クターニッド戦まで残り一週間となった。
大体想像はつくだろうけれど、この一週間僕はひたすら戦っては素材を集めていた。暢気に司書として使い捨て魔術媒体さえ作っておけば良かったあの頃の自分が羨ましい。
今など自分用の錬金に加えて、必要素材を買うための金のために別の消費アイテムの錬金までしている。
……例えば異形術師の職業に就いたプレイヤーがある程度いれば余剰分をそちらに売るとかしてタスクの種類を減らせただろうに……。
と、言うわけで売っぱらいました異形術師の情報!
ライブラリからの返礼として貰ったユニークシナリオが今回の目的です。やったぜ!
「ユニークシナリオを秘匿する側の人、結構多いらしいなー」
「肯定:唯一性を望むのが人類の常ですわ」
ライブラリも大変だなー。ですわねぇ。とほのぼのとしたやり取りが行われる横でシロミ魚さんがキレている。
「あのね!! あんたらはちょっと暢気すぎる! 分かるか!? 自分達が今どれだけのクレームに対応しているか!」
「……? 分からないですけど」
「だろうな! ユニークシナリオに関する全情報をライブラリが止めてるって噂を流したやつが確実にいる! 流した情報も流してないことになってる! どっかに絶対に自分達ライブラリを不利にすることで最終的な利を得ようとしてるやつがいるんだ! そもそもこっちに回ってくるユニークシナリオなんてほとんどないってのに!」
僕らに言われても……というのが本音であるが、それはそれとしてストレスを溜めているらしいシロミ魚さんは可哀想なので話は聞いてあげることにしよう。
「征服人形とオルケストラ関連は特に酷い。多分、いや確実にサンラクが……違うか。あの人はそういうタイプの小細工はしない人だっていうのがライブラリの総意だし自分にもそう見えた。悪事をしないタイプって訳じゃないのは残念だけど。とはいえならば周囲の誰かか……!」
ちょー早口。とはいえ、
「MМОでそういう争いはつきものだって聞いたけど、それにしてもこの一番強い人が誰か分かりにくいこのゲームでそこまでの手を使う人います?」
目的が分からないのでは?という話だ。
いやまぁユニークモンスターの独占は今後の利権にも金にも強さにも大きく関わってくる。再戦可能なものもいるとは言え7種類しかいないそれを独占する意義は大きい、はず。
「……コホン、悪い取り乱した。ストレス溜まっててな。と、いうわけで本題だ。これは今回のお礼のユニークシナリオに関する記述」
「わざわざありがとうございます」
「肯定:シロミ魚様に謝意を」
そんな状況でもわざわざイレベンタルまで直接メッセンジャーに来てくれた彼に二人して頭を下げれば、彼は肩をすくめて不器用に笑顔を作った。
「なに、戦友の顔を見たかっただけだ。今回のルルイアス行きには自分は参加できないが……どこかいつかの戦いではあのときのメンバーが集まれると良いな」
「そうですね。僕も楽しみにしてます」
「それとこれ、イムロンさんからだ。渡すものがあるから3日後にイレベンタルに行くってさ。時間は夜の9時ぐらい。場所は協会。問題あるか?」
「……………? 予定は問題ないです。連絡ありがとうございます」
「よし、じゃあ自分はフィフティシアに戻る。少し……いや結構仕事溜めてるんだ」
僕らに背を向けて歩き出したシロミ魚さんにお土産として異形術師関連のポーションやアイテムを譲っておいた。禁忌とは言え錬金術の一つの形に異形術があるという。きっと彼ならば上手く使ってくれるだろう。
で、一生縁のない話だろうが……本当にいるんだろうか噂を流してライブラリを不利にしようとしてる黒幕。
◆
と、いうわけで今回はナナさんは留守番。僕は聞いていたユニークシナリオの発生地である参姿翠冥の地底迷宮に来た。
ここは地下の洞窟が迷宮のようになったエリアだ。
行き止まりの度にミノタウロスと戦わなくてはならないことや挑戦の度にエリアボスが変わることが特徴で、金稼ぎに向いているらしい。
