「しんど〜〜〜〜〜〜〜〜」
青色の聖杯が光り、性別反転の効果が消える。
くっそ、今解除して欲しいのは魔法無効とダメージ反転なんだよな……!!!
「ポーションを投げつけろ! できれば色調反転の緑聖杯を壊したい!! 脳がバグるぞアレ!」
「了承:シュテルメア様、サポートいたしますわ!」
うーんでも僕そんなステータス高くないんだよな。ナナさんはどちらかと言うと臥竜点睛さんの防御に徹するべきだと思う。いや別に良いんだけども。
色調反転、スキル含めた物理無効の聖杯には数発のダメージが入っている。デカい攻撃を当てればどちらかは壊せるはず。
「クソッ、ヘイトが分散してんな……触手の攻撃が雑魚共に向かい始めたか」
現在効いている聖杯は魔法無効、ダメージ反転、ステータス反転だ。僕はコレに向けて敏捷と耐久を調整したお陰で何の変化もないが、ステータス反転は前衛組にはかなりしんどいらしい。ヘイト云々も恐らくそのせいだろう。
「【加算詠唱】……!!」
避けながらの詠唱には慣れている。ダメージ反転と魔法無効の聖杯が【加算詠唱】と【ハイレート・スペル】により長くなった高威力魔法の詠唱時間内にもう1度光ることに賭けて、事前に準備を始めておく。
【魔法待機】を移動に割り振っていなければそれも含めて聖杯が光った後の行動に繋げることができただろうけど、次の形態が厳しくなるのは目に見えてる。
「まぁそうなるよなぁ……!!」
僕の行動を見てニヤリと笑ったキリキリ舞いさんも「宿儀更新」により新たな(恐らく高威力の)魔法を儀礼剣へとつけた。その儀礼刀というべき神秘を宿す刀が赤く輝き、誰もがそちらに目を向けた。
詠唱はまだ【ハイレート・スペル】の途中、僕に向けられた触手を船長がカトラスを駆使して防いでくれた、聖杯が光る、藍色と黄色!
「ダメージ解禁、代わりに物理が無効だ!!!」
攻撃、支援を半ば諦める形で観測と指示役に徹するシロミ魚さんが叫んだ、おいでもつまりこれ
「おい要するに全部無効じゃねぇか覚えてろよバカ共!!!!!」
「だっ、黙れよクソリーダー……! アンタが悪いんだッ!」
「そうよ! そのカス共に靡いて裏切ったのはそっちでしょう!!」
「…………うるせぇな」
そのカス共が必死に戦っていて、アンタラは地面に転がっているって現実を噛みしめろと言いかけた口をなんとか抑えて詠唱を続ける。
「あっ、まっず……!」
「肯定:否定:黄緑色が光りますわッ!」
右からの触手、配置を見て後ろに下がって躱す、クターニッドから遠い後ろからは攻撃なし、正面からの触手に対して深海の短杖を振るうことで後方へ待機させていた【ウォーター・ジェット】空へ飛び上がるような軌道で避ける、あーーーーー「海の化身」戦の海中移動促進筒が欲しい!!!
「魔法解禁!!!! 次は多分色調反転だ!!!」
死にかけた船長をなんとかナナさんが助けたらしい。銃が通らない今、ナナさんが深海探索用のブースターを駆使することで救助役として動き回っている。
空へと飛び出して自由落下する僕の元へ飛びついたナナさんがお姫様抱っこの要領で僕を抱えたまま着陸、触手を避けるように僕を投げ飛ばした、
「おい助け方の差はなんとかなんねぇのか!」
「なりませんわ!」
「私、投げられたぞ!?」
僕もだよ!!!!!!!
泣き言も文句も言ってる暇はない、魔法、ダメージ、どちらも通常な今の内に攻撃を通さねば! 狙いは色調反転、既に色調反転の聖杯を光らせようとモーションに入っているあの聖杯を壊せば、少しの間聖杯はつかえない!
まだ投げ飛ばされた勢いは消えていない、が、問題ない!!! 「非流動性海水」により一旦手放した深海の短杖をその場に固定、弓を引くような動作で狙いをつける!
「キリキリ舞いさんッ!」
「まぁかせろい!」
儀礼刀から居合の要領で雷撃が放出され、同時に僕の魔法が顕現する。
「【雷轟の矢】ッ!!!」
杖の効果である「共鳴」による追い風を得て、加速した雷は緑色の聖杯と……さらにその先、黄色の聖杯を貫く……ッ!!
