「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」
……と、いうわけで、コルトさんからクエストを受けた。
クエストタイトルは『不穏調査』。……ちなみに非ユニーク。
「はぁ……………」
もう何度目かも分からない大きな溜息を吐き出す。
これが……これがユニークシナリオであれば……!!!今頃僕はライブラリに新規ユニークの導入を売っぱらってクターニッドに挑めていたかもしれないというのに……!!!
一瞬とはいえ期待させられただけに落胆も大きい。
もうシャンフロを始めてから1ヶ月である。ゲームセンスのなさのせいか、あまりにも長い期間をクリオネちゃんに関係のないところで費やしている。
「いやいやいや、まだ分からない、まだ分からない。まだ調査だ。これから祭り関連でなにか大きなユニークシナリオになるかもしれない。いや、なるに違いない」
なんとか自分に言い聞かせることで心を落ち着かせ、状況を整理する。
あの後、装備を修理してもらいながらコルトさんと話したところ、いくつか追加で情報を入手した。
曰く、その祭りは「海の化身」と呼ばれる土地神を祀ったものであるとか。
曰く、祭りの日にはあの砂浜に周辺の街から人々が集まり、「海の化身」へと祈りをこめて歌い踊るとか。
曰く、「海の化身」は五十年程前に突然この地へとあらわれ、当時この辺りの海を荒らしていたヌシを殺したことで崇められるようになったとか。
「……………ふむ」
うん。
…………いやこれ……言うほど神様か??
コルトさんの普段は余程のことがない限り人を襲わないって言葉も怪しくなってきた。
その、言いにくいんですケド……人間があのモンスターの縄張りに入る機会が少ないってだけでは……??
「一応確認した通り、このクエストを受注したような記録はライブラリのウィキにはなかったし……挑む必要はあるかなぁ」
意味はある。というか、クターニッドが最初に倒されてからもう2ヶ月は経っている以上、クターニッドに挑む権利にそれほど大した価値があるとは思っていない。
どこぞの馬の骨に売る気はなくとも、ある程度以上の価値のある情報であればユニークシナリオである必要すらなく交換してくれる……はずだ。
未だにほとんどのプレイヤーがユニークモンスターに挑めていない以上、怪しいだろと言われればまぁそうなんだけれども。
「おぉ……?」
意識してからイレベンタルの街を歩けば確かに、祭りの準備をするような、なにかを期待するような、そんな表情が街全体に漂っていた。
「〜〜〜♪」
気分が高揚してきて、なんとなく鼻歌を歌いながらのんびりと街を歩く。
「そこの機嫌良さげなあんちゃん! ウチの焼き鳥食べてかないかい!?」
「お、僕ですか? ん〜、いいですね~、2本ほど貰っておきます」
「まいど!」
さて、買い食いをしながらにはなるが、これからの行動を決めなくては。
クエスト『不穏調査』はあのモンスターこと「海の化身」の近辺調査だ。
まだ海に浮かんでいるであろうボートを回収して……うーむ。ボートで海中生物の異変が調査出来るか?本当に???
必要なのは生身での海中の調査か、ボートでの近海全域の調査か……
「ま、ボート取りに行きながら考えようか」
◆◆◆
その後、海に置き去りにされていたボートを回収。しばし周辺を潜って探索するも、「海の化身」はおろか、いつもよく戦っている魚系のモンスターに遭遇することすらなかった。
現在は先程よりは海岸に近い位置に停めたボートの上で釣り竿を握っている。
「間違いなくアイツの仕業だろうけど……で、どうしようか」
魚系モンスターがかかるのを待ちながら、一人ポツリと呟く。
……釣りは良い。
海で狩りをするようになった当初にコルトさんから釣り上げた魚系モンスターを魔法で狩る手法を勧められたのだが、これが思いの外僕の性格に合った。
それからずっと、戦闘練習とは関係のないレベル上げでは釣りを行っている。
そこそこ上げた幸運ステータスの恩恵に預かり、魚がかかった。
「よいしょおっ」
グイーっと釣り上げれば、あーーーーー鮭。
「魔法待機解除〜〜〜【ライトニングランス】」
【加算詠唱】や【魔法待機】などの効果により威力を高められた状態で置いてあった雷の槍が針に引っかかったままの魚を貫き、体力を削り切る。
「【加算詠唱】、【魔法待機】、まぁ………いつも通りこれ でいいか。【ライトニングランス】」
ちなみに、こんな小さなボートでこの狩り方をする場合、魚系モンスターを釣り上げてから、もう一度海へと帰っていくまでの一瞬の間に仕留める必要がある。
失敗した場合は釣り直しか海中戦闘。
……だいぶ非効率的だな……。
「慣れたら結構いけるから別に良いんだけどさ……ほっ」
倒した鮭の素材を回収し、釣りを再開した僕は、また思考を「海の化身」へと向ける。
まず前提として、先程遭遇したときにはいた「海の化身」はもう既に近海にはいない。つまり……この辺りがアイツの縄張りで、それに入った生物を全て狩っているわけではないらしい。
いや、もっと前の段階から考えるべきかもしれない。
例えば、なぜ祭りのときにだけアイツはあらわれるのかとか。
何か理由があるに違いないだろうが、「海の化身」自体を調査することと、祭りを調査すること、どちらが問題の核心へとより近づけるのかを決めかねているのだ。
「よいしょっと」
まぁこのクエストの期限は祭りの前日までなわけだし。急がず焦らずレベル上げと並行して探す感じで問題ない、と、思う。多分。
鮭。
待機していた魔法を打つ。倒した。ドロップアイテム回収。
一応コルトさんに確認したところ、「海の化身」はここからさらに少し沖に進んだところの海底に定住しているらしい。
正直、この依頼は隠密にスキルを振っているようなプレイヤーのほうが圧倒的に向いていると思うんだが。
……隠密ができて海中で活動もできるプレイヤーなんてほとんどいないか。ある程度海に慣れた僕のほうが適任……だよな……? ……不安しかない。
「ま、明日行ってみるしかないかな」
今日は一回殺されたあとにもう一度ここまで来た分、かなり時間を食ってしまっている。
もう数回釣り上げたら切り上げることにしよう。
「ん?」
釣り竿に明らかに先程までより重い引き。
見えている魚影から察するに、さすがに1日に2回「海の化身」を引いたわけではないらしいが……
「ライトニングランスじゃ力不足感だろうな……っ!魔法待機解除!」
海面を荒らして現れた、僕の2倍以上もの大きさを誇る……ん?
