不倶戴天   作:雨傘なななな

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誰のせいか、誰がためか。

『くっ……そが!!!』

 

 思っていた以上に蛇頭の突進が厄介だ。鯨系統の横にデカい体格からは想像できないほどの速度と長さで、避けても追ってくる……!

 

『肯定:生物の進化から外れた存在であるとは思えない合理性ですの!』

 

『体力が多いのもキツイ……盾張るな!!!!!』

 

 魔力のシールドにより放った【雷轟の矢】は加算詠唱込でも大したダメージを与えていない。ゲーム的な話をするのなら僕とナナさんが二手に分かれてそれぞれの頭を攻撃するだけで身体が裂けそうなものだが、その光景を見たいとは微塵も思わない。なんとかダメージを与える魔法の詠唱を……!

 

『ナナさん! 長文詠唱に入るから時間稼ぎ頼めるか!?』

 

『……肯定:何時間でも稼いで見せます』

 

『頼んだ……【魔法待機】……ッ!』

 

 共鳴の雷短杖の共鳴効果、【雷撃の道筋】、雷属性強化に振ったアクセサリーやスキル、【加算詠唱】、ハイレートスペル、その全てを使うための詠唱を始める。

 

 ナナさんが時間稼ぎのために威力以外の部分を重視した照明弾などを織り交ぜつつ、近接戦闘を始めた。

 僕よりもずっと昔から海で戦ってきた彼女でも、心配なものは心配だ。無意識に詠唱は加速し、魔法待機が完了した。既に先の【加算詠唱】のリキャストタイムは終了済み!

 

『【加算詠唱】ッ!』

 

 ナナさんを信じて移動用兼切り札である深海の短杖をイベントリに戻す。この短杖を使わなければ行けないと状態になった時点で海蛇鯨は倒せても苦しませることになる。そんな結果にはさせない……!

 

『当機の役目は時間稼ぎ。ですがそれしかできない征服人形にシュテルメア様の契約相手は勤まりませんわ! 要請(コール)ッ!』

 

『……!』

 

 身動ぎと共に、僕の魔法の発動を止めようと襲い来る蛇頭を突然展開された鞭のような武装が絡め取った。

 詠唱を止めるわけには行かない、無言でサムズアップを送りつつスキル起動、嫌がらせ技ではあるが「水流打」改め「水竜打撃」で背部を攻撃、一秒でも気を反らせれば……!

 

『【雷撃の道筋】……っし、次』

 

 ハイレート・スペル起動、道筋は設定した。ナナさんが横面に攻撃することでその道筋に身体が入り続けるように調整してくれている。さっきのスキルもちゃんと陽動になってる……!

 

 多分「非流体性海水」は使っても大した意味をなしてくれない。ならば……ああもう、なんで魔法職なんて選んだんだ僕は。錬金術師の方にしておけばタイムラグなく攻撃できたろうに!

 

 パチンと指を鳴らして、待機させていた【ライトニング】が海蛇鯨の身体を貫いた! 「共鳴」条件達成!

 

『そんでもってぇ……ッ!!【雷轟の……!!』

 

 杖を引き絞る。狙いは既に決まっている。

 ただ、当てるのは当然としてできれば弱点をつきたい。魔力シールドを破る威力はあると信じたいが……2頭の境目を狙ってしまっても良いのか? それをする覚悟が僕にあるか?

 

『……矢】ッ!!!!!』

 

『iiiiigiiiiiigiiiikluuuuu!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 放たれた一撃は綺麗に海蛇の頭部へと吸い込まれるように命中、「共鳴」により大電流が駆け巡ったことにより海蛇鯨の体内から焼けて、悲鳴が海に響き渡った。

 

 そして……海を切り裂いて、新たな異形が戦場へと投入される。

 

『gggggggg!!!!!!!!!!!!!!』

 

『おい……嘘だろ?』

 

 泣くような、懇願するような咆哮。

 僕が全力を込めても出せないような速度で射出されるように泳来したモンスターは……僕もよく知るワンダーシータートル、ではない。

 

『死んだ……ちがう、ゾンビ化した鮫が1体と……ワンダーシータートル2体……?』

 

 既にワンダーシータートルの内一体は死んでいるのが分かる。

 この気色悪さが分かるだろうか? ゾンビ鮫がワンダーシータートル二匹を捕食している途中で接合したような……雑な合成。まだ生きている海蛇鯨が可愛く見えるほどの……哀れさが。

 ゾンビ化して理性も思考もないゾンビ鮫は自傷ダメージが入ることも厭わずワンダーシータートルの肉を食らっていく。……あれと同様に既に死んだ一体の方も食われたのだろう。