「色調反転破壊! 物理無効も壊れかけだ!!」
「シッ!! 【詠唱短縮】ッ!!」
シロミ魚さんからの報告にガッツポーズをしながらも既に次の【魔法待機】へと詠唱を進め、思考はさらに次の展開へと移していく。
まだ浮かんでいた深海の短杖を掴み、キリキリ舞いさんが放出した雷により触手の動きが止まってる時間を利用してナナさんと合流。
先程のやり取りを見るに臥竜点睛さんの元パーティーメンバーは、ユニークシナリオやトッププレイヤーに強く執着しているようだ。彼に説得の時間を作れば手数を増やせるかもしれない。
その時間を稼ぐのに必要な手札こそナナさんとシロミ魚さんだ。
色調反転は消えた、僕等の脳に聖杯の色と効果がインプットされてきたこともあって、ここまで観測に徹してくれていた今ならシロミ魚さんにももう一仕事頼めるはず……!
「……よし待機完了。ナナさん、聖杯を破壊する必要はない、ダメージ反転以外は無視して僕等で本体の気を引きましょう」
「疑問提起:現状の有利を一旦破棄するほどの意図はありまして?」
「あの剣士と回復役をコチラに引き込みたいです。シロミ魚さんが大量に作ってくれていたとは言え突然の戦闘開始なせいで、ポーションが足りません」
「…………了承:その旨は既に?」
「今からです! 同意が欲しかったので!!」
ナナさんが前方での立ち回りを始めたのを確認した上で、臥竜点睛さんの元へ駆け寄る。
「臥竜点睛さん、パーティーメンバーの方の説得をお願いしたいです!」
「………………なぜ?」
ナナさんと入れ替わり後方へと下がりながら回復薬を飲む臥竜点睛さんが訝しげな表情を隠そうともせずに聞き返す。
……まぁ当然だ。彼等は僕にとってプラスになるようなことをしたことすらないわけだし……今、結束できている僕達に不安材料を混ぜるのは良いことだとは思えない。
が、必要なことだ。ナナさんへの説明と同様の内容で説得を試みる。
「──と、言う感じですが、どうですか?」
「…………おーけー、分かったよ雑魚……いや、シュテルメア。あのアホ共をなんとかコチラに引き込んで見せる」
「よっし、お願いします! 無理ならばせめてこの決戦場から退けて頂けると!」
「……まかせろ」
ニヤリと笑った臥竜点睛さんが剣士、盗賊、聖職者の元へと向かっていく。なにやら罵詈雑言が聞こえた気がするが、そちらに意識を割く余裕はない、シロミ魚さんと合流し直し、アイテム残量の確認を……!
「シュテルメア君、自分のアイテムはケチってきた分余裕がある! 彼等を引き込む時間稼ぎだろ、半分使い切る勢いで行く!」
「…………ッ!!!! 頼みます!」
話す前に伝わっていたらしい。敵対したプレイヤー達を無能と断じていた彼はもういない。盤面もしっかりと把握できているのが伝わってくる。……この言い方は後方師匠面にも程があるか?
そのへんの色々はさておき。
クターニッドとの戦いについての話はざっくりとしか聞けていないが、この後のモンスターを大量に召喚するフェーズとそれらを吸収した最終形態のフェーズで攻略完了らしい。
次のフェーズに頭数を増やすことで対応、さらにアイテム数と魔力を節約することで最終局面に僕とキリキリ舞いさんの最大火力をぶつける……!
「キリキリ舞いさん、話は聞いていたと思いますが、時間稼ぎターンです。ある程度苦戦しつつ聖杯を削りましょう」
「分かった、理想は?」
「参戦した彼等の一撃で最後の聖杯が壊れる、ですかね」
「んっはっは、お前悪役が似合いそうだな」
小悪党の間違いでしょ、と否定しつつ触手を避け、今の魔力残量を確認する。後5割。……魔力回復薬の残数を含めて……最終形態まで大火力はあまり打たない方が良さそうだ。
……封将からの連戦であることと頭数の不足が重く響いている。が、負けるつもりはない。
魔法による攻撃手段を主とする者が多いこのパーティーに、黄緑の聖杯があまりにキツイ。クリオネちゃんの聖杯に攻撃しなければならないことと仲間達を天秤にかけ、僕は強く杖を握り直した。
主人公は、
・触手を避ける
・聖杯の把握
・詠唱
・先の展開への思考
を同時に行っているためかなりマルチタスクの上手い人物に見えますが、実際のところ体と脳に染み付いた反射で詠唱と触手の回避を行っているため、「慣れ」が強いというのが正解です。
毎日毎日毎日毎日クリーオー・クティーラーの触手攻撃避けてたので。