「今!?!?」
「肯定:当機(ワタシ)の能力は基本的に深海の探索に特化していますの」
「……!」
「
「それで契約、と」
そうだ、なぜ思考の中に彼女が深海探索ユニットだと言う発言を含めなかったのだろうか。きっとミレィさんならばそこまで含めて思考、提案できていたはず。特に練習や勉強をすることなく彼女に追いつけるとは思っていないけれど、やはりまだまだ差は大きいらしい。
「肯定:他に手はない、と考えます」
ただ、この提案にはいくつか疑問点が残る。
「……………なぜ僕なんですか? 僕よりも強い人がこの場には複数いるはずです」
それに、彼女がそこまでする理由も不明だ。
調べた所によると征服人形は1体につき1人の開拓者としか契約できないらしい。その上契約を既に行ったプレイヤーも数人しかいないらしかった。つまり……そう、彼女側のメリットが見当たらない。
「反論:
「なるほどね」
「また、その……なんでもありませんわ。というわけで、どうですの?」
彼女の発言に不可解な点はない。後はそこまでする理由だが……ま、後で確認すれば良いでしょ。
「おーけー、じゃあ……契約しましょう」
「肯定:不束か者ですが……」
「なんか違うなそれ」
「:再征服計画……フェーズ1省略。フェーズ2、部分的に省略。フェーズ3移行、「
「? はい」
「網膜情報、登録……契約候補者シュテルメア、掌を前に掲げてください」
カシャリ、と一昔前のカメラのシャッターのような音がなり、網膜の情報が登録されたらしい。このゲーム網膜の情報とかあったんだ……。
次の指示に従って手のひらを差し出せば、ナナさんの手のひらと重ね合わせられて、多分これは指紋かな、指先に青い機械的なラインが走っている。
「指紋及び掌紋情報、登録……契約候補者シュテルメア、最後に腕を出して頂いて……失礼しますの」
ガブリ、と出した腕を噛まれる。うわ、ちょっとHP減った。
ナナさんの口部に僕の血らしきポリゴンが吸われていく。
「血液情報、登録。「
「まぁがんばりますよ……これからよろしくお願いします」
「肯定:ではクターニッドの元へ向かいましょう」
「!」
危ない危ない、一瞬忘れかけていた。そのための契約だったなそういえば。
軽く打ち合わせすると、アイドルステージみたいな武装を使用申請することで一度にココにいる6人を移動させる準備が可能らしい。すぐさま申請してもらいつつ、動力を一任された僕は【ウォーター・ジェット】を待機させるための詠唱をしながら他のメンバーの方を振り向くと、そこには……
「ダウト」
「はい残念ー」
「クソが!」
「ん? あー、終わったか?」
「………………………………………」
こ、こいつら……トランプしてやがる……!!!!!!!
しかも僕知ってるぞダウトってあれだろクッソ沼るゲームだろ!!! 時間かかる前提じゃんか……!!
「……魔法待機完了。あのさぁ」
言いたいことは多々あるが、とりあえず最初に出てきた疑問を口にしておく。
あとちゃんと詠唱終わるまで文句言わなかった僕が偉すぎる。癖づいているだけとも言う。なにかある度に詠唱中断してるようではソロでの魔法戦闘などできはしない。
「……僕だけが今流行りの征服人形コンテンツに抜け駆けすることに不満はないんですか?」
「……???」
全員に何いってんだコイツ、みたいな顔をされている。ナナさんも含めて。いやナナさんはともかく他は……
「あ、あー、お前そりゃ、ソイツの態度見てたらなぁ?? お前に勝てると思ったウチの元パーティーメンバーは………その……正直アホだ」
「お前は知らないだろうけど、お前がいないときのナナさん、すげー辛辣なんだぞ。なるほどお前目的かとはなる」
「ま、そもそも監視がどうのってのは自分達も聞いてたしな。むしろなぜ契約しないのかと思っていた」
「私もです。そもそも深海探索ユニットの時点で、でしょう」
「………………………………そっか……?」
ナナさんの方を振り向く。そっぽを向かれた。
「な???」
「いや、な?って言われましても」
まぁいい。それは一旦横に置こう。
なんだかんだ言いながら僕等が契約を終えた瞬間に装備の準備を始めていた優秀な仲間達が円陣になって集まり、手のひらを重ねる。
「……………ん、んー、あー、まぁ俺か。俺でいいな?」
しばらくの沈黙の後に発されたキリキリ舞いさんの確認にニッコリと笑って頷けば、彼は安心したように大きく息を吐いた。
「正直俺よりシュテルメアの方が適任だと思うが……まぁいいか」
「この雑魚は渦中ってだけだ。リーダーにはアンタの方が適任だと思う。俺はパーティー崩壊の前科持ちだしな」
「肯定:……異論ありませんわ」
しばらく抵抗したあと、諦めたようにニヤリと笑って、俺達はまぁよくわからんパーティーだが、それでも仲間だと彼は言う。
「正直、俺達はこのゲームの中でもトップクラスの異色パーティーだろう。能力は頂点に立ってる連中には劣る。そもそもパーティーで戦うことを考えずにレベルを上げた奴ばっかだ。だが……いや、だからこそ」
船長がぎゅっと形見である細剣の柄を握りしめ、
臥竜点睛が最近まで仲間だった者たちに思いを馳せ、
シロミ魚が自身が認める者達を見渡し、
フユネ=77が深海の短杖を見て溜息をついた。
「俺達なら勝てると思ってる。余裕とは言えねぇが」
シュテルメアは封塔がある方向に向けて全力の愛を送った。
キリキリ舞いは……久しぶりに見た気すらする暗い夜空を見つめてニヤリと笑う。
「臥竜点睛には悪いが……まとめてぶっ飛ばしてやろうぜ」
おう、という5人分の呼応の声が笑い混じりに響いた。
全員が、クターニッドが戦っている方向を見つめる。何色かの光が輝き、魔法陣から伸びる触手が地上を襲っている。まさに世界が終わるときのような光景、巨大生物による蹂躙だ。
魔法の準備は完了。いつのまにか随分と僕を信用してくれていたらしいナナさんが申請とやらを始める。
「お任せください」
「信じますよ……あー、相棒?」
「うふふ……
「おい砂糖吐きそうなんだが」
「シュテルメアの雑魚、なんか好かれそうなことしてたか?」
「……まぁ一途ではあると言えるのではないかと私は思います」
「それナナさんに対してじゃないんだが」
上部が空いた……オープンカーの潜水艦バージョンのような……それ潜水艦としての意味をなしていないのでは?みたいな機械が展開され、パーティーメンバー達が押し合いながら乗り込む。イレギュラーな展開ではあるが、全員これから始まるステージがいくつも上の戦いに昂っているのだろう。頼もしい限りだと思いつつ、僕は前方、ナナさんの隣に立った。
「よっしゃクターニッドをぶっ飛ばしにいくぞ!!!」
「武者震いがするぜ……やっと本気装備の出番だな」
「安全運転で頼む」
「まっかせろ、【ウォーター・ジェット】ッ!!!」
サムズアップ、魔法を解放する。魔法を強化する効果でもあるのだろうか、いつもよりも数段上の推進力で吹き飛ばされるように潜水艦が飛び出した。さぁ行くぜ行くぜ行くぜ、クリオネちゃんとの時間を奪われた恨みをはらしてやるよ……ッ!!!!!
征服人形は人と共にあるための存在ですが、深海の調査を担当する彼女にはそれが難しい、というわけですね。
どいつもこいつもシュテルメア本人じゃなくて深海を生業にしている人間に惹かれている。今はまだ。