「準備は良いですかぁ?」
「もちろん」
祭り……海神祭当日。
疾うの昔に日は沈みきっている関わらず、イレベンダルの街は喧騒と祈りに包まれて、昼間のような温かい光を放っている。
先ほどまで露店巡りをしていたのだが、いつもは鍛冶ばかりしているコルトさんも最近アプローチしていると言っていた女性と祭りを楽しんでいるようだった。
「リアルのお祭りは人混み地獄ですけど、ここのお祭りは穏やかでいいですねぇ」
「SNSがないのが大きい気がするよな。守り神に祈りを捧げる人しかいない感じだ」
「ですです。まぁ私はSNSに上げる写真のためにお祭り行くタイプですけどね!」
ミレィさん、わりとミーハーな所がある。色々とギャップの大きい人だ。
「まぁその気持ちも分かる」
街中のあちこちに海水と光るイカの入った海竜のモチーフの描かれたガラス瓶が置かれ、普段の街灯とは違った温かみを街に与えている。
「あれ、後で買いたいですねぇ……バズりそうです」
「リアルでイラストにしたりは?」
「ふっふっふっ、お望みとあればこのミレィ先生が描いてしんぜよう!」
「やった〜」
ミレィ先生(教師じゃなくて漫画家のほう)が一瞬でいつぞやの画家風装備に早着替えしてドヤ顔を決める。多芸だぁ。
「あ」
「?」
「ジークヴルム戦、始まったみたいですよぉ」
少し残念そうな、それでいて興味深そうな顔をしたミレィさんがそう言う。
「マジか〜、なんか申し訳ないね」
「いえいえ! コチラも中々面白いですよぉ」
うむ。「も」ってことはやはりアチラも相当面白そうなようだ。新大陸関連は情報を集めていない分あまり詳しくないのだけれど……なにかあったのだろうか?
「あっちは?」
「ん〜、部外秘ですよぉ?」
「いえっさーミレィ先生」
もちろん、と手を頭に当てて敬礼する。
「ライブラリとしては、今回の龍災はもっと後になると考えていたんですよねぇ。具体的には……あ、いつだと思いますぅ?」
思い出したかのような問題形式ですねミレィ先生。
「……えーと、あまり詳しく知らないんだけど……龍災ってのは何種類かのドラゴンとユニークモンスターのドラゴンと戦うって話だったよね?」
「そうですねぇ」
「じゃあまぁ安直に行くと、何種類かの方のドラゴンと四天王方式で戦った後にユニークシナリオとか?」
「……………」
静寂。ミレィさんって割と話す人だから突然静かになられると不安になるなーなどと頭の片隅に思い浮かべながら、次の言葉を待つ。
「……正解ですねぇ。今回の興味深い点は色竜が同時に前線拠点なんてお誂え向きの場所に集ってきたことですよぉ。もちろんゲーム的な理由を考えれば納得も行きますけど〜……多分どこかのプレイヤー側の問題で今回の形になったんじゃないかって説がライブラリ内では濃厚ですよぉ」
「へぇーえ」
いきなりすげー真面目な顔になって驚いてしまった。
それはそうと、改めてすごいゲームである。これだけの大人数のプレイヤーの行動でシナリオが変わりうるのだから。その実現に使われた技術はガチガチの一般人である僕には想像もつかない。まぁこれは今の会話内容とは少し論点の離れた感心だが。
「それと、龍災そのものというよりはそれ以降の世界の動きに興味が向きますねぇ」
「あー、ワールド単位での話が一つ進むんだったっけ。そこはこの前聞いた気がする」
「えぇ。ウェザエモン、クターニッドに続いてジークヴルム。3体目のユニークモンスターが倒されることで我々2号人類は……おぉっと、コレ以降はさすがに社外秘ですかねぇ」
あまりにも上手い焦らしに思わず苦笑が漏れるが、正直クリオネちゃんに一切関係ないこのゲームの背景ストーリーを深く知りたいとは思っていない。
