【推しの子】視点I(&U)   作:天星結衣

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この話以降、漫画版【推しの子】第百二十六話までのネタバレを含みます。
ご注意ください。


第2節 共通点

ユーノがちょっと前に予約したらしい、就職ガイダンスっていうのに参加してみた。インターンシップっていうのがあって、それに参加するなら今頃がラストチャンスって言われた。でも、なんだか実感ないんだよね。こんなに早い時期から仕事の話真面目に考えるって。別に成り行きでもいいじゃん?って感じ。ていうか、就職する1年半くらい前から頑張るってのが、早すぎると思う。

夜遅くにあったから、外に出たらもう暗いね。空に浮かぶまん丸の月がよく見える。そういや、「今日は中秋の名月だよ」ってユーノが言ってたんだっけ。あんまり星見えないなー。いや、それはいつものことか。

 

家に帰ったら、「月見団子お供えしてたから、食べて」って家の人に言われた。

夕食の後に食べようとしたんだけど・・・見慣れない形してるな。普通月見団子ってまん丸じゃないの?今目の前にあるのは、細長いお餅の上にあんこが乗ってるようなやつ。まあいっか、って思いつつ、一口食べる。こういう甘いのは、たまに食べるのがいいんだよね。

「あたしも見かけるようになったのは最近なんだけど。それ実は、ウサギをモチーフにしてるらしいよ」

ユーノがそう言ってくる。ウサギ型かー。ウサギと言えば、前世で私がつけてた髪飾りもウサギだったな。・・・ん?

「ということは、今の私の状況って、ウサギを食べるウサギ・・・?」

「はい、それ以上は考えない」

考えがめーきゅー入り?しそうになった私を、彼女が止める。危ないあぶない。

 

さっきはああ言った就職の話だけど、なんとなく気になってきたから、一応考えてみる。

生きる以上、お金は要る。お金が欲しいなら、働くのが一番。とは言うけど、私はどんな仕事に就いて、どんな風に働きたいんだろ。

前世の仕事「アイドル」だって、自分から「やりたい」って思ってやり始めたわけじゃなかったような気がする。社長さんのスカウトを受けるまで、私には向いてないって思ってたんだし。・・・あのときみたいに、周りの人たちとの仲が悪かったりしたらやだな。私だけの話だったら最悪、我慢すればいいだけなんだけど、そういうのってきっと会社にも迷惑かけちゃうよね。

あとは・・・この体って、前世とは色々違うんだよね。あのときみたいな無理が出来なくなってる、っていうか。きっぱり言うなら、「この体無駄に眠い」って感じ?だからそれに合わせて、仕事も無理しないようにしなきゃな、って思う。

無理しない仕事・・・。そう聞くと、ウチの子たちが心配になってくる。特にアクアは、あまり売れないって分かってて、それでも私の復讐のために役者さんとして頑張ってるらしいから。

実は、【推しの子】の話は今どうなってるんだろ、って思って、最新の何話か読んだんだ。そこで見たアクアは、一目で「これは大丈夫じゃない」って思ってしまうような感じで。社長さんが気づいてくれてたのはよかったけど、誰かがどうにかできるような感じでもなかったし、不安しかないよ。今すぐ抱き留めに行きたいくらい。でも、行けないよね。

前に録ったビデオレター、見てくれたのかな?実はもう見てて、その上でああなってるのなら、私でもどうにもできないかもって思ってしまう。私の思考まで完全に真似れるあかねちゃんでも手をこまねいてるらしいし。

せめてアニメになった分と直近数話との間をちゃんと見たい。知っておきたい。そのためにも、今の私は元気で居ないとね。

そう思った私は、すぐに寝ることにした。

 

漫画【推しの子】は、その翌日から数えて4日で、全部読み終えた。100話以上あるのに、意外に速く読めてびっくりした。今のお父さんが単行本を全巻買ってくれてたんだよね。

お父さん、か。前世のお父さんの記憶はないから、前世じゃもう社長さんがお父さん代わりだよ。アクアとルビーにはちゃんと二人のお父さんに会わせてあげたかったなー。ルビーは私のお墓参りの時に会ったみたいだけど、それでも声だけで、面と向かってじゃなかったみたいだし。

