さて、シュテルメア君も準備整ったみたいですし?
『私のターンですねぇ!』
海中ではあるが、既に私からシュテルメア君の方へとヘイトを移した「海の化身」を見据えて短槍をクルリと回す。
『私とてライブラリの一員ですからぁ、そりゃあユニークシナリオの一つや二つありますよぉ』
誰にともなく話しながらコンソールを開けて回し終えた短槍をインベントリへ戻し、代わりに取り出すのは……
『じゃじゃあーん』
暮明の雷槍と名付けられたその槍は、ユニークアイテムではない。ただその槍を介した攻撃に雷属性を付与するというだけの……先程までの威力のみにリソースを割り振った短槍と違う方向、つまり特殊攻撃力にリソースを割り振っただけの単純な短槍だ。もちろん、海の中で使用可能な魔術系の短槍だというのも大事な一要素ではあるのだが。
ソレに加え、アクセサリーを2つ、身体能力を増加させるものから雷属性の強化を担うものへ変更。残り3つは据え置きにしている移動促進のアクセサリーと海中移動促進筒、そして最も効果の強い身体能力増加のアクセサリーである。
『お披露目するのはスキルの方なんですよねぇ!』
さらに、今日この日のためにレベルダウンビルドしてまで得たいくつかのスキル、「水律踏破」や「海中の一槍」などを起動。
『おぉっと、魔法も忘れちゃだめですよねぇ〜』
ノンビリした口調に反して高速で動く指がインベントリから取り出すは、使い捨て魔術媒体【雷獣纏い】。
『いっきますよぉ……!』
ライブラリで準物理アタッカーとして検証を担当していたミレィは既にいない。
シュテルメアとの出会いを経て、たった一週間の付け焼き刃とは言え雷系統物魔アタッカー兼タンクとなった彼女は、元の堅実な強さを少し失ったが……代わりにココぞと言うときに火力を出せる危うさを得た。
この変化は少なくともシャングリラ・フロンティアというゲームに置いて大きなメリットを意味する。
つまり……シュテルメアの言う“ユニークシナリオに出会う権利”のようなものだ。
そしてそこへ、ライブラリという情報取り扱いクランの力によって既に持ち合わせていた切り札が合わさる。
『────其はあり得た我が槍のカタチ、』
◆
ミレィさんが詠唱を始めた。
僕は事前の取り決め通り、時間を稼ぎつつこの巨大生物こと「海の化身」をミレィさんの攻撃範囲内に留める必要がある。
もう一度言おう、この巨大生物を、だ。
『【ウォーター・ジェット】ッ!』
加算詠唱とアクセサリーの補助を得た【雷轟の矢】のお陰で既にヘイトはこっちに向かいきっている。
ただ、詠唱が必要なユニークスキル?魔法?を使うと聞いている以上、それに気づかれてなおコチラを注視させるほどの何かが必要な訳だ。
今はギリギリまで避けないことで苛立ちを煽りつつコチラに目を向けさせているが、いつまで続くかわかったものではない。そもそもあとアクセサリーの【爆水】2回と待機させている分の【ウォーター・ジェット】を使い切ったら高速移動にリスクが伴うようになるわけで……。
『【加算詠唱】ッ!!』
リキャストが終わった【加算詠唱】を起動する……前に海中移動補助のアクティブスキルを使用、さらに身動ぎだけで俺を殺しかねない「海の化身」から【爆水】を使うことで距離を取る。
『グ、ゴァァア…………?』
「海の化身」の目に向けて切り札の一つである杖による攻撃スキル、「水流打」を使用。
このスキルは僕のSTRと水流に対する適正(おそらくスキルの数とアクセサリー、装備の効果)を参照してダメージを与えるスキルであり、魔法職でも僕程度まで水流に対する適正を高めればそこそこの威力を出せるものだ。
『ガァッ!!!』
怒りは変えたらしい。僕に向けて尾を振ることで水流の刃を飛ばしてくるが、コレまで同様それほどシビアな攻撃ではない。【爆水】を使用、余裕を持って避ける。さらに【加算詠唱】により長くなった詠唱が終わりを告げた。
