「点呼……いや、名前言ってけ。キリキリ舞い」
「シロミ魚」
「:フユネ=77」
「臥竜点睛」
「アルケーノ・コーレリウス」
「シュテルメア」
「はい集まったなー」
…………????
「なんかはじめて聞く名前いませんでした?」
「ソイツは船長だ。トラウマから本名隠してたんだけど昨日吹っ切った」
なるほど。
というかそもそとこのユニークシナリオには抽選や厳しい条件を乗り越えた1パーティーのフルメンバーである15人で来ていたはずだが、結局6人で攻略することになっていることについてはもう良いのだろうか。
「……ま、初回パーティーも少人数でクリアしたってきいてる。自分達にも不可能ではないはずだ」
というシロミ魚さんの意見には同意するが、不安は残る。
例えばクターニッドが挑戦者数に応じて敵が強くなるタイプのボスであった場合などがあまりにも厳しすぎて考えたくもないのだが……まぁ考えたくないわけだし。忘れよう。
集合地点が封塔の近くにある家だったこともあり、既に今回の標的はすぐ目の前にいる。
「作戦は?」
「物理無効だ。シュテルメアとシロミ魚に火力張ってもらうしかないだろ」
「だな」
「おい作戦の要、ちゃんとクリーオーノルマは達成してきたか?」
「まだ18回です」
「そりゃ少ない」
失礼な! …………え???
肯定が入った。むしろ怖い。
「説明:慣れましたの」
「俺も慣れた」
自分も、俺も、私も、と口々に同意が入る。腹立たしい限りである。このやり取りももはや何回目かも分からないのだが……。
ただ、これぐらいに打ち解けて来たことは喜ぶべきかもしれない。最初は……というか今も半分ぐらいどうなることかと不安に思っているが、ちゃんと連携を取れるようになった今の僕達ならば、クターニッドも倒せるのではないかという希望が少しだけ見える。
「なぁおい雑魚共」
「……?」
僕以外は反応していない。皆自分だけは雑魚ではないと思っているのだろう。その心意気や自信は素晴らしい。
「俺は元のパーティーメンバーとはもう組めねぇ。いつのまにかフレンドも切られてるしな」
「………………」
「はい。まぁ……少し申し訳なさはありますよ」
「だから、もし今回のクターニッド戦をクリアしたらパーティー組んで活動しねぇか?」
うーん完全に死亡フラグにしか聞こえない発現だ。あとその発言、おい雑魚共の後に続くものじゃなさすぎる。
それはそれとして、パーティーを組むというのはかなりありがたい提案ではある、あるのだが……クリオネちゃんに会えて、クターニッドに挑み終わった先の自分というのがそもそもいまいち想像できないという問題がある。
やはりあの退屈な日々に帰るのだろうか? それともミレィさんに見せてもらったこの愉快な世界を惰性で眺め続けるのか?
……答えは出ない。クターニッドを倒せば、なにか見つかるのだろうか。
「否定:当機(ワタシ)は深海探索ユニットですから、地上の探索をしている暇はありませんの」
「……そうか。他の奴らは?」
「俺はアリだな。より高みを目指すんだろ?」
キリキリ舞いさんの問いかけにあたぼうよ、と臥竜点睛さんが応えた。
惰性で眺め続けるのであればその選択肢もありだろうか。それこそ彼の言ったようにプレイヤーの頂点に挑むような? ……それにしてはスキルや装備の構成が海中での活動に特化しすぎてるけれど。
「考察の道を捨てるつもりは、一切なかった……が、こういうのも悪くないと自分は思う」
「私は母の墓を訪ねてからですね」
更生組の言葉だ。いつのまにか、ライブラリで問題児だったはずの彼は仲間とかそういう言葉を知って、復讐に囚われていたらしい彼は世界を見つめ直した。
「僕は……?」
少しだけ首を傾げる。退屈な日々に帰ると言っても、クリオネちゃんに出会う前の自分などもう既に想像もつかないのだ。
「おうシュテルメア、お前の意思は大事だぜ。お前がアホ なお陰で俺達は今ここにいるんだ」
「くくく……最初にお前に目をつけた俺の判断は正しかったってわけだ」
改めて考える。僕はこれからどうするべきだろうか?