「楽しそうで何より。それじゃあ……こっちはこっちで上手くやろうか」
「ですねぇ」
楽しげな笑い声が少し遠くで響いた。
空に広がる星々を反射する夜の海が怪しげに浮かべたボー卜を揺らして誘う。
気の所為だろうか、どこかから龍の遠吠えがココまで届いた。それが遥か海の彼方にある新大陸からなのか、それともこれから目指す先にいる「守り神」のものなのかは分からないが、たしかに届いたことを伝えるためにコチラも息を深く吸い……
「待ってろぉー!!!」
叫んだ。いや今日が祭りの日で良かった。危うく街の人に不審者として通報されるところだ。
「……私が通報しておきましょうかぁ?」
「やめてもらって……」
ボー卜を漕ぎ出す。既に日付は変わりかけている。この祭りは日が沈むと同時に始まり、日が昇ると終わるとコルトさんから聞いている。
初めてその話を聞いたときには長すぎでしょと笑ったものだが、翌日は片付けや睡眠のため街全体が休暇を取るらしく……街伝統の祭りとして興味深い部分が多々ある。
「丑三つ時に灯籠を海に流すらしいですよぉ。それまでに戻れたら嬉しいですねぇ」
「…………そこがクライマックスって話だし、そのタイミングにイベントが起こっても驚かないけど?」
「それはそうですねぇ!」
ボー卜を漕ぎ出し、前回も向かった海中の神殿付近のポイントを目指し始めた。何度か通っていることもあり、夜の暗い海でも迷うことはないはずだ。
街が少しずつ離れていくが……夜に輝く街の明かりはまだボンヤリと見えている。
「前衛はよろしく頼む」
「海中戦闘、練習したとは言えって感じなんですよねぇ……」
「サポートはするよ」
「助かりますよぉ……」
道中、普段ならば定期的にボー卜がクラゲの魔物に襲われるのだが……今回はない。
「理由は分かりかねるけど、イベントシーンであることへの裏付けにはなりそうだ」
「ミレィさんもそう思いますよぉ。ただ、夜の海に灯なしは厳しいものがありますねぇ。マジックトーチつけましょうマジックトーチ」
「…………【マジックトーチ】」
ボンヤリと魔法の灯が夜の海を照らし、ボー卜は波に揺られながら目的地へと進む。
「リアルでつけたら魚が集まってきそうだけども」
「実際夜の船釣りとかありますけど、昼に比べて凄い釣れるイメージはないですけどねぇ」
「おぉ……え、ミレィさん、釣りとかするの?」
「したこともないですねぇ! 私、花の女子大生なもので!」
「そういう事言うから花っぽくなくなるんだろうけど」
「おっとぉ? それは禁句ですよー」
グリグリと人差し指を押し付けてくるミレィさんに謝りつつ宥めすかしている内に、目的のポイントへと辿り着いたようだ。
「慣れたもんだ」
「ですねぇ」
静かで、何の変哲もないように感じる夜の海を見つめる。
祭りの喧騒はとうの昔に聞こえなくなり、もはや街がどこにあるか分かるか分からないかぐらいの灯しか見えていない。あーいや、灯台の光は分かるけれど。
「多分出港のときじゃなくて今ですよねぇ……気合いれるの」
「……それも禁句でしょ」
「ぶふっ……そうかもですねぇ」
笑ったからやっぱり僕の勝ちじゃない?何の勝負もしてないけれど。
結局海に入るのはあまり好きになれていないらしいミレィさんが大きな溜息と共に、海へと飛び込んだ。
「よっし」
…………願わくばライブラリに高値(クリオネちゃんに2、3回会えるぐらい)の情報を持ったユニークシナリオであれ!!!!!!
仕方ないとはいえ2話連続海に入る描写なこと、会話が想定より長いことなど、作者的に様々な不満点がある回でした。
気が向いたときに書き直す予定です。
これからも今作をよろしくお願いします。