「この素材、そもそも宝石を扱う職業に就いた職人必要なタイプだぜ」
「おおう……ちなみにツテは?」
コルトさんから新調した杖を受け取ってから1日。イムロンさんから予定通り「海の欠片」を使用した杖の作成を終えたという連絡を受け、現在はフィフティシアにある工房にてローエンアンヴァ琥珀晶を見てもらっていた。
ちなみに杖は受取済み。想定の数倍良い出来で、これから先の冒険が楽しみになるような代物である。神。
「プレイヤーでそのジョブにつけた知り合いは今のところいないわね、……じゃなかった、いないぜ」
口振り的にNPCの知り合いはいるんだろう。
紹介してもらうための金はある程度持っているが……
「いくら払えば紹介してくれます?」
「……紹介だけなら金はいらない、けど……今は高いレベルのツテがない」
「今は?」
「わ、俺が会いたい鍛冶師に会えた後はかなりの確率でツテを手に入れるだろうな」
…………旧大陸へ出戻ってきた理由だったっけ。
前回の時点でもう目処はついていると聞いていた。つまり、しばらく待てばワンちゃんあると。
売ってしまうか迷っていたのだが、チャンスが舞い込んでくるまでの間インベントリの肥やしとなっておいてもらうべきか。
「ならば、そのツテが手に入った段階で連絡をして頂けると嬉しいですケド……どうですか?」
ふむ、とイムロンさんが顎を撫でる仕草をした。今の結構良いロールプレイだ。無口な鍛冶師っぽい。
「んー、じゃあこうしましょう」
……もうロールプレイが剥がれた。
「わ、俺にその琥珀晶をしばらく預けてくれれば、宝石匠に依頼、出来上がったものをあんたに渡す」
「……ふむ」
正直、イムロンさんは信用して良い人間だとは思っているが……借りパクと言う概念がこの世にはある。もしそうなったときに僕にはこの人を裁く手段も取り返す手段もない。
「信じられないなら、契約書を書いてライブラリに預けておく形ならばどうだ?」
「!」
たしかに、いかに鍛冶という分野のトッププレイヤーとは言えシャンフロ最大手の情報取り扱いクランからの信用を失うリスクは大きいだろう。
コチラとしてもはやく、確実に強いアクセサリーが手元に入るのはありがたいことこの上ない。
「分かりました。ライブラリには迷惑をかけますが、そうしましょう」
契約書を書くにあたって、依頼に掛かった金額を領収書として引き渡すことで僕はマーニを払い、イムロンさんはアイテムを渡す、ということや手数料についても盛り込んでおいた。
いつになるかは分からないが、楽しみなものである。
◆
イムロンさんと別れた後、2本の短杖の試し打ちもかねてフィフティシアの港近くで少しだけ狩りをしたところ、ついにレベルが99にまで到達した。
これにより、かねてよりサブジョブ候補として考えていた「神秘」が手に入った。
……まぁ予想通り「魔術師」で、ソロプレイに向かないモノだったため、今まで通りメインジョブ賢者、サブジョブ司書のままになりそうである。
「魔術師」の条件はそのまま、魔術関連の行動が多ければ「魔術師」になるというものらしい。なにかまだ見つかっていないか有名じゃない神秘に海での行動が反映されるものがあるかもって期待してたんだけどねぇ。
「ままならないものだ」
魔術師の収入源として有名な使い捨て魔術媒体があまりにも便利かつ金策にちょうどよいせいもあり、テンプレ構成から卒業できる気はしない。
ステータスポイントも魔術師ソロ用にライブラリから出回ってるものに深海探索を通して足らない部分を補うようイジったもののままだ。
戦闘用にユニークジョブ的なものが手に入ればそりゃあもちろん嬉しいんだけどなー。