この後のことを考えてアクセサリーは移動用から変更せず、放つ。
『いつも通りだ! 【雷轟の矢】ッ!!!』
「海の化身」が叫び、暴れる。
おそらくダメージを受けたことによるものではなくスタンに対する苛立ちだが、時間は稼げている。
よーしダメ押しだ、微量とは言え水流操作のスキルを起動し、スタンが効いている間にミレィさんがいる方向へと向かう。
ここである程度の距離を開けておけば、スタン後の「海の化身」の行動はほぼ突進か突進を絡めた噛みつきが選択されるはず。
距離調整も完璧。次の【魔法待機】は……
『【魔法待機】……これかな』
◆
既に詠唱は8割完了。数瞬とは言えスタンを受けて動きの鈍った「海の化身」と、私のスキルのために位置調整を行うシュテルメア君を見つめながら槍に迸る雷をさらに増幅させるべく使い捨て魔術媒体を使用する。
『数多の過去を経た我が槍、かける願いは唯一つに収束する』
さぁ最後の一文を読み終えた。
後は放つだけ。槍を振り上げ、目をしっかりと見開いて狙いを定める。失敗したら終わりだなどとは考えない。ゲームだからなどという興冷めな理由故ではなく、短いながらも濃い時間を共に戦った戦友であればなんとかしてくれるであろうと信じて!
シュテルメア君とその近くにいる私へと突進する「海の化身」へ……!
『【天地繋ぐ一槍】!!!!』
振り下ろす!!
しっかりと両の目で前頭部への命中を確認した。
地に「海の化身」が縫い留められるように叩き落され、海そのものが揺れる。
神殿と「海の化身」を貫き焼き焦がした槍に付随する雷は、未だ当たりに散ってなお足りんと言うようにバチバチと音を立てた。
『ミレィさん!』
『シュテルメア君、お褒めの言葉ですかぁ?』
『えぇ……いやそうだけどさ……?』
泳ぎよってきたシュテルメアとその場で槍を構えるミレィ。パチン、と二人が手を合わせる音が響き……だが、この程度で倒せる敵ではないことを二人共理解していた。
『このIQ130超えのミレィ様の頭脳がポーションの効果時間内に戦闘が終わる可能性は低いと告げていますよぉ』
『だねぇ。とりあえず……【加算詠唱】』
『ミレィさんは一旦準物理アタッカーに戻ったほうが良さそうですかねぇ』
MPの消費がエグいんですよね、このモードは……。
一応めったに見せない切り札まで切ったんですけど〜、まだまだピンピンしてますねぇ、「海の化身」さん……。
チラリとシュテルメアの様子を伺う。
あえて子供の面をミレィに見せるほどの“大人びた”側面を持つように見えるその青年は、冷静さを失わず、しかしてその瞳に強い意思を宿している。
うーん、クールキャラがデレた後みたいですねぇ。
肩を竦め、既に動き始めようとしている「海の化身」に狙いを定める。
普段は細められている目は既に全開も全開。超本気だ。
『…………【エリア・サンダー】』
加算詠唱の力を得た雷のエリアが「海の化身」の真上に生成され、コチラへと報復をしようと動き出した「海の化身」の動きを阻害……これはうっとおしいでしょうねぇ。
『これ、対人とかも相当いけそうですねー、あんま環境とかよくわかんないですけど』
『???? ………【詠唱短縮】』
もう何分連続で魔法を使っているのだろうか?
やっべみたいな顔で魔力回復薬を呷ったシュテルメア君がリキャスト直後であろう【詠唱短縮】を起動した。
これ、ちゃんと必要な効果を損なわない魔法に使ってるんですかねー、検証を重ねたんでしょうけど、こぉーれは検証班の才能がありますよぉ……!
『……ライブラリに推薦してみても良いかもですねぇ』
『そーれは勘弁してほしいかな……』
このシナリオを超えてもう一つ山を超えるとついに書きたかったところなのでここ数日筆が乗っております。連続更新を楽しんでいただけていたらなによりです。
いやまぁ完結まで多分後4章か5章あるんですけど……クライマックスはいつになることやら。