不倶戴天   作:雨傘なななな

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こちら冥府、捧げるとは言ったものの讃えるとは言っておりません。

 

 オルケストラ。

 

 ニーネスヒルにある王城図書館に情報が一部記されていたユニークモンスター。

 そこには「津波を操り、炎を纏い、雷を落とし、怪物を従える」という情報のみが記載されているらしい。

 

「…………オーケストラ」

 

「シュテルメア君の想像通りだと思いますよぉ。そしてこの征服人形達の格好はぁ」

 

「アイドル衣装だっけ……あ~~~」

 

「繋がりがあることはさすがにわかりますよねぇ。そして、先程で征服人形達の拠点というのが……分かりやすく言うならば劇場のようなものだという事も想像がつきます」

 

「だねぇ」

 

「まだ新大陸の地図は巷で勇者と呼ばれるプレイヤーが持ち帰った極限定的なものしかありませんが……それでもなんとなく場所の想定もついていますよぉ」

 

 さすがすぎるライブラリ。あまりにも仕事が的確ではやい。

 

「で、じゃあ改めて……どうしてここに?」

 

「……征服人形との契約って、すごくユニークシナリオの導入になりそうだと思いませんかー?」

 

 理解はできる。僕も契約当時は明らかなユニークシナリオらしき話に周りのプレイヤー……それこそ臥竜点睛さんになにか言われるのではないかと危惧した。

 

「でもなにも起こっていない」

 

「それはつまり、まだ私達がなんらかの条件を満たしていないということになりますよねぇ」

 

「まぁそれはそうだな。……で、その条件とは?」

 

「んーー、おそらくここを探索したかどうかだと考えていましたが……違いそうですねぇ、ここに来ることに賛成も反対もなかったのでー」

 

 なるほど。

 

「他のあり得そうな条件としては、征服人形と契約したプレイヤー数が一定以上、とかですがぁ……ほら、アイドルですし? 元になったアイドルグループがあるとすれば、全種類の機体と契約したプレイヤーが必要、とかありそうじゃないですかぁ」

 

「うん。けどそれはわりと現実的に聞こえないかな。ナナさんみたいな特殊機体もあるみたいだし」

 

「です。そこの確認もかねてシュテルメア君を誘って見たのですがぁ……違うみたいですねぇ」

 

「だね。個人戦……じゃあ大事なのは何故劇場とアイドルグループであるのか、とか?」

 

 いいえ、とミレィさんが続く。

 勇魚は既にデフォルトのニコニコした笑顔に戻っており、征服人形達は話に熱中する僕達の代わりと言わんばかりに肉を狩っている。

 そういえば話忘れていたけれど、第一殻層のテクノマギなんちゃらは即攻略した。つまりライブラリパワーだ。ここは普通にモンスター倒した方が得だと聞いたから倒している状態だ。

 

「実際、アイドルグループである意味はあまりないと我々は考えていますよぉ。多分征服人形って存在を作った人がアイドル好きだったか、よっぽど有名なグループだったかでしょうねぇ。……それこそ宇宙船の中で数少ない娯楽になり得るほどにー?」

 

「ほぉん……とりあえずミレィさんは良い加減ここに来た理由を話すべきだよね」

 

「あ、あぁ……すみません。また話が遠回しに」

 

「いいよいいよ〜」

 

「サンラク、というプレイヤーが……いえ、旅狼というクランのメンバー数名が、イベントリアという無限インベントリを持っているんですけどぉー」

 

 ……また話が見えなくなった。無限インベントリの凄さはこのゲームを始めてから幾度となくイベントリの重量制限と格闘したからわかる。この世界でそういう……そうだな、物理法則を分かりやすすぎるほどに破壊する存在の異常性も。

 

「ウェザエモンを倒した報酬だということは確認済みですー。その原理がアイテムを情報に変えて収納していることも。問題はそのアイテムが征服人形をも収納できるという点です」

 

「…………?」

 

 それは便利な話だ。つまり死にかけたときに征服人形を収納してしまえば……NPCはリスポーンしない問題をある程度無視して危険地帯に征服人形を連れて行くことができる。……それだけでは?

