船に揺られている。
元々嵐の中の出港だったが、船が出てからだんだんと当たりはより不穏な空気を纏い始めていた。
「雰囲気が変わったタイミングで幽霊船に襲われて、敵を一定数倒してから全員が幽霊船に乗り込むとユニークシナリオです。気を引き締めましょう!」
ライブラリの監視プレイヤーが注意喚起をし、多くのプレイヤーが戦闘に備え始める。
コレ、僕は海に入って備えた方が楽なのでは……?と思ったが、いつもの戦法では多数に囲まれると厳しいことは事実。大人しくキリキリ舞いさんに前衛をお願いして、雷系統の魔法を撃っておくことにした。
そう、そうだ、忘れるところだった!
クターニッド、フィールド効果で地上と同じように戦えるらしい!!!!
僕がクターニッドとの戦いに備えて深海での戦闘訓練をしていた話を聞いたミレィさんが腹を抱えて笑いながら教えてくれたのだ。あのときの徒労感は酷かった。次の日ログインするのを躊躇したレベルだ。
と、いうわけで今回は最初のうちは雷特化魔法職として動こうと思っている。
「カツアゲにあいたくないし……」
海中であれば勝てると思うが、それでもできるだけ「海の欠片」との戦いで得たユニーク武器は隠しておきたいところだ。
詳しく聞いた所、海の中での常識を持ち込むことも可能ならしく、魚人のNPCは当然のように泳いでいたとか。
「まぁ水が張り巡らされたフィールドってだけで効果を発揮してくれるスキルは多い。他のユニークシナリオに比べれば僕も動きやすいはずだ」
と、信じたい。一ヶ月毎日毎日魚や亀と格闘していた時間が無駄だったなんて言われた日には、僕の魂は消滅していることだろう。……まぁわりと楽しかったし別に良いんだけれども。
そ、そう、それに、ユニークシナリオも結局ちゃんと見つけたし。
「────来たぞ!!!」
誰にともなく言い訳をしていると、突然キリキリ舞いさんが声を上げて剣を抜いた。
指差された先、クライング・インスマン号とか言う名前の幽霊船が海から這い出るように現れている。
「撃て!」
海を荒らし出てきた船の影響により激しく揺れる船の上、訓練された乗組員達が幽霊船へ必死に大砲を撃ち始めた。
幽霊船には多数の異形の半魚人が乗っている。射程圏内までもう少し、後3、2、1……詠唱開始!
「【加算詠唱】ッ!!」
キリキリ舞いさんが、僕を守りやすい位置に陣取ってくれている。謎の安心感がすごい。
「落ち着け! 皆、落ち着くんだ……!!!」
異形共の余りの姿にパニックになった船員達を最初から仕切っていた長らしき青年が落ち着かせようと必死に声を張り上げ、プレイヤー達はその非常感に乗せられることなくユニークシナリオEXへの興奮をあらわにしている。
既に射程圏内。が、魔法を船ではなくモンスターに当てる必要がある。あえてゆっくりと詠唱をすることでその当たりの調整をしつつ、変え忘れていたアクセサリーをソロ用のセットから威力重視のものへと変えた。
先駆け一発! パチン、と指をならし、魔法待機に入れてあった【エリア・サンダー】を幽霊船上に出す、これで条件達成! そら喰らえ、
「【ライトニング】ッ!!」
先頭の半魚人に狙いをつけた雷撃は何にも邪魔されることなくその頭部を貫き、後ろにいた数体をスタンさせる。
「新しい杖とは言え、ちょっと出来過ぎだなー」
雑魚敵とはいえ、ここまでの火力になるとは。
・共鳴の撃雷杖
ライトニングワイバーンの宝核を元に作られた、弓状に曲がった形の短杖。
雷の強化に特化した杖であり、近くに雷属性の魔法やフィールドがある場合、特殊スキル「共鳴」によりさらにその威力を上昇させる。
あまりにも【エリア・サンダー】との相性が良い。
ただ、毎回この手順を踏むのは手間になってしまうため、どうにかこうにかアイテムでこの効果を起こせないかを検討中である。
それこそ雷そのものみたいなアクセサリーがあれば、勝手に全ての雷魔法に「共鳴」が発動すると思ったのだが……
「おぉ……中々やるな」
「良い威力だねぇ」
チンピラだと思っていたプレイヤーに褒められている。……ま、見た目で中身まで決めつけるなという話かもしれない。
「よっしゃ俺達も続くぞ!!」
「撃て、撃て!!!」
まずは数を減らそうということで、遠距離持ちが奮闘する。船を乗り移って来れそうな距離までもう少し、お、来……!