 

『否定:シュテルメア様! アレは貴方のせいではありません!!! そして私達に救える生命ではありません! それよりまだ救える命を!』

 

『いや……僕のせいだろ……あんなに苦しませて……ッ』

 

 だが、救える命を救うべきなのは賛成だ。トリアージをしなくてはいけない。拳を砕けそうな勢いで握りしめつつも覚悟を決めて、既に息絶えつつある海蛇鯨は……

 

『提案:深海の短杖の効果(海の化身ここにあり)を使用しては……?』

 

『いや。あれは切り札だ。ここで使ってナナさんが危険なときになくては死んでも死にきれない』

 

『…………ありがとうございます』

 

 魔法を詠唱。既に癒着したゾンビ鮫からなんとか逃げんとするワンダーシータートルは視界の外へ消えた。

 死にかけのちょうど良い獲物がいると思ったのだろうか。代わりにやってきた大量の小魚型モンスターが癒着したリキッドワイバーンが吼えて、海蛇鯨へと飛びかかる。

 

『クソッ、【ライトニング】ッ!!』

 

 杖を持っていない手で方向制御、放った雷撃は海蛇鯨をポリゴンの塊へと変えた。獲物を失ったリキッドワイバーンの次の矛先になることに備えて深海の短杖を取り出す。

 

『提案:この先に先代青竜の骸があると思われますの! そちらの回収へ行きましょうッ!』

 

『わか……ッた!【詠唱短縮】【魔法待機】』

 

 もう攻撃はしないはず。深海の短杖の代わりに共鳴の雷短杖をイベントリに戻すことで片手を空けた。

 空いた手で取り出しますはクターニッドのところで倒したテッポウリュウのドロップアイテムから作った最強アイテム、「海中移動促進筒」!

 

 詠唱完了、既にワイバーンは目前だがこの【ウォーター・ジェット】は大切にせねば……!

 

『威力系のアクセサリーも取り替えて良いな。くっそ、ストックの兼ね合いと長時間使用のリスクの釣り合いがめんどくさいんだよこの筒……!』

 

 ベストは必要になる2分前に装備して【爆水】起動と同時にイベントリに戻すこと! そう上手くいくとは思わないが、ただでさえ異常事態が起こっている現状で無駄にモンスターに狙われたくはない。

 

『申請:シュテルメア様を連れての退避行動』

 

『もちろんだ! 頼む!』

 

『了承:器量の良いシュテルメア様に感謝を』

 

 お世辞はいいよ、という言葉が出る前に手を取られて身体が先程聞いた方角へと引っ張られる。

 

 さて、突然の話になるのだが……【スタンピート】と言う魔法がある。コレはレベル99に至るまでに習得していた魔法で、現環境でも消費魔力の少なさとキャストタイムの短さを誇ってかつ対人戦の勝敗を決めかねない魔法だとして頻繁に使われている、らしい。

 ……まぁ今は何の意味もない魔法だ。だが……そのキャストタイムのほぼない魔法でも効果によっては使い道が多くあるという初心を思い出した僕が試した魔法の中で一つ、有用だと思えるものを発見した。

 

 というわけで話を戻そう。手には深海の短杖しかなく、既にナナさんは退避行動兼目的地への移動を始めている。しかし当然のように【ウォーター・ジェット】をフルで使ってなお逃げ切れる気のしない速度でキメラとなったワイバーンが追いかけてきている。うん、これ置き土産ね。美味しく味わってくれよな。

 

『【果てまで貫く雷鳴】!』

 

 詠唱する必要があるのは魔法名のみ、威力は0。ただし雷の音が世界に響く魔法だ。

 鼓膜を破壊されたであろうワイバーンの悲鳴が……うん、雷鳴よりは小さいから聞こえないんだけど。

 普通にめちゃくちゃ迷惑魔法だが、聴覚のあるモンスター相手には非常に有効だ。雷系統の魔法を受けていれば受けているほど、雷鳴に比例した威力の雷魔法を警戒するだろうし。

 

 ナナさんがさらに加速し……僕達は危険海域を抜けた。

 そして、先代青竜の骸と対面する。

 










・【果てまで貫く雷鳴】
嫌がらせ魔法。発生地点を工夫(今回であればワイバーンもどきの背後)することで自分や仲間への被害を軽微にできる。
余談だが「共鳴」効果を受けると音量が更に上がりスタン効果を得る。ただしスタンが切れた後に対象が確率で憤怒状態になる。
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