不倶戴天   作:雨傘なななな

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エピローグ 深淵へと想いを馳せて。

 夜の真っ黒な海を眺めている。

 既に僕のいる場所はルルイアスではなく、フィフティシアの街の港だ。

 

「ふーーーーーーー」

 

 思い出すのは斬り掛かってくるプレイヤーキラーの女とポリゴンに変わってしまった仲間達の姿だ。

 今までリスポーンしたことは多々あれど、人に殺されたことはなかった。

 システム的な理由により今までの戦いの集大成と言える2本の杖は失われた。周囲にはいないが、キリキリ舞いさんや臥竜点睛さんも同様だろう。

 

「そもそも……」

 

 もしもあの邪魔がなければ僕達はクターニッドを倒せていたのだろうか?

 そんなネガティブな疑念を口にしようとして……誰かの声がそれを妨げた。。

 

「……おかえりなさい。隣失礼しますよ〜」

 

「…………ミレィさん」

 

 チラリと目を向ける。今の僕に話をするほどの気力はないが……彼女もそのつもりで来たわけではなかったらしい。お喋りな普段からは考えられないが、口を閉じたまま海を眺めている。

 

 海へと視線を戻した。

 少し沖の方で海が荒れて、魚型モンスターがなにかから逃げるように空へと身を出した。明らかに獲物を狙っていたのであろう鳥型モンスターが急襲……いや、

 

「魔法待機解除……【ライトニング】」

 

 指を銃のような形にして狙いを定め、鳥型モンスターを撃ち落とした。

 

 ……大きな溜息をつき、手を下ろす。

 海に映し出されていた月が、雷を受けて歪んだ。撃ち落とされた鳥型モンスターと狙われていた小型の魚型モンスターが、最初からいた巨大なサメのようなモンスターにまとめて捕食される。

 

「ブフッ…………く……」

 

 なんか笑われとる……。

 

「なにさ」

 

「いやいやいやいや、なんでもないですよぉ、なんでも……んっふふふふ……ふふ……」

 

「…………?」

 

「すみませんすみません、言うんでその顔やめてもらっていいですかぁ?」

 

「……」

 

 もうちょいシリアスな空気保たせられなかったかなぁ……と、再度溜息をついてミレィさんにジト目を送っていると、ようやく笑い終わった彼女も話すつもりになったらしい。

 

「いやねぇ? シュテルメア君がそんな落ち込んでる雰囲気出してるからぁ……ブフッ、シロミ魚から毎日クリオネちゃんに殺されて楽しそうだったって聞いてますよぉ?」

 

「そりゃあね、僕とてパーティーが壊滅すれば落ち込むさ」

 

「変なことばっかりしてるせいでボッチですもんねぇ」

 

「よーしぶっ飛ばしてやろう」

 

 杖……はないので適当に手を振り上げたりする。きゃあ、と一通り楽しそうに騒いだミレィさんだが……僕が落ち込んだままであることは見抜かれているらしい。

 細い目を少しだけ開けて、小突かれた。

 

「?」

 

「シュテルメア君に非はないでしょう。強いて言うならレッドネームを見抜けなかったライブラリ側の問題です」

 

「…………PKに成すすべなかったところから憂いてるだけだよ。他は別に」

 

 ミレィさんは、元々頭の良い人だが……悪い癖はともかく、柔軟に物事に対応できる人だと思う。それは素晴らしいことだが……今は良くないことにもなる。つまり、見抜かれるってことだ。

 

「……嘘ですねぇ」

 

「うん。」

 

「シュテルメア君は自分の能力を過小評価しているようですが……ライブラリ側からは合格点が出ていますよぉ、コレ」

 

 その言葉と共に、1枚の紙が目の前に提示された。

 

『シュテルメア様:次回クターニッドへの挑戦権』

 

「……それとぉ」

 

 ザブン、と先程よりも強く波が荒れた。

 飛び出たのは先程の捕食者であるサメ型モンスターだが……その身体には銃で打たれたような無数の傷跡。

 

「!」

 

 船長とモンスターが港へと打ち上げられ、同時に海から飛び出す……フユネ=77ことナナさん。

 

「ナナさん!」

 

「発見:無事でなにより……いえ、一度死んでいましたわね」

 

「良かった……船長も生きてます?」

 

「報告:もちろんですの。当機(ワタシ)の能力であれば彼だけでなく……こちらも」

 

 ナナさんがインベントリから見覚えのある武具を取り出し、並べていく。その中には……深海の短杖と共鳴の雷短杖も含まれていた。

 

「まっじか……!!! さすが!」

 

 心からの賛辞の言葉に、ナナさんが美しい動作で濡れたスカートを摘んでカーテシー式の一礼をした。

 

「肯定:当機(ワタシ)はシュテルメア様の征服人形ですから。改めまして……これからよろしくお願いいたしますわね」

 

「こちらこそ」

 

 ナナさんが美しく微笑み、僕の傍らに立った。

 彼女の要件は済んだらしい。今からの行動云々よりも僕と話していたミレィさんの要件の方を優先するべきと判断したのだろう。言葉遣いに違わず礼儀に長けた征服人形なようで……僕が見落としてしまいそうだ。

 

「それで、ミレィさん、さっきの話だけれど」

 

「そーですねぇ、えーと、挑戦権の受け渡しと……」

 

「………………………………確認(その前に、):そちらの女性とのご関係は?」

 

「え? へ? あ、あー……フレンド……友達?」

 

「ですねぇ。友達ですよぉ、シュテルメア君とは〜」

 

 良かった〜〜〜〜。

 いやね、まぁね、友達ですけどね、本人がどう思ってるかですからね。チラチラと確認しながら友達だと言った僕に、ミレィさんは深く頷いてくれたようだ。

 

「わかりましたわ。ではシュテルメア様、当機(ワタシ)にも敬語を使用せず話していただけませんか?」

 

「…………?」

 

 どうしてそうなったんだろうか……まぁ別に良いんだけども。

 

「おーけー、これからよろしく、ナナさん……よりはナナのがいっか」

 

肯定:(はい!)

 

 まぁなんか満足げだし良かったんだろう。

 そんでもってまたズレてしまった話の流れを戻すことにしよう。

 

「それでミレィさん。それと?」

 

「!」

 

 なぜか不満そうな顔をしているミレィさんに話をふる。さっきからターン制でミレィさんとナナの機嫌が変わっているのだが……いやこれ僕のせい??まじ??

 

「…………提案ですよぉ。事前にシロミ魚からシュテルメア君が征服人形と契約した話は聞いていたので〜」

 

「……それはつまり」

 

「次のクターニッドへの挑戦までの2週間……このミレィ先生とリヴァイアサンに挑戦しませんかぁ?という話ですよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 星の海を旅した乙女の下へ、深淵を歩く者達が集う。

 深海がより深くなっていることに、まだユニークモンスターたる蛸以外は気づいていない。その重大性にも……。

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