不倶戴天   作:雨傘なななな

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怒涛の強化パートに別れを告げる「序」

・至金の歯車・密

左手につける腕輪で、甲側に2つの噛み合った歯車が据えられており、歯車を反対の手で叩く事で効果が発動する。

「密封の琥珀」シリーズは琥珀の中に封じ込められた属性の他に封じ込められた物の危険度でクラス分けがされる。クラスは「雑」「密」「純」「災」「極」の五つに分けられるが、この琥珀に封じられた力は人のモノとしては最上級に分類される。

人の身では自然に抗うことは出来ないのだろうか。その問いに応えを見出すことこそこの歯車の回し手の役目である。

 

※特殊効果:歯車……歯車を回すことで魔法の詠唱をスキップすることができる。この効果を受けて発動した魔法は「特殊属性:至金」が追加され、対象の肉質を金へと変化させる。

 

 

 

「うん……うん……うん……?」

 

 リキャストタイム的に長時間戦闘なら複数回使えないこともないかなってぐらいの……とはいえ魔法使い的には死ぬほどありがたいんでないだろうかこの魔法。

 

 つまりあれだろ?ノータイムで【暴虐の雷獣】が撃てるってことだろ? いいのか???

 あと「特殊属性」とやらが意味不明すぎる。なんだ肉質を金に変えるって。

 

「ただこれアクセサリーか……」

 

 三日前に得た「王国弓兵部隊の矢筒」はかなり性能が高く、他の装備よりも優先されそうな雰囲気があった。……いや、【雷轟の矢】系列の魔法を使うときぐらいか……?

 それに加えてこのアクセサリーは確実に常に付けておきたいタイプのアクセサリー。そう、固定枠だ。

 残り3枠で火力調整や移動速度強化なんかをこなせ、と。

 

「きっつぅ……けどめちゃくちゃ有用……」

 

 レベルキャップ開放の方が正解だった……!それなら今頃アクセサリー枠は増えていたはずなのに……!!!

 

 と、そんなことを愚痴りながら……イムロンさん達と分かれて街を歩いていた僕は目的地であるコルトさんの店の扉を叩いた。

 理由は単純。シロミ魚さんの言葉に確かに旧知の知り合いの顔を見に行くのは良いことだと思ったのと……そろそろ弓をオーダーメイドのものに変えて良い頃だと思ったからだ。

 レベル95まではジョブを変更する気はない。そのためには店売りの中級者用の弓では火力面の不足が厳しくなってくる。

 まぁこれは建前なんだけど。

 

「おぉ! 久しぶりだな、シュテルの兄ちゃん!」

 

「お久しぶりですコルトさん」

 

 少しずつではあるが、この世界でできることは増えてきている。魔法の種類も威力も増え、外付けのブースターも手に入れ、自己強化手段もあり、切り札も隠している。

 移動系魔法と自己強化、さらに状態異常による誤魔化しを駆使すれば、既にそこそこの上澄みにいるプレイヤーにも手が届きかけていることは実感している。が、

 

「今の僕は少し……いや、かなり中途半端なビルドになっています。それをなんとかする手段を探しに来ました」

 

 これがここに来た本当の理由だ。

 コルトさんが共鳴の雷短杖を弓のような形に作ったからこそ今の僕がいる。もしかしたら……。

 

「…………なるほどな」

 

 弓に手を出したは良いものの、それらの強化は最終的に【雷轟の矢】を含めた少数の矢状の攻撃を放つ魔法にしか適応されず、その火力はそれを含めてもなお【暴虐の雷獣】に劣っている。

 【異形術】も搦め手と意表をつく手段としては強いもののそれ以上でもそれ以下でもない。

 

「ふむ……とりあえず俺が作った共鳴の雷短杖を出してみな」

 

「え? ぁあ、はい」

 

 言われるがままにイベントリから取り出した杖をコルトさんに手渡し、確認するように点検を始めた彼に相変わらずだなと思いながらも店内の武器群を眺めて待つ。

 

「────シュテルの兄ちゃんは、良い戦いをしてるよ」

 

 武器をイジったまま顔も上げずに、コルトさんが言う。

 

「なにを……」

 

「武器も喜んでるのが分かる」

 

「そう、ですか」

 

 それは良かった、と心の中でつぶやく。

 ……正直結構シリアスというか感傷的な場面だったと思うのだが、この後のコルトさんの発言は酷かった。

 

「よし、金と素材を準備してもらおう。コイツを強化できる」

 

 うん。分かってるよ。金と素材がないと武器の強化なんて出来ないよね。でもね、今は感傷的なシーンなんだよ。もうちょい空気読んで?

 

 

 

 

 

 

 さてというわけでやってまいりました、ここは、イレベンタルへの道中、前回の雷短杖作成のときにも来ました「雷蜥蜴の逃げ場」でーす!

 

 わーい嫌な思い出しかない!! 帰りにちょっとでも水晶とれたらキャッツェリアへのお土産にしよう!

 

「おっしゃやったらぁ!」

 

 ちなみに今回の指令は在庫のなくなってきたライトニングワイバーンの宝核と、そのボス格である黒いライトニングワイバーンの宝核……ではなく、その喉笛のドロップアイテムだ。

 これを採って帰った僕はコルトさんに共鳴の雷短杖を強化してもらい、過去一強い状態でルルイアスへと向かう!

