「おいとっとと火力出せ、距離見間違えんなよ雑魚!」
「言われなくともわかってますよ……っと……まぁやること変わんないけど【ハイレート・スペル】」
既に【魔法待機】には【ウォーター・ジェット】を設定済み。杖を振ればいつでも高速移動が可能だ。どうせ僕の元に大した攻撃は来ないが、それでもこの安心感があれば詠唱の長い魔法を使える!
「【加算詠唱】ッ!」
詠唱を進めながら、後ろへと下がる。【ウォーター・ジェット】の反動移動でちょうど人型アンモナイトの目の前に出れるぐらいの調整……完了。こんなもんでしょ。
「さぁさぁお喰らいなすって」
深海の短杖を振ることで魔法待機を解除。前へと吹き飛ばされながら弓を引くように魔法を構え、気づいた臥竜点睛さんが屈むことで斜線を開けた、ッシ
「【雷轟の矢】ッ!」
放つ。雷の矢は既に張ってあった【エリア・サンダー】に共鳴して威力を増し、至近距離から人型アンモナイトを貫く。
「いったろ!」
「肯定:体力の全損を確認」
「っしゃ〜〜〜〜ぐえっ」
ガッツポーズしようとした耐性のまま勢い余って、ポリゴンと化したアンモナイトを通過して地面に激突した。死ぬ。やばい、
「よーしよくやった。良い威力だ。移動に魔法を使った意図は分からんが」
「距離管理しながら戦うより一気に詰めて倒した方が楽だからですよ」
「……なるほどな」
2バウンド目に突入する前に臥竜点睛さんが首根っこを掴んで止めてくれた。何だこの人も面倒見の良いタイプか。
「肯定:無理をせずとも倒せたと思いますの。意味はともかく必要はありまして?」
「楽しい。必要でしょう」
「……………沈黙:理解不能ですの」
肩を竦める。今一緒に戦っている人達は皆僕に変人だと言うが、僕の癖に肩を竦めることが追加された時点で君達も同類だと思うよ。
「で、これからどうする?」
「一旦拠点に戻るべきじゃないか? 自分はこの封将から手に入ったカトラスがユニークシナリオで必要になると聞いた」
「ああ、あの船長君関連?」
「そうなるな」
その当たりの話しは薄っすらとミレィさんから聞いている。ミレィさんのときはもっとなよなよした青年の恨みをはらすためだったそうだが……今回は、
「母親の仇どうのってやつですね」
母親がどうしてこんなところに来たのかは謎なのだが、なにか理由があったのだろうか。
「毎回同じ封将に同じ様な因縁があるの、ゲームとは言えどうしてもクターニッドの介入を想像しちまうな。それこそあの船長は俺達を監視するための存在だとか」
……言いたいことは分からないでもない。要するに、これまで見てきた「反転」の出力や範囲が敵ボスの能力として出てくるには規模が大きすぎるのだ。それで敵がどこまでのことをできるのかが不透明になっている。
これと本気で正面衝突しようと思ったらそれこそ対ジークヴルムよりも多数のプレイヤーが必要になるのではないだろうか? それともこのレベルを打ち倒す開拓者にこそトッププレイヤーの名は相応しいのか?
「……今までの攻略でそんな話はなかったんだろ? じゃあ考えすぎだ。そもそもそのユニークシナリオの話はライブラリが担当するって聞いてる。……興味もないし俺はモンスター狩ってくるぞ」
「じゃあ僕はクリオネちゃんのところに行きます」
「
「………………。」
ゲンナリみたいな顔してるシロミ魚さんの顔ちょっとおもろいと思ってたら、臥竜点睛さんも似たようなことを考えていたらしい。わざわざ指さしてゲラゲラ笑っている。
「まぁまぁ、俺は一緒に船長に会いに行くからよ」
「ありがとうございます……」
泣きそうな顔やめてほしいな……。腹筋にくる。
・29回目
おい頼むよ君も常識人でいてくれみたいな引き留めようとする顔を無視して、クリオネちゃんに会いに来た。いや、逢いに来た。
今更だが、毎日毎日こんなにもアタックして鬱陶しがられていないのだろうか?