 

「それはつまり、えぇ、そのアイテムがあれば劇場内に征服人形を連れ込むことができるのではないか、という話ですよぉ」

 

「……おぉ!とはなんないよ。そもそも征服人形を劇場内に連れこめないって話が初耳だし」

 

「先程話したニーネスヒル図書館にあった文献には、孤独な戦いをした、という記述があるんですよねぇ。他のプレイヤーはそれを他の人間が死亡したのだと解釈したようですがぁ」

 

「なるほど」

 

「ライブラリ的にはー、おそらくその劇場で、一人で何かを魅せることがそのユニークモンスター、オルケストラの本質なのではないかと考えたわけです」

 

 もちろん征服人形だけは伴って劇場に入れる可能性もありますが、とはどちらかというと他のライブラリメンバーの意見らしい。

 

「征服人形を伴った上で、アイドルと人間の連携を魅せる必要があってー、でも普通の方法では劇場内に連れていけない。ありそうな話ではぁ?」

 

「……たしかに」

 

 そういう話の締めくくりをミレィさんがしたのにあわせて、すっと勇魚が征服人形達の後ろへと下がった。

 代わりに、息を合わせたかのように美しい所作で僕達の前へと征服人形達が進み出てカーテシーをする。

 

 その形になり過ぎた一連の流れは、自分がいつのまにか貴族にでもなったのかと錯覚するほどの……、

 

「契約者シュテルメア」

 

「契約者ミレィ」

 

 思わず目を細めた。

 虚空から黒い便箋のようなモノが2枚表れ、僕達の名前を呼んだ征服人形達がそれぞれをピッと掴んで差し出す。

 

「「貴方はプロトコル「オルケストラ」における設定条件を満たしました。その為、征服人形暫定規約に基づき「コンサート」への招待状が進呈されます」」

 

「へ?」

 

「はぁ?」

 

───私は、貴方を待っています。どうか、貴方の為に歌を

 

『ユニークシナリオEXの条件を達成しました』

『ユニークシナリオEX「あなたに捧ぐ旋律」を開始しますか?はい いいえ』

 

 いやどこで条件満たしたんだよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 その突然の変化にしばらく本人が契約した征服人形のレミィさんと話ながら考察を続けていたミレィさんだったが、どうやら一段落ついたらしい。

 

「結論出た?」

 

「はい。一旦ライブラリに持ち帰って相談ですねー。ごめんねシュテルメア君。ここまで付き合わせたのにすぐ要件終わっちゃってぇ」

 

「大丈夫大丈夫」

 

 ライブラリが今まで行ってきた大量の考察の上に成り立っているであろうこのユニークシナリオを、僕も巻き込まれる形とは言え受けてしまって良いのだろうか?という問いに彼女達は快諾した。反対派もいたようだが……。それを考えればこの程度のこと迷惑もなにも全くない。

 ……なんとシロミ魚さんも僕がユニークシナリオの挑戦権を対価なしに受注することの後押ししてくれたらしい。大変ありがたく、申し訳ない限りだ。

 

「あ、そうだ」

 

「?」

 

「はじめに話したクターニッドの挑戦権ですが、前回の失敗を受けて一週間ほど挑戦期間を遅らせる予定だそうですー。あと2週間以上あるので……帰りは転移で帰れますし、もう少しここを探索した後オルケストラ眺めに行くだけでも行きますかぁ?」

 

「……それは……いや、僕はまだいいかな」

 

「分かりましたぁ、ではとりあえずここをある程度攻略しましょ〜」

 

 誘ってくれたミレィさんには申し訳ないが、正直まだクターニッドに意識を割くべきだろう。……そんな中途半端な状態でユニークモンスターに勝てるとは思えないし。

 

 

 

 

 

 

 突然来訪して、突然帰っていった征服人形と開拓者の混合パーティーを、驚いたような悲しいような困ったような笑顔で勇魚は見送る。

 勇魚は、今日の今日までライブラリという一団のことを……舐めていた。

 サンラクほどの強き心も、サンラクほどの自分達が生きた時代への知識もない……表面を掬っているだけの者達だと。

 

「評価を改めましょう。彼女達は、既に私についてかなりの知識を得ているようですね!」

 

 それは嬉しいことだ。自分達が必死に戦った歴史に興味を持ち、あるいはその反省を次に活かそうとしてくれているのだから。

 

「海の化身関連での警戒もバレていたようですし……」

 

 当のサンラクもオルケストラからの招待状を一足はやく受け取ったようだ。

 自分もオルケストラについて詳しいわけではないが……武の道を歩む者と知の道を歩む者、どちらがオルケストラ好みなのだろうか?としばしの間、彼女の取り留めのない思考は続いた。

 

「まぁ私のことを忘れてしまうのは勘弁願いたいですけどね!」











このユニバースではサンラクがライブラリにオルケストラの情報を売っぱらいに来たのとすれ違ったことになっています。
多分本来の世界線だとサンラク(直接の交渉相手はペンシルゴンだけど)の情報を元にミレィがオルケストラ受注、という形だと思うのですが……まぁこっちのユニバースはライブラリがより優秀だということで。
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