原作には極力関わらないつもりですが、微妙にバタフライエフェクトが起こる可能性はそりゃあ高いです。ユニバースが違うということで。
アーサー・ペンシルゴンはココ最近、一つの問題に頭を悩ませていた。
「ん〜、なぁんか怪しいんだよねぇ、ライブラリ」
今までもライブラリの長であるキョージの商売の上手さにはある程度手を焼いてきた。サンラクというユニークモンスター発見機がいるコチラが、情報の買い手である彼等に対して後手に周ることはない。それが今までの彼等との商売の形。
「あの狸爺にしては強気な手が増えてきた」
自分達と手を切ってなお世界の真理に迫れると思えるだけの情報源を手に入れたのか?
もしくはウチの性悪鉄砲玉が自分を嵌めようとしているのか?
……どちらにせよ面倒くさい。確認のため、絶対にバレないであろうという安全マージンを取ってライブラリの悪評を流してみたのだが、主目的であった情報源の炙り出しはあまりうまく言っていない。……いや、まだ成果が出ていないだけでどこかで尻尾を出す確信はあるのだが。
「ここで情報の出し渋りを責められてしまえば、言うほど大した情報を持っていない彼等はより金を出してオルケストラやヴォーパルバニーのユニークシナリオの情報を買う……はずだったんだけどねぇ」
ライブラリから提示される金額に変化はない。……元々ライブラリの交渉役が涙目になるほどの金額であるとはいえ、ゲーム内最大規模の情報クランからであればもう少し絞れるとペンシルゴンは踏んでいた。
だがその目論見は外れた。
これだけ揺らせばなにかしらのアクションはあると思っていたんだけど……と呟いたペンシルゴンは、彼女が現在滞在している部屋の窓から飛び込んでくる隼を見て目を輝かせた。
「ふふん、まぁそうだよねぇ!」
隼が届けたメッセージを読んだペンシルゴンの目は少しの間より深く輝き……最後まで読み終える前にその目を細めて不快そうな表情を表に出した。
「相変わらずゼニス・ゲバラ君は優秀でなにより」
不快ではあるものの、必要な情報は集まった。
そろそろライブラリ内にはペンシルゴンを疑う者が出ているだろうが、証拠がない以上民意は変わらないのだ。なにも問題はない。
次の計画も決まっている。この件でライブラリから絞れる金額はいくらだろうかと皮算用しながら、彼女はログアウトによりリアルに戻って、友人へ電話をかけた。
「あ、もしもし百ちゃん? ちょっと頼みたいことがあってさー」
◆
「さて、では定例報告会を始めようか」
「「「よろしくお願いします」」」
所変わって現在進行系で悪評を流され被害を被っているライブラリの拠点、幹部クラスのみが参加する定例報告会にて。
「目下の問題はやはり我々の悪評問題だね」
渋い声でありながら幼女の見た目をした長の発言に、全員がここのところずっと感じている危機感に終わった肩を細める。
「実際、より重要度の高い情報でも対価を払えば提供しているし、そもそもそちらに関してもたいていは無料で見れるwikiに入れてあるんだが……?」
「無い物ねだりをしたくなるのが人間だ。仕方ないだろうね。とはいえ、噂の原因を取り除かねば我々に情報を売るものがいなくなってしまうだろう」
ライブラリの者達が一様に顔を顰める。
かなりの調査を行ったが、悪評の元の足はついていない。ライブラリの悪評を流される理由に大きな心当たりがないのも問題だ。そう、つまり……犯人の人物像すら見えてきていない。
「────ベンシルゴンちゃんではぁ?」
暗い雰囲気の中、水面を揺らす一石を投げ込んだのはミレィ。
キョージュとてその可能性は高いと感じていた。そもそもこのゲーム内でこれだけの民意を動かせる存在にライブラリは二人ほどしか心当たりがない。ディープスローターとアーサー・ペンシルゴンだ。強いて言うなら最近このゲームに来たという配信者連合だろうか。だが……
「ディープスローター君や他の未知の者達を除外する理由はなんだね?」
「彼女とは最近良く話すんですけど〜、徹頭徹尾コチラに興味がない気がしましたぁ、それなら金と情報と利権を求めたペンシルゴンちゃんの悪事だって方がぽいかなとミレィちゃんは思いますよぉ。他はここまでにはならないでしょー、配信者の方とか特に、割れたときのリスクが大きすぎではぁ?」
「なるほど。私も概ね同意だが、糾弾するには証拠がないね」
「……ですねぇ」
そもそも彼女には旅狼全体の情報提供への礼としてしょっちゅう多額の金額を払っている。マーニを稼ぐための部門を儲けようかとキョージュとセートが悩むほどだ。
それでもなお利益を求めようとするペンシルゴンへの罵倒が飛び交う中、ミレィはそれは違うと否定した。
「より大きな利益というよりは、今後の利益継続のためでしょうねぇ。私ことミレィちゃんがオルケストラのユニーシナリオEXを発生させるタイミングとシュテルメア君関連の話が同時に来たのが不味かったのではないかとー」
「…………なるほど。そういう形であれば、ミレィ君とサンラク君の関わり関連でなにか動きがあれば確定と見て良さそうだ」
となるとやはり困るのはシュテルメア方面の対応である。随時見張るわけにも行かず、そもそも彼の行動は予測不能な部分が多い。
「ライブラリにシュテルメア君を取り込めれば良いのだがねぇ」
「難しいでしょうねぇ、勘弁!って言ってましたよ〜」
「うむ。ミレィ君は勧誘ありがとう」
ライブラリとしては、サンラクほどでなくとも世界を動かす動力としての力をシュテルメアに期待していた。
最近より優秀になったシロミ魚や少し行動方針が変わったミレィは間違いなく彼の影響。そういう「影響力」を持つ人間は知識を得ることが主目的であるライブラリにはあまりいない人材なのだ。ビジネスライクへの反応が良いのも御しやすく素晴らしい。
……本人が聞けば嫌そうな顔をするだろうが。
「仕方ない。一旦この話は止めて別の話に移ろうか」
「「「はい」」」
キョージュが雑な会話になりつつある現場を取りまとめ、彼等の会議はこの後もしばらく続いた。
◆
「きっつかったぁ……!」
ゆっくりと倒れ込んでいく弓兵部隊の仇であるミノタウロスを前に、シュテルメアが勝鬨として弓を掲げる。
「弓で国は護れない、ね」
戦闘時間は30分弱。かなりの回数の【雷轟の矢】を直撃させ、【異形術】による状態異常を流し込み続け、矢を打ち込み続けたわけだが……まさかここまで体力が多いとは。厄介さはともかく体力だけであれば深海の中でも強者に君臨する者達に匹敵するのではないだろうか。
「弓で国を仇なす者を倒したんだろ。それもまた護国だ」
ミノタウロスほポリゴンへと変換され、ドロップアイテムとして矢筒と一本の矢、そしてミノタウロスの皮が残った。
「んー、とりあえず英雄の像に報告に行くかな」
【異形術】と弓での戦闘にも慣れ、レベルもそこそこ元に戻りつつある。自分のスタイルの完成も近そうだと成長の実感にニヤニヤと笑うシュテルメアは、自分が大きな陰謀に巻き込まれつつあることにまだ気づいていなかった。
・お詫び
どこかでレベル90ぐらいのシュテルメアのアクセサリースロットは6個と書きましたが、5個の間違いでした。
なんかおかしいと思ったらレベルキャップ開放してなかったです。