……正直一人で攻略するような場所ではないが、ユニークシナリオが一人限定だと言うのだから仕方ない。
「獲得できるのは矢の扱いに関するユニーク魔法。お誂え向きだと思ってこれを選んだけど……ミスったかな……」
過去に存在した王国の弓兵部隊がこの地底迷宮の地に調査に来たらしい。その部隊はまぁユニークシナリオになっていることから分かる通り完全壊滅。その未練で成仏できない彼等は強き弓兵が街を護ってくれると理解することで成仏、そして報酬として魔法を与えてくれるらしい。
実際のところ、近くの街で弓を使用するジョブに就いている者がその弓兵部隊の長が祀られている像が持っている弓に触れた後この迷宮エリアに挑むと……
『ユニークシナリオ「力を持てど民は護れず」を開始しますか?はい いいえ』
このようにユニークシナリオが開始される、と。
実際にこのユニークシナリオの難しい点はソロで迷宮に挑まねばならず……なおかつ達成条件のためにはこの状態でのみ出現するミノタウロス(行き止まりの人牛鬼)を一人で倒した場合に落とすドロップアイテムの特殊な矢を街まで届けねばならないとか。
そもそも最初の像の矢の部分に触れるという部分がしない行動過ぎて最近まで気づかれていなかったらしい。
……まぁ「偽りの神へ、ただ純粋な敬意を」とかに比べたらそりゃあ簡単だけどさぁ。
「お、でたな行き止まりの人牛鬼……!」
巨大で筋肉質な肉体に牛面、その巨体に見合った大きさの骨を棍棒のように担いでいる。
ちなみにコイツはレベル100オーバーのくっっそ硬いモンスターらしい。んー前言撤回。さすがに簡単ではない。レベル99以下の後衛職でコレをソロ討伐はな……。
地獄のレベル上げ作業を経て現在レベルは82!
まだまだまだ弱いがスキルは充分に育ってきている。お前に壊滅させられた部隊の仇を取るためにもやってやるよ!
「さぁて、錬金術関連は詠唱なしなのがありがたいよなぁ」
ミノタウロスが担いでいた骨を振り上げて、迷宮の床へと叩きつける。これは本気で行くべきだな……あんまりな威力に洞窟全体が揺れてるのではないかと思わされるほどだ。
咆哮が上がる。さぁ来い矢まみれにしてやるよ。
◆
……戦闘開始から既に5分が経過した。
耐久力と一発一発の攻撃に割り振ったモンスターだ。勝つために最初は動きの観察と慣れを優先していたのだが……威力以上に距離を詰める動きが腹立たしい。
迷宮の行き止まりかつユニークシナリオのクリア条件。普段のような【ウォーター・ジェット】での大回りな回避ではなく足を使った細かな距離管理と回避技術が求められる。ここに弓兵部隊はアホだろ太古の王国……!
「さぁて、とりあえず動きは理解した。こっちもギアを上げていこう」
弓をイベントリに入れて、今日まで毎日毎日毎日毎日毎日毎日作り続けてきたポーションを取り出した。一応事前確認は済んでいる。問題ない、はず!
棍棒の一撃を後ろへと下がって避け、ポーションを呷る。
「面白いもん見せてやるよ……【異形術・蛇】」
指定したのは右腕。
グチャリと人体から聞こえてはいけない音が先程までとは打って変わってやけに静かな迷宮に響く。今はミノタウロスの方も咆哮を上げずにその光景に戸惑っている。
今回使ったポーションには海蛇系のモンスターの魂が籠もっている。これを取り込んだことで僕の肉体はその一部を宿す……!
3対の蛇頭が腕の付け根があった部分から文字通り生えてきた。シューシューと蛇らしき声を上げて、鞭のように伸びた蛇達の内2匹がミノタウロスへと襲いかかる。ちなみにマニュアル操作だ。上手く動かせるようになるまでそこそこの回数練習した。
「b,bmooooooo!!!!!!?!?!?!?!!?!!!」
焦ったように振り下ろされた棍棒をうねる動きで避けて、その牙はミノタウロスの強靭な肉体を抉る。
ドチュドチュと戻しては突進させることで棍棒のような大ぶりな攻撃では避けられない攻撃が襲い続ける……そうすれば当然、次の攻撃は……!
