今年中の完結を目指したく存じます。
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ゲームにのめり込んだことのある者は皆一度は感じた事があるだろう。
全ての回復手段を使い切り残機1となったアバターがボスモンスターの攻撃を完璧に捌き切ったあの高揚感を。
ゲームにのめり込んだことのある者は皆一度は感じた事があるだろう。
クライマックスになると耳元で鳴り響く数多の工夫が詰め込まれた戦闘BGMへの感動を。
……これまでシュテルメアは、戦う理由があるから戦ってきた。
想い人に会うため、強さを得るため、なにかを守るため、ユニークシナリオを攻略して世界の終わりを止めるため。
今もそうだ。世界の終わりを阻止するために必要な力を求めて戦っている。
だが、彼を想う征服人形の歌声が、あるいはたった一つの残機のもと戦うという状況が、彼にその理由を忘れさせた。
ただ目の前の敵を倒すためだけに、それだけを目的に戦闘BGMを聴きながら神経を尖らせるというゲーム以外で得られるはずもない経験が、彼の戦闘におけるセンスを開花させようとしていた。
思い通りに身体が動く、敵の攻撃がスローで映る、状況を打開する発想が瞬時に生まれ、その策が完璧にハマる。
ゲームの世界では、それをこそ人は「覚醒」と呼ぶのかもしれない。
…………世界を救うためではない。
ただただ、シャングリラ・フロンティアという世界が文字通り死ぬほど面白いからこそ、彼はその境地に至ろうとしていた。
◆
「彼」と僕が向き合って弓を構えている。
相手の鼓動が、息遣いが聞こえる。
弓を引く腕が若干引き攣っている。恐らく先程の【エリア・サンダー】による状態異常が若干残っている。
クリオネちゃんが作ってくれている海流の足場を今一度踏み締め直して、詠唱開始。
「【詠唱短縮】……」
詠唱するは【ライトニング】。これまで散々お世話になってきた魔術だが、「彼」であればきっと先程リキャストを終えた【雷撃の道筋】でスカして見せるだろう。
既に僕も【雷撃の道筋】を【詠唱待機】にセットしている。互いに一発までは雷魔術をスカせる状態。
「【ライトニング】」
『……………』
「彼」もライトニングを杖弓に番えた。
早撃ち勝負……とは、前述の通り【雷撃の道筋】の存在によりならない。
今回はより多くの手札を構えた方が勝利する。
「深海杖クティーラ」を介して、杖弓を構えた状態のまま次は【水竜の怒撃】の詠唱開始。
「彼」も全く同じ行動に出た。でしょうね。僕がそうするんだ。そりゃあ「彼」もそうする。
腹立つぐらいに完璧な対応に苛立ちつつ、目線だけ動かして周囲の状態を確認。
ナナさんとエリーゼの戦いは概ねこちら優勢。
先程のコンボを決めたお陰で「彼」の保護にエリーゼが随分力を割いていた。このやり方で恐らく間違っていない。このまま進めれば勝て……ないだろうね。
「詠唱完了。ギア上げてくよ、ナナさん……!」
「肯定:気遣い頂くほどでもありませんの」
「んはは、【水竜の怒撃】!!!」
『………………!!!!!』
クリオネちゃんの祈るような仕草を受けて内部に浮かぶ灯籠が輝き、魔力の奔流から海流で構成された竜が「彼」へと向かう。
「彼」側から生まれた竜も同時に射出され、2頭の竜はぶつかり合い相殺───────
「暗闇よ、愛しき星の海よ、彼らに否定されなお彼らを優しく包む宇宙よ」
されない、させない!
ナナさんの歌が転調する。
エリーゼの歌声なんざ聞こえない。
静かに、それでいて力強い歌い出しの影響を受けて、【海流の怒撃】が周囲の海水を巻き込みより巨大化する!
「彼」の水竜もクリオネちゃんの強化を経て巨大化しているが、倍率が違う。
ナナさんが僕の攻撃強化に力を注いだことで世界の占有率はイーブンに戻る、が、この攻撃で再びこちらに引き込む!!
「以心伝心ってやつだ」
「ですの!」
「【偉大ナル海ノ力ヲ授ケル】」
クリオネちゃんの魔術強化を受け、さらに巨大化した水竜が暴れる中、しかして僕と「彼」は一切お互いを視界から離さない。
構えた雷にお互い物理矢を3本番える。こちらは爆発系のエンチャント矢3本、アチラは不明。
同時に【異形術】の効果が切れ、荒れ狂う海流の中に生身で晒されながらもその矢先にブレはない。
スッと息を吐くと同時に弦から指を離し、次の魔術の詠唱へ!