「亀……」
自分よりデカい亀、見た目怖すぎでしょ……
海中生物は雷に弱いことが多い。
この亀も例外ではなかったようで、ライトニングランスが直撃した結果、悲鳴と雄叫びの中間のような声を上げた。
「ググガァァァァッ!」
「【サンダーインパクト】ッ!!」
吹き飛ばし系の魔法により、距離を放した。
ソロの魔法職に小さなボート上での戦闘はキツイ。
毎度毎度大物を釣り上げる度に潜るのは正直めんどくさいが、死んでもう一度ここまでボートを取りに来るよりはよっぽどマシだ。
水中呼吸用ポーション(高い)を飲み、足装備をボート上用のモノから海中戦闘用のモノに切り替え、海へと飛び込む。
『もういっぱつ……【エリア・サンダー】ッ』
ゴボゴボと息を吐き出す音が鼓膜に届く中、範囲の広い魔法を周囲に展開することで時間を稼いだ。
なんとか体勢を整え、亀……一応本名はワンダーシータートルというらしい……を見据える。
ちなみに鮭はシー・サーペントだ。そのままやね。
『【詠唱短縮】』
少なくともこの亀は遠距離攻撃を中心に戦うわけではないことが確定した。
これなら……
『【ウォーター・ジェット】』
【エリア・サンダー】が切れた瞬間にギュン、と水を切る音が聞こえそうな速度でコチラへと向かってくる亀から、水を噴射する魔法を前方へと放つことで妨害と反動による移動を行い、距離を稼ぐ。
『グォ゙ォ……ッ』
『詠唱短縮を使っても移動距離はほぼ変わらず威力だけが下がるのは検証済み……!【加算詠唱】!』
動きを止めるために【エリア・サンダー】や【サンダーインパクト】を通常威力で放っていたのが、【詠唱短縮】込みの【ウォーター・ジェット】に変わることにより、ダメージ重視の魔法を打つ時間が捻出される。
『海中での戦闘は慣れっこなんだよ!【雷轟の矢】ッ!』
杖を弓に見立て虚空を引けば、雷の矢がバチバチと音を立てる。
『行けッ』
放つ。
『グ……ガァァァァァッ!!!!』
迫る雷矢に対抗するように吠える亀だが、その威力が落ちることはない。
『ゴゥ゙ッ……』
甲羅に覆われていない頭を狙われ、悶える亀に対し、既に次の魔法の準備が始まる。
『……【加算詠唱】』
シュテルメアというプレイヤーは、海中でのソロによる魔法戦闘に特化している。
彼が使用可能な魔法のほとんどは海中での戦闘に向いたものであるが、頻繁に使用するのはさらにその中でソロでの戦闘に向いた数個。
理由は簡単。
大抵の魔法プレイヤーが魔導書を片手にもつことで詠唱をカンニングにより行っているのだが、彼にそんな余裕はもちろんないからである
【エリア・サンダー】、【サンダーインパクト】、【ウォーター・ジェット】、【雷轟の矢】。
これらの魔法の詠唱を暗記し、リキャストタイムとキャストタイムを組み合わせることにより、大物相手でもなんとか戦闘を成立させているのだ。
これにより大抵の戦闘が長引くが……それはソロプレイヤーの宿命というものである。
『【エリア・サンダー】……思ってたより雷轟の矢のダメージがデカい。リキャストタイム長いとはいえ、あと3回くらい繰り返せば死ぬか?』
『ぐ……ガッ……!』
人間の言葉を解さない亀……ワンダーシータートルが、釣り上げられた当初よりも細くなった苦悶の声を上げた。