『畳み掛けようッ!』
『もちろんですよぉ!』
「海の化身」がここまでで最大のダメージを受けたことで世界が揺れるような咆哮を上げる。
既に発動していた過剰強化:深海姫によって青いローブのようなものを纏ったミレィさんが海中移動促進筒を惜しみなく使って前に出て、槍を振るう。
『ゴォ、ァッ!!!!』
溜め、咆哮。弱り、海底に沈んでいながらも未だ威力をそのままに保たれたソレはミレィさんに直撃するも、それを上回る強化の効果により一瞬で硬直は解ける。
『【詠唱短縮】……ッ!』
フルスロットルで口が回る。リキャスト時間も詠唱時間も感覚で完全に支配し、全行動が最効率に向けて慌ただしく、しかし精密に織り成されていく。
『対海中生物槍もあるんですよねぇ……ッと!』
『【エリア・サンダー】ッ!』
『ゴォ……ッ!?』
腹に重い一撃、衝撃を受けて移動した先には帯電地帯!
さぁそろそろ集中力が切れそうだが休んでる暇はないぞ早く口を動かせ一秒でもはやく!
動きはずっっと削ぎ続けている。全攻撃雷系統、ミレィさんとのヘイトパスも苛立たせるのに役立ってる、なにもかもを手札にして1ミリでも奴の体力を、一秒でもはやく削れ!!
『【雷轟の矢】ッ!』
ミレィさんが「海の化身」のスタンが切れるのを察して飛び退いた腹に【雷轟の矢】をぶち当てる、次は……4秒待てば【加算詠唱】のリキャストが終わる!
『行けるか!?』
『行けないなんて言ってられないでしょぉ!!』
『よーし行けるな!! ……【加算詠唱】ッ!』
『ラス1の使い捨て魔術媒体……【ライトニング】!!』
『ゴア……ガ……ギィ……!!!!!!!!!』
───なぜかその光景はスローモーションだった。
「海の化身」が叫びながら頭を振り、なんらかの魔法を発動したのだろう。
『………………はっ、はっ、はぁ?』
『〜〜〜〜〜〜ッ!!』
詠唱が止まり、集まっていた魔力が霧散する。ミレィさんの過剰強化も切れた。
海そのものに縛り付けて固定されているような感覚。身体の自由は効かず、少しずつ海上へと引きずりあげられていっている。
『……』
眼下では、確かに数多の傷を受けていながらもその威容を損なっていない「海の化身」が悠々と泳いでいる。
『ま、まじですかぁ……?』
ミレィさんが握っていた槍が重力に引っ張られてゆっくりと海底へと沈んでいく。
『く……ぐ……魔法の詠唱もできないな……』
僕等の頭に「負けイベント」という文字が過ぎるが……それだけは否定する。もしそうだとして、それがここで諦める理由にはならない。スキル起動……不可。【爆水】……不可、魔法、不可。コンソールも開かない。
『いやーどれも使えすらしませんねぇ』
『…………ちなみに、何か策は?』
『…………ん〜〜〜、ちょっと待ってくださいねぇ、今天才ミレィさんが脳内洗い直してますよぉ』
『ゴ、アァ!!!』
『急ぎ目で頼む!』
悠々と僕等の周囲を泳いでいた「海の化身」がコチラへとその頭を向けて進み始める。いやこれ死んだか!?
『……ユニークシナリオ、海神祭、海の化身、海中神殿、朽ちた盃、行動不可、器、……タイミング? …………………あっ』
『え? なんか思いついた? 天才じゃん?』
ニヤリと笑ったミレィさんがコンソールを動かして何かをしようとして失敗した。ほとんど動きを止められているのを忘れていたらしい。
『ではシュテルメア君に問題でーす』
恥ずかしげな顔をしながらもミレィさんが話し出す。この芝居のかかった話し方は確かいつぞやの……
『あっ、あー、もう分かったけどどんとこいミレィ先生』
『今するべきことはなんでしょう?』
『…………なんかそれっぽいタイミングだから朽ちた海の盃が光る』
『正解ですよぉ〜、ほら、右手を見ましょう』
『激闘のあとがこの締まらない感じとは……なんとも言えねぇ気分だ』
『ですねぇ』
ボンヤリと光り始めた右手を見つめる。右手だ硬直が解けた。まぁこういうシーンでするべきことって一択だよね。
ゆっくりと盃を見せつけるように掲げれば、少しずつ盃が放つ光は強くなっていく。
『──────継承条件の達成を確認』
そして……「海の化身」が口を開いた。
◆
シュテルメアとミレィは知る由もないことだが、そもそもこの「偽りの神へ、ただ純粋な敬意を」と言うユニークシナリオにはクリアルートがいくつかある。
その中でも成功と呼べるルートに至る道は2つ。
より簡単なモノは、一定時間の「海の化身」との戦闘だ。
とあるイベントが起きるタイミングまでプレイヤーが耐え続ける事ができれば、撃退判定、いや……「海の化身」の勝利ルートが消える。
そしてより難しいモノが……一定以上の体力を削ることである。具体的には体力が3割を切った時点で「海の化身」が切り札である「海に化ける、海が化ける」と言う……今見せた海そのものを操るスキルを解禁し、同時に儀式が始まる。
ちなみに一定以下の時間でプレイヤーが敗北したとしても、セーフティの働きによりイレベンダルの街が滅びることはない。
今回はイレギュラールート。つまり……その両方を同時に満たしてしまったパターンである。
◆
きいゃああああ、しゃべったぁぁぁあ!!!!などと言いたい気分だが、シナリオは進む。
『……間に合ったか……。もうすぐ我が意識は消える。役目はわかっているな? この獣が我等が街を襲わぬよう……次の継承まで理性を保ち続けるのだ』
『………………?』
掲げた盃がより強い光を放ち……「海の化身」の鰭に同様の海の盃が浮かび上がった。
『辛い役目を負わせることになる。済まないが……頼むぞ』
周囲からは盃同士が共鳴しより強い力を放っているように見えるような光景、遥か深海での幻想的な光景にミレィが小さく声を上げ……固定されたシュテルメアより少し高い位置へと泳いだ「海の化身」の盃から掲げられたシュテルメアの盃へと光が注がれる。
『なにを……』
『シュテルメア君!?』
シュテルメアの盃が満たされ、海中世界が大きく照らされた。
◆
同時刻、イレベンダルの街の外れから崖を降りた先にある海岸にて。
「守護神様……いつも街を守っていただきありがとうございます……」
「さぁ、流すよ?」
「おうよ」
継承が行われているとき、イレベンダルの街での「海の化身」を祀るイベントもクライマックスを迎えようとしていた。
街の人々が1年を通して少しずつ作り溜めていた「海の化身」の姿が描かれた灯籠が海へと流され始める。
彼等には海底での戦いの様子は伝わっていないが、時折大きく揺れる波と海面を照らす光が人々に安心感と不安を同時に与えていた。
「お母さん、守護神様、元気かなぁ?」
「……もちろん! 神様だもの!」
晴れた空、月が暗い海を照らしているが……その光が海底で戦う彼等に届くことはない。
◆
…………新大陸。
竜と龍と英傑の戦いは未だ中盤。
赤も黒も白も、全て健在。星の海を旅する乙女は姿を見せる時を心待ちにし、黄金は英傑達の輝きに歓喜している。
『そろそろですかねぇ……。……えっ、な、まさか……次世代原始人類がアレを……? いえ、アレは既に私の管轄外です』
◆
光が収束し、偽りの神が海底世界へ改めて顕現する。
次話タイトルのためにここまでのタイトルが海よ、海よ!なんですよねぇ……