「【代償詠唱】!」
「……!」
クリオネちゃんとも以心伝心である。
先程の異形術によるHP減少と今回の代償詠唱を持って残り2割程度となったHPが、彼女の魔術により瞬時に回復。「瞬刻視界」を詠唱が失敗しない範囲で一瞬起動、目の前まで迫った矢をギリギリで海流操作を駆使して回避、詠唱は……続いてる!
『………!』
向こうは……【雷撃の道筋】を切った、馬鹿め! 明らかな失策だろうそれは!!
【代償詠唱】により行使するはリキャストを終えた【雷轟の矢】!
「彼」も同様、くそっ、あんまし楽しくないぞこの魔術の撃ち合い!!
左腕に装備したアクセサリー、「至金の歯車・過密」を叩き、歯車を回す。【雷撃の道筋】を切ったらそりゃあこれが来るよ、さぁさぁどうやって対応するのかな!
「【暴虐の雷獣】!!」
天高く、海の底からではその輝きの片鱗すら見えない星々を指差すように人差し指を立てて掲げた杖弓に雷の獣が装填される。
スキル「至高の一矢」起動!
杖弓を構え直すと同時に照準を合わせ、雷弦から素早く指を離す。
この至高の一矢はその弓のポテンシャルを超える“速度”を矢に乗せる!
雷鳴が轟き、金と雷の獣が彼我の距離をまさしく雷の速度で駆け抜けて──────
『ラ、ラ、ラ』
引き伸ばされた感覚野の中、やけにスローなエリーゼの歌声が世界に響く。
『─────ワタシは、』
瞬間。エリーゼの歌以外の誰のなんの行動をも許すことなく、「彼」を【暴虐の雷獣】が貫いた。
僕のステータスにこの攻撃をどうにかできる手段は【雷撃の道筋】以外に存在しないはず、手元で「至金の歯車・過密」に新たに追加された最も小さな歯車が勢い良く空転している、「金化」の付与により「彼」が金へと変質している、待てよ、なんで金化している? それより先にポリゴン化するのが普通だ、じゃあ、でも、どうやって……
『まだ!!!!!』
『………………!』
エリーゼが叫ぶ。「彼」の「深海杖クティーラー」が同時に悲痛な声を上げて、二重の魔力が「彼」を渦巻くように取り込む。
「警告:この反応は海の化身の……!!!」
「間に合うわけだ、そんなんありか我がことながら……!?」
海が彼へと飲み込まれていく。
違う、違う、違う、違う、エリーゼとクリオネちゃんの願いを乗せて、海が「彼」へと変質する感覚。
果たしてここからの戦いに制服人形による世界の奪い合いが意味をなすのだろうか?
だってこの海中世界とはそのまま「彼」であるのに?
『ぉ、あ、ぐ、が、ぐヴぅ゙ぅ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙オ゙………ッ!!!』
「再度警告:ですが、これは……」
「エェ、ソノ、彼ハ……」
悲痛な叫び声。なんとか理性を残そうとするような、全能感に抗うような、そんな声に僕のクリオネちゃんとナナさんが戸惑うように「彼」を見つめている。
「暴走……サンラク女子曰く、スキル構成によっては起こり得るらしいけれど……」
『Go.aAAAAA!!!!!!!』
海が暴れ回っている。しかし……明らかに僕を狙っていない。
「爆水」を起動し、一旦離れて様子を見るが……
「オルケストラの想定外、なのか……?」
このままじゃあ僕から答えを得ることなどできはしないと思うのだけれど。
『Ga.g.ggg.GoAaAAA!!!!』
明らかにプレイヤーではなく、モンスターとなってしまったその咆哮に、悲痛な表情でその英雄とやらを見つめていたエリーゼが歌う。
『ラ、ラ、ラ────!!』
水の流れを少しでも抑えるような、暴走を諌めるような、そんな歌声だ。
まだ、こんな所で、そんな声が届いてきそうなほどの。
歌を聴くことなく、大切な仲間を慮ることもなく、「彼」は暴れ回った。
その時間……約2分間。
僕達は「彼」達の行動を止めることも助けることもできず眺めていることしかできなかった。
『ラ、ラ………………ラ……………』
気づけば、歌声は先細っていた。
歌姫エリーゼが、どこか悔しそうな、諦めたような自嘲的な表情で歌を締め括る。
だから……そう、だから、そんなエリーゼのことを見ていられなくなったのだろうなと思う。
『─────誰にも必要となんてされないと思ってた、私がいても世界なんて変えられないんだと思い込んでいた』
数刻前までの堂々たる姿が幻影だったのかと思うほど小さくなってしまったエリーゼを庇うように、突如現れた女が歌いながら前へと、ステージのセンターへと立つ。
見境なく暴れていた「彼」を海の檻に閉じ込めるように世界が変質し、その歌声は力強く海中を駆け抜けた。
先程まで主導権を奪い合っていたはずの海というステージそのものが「彼」へと取り込まれ、吸い込まれるように消えていく。
ナナさんに瓜二つの外見、来るとは思っていたけどそうか、彼女は……
「中野冬音!!!!!」
「ここからが本番ですってことか……!!!?」
『…………………ッ!!!!!!』
先程までとは違う、明らかにヒトのそれである裂帛の咆哮が再度響き、中野冬音はボルテージを上げるように掲げた拳を握りしめ叫ぶ!
