「待って待って待って待って、死にますよぉこれ!!」
「なはは、大丈夫大丈夫」
場所は代わりここは海上。
ミレィさんと二人、なんとかユザーパードラゴンを倒した僕達はイレベンダルの神殿と灯台での聞き込み調査を終え、砂浜エリアに来ている。
「大丈夫じゃ、なーい!!」
槍を前に突き出すことにも苦戦するミレィさんを横目に、まぁ物理武器はキツイよなと思うなどしながら魔法を放っ……ん??? なにか、とてつもない嫌な予感が通り過ぎていったんだけど……気の所為か……??
うーん今日も空が青い。絶好の海水浴日和である。
「まぁいいか……【ライトニング】」
「フーッ、フーッ、あり、ありがとう、ございます……死ぬかと思った……」
加算詠唱の乗った【ライトニング】に貫かれた海魚が全滅し、ミレィさんも一息つく余裕ができたようだ。
「今度こそ手詰まりかなー」
それにあわせてと僕も一息……というかため息をつく。
残念ながら神殿にも灯台にもそれらしい情報はなかったのだ。
「え?」
「え?」
??
ミレィさんが不思議そうな顔をしている。これはもしかしなくともなにか掴んでるけどまぁ僕も掴んでるだろうと勝手に判断して言わなかった情報があるやつだな。
「あー、えっとですねぇ」
「ふむ」
「今回調査した神殿や灯台には情報がなかったですよねー?」
「うん」
そこは間違いない。
彼女はなんらかの情報を得ているようだが、それはおそらく考察の果てに得たものであって聞き込みによるものではない。いや、聞き込み調査で何も得られなかったという事実を元に考察したんだろうけど。
「ということは、このイレベンダルの街ではこのお祭りに関する重大な情報は完全に失伝してるわけです」
「それはそうだな」
「つーまーりー?」
いやその情報だけで真実を導けるのは君達ライブラリくらいだろと思いながらも、少しずつ思考を巡らせていく。
「……………………………………手詰まりだから諦めて水遊び?」
「んふっ…………違います」
笑ったから僕の勝ちでは?
「ミレィ先生、分かりませーん」
顔を戻したミレィ先生がチッチッチッと指を振りながら舌をならす。
先生……溺れかけながらそれやってもあんまりかっこよくないかもしれないです……あ、コレ浮き輪ね。どうぞどうぞ。使ってもらった方が道具も喜ぶんで。うん。
「ありがとうございます……さて、しっかたないですねぇ」
「かっこつかないなぁ……それで?」
「今回のポイントはズバリ、メタ読みです」
「あー、ちょっと分かった気がする」
「さすがシュテルメア君。鋭いですねー。まぁ要するに情報がない以上、祭りの流れに沿っていれば自ずとその盃のタトゥーが光ったりなんかしてなんかなんとかなる可能性が高い、ということですよぉ」
なんかが多いですミレィ先生。
「……でもそれ、行き当たりばったりでは?」
「まぁそうなりますねぇ、ただ今回はメタ読みとは違う考察もありますよー」
「それは?」
おっと魔物。これどうぞ、待機してた【エリア・サンダー】。
「なぜこんなにも情報がないのか?という視点から話を進めましょう」
「失伝したからでは?」
「んー、違いますねぇ。失伝するには失伝するだけの理由があります。例としては地震とか火災とかが上げられますね〜。で、そういう報告は少なくともここ数年イレベンダルにはありません」
この海の化身を祀る祭りは数年に一度行われているはずだ。直で見ている訳では無いため確実とは言えないが……海の化身に異変が起こったのがここ数日と言われている以上、前回や前々回の祭りが無事に終わったことは想像に難くない。
しかし、前回から今回までの期間に失伝したにしては情報がなさすぎる。
「そうでなくてもその器の絵や儀式の様子なんかは残っているものです。それがない以上、考える案は一つでしょう」
「口伝……というよりは、盃のタトゥーを持つ人間そのものが重要で、その役目を担っていた人間もしくはその一族が最近この世から消えた可能性……?」
「お、ミレィ先生が花丸を上げますよ〜」
そう言ったミレィ先生が満面の笑みで僕の眼の前で空に花丸を描いた。
「まぁそれにしても情報がなさすぎるか……?」
「そこはまぁ……なにか大きな意思を感じますよねぇ」
「うん」
ようやく海に慣れてきたらしいミレィさんが、浮き輪に乗っかって寛ぎながら独り言に乗ってくれる。
「では我が生徒、シュテルメア君に最後の問題です!」