触手を避ける。なぜか今回はフェイントが薄い。
【魔法待機】は既にセット済み。水中であることを過分に使って、塔から飛び出す。
「これで効果範囲外……! 【ウォーター・ジェット】ッ!」
深海の短杖の効果で今までで最高レベルまで強められたこの魔法は、僕の身体を強く押す。吹き飛ばされるかのようにクリオネちゃんの顔を掠めて背後をとった。
「水流打」起動! 一瞬でいい、正面からの攻撃によりコチラへの注意を逸らす!
さぁ言え!!!
「クリオネちゃん!!!! 大好きですっ!!!!!!」
何十回目の叫びだろうか? だが今回はすぐさま触手で塔の外まで投げ飛ばせるような状況じゃない、だから二言目に続けられる!
「僕を食べてください!!」
言い切った。杖をしまい、手を広げて、ただその時を待つ。
「…………ッ!」
ハッとしたような表情、8つに開く半透明の美しい頭部、迫りくるその光景はあまりにも素晴らしく、
「…………
「いやバカにしすぎでしょ」
バッとリスポーン地点のベッドから起き上がる。どうやらシロミ魚達はうまくやったようで、母の仇への復讐からは開放されたらしい。表情こそまだ少し暗いものの、僕達が出発する前よりかは晴れ晴れとしているように見える。
「おいその優しい目線やめろ」
「同意:」
「突然常識人のフリをするんじゃねぇ雑魚、お前には無理だ」
「いやその……私は君の味方だよ」
うむ。なんでこんなバカにされてんだほんとに。
味方だと言う船長もしっかり僕から目を逸らしている。
「まぁいいです。それはそれとして……アンモナイト、うまく倒せて良かったですね」
「……………おう。あと半分だ。時間もある。なんとかなるんじゃねぇか?」
「意外と連携がうまくいったのもデカいな、雑魚だと思ってたが意外と使えた」
「シュテルメア君、ミレィ先輩から聞いていた通り強くはあるな、問題はそこ以外だが」
「反論:
あんなに尖っていた、いや、今もそこそこ尖っている臥竜点睛さんは今ではほぼキリキリ舞いさんになってしまった。二人して頼りがいのあるアニキ分だ。
あとナナさん、褒められ待ちしてる当たり少しずつ萌えキャラになってきている気がする。……昨日調べたらそもそも征服人形ってジャンル自体がプレイヤーからはそういう扱いをされているみたいだったけど。
「まぁナナさんが来てくれて助かってますよ。ありがとう」
「肯定:脳髄は存在しているようでなによりですの」
「チョロいな」
無限に話が逸れていくのを引き留めるため、ぱん、とキリキリ舞いさんが手を叩いて僕等を黙らせてから話し始める。
「さて、じゃあとりあえず先に次の標的……名前何だった?」
「バーシュド=メルナクルとアンモーン・オトゥームを倒したんだったか。じゃあスレイビール・ダーゴーン&ハイドーラ……長いな。スレイとハイドラだ。」
「肯定:クターニッドの眷属の中でも特筆して難度の高い存在ですわね」
「……シロミ魚さん、どんな能力か聞いてます?」
「スキルも含めた物理攻撃の無効化だったって聞いたなー」
ふむ、つまり僕がメインアタッカーになるわけだ。
ここまでの戦闘もそうだが、常に近接組に守られながら魔法をぶっ放すだけでは戦闘の勘が鈍ってしまいそうである。
「おう。まぁソイツに挑むタイミングを決めようぜ」
「……俺は明日の夜が一番都合が良い」
「自分もそれで問題ない」
「肯定:
「それはすげー」
ホントかよとは思うが、それは言わないお約束だろうな。
よしじゃあそれでいこう、と完全にこのパーティーのリーダーらしくなってきたキリキリ舞いさんが改めて話を締めて、この場はお開きとなった。
◆
「クソッ……ぜってぇ殺してやる……」
「おいトンカチトウギ、会話は聞こえてんのか?」
呼ばれた盗賊風の装備をした男がぐっと親指を立てる。
「奴ら、やっと一体封将を倒した所だ。明日の夜に次に挑むらしい。どうする? 襲うか?」
「……………いや、辞めとこう。レッドネームになりたくねぇだろ?」
「だな」
「でもよぉ〜〜〜〜、」
夜が更け、深淵はより深い暗闇に浸される。