ヤバいヤバいヤバいヤバい。
え、やば。
し、死ぬ……!!
おい僕これ最強装備じゃないんだぞ海にこい海に!
まっずい。
おい一対一で死にかけてんの見えねぇのか可食部のない獲物に複数でかかってどうするエネルギー無駄にすんなよ餓死すんぞ
おいおいおいよいよいよい
駄目だコレ!!! 助けてミレィさーん!!!
なんだよ知ってたけど隠しエリアじゃねぇかココ助けの来ようもねぇよ死ぬ
詰んだかこれ無理だろコレ倒せるわけねぇ
あ、死ぬ!
おいやめろその逃げ先に雷のフィールド作るやつ駄目だろおい僕もやったことあるけど駄目だろそれは
どうしろと……!?
性格が悪い!!! コレがおこぼれ狙わなきゃならない水晶群蠍知ってたけど終わってるよ!!!
よっしゃおまえばーか!!!! 焦って先置き雷フィールドの位置ミスってやんの!!!! ばーかばーか!!!
「死、死ぬかと思った……」
さて改めまして、命からがら隠しエリア「雷蜥蜴の逃げ場」から逃げ出しましたシュテルメアです。いやまじでやばい。どれくらいヤバいって水晶群蠍の五分の一ぐらいやばい。
この隠しエリア、狭いのだ。そもそも水晶群蠍がエリアの端で死んだ瞬間にその死体と周囲の水晶を集団で回収するモンスター。こいつらはライトニングワイバーンの名の通り、足止めと速度に特化した生命体だ。
もうちょいかっこいい雷の使い方をしてほしい。意地汚すぎる。
「ちょっと深入りしたらコレだよ……」
回り込み、雷によるスタン、集団での狩り。まぁわりと自分がした覚えもあるソレは、そりゃあ僕の強化素材になるわけだと思わされる面倒臭さを誇っている。
僕に僕なら倒せないことはないとか宣ったコルトさんはさぞ節穴な目をしているに違いない。もしくはこのエリアに来たことがないか。後者かな。
「正直、一体ならまぁ倒せないことはない。海ならワンちゃん乱獲もできる。近くに海ないけど」
…………ということは?
「要するに、おこぼれを狙うライトニングワイバーンのおこぼれを狙うわけだ」
ものすごく弱肉強食を感じる。
もうちょい暗殺者よりのビルドにしてたら楽だったかな……それだと「海の化身」との戦いが戦いにもならなかったか。蹂躙だ。
もちろん例えば水晶群蠍を一体どうにかしてライトニングワイバーンの意識を反らせるならそれに越したことはないのだが、ソレはそれこそ普通にこのフィールドを攻略する五倍難しいことだろう。
「もしくは他のワイバーンが助太刀に入る暇もなく殺す」
こっちのほうが現実的だなーと思いながら装備を威力特化のアクセサリーに切り替え、隠しエリアへと一歩踏み込む。
「giiii……」
どうやら待ち伏せするほどの知能はないよう……いや、違うな。まだそこまでの脅威を僕に感じていないのだ。
小声で詠唱を始める。
「【ハイレート・スペル】【加算詠唱】雷が効くならバイオレンス・サンダー撃つんだけどな……」
ちなみにほぼダメージは入らなかった。辛い。
「まぁとりあえずこっちだ」
一番近くにいるライトニングワイバーンはまだこちらに警戒を向けていない。まぁあらぬ方向に手を向けているあたり当然なのだが……、違う、まだ奥に進めると思わせようとしているんだ。この出口に近い位置からでは逃げ切りが余裕だから。
なんて悪辣で性格の悪いAIだろうかと思うが、その周到さが今からお前を殺すのだ。
詠唱完了。さぁて、レベルが上がった恩恵を見るがいい。あわよくば濡れて雷を扱う器官に問題がでてくれると嬉しい!
「【スプラッシュ・バースト】ッ!」
水が炸裂し、ワイバーン種にしては華奢なその肉体に無数の傷がつく。
ライトニングワイバーンの悲痛の叫びに近くにいた2頭が助太刀しようと動き出す……が、それは織り込み済みだ。
インベントリから取り出した水瓶を二本、それぞれの足元に投げ、スキル「非流動性海水」を起動、足に纏わりついた水に固定され、非力なライトニングワイバーンが止まる。
「魔法待機解除! 【ウォーター・ジェット】ッ!」
陸上で使用することで、普段僕の推進力として活躍しているこの魔法は相手を吹き飛ばす効果を得る! いや違うな、元がこの効果なんだった。
「【加算詠唱】ッ!」
角度を調整することでライトニングワイバーンが近くにいない且つ出口に近い位置に【スプラッシュ・バースト】をくらって弱っている個体を吹き飛ばした。
【ウォーター・ジェット】の生み出す水はしばらくその場に残る。
さぁすることは分かってるだろうもちろん余裕だ、足元どけでなく身体に付着した大量の水を、
「非流動性海水、起動!!!」
固形化させる!
