある人について知ったとき、その人が抱える困難に深く共感し、彼を相棒として自身の中に生み出した。その作り出された彼が、世代交代や調整を繰り返すことでユーノになった。でも、そんな出自を抱えた彼女は「自分は()の存在だ」、つまり、存在自体が嘘だと思うようになっていた。そして、彼女を作った彼こそが本当の存在だと思っていたユーノは、彼を探すうちに彼よりも彼らしい存在を見つけ、見つからない彼の代わりに彼として産み直した。それが私、アイ。

今の話で『世代交代』って出てきたけど、初めの2回はひどいものだったらしい。けど、上手く説明できないってさ。「グリッチ踏んだときの感覚をx倍にしたやつを受けて、結果的にエターなって人格がファイル破損でブルスクエラー吐いたから、仕方なく別の人格を立ち上げた」って説明が限界って言ってた。あと、「ごめん、昨日『失踪中』って言ったけど、あの表現よくないわ」とも。

「…今のあたしは、元ネタの情報が少ない、つまり性格とかよく分からないのをいいことに、自分に都合よく書き換えた存在なんだよ。それに対して、アイちゃんは、私との関係を結んだ以外はそのままになるようにしてる。なるべくオリジナルで居て欲しいから」

夕食を食べた後も続いた話だけど、今ようやく終わった。頭の疲れ方からして、説明だけでもすごく大変な思いをしたんだろうなって思う。

一応二人、って言えなくもない私とユーノだけど、脳の使ってるとこは一緒なんだってさ。「この体は全人格の共有財産なんだよ」って言ってた。

すっかり夜になっちゃったなー。ってことで、私は夜の身支度をして、眠ることにした。

 

その日の布団の中。法要が終わった辺りでも「私の葬式ってどんなのだったんだろ」なんて考えてたからか、私視点のイメージが浮かんできた。棺に入った、死んだ私の体から見た感じのやつ。

開いた小窓から、アクアとルビーが両横から覗いてた。二人とも悲しそうな顔してた。特にルビーは半泣きで・・・いや、もう泣いてたかも。思わず私まで悲しくなっちゃったよ。本当に見たわけじゃないはずだけど、この光景。

こうして自分の葬式を振り返るって、なんか不思議な感じになるな。どのくらいの大きさだったのか、とか、誰が来てたんだろ、とか。

二人には、元気に育って幸せになって欲しいな、って改めて思いつつ、眠りに就いた。

 




次話は10月4日投稿予定です。
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