「あ、あ、あー、聞こえますか〜?」
「海の化身」が深海から消え去ったのを確認した勇魚が一番最初にしたことは、海のエキスパートに連絡を取ることだった。
彼女は極限定的ではあるものの征服人形に対してそこそこの権限を持っており……命令することこそできないものの、連絡、つまりお願いが可能なのだ。
「
「深海での異変の調査をお願いしたくて!」
「…………疑問定期:海の化身の件でお間違いありませんか?」
「そうです!! 倒した次世代原始人類種の名は……シュテルメア!」
「反論:既に化身のエネルギーは消滅が確認されていますの。必要性を余り感じませんわ」
「クターニッドや狂える大群青に影響を与える可能性があると思われます!」
「……………了承:致し方ありませんわね」
それから数日。海の中での活動に優れる彼女は、あるていどの距離を保って渦中のプレイヤーを監視していた。
◆
どこぞのクターニッドの初討伐者がその一週間の内にリアルでのイベントをこなしたように、ルルイアスは広いものの意外とすることが少ない。
装備の修理や強化ができず、買い足しのようなこともできない以上……彼等に許されたのは退屈することか戦うことのみだ。
既にシュテルメア達がルルイアスに取り込まれてから3日。未だ封将はバーシュド=メルナクルの一体しか倒せていない。ちなみにこの封将は近接攻撃を幼体を本体に纏わりつかせることで無効化するが、遠距離からのシュテルメアによる雷撃を受けて力尽きた。
「私は母の仇を討たねばならん!」
そう意気込むのは二日目に合流した唯一のNPC、ここまで僕達を連れてきてくれた船長だ。名前は知らない。船長と呼べばいいらしい。
「船長、クターニッドに挑むのは4日後だ。それまではある程度大人しくしておいてくれ」
「えぇ、えぇ……ですが皆様……少し覇気にかけるのでは?」
「まぁな……思ってたより封将が強かった。アレは初見で倒して当然だって言うんだから最強格のプレイヤーはすげぇぜ」
「ですねー」
彼以外にも臥竜点睛さんと言う人が率いる例の悪いのか良いのか分からない人達のパーティーとも既に合流している。
とりあえず適当に頷く。
・本日16回目
避けた、避けた、避けた。
最近は結構な確率で食べてくれるようになったものの、「好きです!!!」と叫ぶと何故か毎回塔の外に放り出される。
放り出された。
「…………うん、シュテルメア、アンタはどうするべきだと思う?」
キリキリ舞いさんが僕にそう聞くまでの長い間に流すべきかツッコむべきかの葛藤が見えるの、ちょっと面白いな。
「はっ、そんな殺されまくりの雑魚に何ができんだよ」
挑んでは殺され、挑んでは殺されるを続けたお陰で、臥竜点睛さんのパーティーから僕への評価は鰻上りだ。悪い方向にだが。これでは鰻下りである。
「まぁ……なんとかなるようになるしかないのでは?」
そもそも敵のモンスターが強すぎて勝てません。という問題に対する答えはただ一つ、レベルを上げるなり装備を変えるなりの対応策を出すことだけだ。それが難しいこのルルイアスでは協力して自分達の動きの質を上げるぐらいしかできない。
「おーおー、呑気な奴だ。こんな奴らと来るぐらいなら俺達も新大陸に行くべきだった!」
「今、新大陸じゃ征服人形とか言うかわいいNPCが出てきて騒ぎになってるらしいっすねー、なんでもプレイヤーと契約することで一緒に戦ってくれるとかなんとか」
「お、俺もそのスクショ見たぜ、まじアイドル」
「……………」
キリキリ舞いさんが僕にだけ顔を向けて目を回すような仕草をした。ちなみに当の僕はかわいいとかいうクリオネちゃんにしか当てはまらない単語を聞いてもう一回挑みに行きたくなっている。
「ま、考えても仕方ないのは間違いない。だいたい全員の戦法も分かってきた所だ。さっき決めた明日の集合時間に来れるメンバーでアンモーン・オトゥー厶をぶっ倒しに行くぞ」
「分かりました」
「おっけーおっけー分かったよ」
臥竜点睛さんが面倒くさそうに同意する。ここに来たときはあんなにやる気だったのに、なにがそんなに不満なんだろうか……?
「じゃ、僕はもう一回行ってきますね」
「お、おう……まぁ本当なら先にあのクリオネをぶっ倒したいところだが……」
「。」
「……シュテルメアがすげー顔するからな。最後にしておいてやろう」
「それは異論ねぇよ。この雑魚のヤバさは見たら分かる。もはやちょっとおもろい。雑魚だけど」
すげー顔ってなんだろうか。ていうか雑魚のヤバさってなんだ。
・それはそれとして17回目
喰われたい。故に弾き飛ばされないために無言……!
