そういったものが苦手な方は2話ほど飛ばしていただければ普通の話に戻ると思われます。
目を覚ました。
聞いていた通りクターニッドが作ったルルイアスと言う深海を反転させた世界だ。空があるべき場所に目を向ければ、海底が広がっている。
「おぉ……」
幻想的な景色に目を取られ……ない。周囲に人影がないことを確認、さっきまで封印していた【ウォーター・ジェット】を使うことで海底へと飛び上がる。
「この魔法の使い勝手はあまり変わらないのか……!」
都合の良い部分ばかりだ。正直、僕にとっては深海よりも陸上よりもこの反転フィールドが戦いやすいと思う。ありがとうクターニッド。ありがとう反転世界。
推進力が切れてゆっくりと上へと落ちていく中、当たりの建物を見渡す。ど真ん中に城、四隅に塔。聞いていた通りの作りだ。
「今すぐ行きます……!!!!」
ラッキー! ここは恐らく南西寄り。つまり一番近い塔には……クリオネちゃんがいる!!!
「【詠唱短縮】っ!」
地に足がついた瞬間、駆け出す。この落ちる速度が緩和されるのだけは微妙に面倒くさいな。いつものと違って地上がある分、魔法の反動で勢いよく地面に刺さるなんてことは避けなければ。
「【ウォーター・ジェット】ッ!!」
塔の中には一般モンスターは入ってこれないと聞いている。
逃げ切れば……もう数分で、クリオネちゃんに会える!!!
クリオネちゃんで埋まる思考をなんとか横に置き、寄ってきたモンスターに【魔法待機】に入れてあった【エリア・サンダー】を打ち込むことでその進行を妨害した。
「………………?」
雷を受けてスタンしたモンスター群。そのほとんどが先程も見た半魚人とゾンビの間みたいなモンスターなのだが……一匹、いや、一頭、細長い魚のようなモンスターに目を惹かれた。
いやこれ、クリオネちゃんより優先するべきことか?? 捨て置け、前に進め、そう告げる理性を本能が凌駕し、そのモンスターの種族名が見えた。
・テッポウリュウ
テッポウリュウテッポウリュウ、見覚えあるな……なんだ? 思い出し……おも、おも、おもいだ……あっ、えっ?
「海中移動促進筒の素材落とすやつじゃん!!!!!!」
狩らねば!!!!!!!
寄越せ!!!お前のその筒みたいな器官!!!!
「【加算詠唱】ッ!!!」
スタンは解けた。
とはいえ幸いそれほど速度は早くない上、ここではモンスターに水中での常識が適用されることを利用できるとライブラリのプレイヤーからは聞いている。
小回りを聞かせることでそこそこスピードがついてしまったモンスター達を避け、稼いだ時間で詠唱を終わらせる。
「【ライトニング】ッ!!」
テッポウリュウを雷が撃ち、周囲の半魚人の動きも少しだけ阻害する。
【ライトニング】は長く続かない魔法、だがまだスタンが残っている!
「【詠唱短縮】、さぁこれでも「共鳴」が起きることは確認済み! 【エリア・サンダー】ッ!!」
スタンが残っていることにより共鳴の雷短杖の効果発動、【エリア・サンダー】はその威力と拘束性を強め、詠唱を短縮したことによるデメリットを潰すことができる。
「【魔法待機】……!」
スタンが解け次第、勢いよく水を噴射して突進を行ってくることは目に見えている。スタン解除まで後五秒、体感で解ける直前まで真っ直ぐ走って逃げて、ギリで避ける!
「おいわりと強いな!!! 【ライトニング】!」
魔法待機完了、そりゃああの神アクセサリーの素材なんて入手は難しいに決まっていると自分を納得させ、さらなる魔法の詠唱へ。
「【ハイレート・スペル】…………!!!! あっぶ……!!!ねぇ!!【加算詠唱】」
タイミングは完璧。カスリこそしたもののテッポウリュウは突進を外したことでそこそこ離れた位置まで慣性に流された、周囲の半魚人共は範囲魔法で止まった!!!
パチン、と指を鳴らして【ライトニング】を発動、二度目の突進の鼻先に叩き込んだことでその動きは硬い!
「よしよしよし、これで死ぬべきだろ、【雷轟の矢】!!」
弓形の短杖、明らかに僕がこの魔法を愛用していることに反応して出来たこの杖は、隠し効果として「矢」系の魔法に補正が入る!!!
「過去最高威力のを喰らえ!」
弓を引くような構えから弾き出された【雷轟の矢】がテッポウリュウへと突き刺さる。俺は偉いから明らかに水を吸収、放出している器官を避けた。
「出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろっ!!」
テッポウリュウが弾けて大量のポリゴンへと変換される。
ドロップアイテムは……
「!!!!!」
…………余談だが僕はこの手のガチャは割と当てるタイプだ。大当たりじゃなくて無難当たりを、だけれども。
◆
ゆっくりと四方にある塔の一つ、その前へと降り立つ。
既に近くにあった家のベッドでリスポーン地点を設定した。この塔から歩いて30秒のところだ。
近くにプレイヤーはいない。誰にも僕の目的を邪魔されずに済みそうである。
塔の中には複雑な作りなどなく、ただ最上部の部屋でクリオネちゃんが座して僕を待っている。
待ち侘びた存在が目の前にいる。その興奮を抑えることなどできず、僕は最大限の笑顔と共にその塔の内部へと足を踏み込む。多分普通の人が今の僕を見たら気持ち悪いと思うことだろう。仕方ない。
美しく、半透明の女性の姿をした上半身に、明らかに異形の下半身。その頭部が8つに分かれる様は想像しただけで気分が高揚していく。
誰かが天女と称したのも分かる、この美しさだ。他になんと例えようか……!!!
「!」
「!!!!!」
もちろん気付かれた。目が合う。そして僕は叫ぶ。本能も理性も叫べと言っている。
「クリオネちゃん、いや、クリーオ・クティーラさん!!!!! 貴女に会うために、貴女に会いたいがために僕は!!! この世界を生きている!!!!! はじめましてッ!!!! ぐぁ……ッ!!」
そして僕を殺して食べてください!!!!!!
その願いを叫ぶ暇もなく、その触手に身体を貫かれた僕は死んだ。
…………食べて……もらえなかっただと……???