「ないものねだりはやめよう。どうせ使い捨て魔術媒体の収入がなくなったら厳しいわけだし」
思考を打ち切り、港で海を睨みつける武装した一団に合流する。
「ライブラリからのメンバー証明書は?」
「もちろん持ってる」
ミレィさんから「海の化身」討伐後に貰ったもので、よくわからない方法で個人を照会するらしい。
ゲーム内とは言え大昔の技法をここで使うことになるとは〜とはミレィさんの言葉だ。ほら、歴史で習ったろ。えーと、紙を重ねて合わせて一つの印鑑に出来たら正しいものだとかなんとか。
「よし。俺はキリキリ舞いだ。一週間よろしくな」
「シュテルメアです。よろしくお願いします」
ライブラリの顔に泥を塗るわけにも行かない。なるべく礼儀正しく頭を下げた。
ジークヴルム戦の直後、ほとんどのカンストプレイヤーが新大陸にいる今回、コチラにきたプレイヤーは今までの挑戦に比べてやはりこう……言いにくい事だがレベルが下がるらしい。まぁ僕もそのレベルが下がっている側な訳だが。
「はん、また雑魚かよ」
「シュテルメア〜? 聞いたことないね。ユニークシナリオクリアしたことないでしょ」
「え、まぁ、はい」
「雑魚乙、足引っ張んなよ」
「前衛に雑魚が来る寄りマシ」
「はぁ」
その影響だろうか。いや、間違いなくそうだろう。なんかめちゃくちゃ分かりやすく見下されている。
今でこそ普通の装備の僕だが、イムロンさん製の装備なんて使おうものならカツアゲされるのではないだろうか。魔法職って近接に寄られたら死ぬし。
「すみませんすみませんすみません」
端のほうではライブラリから派遣された監督だと聞いているプレイヤーが平謝りしている。た、たよりない……
「……アイツラのことでなにかあれば俺に頼ってくれ。これでもそこそこ強い方なんだ」
キリキリ舞いさんが申し訳無さそうにそう言い、全員集まったことを大声で言う。
最後の1人が来るまでの時間を彼と話して潰していた所、彼が神秘の剣と言うジョブに就いていることをはじめ、オススメの金策などいくつかの面白い情報を手に入れた。地上に戻ったら試すことにしよう。
「ふーーーー、遅くなってすみません……!」
「お、大丈夫ですよー」
なにやら疲れ果てた様子だが、最後の女性プレイヤーの到着でクターニッドに挑むためのパーティーが結成された。彼女の武器は……短剣、盗賊職かな。
パーティー名は不俱戴天。最初にクターニッドへと挑んだプレイヤー達のパーティー名で、ゲン担ぎ的に引き継がれ続けているらしい。いいね。そういう伝統はわりと嫌いじゃない。
「さぁ、船を出すぞ! 嵐なんざ怖くねぇ!」
「「おう!!」」
近くで屯していた船乗りらしき人達が僕等に出港を言い渡し、
『ユニークシナリオ「深淵の使徒を穿て」を開始しますか? はい、いいえ』
ウィンドウが目の前に表示される。
おぉ……ついに、クターニッドに……というか、クリオネちゃんに挑めるらしい。ついに……?
「きた……、きたきたきたきた……!!」
ついに、ついにだ!!
抑えていた感情が爆発しそうになるのを抑えるため、ギュッと拳を握りしめる。
長く長く、待ち侘びた。とはいえ想定していたよりは遥かに早い挑戦だ。一緒に挑戦するプレイヤー達への不安はさておき、様々な期待に胸が踊る。
「オフコースってやつだ!」
そう言いながら承諾のボタンを押し、一歩足を踏み出す。
……深淵へと向かう船へ、乗り込んだ。
嵐の中、汽笛がなり、船がゆっくりと海原に進み始める。
「待ってろクリオネちゃん……!!!!!!」
でも正直ユニークシナリオの前提条件とはいえ、嵐の中船を出すのはまぁまぁアホだと思う。死ぬでしょ。
行くぜ、本題だ!!!!!!!!!!!!!!!!