ゆっくりと夜が明けはじめた。
「今までありがとうございました。」
ミレィさんと二人で作った「海の化身」の理性として何年ものときを過ごした誰かの墓へと様々な想いを込めて手を合わせる。
結局、あの力は「海の化身」のものでこそあったものの、100年以上もの時を超えて理性の方へ癒着していたらしい。
元「海の化身」であったモンスターはユニークモンスターにもレイドモンスターにも敵わぬ存在にまでその身を落とし、僕が一時的に得た力は灯籠という形で出力された数多の器に乗って海に消えたようだ。
手放す選択をすると同時に僕の姿は元のシュテルメアのアバターに戻り、流された灯籠は海の力を受けてより美しく輝いた。
深海から空の灯籠の輝きを見つめるというゲームだからこその光景に、ミレィさんはスクリーンショットを連写していた。いつか、あの光景のイラストも書いてほしいと思う。
「しばらくはこのあたりの海生モンスターが強くなるらしいですねぇ」
「……まぁ良いレベリングになるよね」
「クターニッドのときに思いましたけど、深海、めちゃくゃ魔境ですからねぇ……レベルは上げておいて損はないですよー」
ちなみに今回のユニークシナリオを受けて僕のレベルは96まで上がった。もう少し強いモンスターを倒し続ければ一旦カンストまで辿り着けるだろう。レベルキャップの解放やらレベルダウンビルドやらあるらしいけれど。
波が、穏やかに陸を打ち付けた。
再び祈りを込めて手を合わせ、目をつむる。
『ユニークシナリオ「偽りの神へ、ただ純粋な敬意を」をクリアしました』
『海の欠片を入手しました』
その通知を受けて手のひらにあった盃のタトゥーが消え、かわりにだろうか、波になにかのアイテムが打ち上げられた。
「あー、真エンディング的な。あの人の墓を海辺に立てて祈る所までがユニークシナリオだったんですねぇ」
このお墓のご本人は海に消えてしまったようだが、その装備品をミレィさんが回収してくれていたらしい。備えられた装備品の高級感から、彼等がどれだけ輝かしい人生を投げ売って街を守ったのかが伝わってきてしまう。
「……………………まぁ、もらえるものはありがたくもらったほうがいいか」
拾い上げてみると、それは街の誰かが流したであろう灯籠だった。中に入っている盃に耳を澄ませば、波の音が聞こえてくる。
「私にもなにかあれば嬉しいんですけどね〜」
「……手伝ってくれてありがとう」
「もちろんですよぉ。シュテルメア君、面白いですから。気分が向いたときに声をかけてくださいな」
「おーけー」
波を掻き分けるように日が昇りきり、シャングリラ・フロンティアというゲームが激動を始める。
もう今からでは間に合わないということでミレィさんもこの海の先のどこかで行われているであろう戦いに想いを馳せ……
『シャングリラ・フロンティアをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します』
『現時刻を持ちまして、ユニークモンスター「天覇のジークヴルム」の討伐を確認いたしました』
『ワールドストーリー「シャングリラ・フロンティア」が進行しました』
其の後も何体もの始原とやらの活性化が報告されていく。
「さぁて、忙しくなりますよぉ……」
「検証班だっけ。がんばってね」
「シュテルメア君もクリオネちゃんにかまけ過ぎないようにしてくださいねー」
「ははは、無理な相談だな」
「でっすよねぇ」
星の海を旅する乙女は姿を表し、金色の龍といくつかの色龍は討たれた。
世界は進み、それとは関係のないところで少年も進む。
深海で、暇を弄ぶ蛸が笑みを浮かべた。
クリーオ・クティーラが無邪気になにかあったの?と尋ねる。
クターニッドは応えた。海はより深く、より美しくなると。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
あまり納得のいかない形ではありますが、一先ず本題へ入ることを優先し、シナリオクリアとなります。
ここからはこのユニークシナリオの補足というか追加情報です。
そもそも今回のユニークシナリオを考えるに当たって参考にしたのは、原作に出てくるメメント・モリのユニークシナリオです。
サンラクであれば3話ほどで完全攻略してしまうレベルのシナリオの答えに、ライブラリの力を借りて、ここまでの時間をかけてやっとクリアに至るということが肝だったわけです。
それにしては敵を強くしすぎた感じは正直あります。次回への反省点はそこかな。
また、「海の化身」の理性となっていた少女には主人公のパーティーメンバーとして活躍してもらう予定だったのですが、非プレイヤーは戦闘時に扱いにくいという理由で原作登場キャラと交代、未登場のまま死亡という形をとりました。
彼女と入れ替わり登場することになる原作キャラに関しては、まぁ……二章ほど先に出てくるので考察要素として楽しみにしていただけたらなと思います。
次章からはいよいよ深淵攻略です。少しでも面白い作品にできるよう頑張りますので……気長に読んでいただけたらなと思います。これからもよろしくお願いします。