そういや、私が死んだこと、アクアのトラウマになってるみたいなんだよね。ルビーとかに心配かけないように振る舞ってるみたいだけどさ。目の前で最愛の人が死ぬって、そりゃトラウマにもなるか。私だって、目の前でアクアとかルビーが死ぬって考えられないし。でも私は子供たちの希望にはなっても、負担にはなりたくないな。

アクアが復讐するのって、私のため、とは言ってるけど、結局アクア自身のためなのかな、って思う。トラウマなら仕方ないかもだけど、あんなに苦しまなくてもいいのにな。私も恨んでないし、多分。まあ死人に口なし、っていうらしいし、むしろ君たちの力になりたい、って気持ちもあるよ。

私のドキュメンタリー映画、作ってくれてるんだって?一回見たいんだよね。監督さんも「アイに捧ぐ」って言ってたし。

ルビーには、正直あの状態になってまでステージに立ってほしくはなかったな。私が人間としては、嘘で汚れた存在だったのは間違いないからこそ、ルビーにはあの輝いた状態のままでいてほしかったな、って思う。ずっと演じてきた、と言ってはいたけど、あのときの気持ちはきっと本物だよ。

あのDVDの中身はもうあんまり覚えてないんだけど、本当になんでだろ?でもまあ、今言ったみたいなこと話してたかもな。嘘うんぬんのとこだけ隠して、だけど。

私は彼・・・ヒカル君のこと、どう思ってるんだろ。私を殺した真犯人・・・計画犯?で、あと他の人も手にかけてる、ってとこは社会的にも許されることじゃないよね。それは分かるけど、私が殺されたことには、彼がそんな人だと分かってなかった私にも非があるような気がする。

私の心って、一体どれが、何が本物なんだろ。嘘をつき続けた対価なのか、私の本心が自分でよく分からない。

「それが偽物である、と言うためには本物の存在を出すしかない」

前にユーノは、そんなことを口にしていたっけ?何か裏がある発言かも、って思って、ちょっと考える。

「本物がなかったら、どれが本当か分からなかったら。どれも偽物って、嘘って言えないってこと?」

つまりどれも本当かもしれない・・・いや、それは当然なんじゃ?何とも言えない気持ちになる。

「それ量子力学とおんなじだね」

ふいにユーノが、そう言ってくる。

「状態の重ね合わせっていって、どの状態かはっきりしない間はどの状態でも在り得る、なんてことがあるんだよ、量子力学には」

量子力学のことを、彼女はよく知ってるみたい。数学とか物理学って言う辺りの話を、彼女はよくしてくれる。彼女の話を聞くと、よく分からないけどなんとなく分かったような気になる。

おっと、いけない。明日のゴミ出し頼まれてるんだった。今日は早く寝よっと。

 

翌日。私はなにを思って前世を生きていたのか、なんてことを考え込む。ある意味昨日の続き。

社長さんにスカウトされたあのときの話を、思い返す。

「本当は君も、人を愛したいって思ってるんじゃないか?やり方が分からないだけで、その対象が見つからないだけで」

確かに私は、人を愛するためにアイドルになった。それだけじゃない。私の子供なら愛せるんじゃないかと思って、母親にもなった。あのときどっちも諦めなかったのも、結局は愛のため。

「皆愛してるって言っている内に、嘘が本当になるかもしれん」

そうこれ。この、「嘘が本当になる」って言葉を信じて、前世を生きていた。だから他人に、嘘を振りまいてきた。

嫉妬とかのせいなのかな?いじめられたこともあった、と思う。それだけ他の人に大事にしてもらってる、つまり愛されてるってことだと思って、その人も愛そうとした、はず。

正直、あのときはバカだった。今もバカだと思う。それでも他人に愛され続けていたのは、アイドルとして人に愛される方法を一生懸命学んでいたから。

ってことは、前世の私は『他人に愛されたい、そして愛したい』ってずっと思ってたってこと、なのかな?