 

 ちなみにジョブはメインを異形術師、サブを魔術師に戻した。よく考えたらそろそろ戻しておかないとルルイアスまでの道のりがめちゃくちゃハードになる。

 

「よしよし来たな……?」

 

 前回同様、奥まで来た獲物を狩るつもりなのだろう、ライトニングワイバーン達からは微妙に隙を見せられつつ遠巻きにされている。

 

「雷使えないからあんま攻撃手段ないんだよな……【加算詠唱】【代償詠唱】」

 

 今回使いますはー、深海の短杖による水系統の魔法。前もそうだったか。押し流して纏めてつみれにしてやるのが狙いだ。

 雷系の武器を作るには雷系のモンスターの素材が必要、道理ではあるが良くないと思う。僕は地面とか炎とかそういうモンスターの素材を持ってくるから代わりに雷の素材を持ってくる人がいてもいいのではないだろうか?

 

「レベルダウンビルドで威力の高い魔法が増えたのはありがたい話だなー、至金の歯車もあるし。というわけでぇ……【水竜の怒撃】ッ!」

 

 水でできた竜があらわれ、その波が全てを押し流すように加算と代償の力を伴って周囲のライトニングワイバーン達を襲っていく。

 

「Grrra!?!?!?!?!?!?」

 

 押し込む先は当然……

 

「水晶の蠍に正面から挑む機会だ、せいぜいがんばれ!」

 

 既に水晶に侵入する大量の水に反応した端のほうを縄張りにする水晶群蠍達がライトニングワイバーンを標的に定めている。彼等もその怖さを知っているのだろう、必死に足掻くが……

 

「非流動性海水!」

 

 起動したスキルにより水竜が固定され、その足掻き虚しく水晶群蠍が到着できるだけの時間は稼いだ。

 ポーションを飲み干しつつ、「雷蜥蜴の逃げ場」の更に奥へと駆ける。

 そこそこ生き残りはいるが近づいてこない、一番奥にいるはずの黒蜥蜴は……見つけた!

 

 他のライトニングワイバーンに比べても2周りは大きいであろう体格、強靭な筋肉、前回来たときであれば一対一でも負けていたであろうが、今は違う!

 

 更に2本のポーションと、とある……黒光りする金属を取り出して空へと投げる。

 条件達成! 奥義!

 

「【異形術・蛇】ッ!」

 

 右腕が3頭の蛇頭へと変化し、それぞれに事前に投げていたポーションと金属を喰らった。

 よっしこのポーション飲む時間短縮のために何度も練習した甲斐が出たってもんだ、行くぜ行くぜ消費アイテムブッパだ、ちと勿体ないが使い捨て魔術媒体1枚より安い!

 

「【異形術・亀竜】そんでもってぇ……【異形術・金喰らい】ッ!!」

 

 ポーションはそれぞれシータートルとワイバーンの魂を封じたもの、僕の右腕の蛇の鱗がその異形術の発動でより強靭なものへと生え変わり、その頭は凶悪なワイバーンのものへ変化する……!

 左腕には亀の甲羅がついたことでいざというときの防御手段であり、かつ杖を持つことができる。

 

 ここまでは前にも使った異形術。

 そして……

 

「近距離戦だ!!」

 

 雷が使えるならそっちのが良いんだけどなーとぼやきたい心は既に鍵をかけて締まった。

 正直僕はなんだかんだ言ってワクワクしている。異形術師の本領をしっかりと発揮するのは今日が初めてだ、デビュー戦なんだ、よろしく頼むよ黒蜥蜴!

 

 ワイバーンの力を取り込んだことにより、既に一頭一頭が僕の頭よりもデカくなった左腕の蛇が黒蜥蜴へと突進、噛みつきを行う。毒も力もある一撃、無視はできないよな!?

 

「【加算詠唱】!」

 

 気合をいれるためにも叫びつつ、無理やり竜の首を振り払ったワイバーンによる尾の叩きつけ攻撃を亀の甲羅で防御する。

 魔物を降ろす異形術は僕のステータスを参照して防御力を決める。だが、だが、【金喰らい】と併用することでその前提は変わる!

 

 僕の今の変化させた部位は取り込んだ……毒の中毒性と硬度に特性を持つ鉱石のものとなっている。ワイバーンや蛇の強靭な筋肉は既に元よりもさらに硬く、鋭い!

 

「Goa.grrrraaaa!!!!!!!!!」

 

 あまりの煩わしさに咆哮を上げた黒蜥蜴がより激しく暴れるが、既にその攻撃は意味をなさない……訳じゃなかった! 結構HP減ってるわ! しんどい!

 

「よーしよしよし、毒まみれになれ、【水毒牙】ッ!」

 

 黒蜥蜴が悲鳴を上げた、既に鉱石の毒に蛇毒に魔法による毒を喰らっている。

 ここまでポーションと鉱石を消費すればそりゃあ僕とてある程度はボス格とも戦える! その名の通り金を喰うことを除けばな!!

 

 とはいえ体力がまずい、また一本作成して置いた回復ポーションを取り出してガブ飲みしつつ、竜頭を黒蜥蜴に接近させる。明らかに怪獣バトルだ……ッ! かっこいい!

 

「この職業にだって攻撃魔法ぐらいあるんだよ……!」

 

 さぁさぁお喰らいなすって、雷属性が効かない以上これが今の僕の最大火力、ゼロ距離でしか使えない代わりに威力を得た最強の魔法!! 異形術師の魔法にも関わらず準備の必要のない稀少性!!

 

「【異形術・魂魄撃】ッ!!」

 

 ゼロ距離まで近づけられた竜頭から波動が飛び、黒蜥蜴を襲う。

 クソ職業じゃねーかやること多いんだよアタック!!!

 

 黒蜥蜴が断末魔かと思えるほどの声量の咆哮を上げ、ボスを信じて戦いの趨勢を見守っていた周囲のライトニングワイバーンが助太刀しようと寄ってき始めた。

 

 第2ラウンドだ!!!!!










異形術とは準備時間の代わりに詠唱をなくした魔法。
鉱石の名前や設定は考えていませんが、2種類以上の鉱石を自分で錬金して合金にしたものです。高い。
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