「?」
「それらを踏まえて我々がするべきことは何でしょう?」
「おぉう……たしかに。なんだ……?」
考え始める前に一つ言わせて欲しいんだが、ライブラリ、やばくない??? いややばい。ちょっと有能すぎる。ミレィは話の結論を先延ばしにする癖があるけれど、それでもなお一人で考えていたときよりも確実に思考がクリアで、考えるべきことが明確だ。
会話による思考誘導がうますぎる。一家に一台ライブラリの時代かな。
「残り時間十秒でーす」
「えっ、あー、祭りの時にキーポイントになりそうなそれっぽい地点を探すとか……?」
「正解です……つまんないですねぇ……」
「なはは、間違ったらなんかあったやつだコレ」
「ですです。ただまぁ……なぜ海の化身とやらが神と呼ばれているのか……それと、なぜ偽りの神なのか……そのあたりは気になりますねぇ」
ミレィさんが海につけた足をバタバタと動かすことでノンビリと泳ぎながら言う。……水着でも買ってくれば良かったか。
現在の装備は二人共水中で活動でき且つ戦闘能力を損なわないそこそこお高いモノだが……女性用も男性用も見た目は完全に普通の戦闘服。こう……泳いでる姿とミスマッチなわけだ。
「魔法待機解除【ライトニング】」
またまた寄ってきた魚達を片手間に対峙し、話の続きを促す。
「快適ですねー。……えーと、はい、神を偽るというのはどこの世界でも大罪なものですもん。ただユニークシナリオで偽りと明言されているからには、それに釣り合う理由があるはず。この周囲になにか強大な敵がいて、神様でも擁立しなきゃやってらんないぜ〜的な?」
「まぁそこを明かさない限りはシナリオクリアしてもスッキリしないよなぁ……」
「ですよぉ」
ビシッ、とノンビリした声色にあわない動きでコチラに指を指してくるミレィに肩を竦めて返した俺は、やっっと次の行動に話を移す。
「と、言うわけで俺達は今から例の神殿を目指す訳だ」
「えーと、私が言ったことですけどぉ……ほんとに行きます? ちょっと憂鬱と言うかなんというかぁ……」
「ミレィ先生、泳げないんです?」
「そういうわけじゃないですよシュテルメア君いやそんなわけないじゃないですか」
「口調変わってるけど……?」
ミレィ先生曰く、いや僕も同意だけれど、その祭りのとき僕達がいるべきロケーションに海中の神殿の方が選ばれる可能性が高いらしい。今日はその実地調査だ。
「気の所為ですよぉ。それはそうとぉ……話によるとかなり深いところにあるんですよね? どうやって行ったんです?」
「??? 泳いで。」
「おおぅ……」
ポイっと、ミレィさんに水中呼吸の効果を持ったポーションとポーションの効果時間を伸ばすアクセサリーをワンセット投げ渡す。
「どうぞ」
「わ、わわ、わっと……せーふ…………」
「ふふふ、ミレィ先生、海の上だと人間味が出ますねぇ」
「口調の真似するのやめてもらっていいですぅ!?」
……元々人間味がないわけじゃないか。人間味というか隙がない人間にもなれそうな頭の良さを感じるけど。
「装備した?」
「しましたよぉ……」
既にボートで前回神殿を見つけた位置に近い所までは来ている。
ミレィさんを乗せていた浮き輪をイベントリにしまいなおし、アイテムをちゃんと装備していることを確認して……よし。
「行こうか」
「あいあいさー……嫌ですけどねぇ」
ザブン、と、海に沈む。
もはや見慣れた光景ではあるが、ゲームの中だからこそ見ることができる広い広い青の世界の眩しさに目を細める。
『よ……ほっ……くぅ……』
横で体勢維持に苦労するミレィさんを助けるため、「水律踏破」と「オケアノスフロー」を起動。前者で自分の体勢補助、後者による水流操作でミレィさんのフォローを。
多少の範疇とは言えマルチタスクが得意であることに感謝しつつ、ミレィさんに問題を確認する。こういう体勢維持は自分しか分からない違和感が大きな歪になりうるからね。
『バッチリですよぉ』
『それは良かった』
親指を立てるミレィさんに、コチラも親指を建て替えして……歩を進め始める。
『…………素晴らしい景色ですねぇ』
『うん』
深い深い海へと二人のプレイヤーは進む。
その様子を、静寂を携えた海が見ていた。
偽正の答えはそれこそ神のみぞ知る。
強いて言うならば、星の海を旅した「世界を背負う魚」が日の目を浴びる前であるというのが重要だったわけです。