雲一つないような真っ青な空の下。
浜から少し離れた見渡す限りの海に、一隻のボートが浮かんでいる。
ボートを漕いでいる人間は不在。
波に揺られる、風に揺られる。静かで落ち着いた空気が、そこにはあった。
バサリと少し離れた所で海面近くにいる魚を狙った鳥型のモンスターが舞い降りる。
「クォッッ、クォッ」
魚を捉えた鳥型モンスターが鳴き声を上げて喜び、なんとか逃げ出そうと暴れる魚により深く爪をたてた。
「クォ…………クォ?」
静かで、長閑な、海。
その海面に突如、大きな影が現れる。
そのことに鳥が疑問の声を上げてから一瞬の間もなく、それはその正体を表した。
「グゥ゙ゥゥ゙ゥォォォォォォォォォォォォォォ」
衝撃。
あまりにも巨大な生命体が海面を荒らしながら無数の尖った歯を持つ口を広げて顔を出した。
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやッ!!!!!!! 無理無理無理無理ッ」
……同時に、ギリギリでその生命体の歯から逃れたらしい人間が叫びながら海面に顔を出し、ボートの方へ必死に泳ぐ。
ギロチンのような口を思いっきり閉じたその生命体の腹に驚いたままだった鳥型モンスターが悲鳴を上げることすらできずに消えて、そんなことを歯牙にもかけないその生命体が、ギロリと捉えそこねた獲物である人間を睨みつける。
「グォォォ……」
「し、死ぬッ……!!」
荒れる海に飲まれそうになりながらもなんとかボートに辿り着いた青年が必死にボートを漕ぎ始めるが……その速度が彼を狙う巨大な生命体の移動速度よりも速くなることはない。
「や、やば……くっ……!!!」
体を少しよじるだけでそのボートに追い付いた巨大生命体は、今度こそ獲物を腹に収めようと口を開いた。
「モササウルスかなんかかよ……!! く……しゃあないなぁ! やってやるよ! 【エリア・サンダー】!」
覚悟を決めた人間が杖を振るい、周辺を帯電させ、近づく敵に痺れとダメージを与えるフィールドを発生させる。
「グゥォォォッ」
「やっべ」
ダメージなどない。
しかし、既に魔法の範囲内にいた巨大生命体が苛立つようにその巨体を揺らした。
海が荒れ、ボートが揺れる。
人間もなんとかボートにしがみつくも、魔法を使えるような状況ではない。
「……やっぱ仕方ないかぁ……っ! 【サンダーインパクト】!」
敵対生物を吹き飛ばすことで距離を取るための魔法を放ち、作り出した一瞬の間に水中呼吸用のポーションを使用した人間が海へと飛び込む。
後に続くように、巨大生命体も獲物を自分のフィールドに取り込んだことに勝利を確信して海に潜りなおした。
ゴポリ……と、口から空気が漏れる音が青年の鼓膜に届く。
地上の世界からは想像もつかないほどの暗く雄大な海中世界。
顔しか見えてなかったときですら巨大に見えたその生命体が、その全容を明らかにする。
あまりにも巨大な鮫型モンスター。
ただ、その威容に怯むことなく人間も杖を握り直した。
……彼らの死闘が、幕を開ける。
◆◆◆
────いやぁ、負けた負けた!!!