ちなみに無言でツッコむと場合によっては喰われるし場合によっては普段より強めに殺される。モーションが異なる理由は不明だ。
待ってちょっとクリオネちゃん美しすぎる半透明ってなんだよ最高かよぐわー
「……おはよう」
「あのさぁ……」
アホを見る目でシラミ魚が声を上げる。
ていうかこの人達なんで僕を奇人扱いするときだけ一致団結するんだ。僕はクリオネちゃんに関わらないときは基本普通の人間だよ。
「そこが怖いんだよ」
「うん。」
「なんで〜〜〜〜〜」
「肯定:リリエルの言っていたマジヤバイ人類と言うのを感じましたわ」
「…………!!?!?!?」
知らない人間がいつのまにか建物に入ってきていた事に、全員が驚きつつも反射で武器を構えている。
僕も共鳴の雷短杖を構え、逆手をいつでも【魔法待機】を解放できるように指をならす直前で止めた。
「謝意:申し遅れました
フユネ=77を名乗った不審者は、着ているアイドル衣装とドレスを合成したようなロングスカートドレスの裾を軽くつまんで貴族の女性のような美しい会釈をした。あまりにも洗練した所作と丁寧な言葉遣いに、僕を含めた全員の戦意が少し解ける。
「こんにちは……?」
僕の監視……??
いやそれよりも、征服人形、征服人形だ。先程臥竜点睛さん達が話していた新大陸に表れた征服人形、だよな……?
ここは区分的には旧大陸であり、その上深海だ。
ただ、球体関節や微妙に機械的な眼球、アイドル的な衣装と美しい外見を持ち合わせている彼女は確かにその特徴に合致している。
「補足:
少し顎を上げ、挑発するような表情で彼女が言う。
「おう。まぁ事情は分からねぇが助かるのは確かだ。どうせシュテルメアのアホは俺には理解不能だしな」
「誰がアホだ」
「おっ、敬語が取れるのは良いことだな」
うーん、腹立つけど良い人だキリキリ舞いさん。
「感謝:認めて頂けると助かりますわ。少なくとも今のところ
肩を竦める。
僕を監視する理由……まぁ多分「海の化身」関連じゃなかろうか。他に思い当たるものはないし、あのユニークシナリオによって深海のモンスターの強さは全体的に上がったと聞いている。それが意図的か偶然の産物化を見に来た……ってのがだいたいの答えだろうね。
「おい! その雑魚より俺と契約しろよ!! フユネ……だったか? 俺のほうがソイツより強いぜ!」
臥竜点睛さんの名誉のために言っておくが、このセリフを言ったのは彼ではない。彼のパーティーメンバーだ。
1人目が言った途端、我こそがと言わんばかりに他のメンバーも自分と契約しろと主張しはじめた。そもそも僕と比べられても……コレ、危険人物だと思われてるだけでしょ僕。さっきもマジヤバイ人類とか言われてた。
「否定:既定値を満たしていない方と契約するつもりは一切ございませんの」
バッサリだ。
「は?」
「あ? その雑魚より俺等が適してないってか?」
「否定:シュテルメア様とて既定値は満たしておりませんわ。貴方様よりかは多少マシと言ったところですわね」
なんで僕までディスられてるの……あとこの人アイドルのわりに口調強くない? ファンサとかしなくて良いのだろうか。
「あぁ!?」
「お前……死にたいらしいなァ!」
「NPCはリスポーンできないんだろ?消滅させてやるよ」
「……おいおいおい、待てよお前ら」
一触即発、固まりきった空気を前にキリキリ舞いさんが両手を上げつつ戦いが始まりそうな空気を潰す。
「少なくともここで俺達が険悪になるのは良いことじゃない。この征服人形は多分、お前らが知ってる征服人形とは違うんだよ。ジークヴルムとの決戦の跡地に現れたやつのスクショにこの見た目のやつはいなかったし、そもそもここは旧大陸だ」
「肯定:
「チッ……クソが」
盛大な舌打ちをしたあと、最初にフユネ……77?さんに声をかけた青年が臥竜点睛さんとそのパーティーメンバーを引き連れて家を出た。
「あー、くっそ、なんもかんもうまくいかねぇな」
「ですね。とりあえずこの征服人形が戦力になるのかで話は変わりますけど」
「ぇ? お、おー、シュテルメア、ここでクリーオ・クティーラに挑みに行かないぐらいの分別はあるんだな」
「僕のこと何だとおもってるんです!?!?」
「アホ」
…………大変不服な話である。
深い青色の瞳に黒髪ロングをお姫様括りにした清楚系美人さん!?!?!?!?!?!?