不倶戴天   作:雨傘なななな

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倶に天を戴けど 其の三

 数分、いや、数十分、触手を回避しながら聖杯に攻撃をしていただろうか。

 既に殆どの聖杯は壊すことに成功したが、未だ臥竜点睛さんのパーティーメンバー達は参戦していない。ナナさんやシロミ魚さん、それに船長の奮闘により戦況は安定している。

 が、この戦いを通して僕等が思ったことは総じてたった一つ。

 

「いやつっっっっよ」

 

「肯定:脅威的な戦闘能力を測定していますの」

 

「開拓者というのは凄い者ばかりだが……私が見てきた中では最強です」

 

「自分も彼より強いプレイヤーなんて二人しか知らないな」

 

 そう、キリキリ舞いさんが思っていた2億倍は強いということだ。

 触手を切り裂き、最適な魔術を放ち、本体からのヘイトを稼ぎ、状況を読む。どれも僕とは比べ物にならないレベルに練り上げられている。僕など慣れと【ウォーター・ジェット】でギリギリ戦況を膠着させている程度だ。

 彼の存在により、クターニッドの聖杯は破壊の一途を辿っている。

 

「残りはステータス反転と物理無効だッ! 大した効果じゃない、自分はアイテム節約に入る!」

 

「肯定:良い判断ですわね」

 

 うむ。ステータス反転は前衛にはかなりキツイと臥竜点睛さんは言っていたが、キリキリ舞いさんは敏捷や耐久よりも技術と火力で戦うタイプなために余り変化なく戦えるらしい。頼りになりすぎでは……?

 

「【詠唱短縮】」

 

 魔法の威力を上げるとうっかり次の形態に以降しかねない、火力を下げるべく【詠唱短縮】を使うなどして立ち回り……始め……うん、これ触手避けるだけに徹した方が良さげだ。魔力節約しよう。

 詠唱短縮を切る。リキャストタイムを待たなければならないが……許容範囲だ。温存していかなくては。

 

「おぉん……まぁ褒められるのは嬉しいんだがな……」

 

 微妙そうな顔で触手ぶった切ってるキリキリ舞いさん正直わりと面白い。足運びが強いんだよ。いや元から知ってはいたけれど、実力っていうのは敵が強ければ強いほどはっきりと見えてくるものなわけで。

 ちなみに次に強いのはナナさんだ。環境に適応しすぎている。

 

「──おい雑魚、説得成功だ! やっちまっていいぞ!」

 

 臥竜点睛さんと剣士、盗賊が参戦する。聖職者……も、後ろで控えている。その表情には苦々しさが浮かんでいるが、とりあえずこの戦いの間は協力することにしたらしい。少々乱雑ではあるものの、キリキリ舞いさんとナナさんと前衛を交代した彼等の動きに僕達が現着したときとの遜色はない。

 

「!!!!」

 

 ピースは揃った、思惑通りに戦況は進んでいる。今効いている聖杯はステータス反転のみ!

 

「よっしゃぶっ壊れろッ!」

 

「クソクソクソッ、死ね!!!!」

 

 参戦する勢いそのままに振り下ろされた長剣とメイスがそれぞれに傷つき割れかけていた聖杯を貫いた。

 

「聖杯破壊完了、全員次のフェーズに備えろ!!」

 

 一際強く、最後の聖杯が光を放った。何の効果をも齎さないその光に、クリオネちゃんを殺してしまったのだろうかという不安が渦巻くが……そこはもう乗り越えたのだとする。どうせ倒さねばならなかった相手だ。聖杯の破壊という……正面切っての戦いでなかったことだけは心残りになってしまったが。

 

 その光に、クターニッドが退屈そうにも愉快そうにも見える動きで目を細め……

 

『世界が変わり果てようと根幹は揺るがず、されば人は星の海を未だ泳ぐのか……』

 

 言葉が紡がれる。直前まで僕達を殺そうと蠢いていた触手が折りたたまれ、クターニッドの胴体部分へと収納されていく。

 

『遠く、遠く、遠くまで来た。私は彼女の故郷を知らない。私の故郷は星の海と同胞と彼女の笑みであった』

 

 その体はもはや原型を留めておらず、ゆっくりと輪郭すら歪めていく。

 

『この世に在りて、されどこの世に在らざるもの。我が身に肉はなく、我が身に骨はなく、我が身に血は流れぬ』

 

 膨張、収縮、その異様な光景に誰もが息を呑み、行く先を見守っている。

 暗く、暗く、それは深海のように……もはや深海すら霞むほどの引きずり込まれそうな暗闇。

 