「んー、まだこれでいいか【二の太刀いらず】」
船間距離数メートル。飛び越えようとした半魚人の頭をキリキリ舞いさんの剣がなにもないかのように通り過ぎ、ポリゴンへと変えた。
え、えぇ……あの人、もしかしてめちゃくちゃ強いのでは……??
「近接組、頼むぞー」
普段と変わらない口調で、他のプレイヤー達に声を掛ける。
「やるねぇ」
「つっよ」
「ま、キリキリ舞いって準トッププレイヤーの中ではそこそこ有名だもんな」
「なんだっけ、信者に神秘の剣の必要アイテム集めさせてるんだっけか」
「それガセだろ?」
「さすがにカローシスUQには知名度でも実力でも劣るんだろうけどな」
「それはしゃーないあの人睡眠の削り方がこえーもん」
緩いなー、と思うが、話しながらも彼等は船の揺れに対応し、次々と乗り込んでくる半魚人に攻撃を当てている。一方僕は船の縁を掴んでギリギリ立っている所だ。船上より海中の方が戦いやすいの、僕だけかコレ。
「【魔法待機】……【エリア・サンダー】」
準備完了。まぁ「共鳴」効果は今のレベルならそこまで必須というわけではないし、やばいと思ったときまで使うつもりはない。
「……【詠唱短縮】」
「魔法職はずーっと詠唱詠唱で大変そうだな、【ポイントソード】」
前線で戦っていたキリキリ舞いさんが、僕の近くまで敵が来ているのを確認して下がってきた。申し訳ないばかりだ。
「まぁその取捨選択が面白みですけどね〜【エリア・サンダー】」
「ほぉー、よっと、【ダーティー・ソード】」
僕の言葉に納得したように頷いたキリキリ舞いさんが両手でブロードソードを振り、【エリア・サンダー】により動きを止められた半魚人達を一息に殲滅する。
「そろそろ俺達も幽霊船に向かおう」
味方のプレイヤーは半数が既に幽霊船へ向かっている。
剣と雷が切り開いた道を抜け、少し苦戦しているプレイヤー達を助けながら幽霊船へ走る。
「ぐ……走りながら詠唱、きっつい……【ライトニング】ッ!」
幽霊船までの道のりにいるモンスター達を「共鳴」の乗った【ライトニング】が貫き、倒しきれずともスタンを誘発させる。
「ナイスッ!」
幽霊船に飛び移り、周囲を見渡す。船に残っている最後の1人がこちらに乗り移った。そして、
(おいよいよい、まじかよ、時間が……)
一瞬、時が止まった。
幽霊船の真横に水柱と共に巨大に過ぎる「蛸足」が出現、絡みつき始める。
コレは……まじか??
足だけで海の化身よりも遥かにデカいことが分かるレベル……僕がこれまで触れてきたシャングリラ・フロンティアはその尾の先でしかなかったとでも言うのか?
「シッ、第一関門クリアだ!!!」
「行くぜ行くぜ行くぜルルイアス!」
「俺達もユニークモンスターキラーになるんだ!!!」
プレイヤー達が雄叫びを上げ、クライング・インスマン号がギチギチと締め上げられて悲鳴を上げた。揺れる、揺れる、揺れる。ゆっくりと深海へと取り込まれていく。
『ユニークシナリオEX「人よ深淵を見仰げ、世界は反転る」を開始します。』
そして何もかもがひっくり返る。