「gmooo!!!!!!!!!!!」
キレた勢いに任せての本体狙い! だがそれはもちろん折込済みだ。イベントリから改めて取り出すはもう一本の異形化ポーションに加えて共鳴の雷短杖!
杖をイベントリに入れておいたせいで【魔法待機】なし。だが今の僕はコレができることを知っている……!
あえて手元に残して置いた一匹の蛇頭がポーションを喰らい、条件は満たされる……!
「【異形術・蛸】」
足が蛸のソレに変わり、普段とは段違いの速度に振り下ろされた棍棒が空を斬った。
もちろん海棲生物の蛸は地上ではすぐ死ぬ。今は本来より効果時間は短いが……詠唱の時間さえあれば……!
「やっといつも通りの攻撃だ……【特殊エンチャント:火鳥】!」
蛇となった腕を使い、牙を突き立たせることで雑な攻撃の誘発と継続ダメージを狙う。
……デカい火力は魔法で出せる。足回りの補助と搦め手に強くなった分職業として「異形術師」は当たりだ! そうに違いない! そうでないとやってられない!!
何が言いたいって見てたら分かるだろ!! そう!! 威力が低いんだよッ!!!!!!
パチンと指をならして先程【魔法待機】させておいた【果てまで貫く雷鳴】を発動する。一言で待機させておけて「共鳴」を起こせるのはエッグい強みだ!!
ミノタウロスが轟音に困惑し一瞬身体を硬直させた。その硬直は悠長にもほどがある、身に染み付いた弓を引くように杖を引き絞り……
「喰らえ、【雷轟の矢】ッ!!」
放たれた雷の矢がミノタウロスへと一直線に飛来し……スキルの追加効果で8本の矢がさらに後を追う。
発動魔法は【特殊エンチャント:火鳥】、発動スキルは「追撃の矢筒」「スローダウン・アロー」「ダーティーショット」、装備スキルとして【果てまで貫く雷鳴】との「共鳴」効果。
パッシブスキルとして「弓の心得」も発動している。
雷がミノタウロスの心臓部を貫き、悲鳴のような咆哮が響き渡る。
スローダウン・アローによりその動きは鈍り、さらに後追いした雷矢も全て直撃。「追撃の矢筒」で放たれる矢は威力こそ下がるものの特殊効果系は引き継ぐのヤバい部分だな……。
「事前の仕込みもうまく行ったしなー」
【異形術】の効果が切れて腕がもとに戻った。
弓を持てる様になったため共鳴の雷短杖をしまい、取り出した中級者用の弓を動きの精細こそ戻らないものの、未だ健在のミノタウロスへと放つ。
ちなみに事前の仕込みとは【異形術・蛇】の牙には毒性があるというものだ。「ダーティーショット」の発動条件は状態異常を持つ敵への攻撃力上昇。
心臓を貫かれて黒い煙を上げるミノタウロスがその威力を物語っている。
「もっと練度を上げて僕の戦闘スタイルとして仕上げないとだな……」
毒、雷、炎、物理、コレまでの僕からは想像もつかないほどの様々な、しかしいつも通りほとんどの攻撃が状態異常付与系という性格の悪い攻撃を受け、ミノタウロスは悲哀の篭った咆哮と共に棍棒を振り上げた。
・異形化ポーション
いくつかの素材と変質させたいモンスターの素材を詰めてポーションにすることで【異形術】が使用可能になる。
蛸が可哀想だがこれはシュテルメアの魔力性質を変化させて作り出した仮初の命なので別に魂が本当に宿っているわけではない。強いて言うならコピー。
素材にしたモンスターの性質が引き継がれるため、今回の毒のようにフレーバーテキストを読み込むことで使用方法が大幅に変わることが多い。
あと耐久値が本人のステータスを参照した後補正値がつく。
つまり【異形術】習得には魔術師系のジョブに就いている必要があるにも関わらず本人の硬さも必要になってくる。一応その耐久値を解決する方法もあるものの……言わば無駄の多いジョブ。
準備量、できることの範囲、火力、どれをとってもまぁその……はは……ってなる。解決策はあるからセーフだと導師もどきは言い訳したし、これが思ったよりやばいからシュテルメアはレベルダウンビルドに手を出した。