『であれば、私は妄想を事実とし、幻想として生じ、空想より出でて想像とならん。故にこそ、故にこそ仮想となりて我血肉を求む』

 

 もはやクターニッドの言葉はほとんど脳内に入ってこない、ブラックホール以外にどう形容すればいいのが想像もつかない。

 世界にぽっかりと穴が空いたような、とでも言えば良いのだろうか。

 

「来るぞ!!」

 

 キリキリ舞いさんの叫ぶような警告のお陰で現実へと返ってきた。黒い穴と化したクターニッドの周囲に数多の魔法陣が浮かんでいく。

 

『命脈の波濤に抗え、闘争こそが命の本質故に』

 

 おいおいおい嘘だろ、あの量の魔法を展開するのにどれだけの魔力が必要だと思って……モンスターを呼び出すとは聞いていたが、魔法によるものだとは、どれだけのレベルが、力があればこんな魔法を……?

 

「ヤバいヤバいヤバい、嘘だろ、やっぱクソゲーじゃねぇか……!!!!!」

 

 召喚されていく大量のモンスター、最近毎日のように狩っていた魚や半魚人はマシな方だ。

 モンスター群の中央部、何度かルルイアス内で見かけたものの全員で息を殺してやり過ごした理解不能の存在が、深海と雷を司る最強の存在、アトランティス・レプノルカが……2()()

 

「はぁ……????」

 

「クソッ、どうする、最終的にあのブラックホールに吸い込まれたモンスターの数と質で次の形態の強さが決まる!! せめて一体は……!!!!」

 

「無理だろ!!!」

 

「厳しいですね……」

 

「肯定:見逃しているようですけれど、アルクトゥス・レガレクスを含めた多くの捕食者側のモンスターが観測できますわ……!!」

 

 気づけば、僕等は背中を合わせて円のように迫るモンスターに対峙している。

 事前に頭数を増やしておいて良かった、とはいえそれでこの状況がなんとかなるのか? 本当に?

 

「……節約は中止ですね、とりあえず誰がどれを相手するか決めましょう」

 

 節約などしていては死ぬ。

 僕の発言に全員の注目が集まった。期待してくれるのはありがたいが、大した策は出せないだろうな。

 ……とりあえず

 

「船長、ナナさん、シロミ魚さんは雑魚狩りです。一体でも数を。シロミ魚さんは最悪の事態になった場合は……死んでも他2名を守ってもらいたい」

 

 それぞれに了承の意を示し、迫りくるモンスターへと特攻を開始する。NPCはリスポーンできない、この決戦に連れてくるべきではなかったと後悔してしまうが……もう遅いか。

 

「臥竜点睛さん、パーティーを率いてアトランティス・レプノルカの足止めを……」

 

「……おう、まかせとけ、やるぞお前ら!!」

 

 4人は拳を握りしめて覚悟を示してくれるが……本当にそうか? それが最善か? 

 

「いえ、そうですね、言い方を変えましょう。アトランティス・レプノルカを一体まかせます。倒してもらっても大丈夫です」

 

「!」

 

 全員が全員、獰猛な笑みを浮かべて僕の言葉に応えた後、彼等は標的の方へと向かっていた。そうだろうな、気持ちは分かる。

 実際に倒せるかはともかく、言い方一つでやる気は変わるものだ。……彼等ならやり遂げてくれると信じたい気持ちもある。

 

「最後にキリキリ舞いさん」

 

「おう」

 

「分かっているでしょうが、想定外も想定外です。最初からですが」

 

「……そうだな」

 

 つい苦笑混じりになってしまった。いやもう本当に。この世の終わりのような光景に目を向ける。アトランティス・レプノルカが放電を行い、それから逃げ回りながらも雑魚狩りをまかせた3人が半魚人達を削っている。盾とメイスを構えた臥竜点睛さんが生き生きと咆哮を上げて、その巨大生物へと突進を敢行した。

 

「暴れてもらって大丈夫です。……頼りにしてます」

 

「もちろんだ。気分上がるな!」

 

「そうですね」

 

 肯定し、彼がアトランティス・レプノルカ以外の大物達を削りに向かっていくのを見つめる。

 最終局面直前だ。

 表情もわからなくなってしまったクターニッドにとって封将とはどういう存在だったのだろうか。聖杯などなくても強すぎるほどの力を持つあの存在にとってクリオネちゃんは……。

 

 頭を振って雑念を払った。

 最後の一体、まだ誰も担当していないアトランティス・レプノルカは僕が1人で足止めする。

 

「僕ならできる」

 

 「海の化身」に比べればまだ可愛いものだ。強いて言うなら雷属性が無効なのがキツイぐらいである。

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