「……保留かな。正直クリオネちゃんに会えなくなった自分が想像つかなくて」
「おお。そうか。まぁ、帰る頃には……見つかってるだろ」
臥竜点睛さんのその言葉は、何故か適当に言っているのではないと思わされるような力が籠もっていた。
「……自分は発狂しているに一票だな」
「否定:燃え尽きているのでは?」
「ありそ〜」
ガハハと笑う声。彼等の会話は右から左へと流れていく。
辞めると思っていた。僕はクリオネちゃんに会って食べてもらえたら満足だろうと思っていた。ただ、今回限りの味方だと思っていた人達は僕の中で、僕が思っていたよりも大きくなっていたらしい。本当にいつのまにか、って感じだ。
「ま、行こうぜ」
散歩に行くようなテンションでキリキリ舞いさんがそう言って歩き始めた。皆それぞれの武器を携え、呼応するように歩を進める。
「勝つぞ」
おう、と掛け声が深淵に響き、対面した2体の半魚人が同時に咆哮をあげた。
「シュテルメア、一発目にデカいの頼むぞ」
「──────【加算詠唱】」
任せろ、とグッドサインを出し、詠唱開始。先程の間に【魔法待機】やアクセサリーの選択は終わらせてある。今回も威力特化。移動速度や柔軟性は見方がいる今の僕には必要ない。
「さぁて、お眼鏡に見合った威力はださないとな【雷轟の矢】」
直前に魔法待機を解除し、【エリア・サンダー】を発動、「共鳴」効果もあわせ、僕に今できる最大に近い威力で魔法が発現した。
炸裂した魔法に半魚人達が悲鳴のような声を上げて、スタンを引いたのを見たキリキリ舞いさんが即座に【ダーティー・ソード】を使う。
「よっしゃ良いぞ続けッ!」
爆発が2体を分断し、事前の取り決め通りにそれぞれにキリキリ舞いさんと臥竜点睛さんが足止めに向かう。僕はよりやばそうな方へ攻撃、シロミ魚さんはもう片方のサポート、ナナさんと船長は遊撃だ。
攻撃を受け止めきった臥竜点睛さんの体力がゴリッと削れ、シロミ魚さんがルルイアスで魚を倒したときに落とす回復アイテムから錬金したポーションを投げた。
「アイテムに頼らない回復が必要じゃないかと自分は思う!!!」
「ヒーラーにはフレンド切られたんだよ!」
アイテムは数に限りがあるものだが、昨日臥竜点睛さんとキリキリ舞いさんと3人でひたすら魚を狩ったお陰で(その間ひたすら、本当にひたすら錬金し続けるシロミ魚は流石にちょっと可哀想だった)かなりの余裕ができている。
「なんとかなりそうでなにより……! 【加算詠唱】!」
デカい攻撃でさっさと片方倒してしまった方が良さそうだ。
他はともかく、前衛二人が危なくなる度に無理をすることになるナナさんと船長が不味い。彼等はリスポーンできないのだから。
そうならないためにも、今まで彼等には隠してきたより高い威力の魔法を解禁する……!
◆
はじまった戦いを見つめて、深淵のクターニッドが微笑む。
ココに来た開拓者のほとんどが必死に戦い、見上げた先の空を望む中で……ただ一人だけはこのルルイアスを、そしてクターニッドとクリーオー・クティーラを目的として生きている。
その生き方は暇を潰すために開拓者を反転世界へ招き入れているクターニッドにとって、衝撃的かつ好意的なものだったのだ。
そんなクターニッドに、挑戦者が忍び寄っていた。
俱に天を戴かずとも良いと言い聞かせてきた。
道は違えど心は同じなのだと。
…………彼だけは違うのかもしれない。