不倶戴天   作:雨傘なななな

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海よ、海よ! 其の二

 ゆっくりと、槍を構えたミレィと杖を構えたシュテルメアが海中神殿の入口へと降り立つ。

 

『アクセサリーとポーション新調してよかったですねぇ』

 

『ライブラリには感謝しても感謝しきれないです』

 

 残り活動可能時間は3時間。3時間、3時間である!

 20分〜30分程度でなんとかやりくりしていたときとは話が変わってくる。それこそ神殿に刻まれた彫刻の細部を確認できるぐらいの精神的余裕が持てる。

 

 ありがたい話です……と二人して今頃龍災の最中にいるであろうキョージュに向けて手を合わせ、神殿の内部へと歩を進めていく。

 

『そう言えばぁ……シュテルメア君は私の絵のなにがそんなに気に入ったんです〜?』

 

『おぉ……今? まぁいっか。えっと……あー』

 

『ふむふむ』

 

 海中ではあるが、さっと芸術家装備に着替え、ついでに付け髭までしたミレィがコクコクと頷く。何をしているんだ、としばらく呆れたような顔をしていたシュテルメアだったが続きを待ち続けるミレィに観念したように話し始めた。

 

『疲れてたんだよな。仕事仕事仕事、別に仕事は嫌いじゃないんだけど』

 

『私は花の女子大生なので分かりかねますけどねぇ』

 

『ミレィさん、頭良い大学だし花ってほど遊びっぱなしの大学生活じゃないでしょ』

 

『社会的な立ち位置の話ですよ!』

 

『なーるほど。まぁそれはともかく』

 

『えぇ……』

 

『それで、へっとへとで家に帰って……SNSに流れてきたあのミレィさんの絵が……そうだな……』

 

『…………』

 

『なんていうか、温かかった? 違うな、そう、楽しそうだったんだよ!』

 

『…………はい』

 

『それで、こう、無心だったところに突然だったものだから、本当に衝撃だった。本能がこのモンスターに会いたいって叫んだよ。この世界はきっと楽しくて、そこにいるこのモンスターこそきっと僕に新しい何かをくれるに違いない!って思ったんだ。癖に刺さったんだよ』

 

『……………………そうですかぁ』

 

『今考えると、もちろん性癖に刺さったのもあるんだけれど』

 

『……………、』

 

『ミレィさんの見てる世界がめちゃくちゃ楽しいものだったってのも……僕がここにいる理由の一つなんだろうなって思うよ』

 

『そう、ですか』

 

『これで満足?』

 

『……………………………………満足ですねぇ。むしろお腹いっぱいすぎて困ってますよぉ』

 

『? じゃあミレィさんは─────ッ!?』

 

 その会話が、神殿の探索を続けながらのものであった以上、当然のことではあるのだが……ドン、と衝撃が巨大な神殿そのものを揺らした。

 二人共、先程までのノンビリとした空気を忘れ去り、武器を構える。

 

 ドン、と、再び大きな衝撃が神殿を駆け抜ける。

 

『───────────────────────』

 

 高いような低いような、背筋が凍るような音が響き、そしてソレが、表れた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 衝撃を受けて、杖を強く握りしめる。ココはまだ最上階ではないが、この衝撃はたしかにユニークシナリオの始まりを告げるものだと本能のような部分が叫んでいる。

 ミレィさんが槍を構えて前に出た。

 

『【魔法待機】【エリア・サンダー】……よし』

 

 待機させていた移動用魔法こと【ウォーター・ジェット】を解除し、代わりに移動阻害の魔法をセットする。

 

『ミレィさん、急いでココの頂上を目指すか、ココで戦うか、どっちが好み?』

 

『……なんの違いがぁ?』

 

『広い場所でくっそはやい巨大生物を相手にするか、どの方角から襲われるか分からないかつ崩壊の危険性を受け入れる代わりに微妙に巨大さ故の攻撃を防ぐかだね』

 

『もうちょい簡潔に言ってほしいですねぇ! 頂上へいきましょう!!』

 

『おっけー【詠唱短縮】』

 

 呪文の詠唱をしながら、ミレィさんに近づいてお姫様だっこの要領で抱え上げ……さすがに許可取らないとか。呪文の詠唱を終え、発動を待機させつつ許可を取る。

 

『んーちょっと抱えてもいい?』

 

『え……!?!? あ、ぁ、あー、大丈夫です、よぉ?』 

 

『よっし。ありがとう。……【ウォーター・ジェット】』

 

 許可取り成功。さっとミレィさんを抱え、魔法の推進力で頂上を目指す。

 少し前に習得した【海響の神流操】を始めとした魔法補助や「水律踏破」、「オケアノスフロー」など、様々なスキル補助を受け、前回とは比べ物にならない速度で頂上へと進む。