「くっそ〜〜〜〜〜〜、あんなん……まじかよ……!!」
海中の探索中、昔なんかの映画で見たことがあるモササウルスみたいな化け物に襲われた僕は、なすすべもなく捕食された。
「やっぱクターニッドはアレより強いのか? 強いんだろうなぁ……」
……先は長い。本当に。
例のクリオネちゃん(正式名称はクリーオー・クティーラっていうらしい)に捕食されるために、シャンフロを始めてからそこそこの時間が経つ。
ユニークシナリオは未だ見つけていないものの、レベルはそこそこのものになった。
それじゃあそろそろ海中戦闘の練習をしよう!ということで、最近はもっぱらイレベンタルの近くにある砂浜エリアでレベル上げをしている。
「海中戦闘用にアイテムを揃えて、魔法もできるだけ海の中でも使えそうな系統を覚えてるんだけどな……」
メインジョブは賢者、レベルが……82。
覚えてる魔法は主に雷と氷に関連してるモノだ。
「とりあえずもっかい行くかぁ〜」
少なくとも、海に残してきたボートの回収をしなくては。
あれ高いんだよ……ふっつーのボートのくせに。
「もういないといいけどなぁ、あの化け物」
海でレベル上げをするようになってから2週間。
あんな化け物にあったことはなかったけど……まぁ……奥の方まで行き過ぎたせいかな。水中戦闘がしたいだけなんだから、あそこまで行く必要はなかったな。
「あれ、いつか倒せるようになるのか……??レベルが今の倍ぐらいになって……スキルも強力になって……無理では……???」
ブツブツと得た情報を精査しながら、リスポン地点である宿屋の部屋を出た。
見慣れてきたイレベンタルの街をそそくさと歩き、モササウルス(仮称)との戦闘に敗北したことでボロボロになってしまった装備品達を直してもらいに、すっかり馴染みになってしまった鍛冶屋へと向かう。
うーん近い。やられてもすぐに挑み直せるように鍛冶屋と砂浜フィールドに行くための出入り口が近い宿屋を選んでるからね!!!!
「……こんにちわ~」
「ん? おっ、シュテルの兄ちゃんじゃねぇか! まぁた砂浜に行ったのか?」
The・異世界の鍛冶屋のおっちゃん、みたいな外見をした……コルトさんに装備を渡しながら、雑談に興じる。
この人とは前拠点にしていた街で懇意にしていた鍛冶屋さんに紹介してもらって……クエスト(ユニークではない)があって……なんか……そう。助けたりした仲である。まぁつまり仲が良いってことだけ分かれば良い。
「シュテルじゃなくてシュテルメアですってば……あ、装備の修理を」
「ぉお……ふむ?」
渡した装備をコルトさんが興味深そうに見ている。えっ怖い。なんかしたっけか。
「えっと、なにかありましたか?」
「あぁいや、どうしたらこんな壊れ方をするのかと思ってな。まるですげぇでかいモンスターと戦って食われたみたいだ」
すごいな鍛冶師。そこまで分かるんだ。
「あぁ、それ、なんか海中で鮫と恐竜が合体したみたいなでかいモンスターにやられたんですよ。……よく考えれば、あんなでっかいの、街の近くに住んでるなら有名だったりするかも」
感心しながら装備が壊されたときの流れを大雑把に説明すると、コルトさんは納得したような、疑問が増えたような、曖昧な顔をして首をひねった。
「あーーーーーーーーーーーー」
「……知ってるんですか?」
「ふむ……十中八九、シュテルの兄ちゃんが遭遇したのは、あのへんの海の守り神様だろうな。」
やっぱり有名なのか。
「だが……あの神様はも少し先の時期に行われる祭り最中に海岸にいらっしゃるんだ。もしかしたら遠くから流れてきた強えモンスターかもしんねぇが……外見は神様の方と一致してるな」
「この辺に住んでいるモ、神様だったんですね。……じゃあコルトさんはなぜ不思議そうな顔を?」
「本来なら、本来ならだが……よっぽどじゃないと神様は人間を襲わねぇし、人間と遭遇するような場所にもいらっしゃらないんだよ。それこそ祭りのとき以外はな」
「ふむ」
よっぽどだったら襲うのかよ……リアルでもそうだけど、よくそんな生物崇められるよな。今回は人間なんて蟻より小さいぐらいのサイズ感なのに……さすがファンタジーって感じだ。
「祭りは2週間後……なにか、異変でもあんのか……? それこそ神様が出てくるほどの……」
「……………なるほど」
ん………………?
えっ、あれ、これまさか、ユニークシナリオフラグ!?!?!?!?!?!?!?
クリオネちゃんへの第一歩かもしれないっっっっ!!!!!!!!!!!!
……巻で。