そこまで考えたとき、他人の目っていう大事なものを思い出す。そう、今の私は「星野アイ」として生きてるんじゃなかった。「色見(しきみ)優杜(ゆうと)」っていう名前の、どこにでも居そうな、留年する男子大学生なんだから。

じゃあ彼は、そして、その代わりとして頑張ってきたらしいユーノは、私が来るまで何を思って生きてきたんだろう。

・・・それを考えるには、私は彼らのことを知らなすぎる。だから、彼らの記憶が保管されてる場所に寄ってみることにした。

 

以前ユーノに教えてもらっていた、この体で生きた人格たちの記憶が置いてあるという場所、《記憶図書館》。「場所って言っても、頭の中の世界を描き起こしてるだけだから、実体がある訳じゃないけど」って言ってたっけ。そういや、こっち側で私が初めて目覚めたあの場所も、実は頭の中の世界にあったらしいんだよね。

さすが図書館って言うだけあって、受付みたいなカウンターのとこに誰か座ってた。ブラン、っていうらしい、本を読んでる女の子に軽くおじぎして、本棚の方に行く。

本棚は大きく、出来事のエリアと知識のエリアに分かれてた。出来事のエリアも、さらに「事実に近い方」のエリアと空想のエリアに分かれてる。その事実の本棚を見る。本は7冊だけだった。上段の6冊は、昔から今の順に並んでるみたい。その横に、「現実世界の過去の歴史は知識>単純知識>過去事象の棚へ」って書いたポップが置かれてる。

最初の位置に置いてある本「小学校入学以前」を開く。写真が数枚と、こっちは映像なんだ。隅に「再現」って書かれてるのもあるな。

その後の本も、順番に見ていく。私が知りたかったことが、いくつか分かった。

「小学生時代(含 人格:シューゴの記憶)」の、1,2年生のころ、よくちょっかいを出されては怒り散らしていたという記憶。きっと、自分が大事にされていない、って感じたから怒ってたのかもな。

「人格:カイトの記憶(公開版)」を見たら、彼が嘘をつく場面が一切なかった。さっきの二つの本もだけど。彼は正直者過ぎて、それがかえって他人との仲を悪くしていた。私には分からないけど、嘘をついてたら他人を大切にはできないと思ったのかな?ただ、彼が見聞きしたものが、他の人が言ってることと違うって話がいくつもあって、その多さには変だな、と思った。最後の映像は乱れていて、電源が切れるような演出で終わった。

その次は、「暗夜模索(~2020年2月)」。高校卒業目前辺りまでの記憶だった。三部構成だったけど、一つ目の部分がさっきの本と似たような終わり方になってた。ユーノが言ってた「世代交代」って、もしかしてこれのこと?

「人格:ユーノの記憶(公開版) 2020.03.01~2023.09.21」も見た。彼女も基本的には嘘はつかなかったように見えたけど、カイトと違って、彼女が見聞きしたものと他の人が言ってることが違いそうなときは、他の人に話を合わせて、いくつかのことをあえて言わないようにしているらしかった。あと、カイトを思って色々する場面が多かった。なるべく彼らしさを大事にするように、とか、彼の生きづらさをどうにか理論に出来ないか、とか。いろいろなことをよく知っていれば、他人に必要とされるようになって、さらに、必要とされたときその期待に応えられる、とも思ってたみたいだけど。それは、生きやすさのための行動だったようにも見えるな。

上段最後の本は、「人格:星野アイの記憶(公開版) 2023.09.21~」。私が生きてきた記憶みたい。編集もできるみたいだけど、するつもりはないかな。私の見られたくない記憶とかが無いかは気になるけど。

そう思って下の段を見ると、置いてた本のタイトルは「人格:星野アイの記憶(非公開資料)」だった。いや、よく見たら一つだけじゃないね、これ。「人格:○○の記憶(非公開資料)」ってタイトルの本がたくさんあった。でも、私の以外は半透明になってて、触れなかった。へえ、こうなってるんだ。なら安心かな。

私は図書館を後にして、現実世界に戻った。

 

さっき見た記憶を思い返すと、その前に考えようとしてたことに答えられるような気がする。

「もしかして、『他人に大事にされたいし必要とされたい、そしてその人たちを大切にしたい』ってことなのかな」

なんとなく、そう心の中でつぶやく。案外、私と似ているように思えた。他人のはずだけど、根っこはいつも一緒だったのかな?彼らと私の記憶を思い返す度に、それは確信に変わっていった。

結局、愛のため、って意味では変わらない。それが分かって、ほっとした。私は私のままで生きてていい、って思えたから。

 

このとき、さっきの図書館で。

「人格が変わっても、心の奥底は同じ、か」

そうつぶやく声があったらしい。でも、そこに居なかった当時の私には、気づけるはずもなかった。

 




第1章エンディング: ないない/ReoNa

次話投稿予定日は未定です。
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