 

『凄いな、詠唱短縮の威力減衰込みで通常時の魔法よりは威力が出てる』

 

『ぅ、ぇ、凄いですねぇー』

 

 一週間前に比べてかなり成長していたことの証明だろうか。早々に神殿の頂上部へと辿り着いたものの、「海の化身」の姿はない。

 

 ドン、と三度神殿に衝撃が走った。

 

『────────────────』

 

 ミレィさんが不安そうに槍を構え直して周囲を警戒する。

 

『さすがに雰囲気ありますねぇ』

 

『うん』

 

 そして、そのときは来た。

 

『───────グゥオオオオオオオオッ!!!!!』

 

『……来るぞッ!!!』

 

 高いようで低い音が「海の化身」の咆哮へと取って代わり、眼の前にあったはずの海そのものが「海の化身」へと姿を変える。

 

『海の、化身……まさしくですねぇ……』

 

 このモンスターが本当に海そのものだったとして、どうやって倒せば……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 ゆっくりと僕達の周囲を遊泳する「海の化身」を指差す。きっとここで啖呵を切れるものこそユニークシナリオにふさわしい。だから……

 

『勝つ。勝ってクリオネちゃんに俺は会う』

 

『んぶっ、こんなときにふざけるのやめませんかぁ!?』

 

『ふざけてないんですけど??』

 

『やばぁ……、ただ、今のモーションはやばいですよぉ。どれだけやばいってやってることがユニークモンスターのリュカオーンと変わらないですよぉ!』

 

『そーれは本当にやばい』

 

 ……ただ、それはつまり、

 

『そうですねぇ。シュテルメア君が思い至ったことに全面的に同意しますぅ』

 

『心読むなよ。そしてまだ思い当たってないよ』

 

 思考を戻そう。それはつまり、このモンスターがただの一般モンスターでしかない理由が確実にあるということだ。

 まだユニークモンスターと戦ったことのない俺には想像もつかないが、強さ、能力、思考回路、シナリオ、そのどこかにコイツがユニークモンスター足り得ない理由があるに違いない。

 

『ちなみに我々ライブラリはユニークモンスターの条件を“信念”もしくは“神代との繋がり”だと考えていますよー』

 

『…………?』

 

『分かります分かります、少なくとも信念的なものはありそうですよねぇコイツ』

 

『以心伝心だな。僕もユニークシナリオタイトル的にもありそうだと思ってた』

 

『で、ですねぇ〜……。あ、あるいはユニークシナリオEXに繋がるのかも……いえ、ユニークモンスターに遭遇したというアナウンスはぁ……ッ!!!』

 

 コチラの様子を伺っていた「海の化身」が咆哮と共に水中とは思えない速度での突進をしてきた。

 

『一旦回避に集中しよう! 考察しながらじゃ戦闘どにもならない……!!』

 

『分かりましたぁ!』

 

 散開。どちらから潰すべきかと言う一瞬の迷いのおかげもあり、より優先されたミレィさんもなんとか避けることに成功した。

 コレはさすがに【魔法待機】に移動用魔法を入れておいたほうが良さそうだ。

 

『魔法待機解除、【エリア・サンダー】』

 

 今後より狙われるであろうミレィさんと「海の化身」のちょうど間に【エリア・サンダー】を展開、そのまま【詠唱短縮】を起動する。

 

『最近は二人で戦う練習をしていた甲斐がありましたねぇ』

 

 ミレィさんが使用するはヘイトを集めるスキル。コレにより間に邪魔なエリアが生成されたことで移り変わりかけたヘイトが戻り……ミレィさんへと再度の突進を行った「海の化身」はもろに【エリア・サンダー】を受ける。

 「海の化身」が不愉快そうに身を捩りながら咆哮を上げ、追撃として攻撃用スキルを起動したミレィさんの槍がその鼻先を襲う。

 

『【魔法待機】【ウォーター・ジェット】。もうちょいハメ技につきあって貰うぞ海の化身ッ!』

 

 稼いだ時間で【詠唱短縮】により威力が弱められた【ウォーター・ジェット】を待機させることに成功、詠唱中に次に放つ魔法は決めてある。吸い込んだ一息をそのまま次の魔法の詠唱に変換する……!

 雷撃によるスタンはこの巨大生物には大して意味を持たない。早口言葉の練習をしておくべきだったか。急いで、しかし噛むようなことがないよう、脳と舌をフル回転させる。

 

『まだまだまだ行きますよぉ!』

 

『もちろんだ、【加算詠唱】ッ!』






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