『でも違った。私の声を聴いて、君は、きっと君だけは、世界の見方を変えてくれたの!』
ナナさんの歌とは異なるアップテンポで力強く、誰か一人だけに語りかけるような……その歌を乗せて、「彼」がコチラへと駆け出した。
歌声に浸っている暇はない、コチラは【暴虐の雷獣】を切ってしまっている、使える手札は……!
『だから私は君だけの歌姫でありたい!! 君が私だけの英雄でいてくれるように!』
異形化ポーション使用、今の雑魚ステータスでは海の化身と化した「彼」に対抗できない。
切り替えろ切り替えろ切り替えろ、海が取り込まれて消えてしまった以上地上戦は確実、地面を改めて踏み締めて使用するは【異形術・雷電黒竜】!
雷が走り、身体が硬い鱗に覆われ……直後、海の化身によるブチかましにより吹き飛ばされる。クソっ、身体能力差がエグい、フィールドが海でなくなった時点で僕側は【海の化身ここにあり】は使用できない、どうしろってんだ!!
『──────君と私が共にある、そんなココが私の理想郷なの!!』
叫ぶような、祈るような、そんな歌声。
中野冬音により完璧に制御された「海の化身」はより暴力的に周囲の全てを巻き込みながら僕を襲っている。コチラの手札は……!
「ナナさん!!」
「肯定:貴方のための世界を作りだして見せますの!」
「クリオネちゃん!!!」
「任セテ、【貴方ノ進ム道へ】!」
一緒に戦ってくれる2人の声が、なんて心強いことだろうか!
クリオネちゃんが水系統魔法を行使することで「海の化身」の足止めをしていくれている間に、アクセサリー「試験管ポーチ」の恩恵に全力で預かる形で回復ポーションをがぶ飲みしつつ、スキルの連続起動。
「【雷電亜竜】に追加でタラルトスクズの力を乗せる。【異形術・毒甲ノ竜将】!」
竜人のようだった外見からさらに指や腕が肥大化し、身長自体も若干伸びていく。関節部を補強するように甲羅が発生し、人間、竜、亀と三種の生物を混ぜたことで頭部はより歪な異形のそれへと変質する。
「追加、【異形術・蛇】」
さらなる異形化を経て、肥大化した背中部から多頭の蛇が生み出される。
あ、そっちから出るのねお前ら……別に困らんから良いんだけども。
粗々しく掴んだ杖弓が雷を帯び、ついにクリオネちゃんの妨害を跳ね除けた「海の化身」の吶喊を全身で受け止め……殴りつける。
「あ゙あ゙、ぁぁぁああああああああ!!!!!!!!」
『………………………………!!!!!!』
2対の異形がぶつかる。
先程までの魔法合戦とは似ても似つかぬ……肉弾戦の様子に、しかし彼らの歌姫はその外見の異常性など目に入ってもいないかのように歌って……
『私は歌う、私の英雄が、私だけの英雄が、私達の理想郷に立つ姿を!』
「ガッ、クソッ、海の化身……!」
「彼」が海そのものへと姿を変えて、世界が再び海に満たされる。全方向から見つめられている、世界そのものに締め上げられている……!
僕が使った時もそこまでの力はなかった。だからこの力は間違いなくオルケストラという世界を己の血肉として取り込んだが故の能力。
「切り札を使うか………!」
「彼」が海の化身となる前に「至金の歯車・過密」を使用したことで空転していた3つ目の歯車が、僕の意思を受けてピタリと止まる。
『……………』
ドワーフの王ミダスの力とは、彼らの本質は、まさしく鍛冶にある。
彼により追加されたこの小さな歯車の役目は、金化を付与する意味とは、琥珀に込められた「過密」の意味とは……。
「初お披露目だ!【金装】起動!!」
異形の手に構えられた「共鳴の雷杖弓」が輝き、金色へと染まる。
ミダスの力が付与されたことで杖弓は世界を救うための力を宿し……一次的に「勇者武器」に準じる力を得る!!
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