これ海水なのか……?という疑問はあるが、既にこれでも発動することは検証済み!
まぁそもそもそんなに長時間発動するわけでもなければある程度のSTRでレジストされるけども!! 一定以上にデカい深海のモンスター達にも何の意味もなさない!! 役に立たないスキルだが今この場では他の幾千のスキルよりも役に立つ……!
既に近くにいる二体は動き出して、コレで決めないとスキルのリキャストタイム的にも後がない、体力の少ないコイツラであればなんとか倒せると信じて魔法を放つ。
「【スプラッシュ・バースト】ッ!!」
直撃。
一際大きな叫び声を上げて、ライトニングワイバーンが倒れた。アクセサリーのAGI強化を受けてその骸へ走り寄り、ドロップアイテムを回収する。
後ろから仲間を悼み仇を取ろうとする咆哮が響く中、隠しエリア「雷蜥蜴の逃げ場」から脱出した。
◆
ドロップアイテム確認。
「お、あるじゃーん」
・雷蜥蜴の宝核
ライトニングワイバーンの雷を溜める器官。
常に雷を纏っており、雷属性を操る装備の素材として重宝される。
元が群れで生活する生物であるため、数が集まるほどその効果は相乗的に増す。
・雷蜥蜴の脚爪
・雷蜥蜴の鎧鱗
「へ、へぇー」
今の時刻から鑑みて、残りプレイ時間は2時間と少し。コルトさんの所に素材を持っていくことを加味しても後2時間はドロップアイテムを集められるわけだ。
そもそも目的の品が数あって嬉しいモノであることに加えて、雷を纏う近接プレイヤーに必須の爪と魔法職でも雷属性にそこそこの防御力を得られる装備の素材になる鱗、と。
水瓶の数の確認と【魔法待機】を終え、もう一度「雷蜥蜴の逃げ場」へと入る。
……乱獲タイムだ。
◆
1時間半が経過した。途中で効率良く倒せる魔法を見つけたことによりそこそこの速度でライトニングワイバーンを狩れるようになった僕のアイテムボックスには、今18個の宝核が入っている。その他のドロップアイテムもあわせて、これだけの数がアレばそこそこの金になる。嬉しい誤算だ。
「美味し〜〜」
チラ、と水晶群蠍の生息地に目をやる。
コチラには一切の視線をよこすことなく、彼等はそれぞれの生活を送っている。即ち……水晶を貪り食っている。
アレを数個獲得するだけで、どれだけの金になるのだろうか。一応アイテムボックスには初期の装備作成のさいに使ったつるはしが入っている。
最後に帰る前に一度だけでもチャレンジしても良いのではないか?と、悪魔が囁いている。天使ももしあれが手に入れば防具の強化もできると言っている。
「……………………………」
ゴクリと喉がなる。既に狩られることに慣れてしまったライトニングワイバーンはエリアのそこそこ奥まで来ても襲いかかってこない。臆病で、そして強欲な生物だ。僕が水晶群蠍に戦いを挑んだ瞬間にお溢れをさらいに来ようとするだろう。
「手札に一応、【瞬間転移】の使い捨て魔術媒体が一枚だけあるんだよな……」
作戦はこうだ。
水晶群蠍に戦いを挑む
↓
余力を残して負けそうなふりをする。
(この際、少しでも「雷蜥蜴の逃げ場」の方向へと進んでおく)
↓
ライトニングワイバーンが襲いかかってくる。
↓
【ウォーター・ジェット】などの位置移動魔法で自己退避とライトニングワイバーンが逃げられない距離まで誘導
↓
三つ巴の戦いのふりをする。
↓
負けたほうのドロップアイテムだけでも回収して逃げる。
(困ったら瞬間転移)
切実に成功率を可視化できる能力が欲しい。
ここまで得たアイテムを失うわけではない。装備の修理代も何度も死ななければ大した額にならない。
もう帰るつもりだった。
たくさんの目の前の甘い蜜を吸うための言い訳が頭をよぎり、まぁやらない方が後悔するだろうと僕は考えたわけだ。