不倶戴天   作:雨傘なななな

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挨拶代わりの一撃

「ただいまわたくしシュテルメアは、深海のルルイアスに来ていまーす」

 

 えー、漂流完了ということで。

 前回のときもルルイアスの封将戦とクターニッド戦以外は全カットでしたが、今回も大胆にルルイアスに入るまでの流れを丸ごと消し去るとは!

 あの苦労……はなかったか。まぁうん。ふつーにゾンビ共を倒して幽霊船に引き込まれただけだ。

 一応まだユニークシナリオ「深淵の使徒を穿て」がまだ進行中ということだけ分かってればなんとかなる。

 

「動画サイトっぽく自己紹介してみた訳だけど……ナナさん、現在地分かる?」

 

「肯定:クリーオー・クティーラーの封塔は東の方に進めばございますの」

 

「うーん以心伝心でなにより」

 

 まぁ僕がここにきたらそちらへ向かうしかないよねというわけで、クリオネちゃんに食べられるため封塔を目指すことにする。

 ちなみにだが、ライブラリの面々にも釘をさされた通り今回は僕は全力でクターニッド攻略に取り組むつもりである。クリオネちゃんチャレンジは1日に5回まで。そういう決意を持ってここに来たわけだ。

 

「否定:正直なところライブラリの方々もシュテルメア様の寄り道は折り込み済みだと思いますわ」

 

「僕もそう思う。ライブラリの名声維持のためにも今回は強いプレイヤーを厚めに仕込んでそうだしね」

 

 さて、さっきからメタい話が多くなってしまっているが、ビジュアルが決まったことで作者が地の文を書きやすくなったらしい。

 軍帽の鍔を軽く押し上げた僕は海底というべき空を見上げる。久々の景色だ。見渡すほどの大量の腐った半魚人達に取り囲まれていることを忘れればその美しさに感動もできたことだろう。

 

「お披露目かぁ」

 

 僕が杖や職業の強化に励んでいる期間に、ナナさんも僕の戦闘スタイルにあわせた装備を他の征服人形との取引の末に獲得してきたらしい。

 片手に剣を、片手に銃を構えるその姿は様になっている。

 

「まぁ回避に意識を割かなくてもいいのは助かる。ありがとうナナさん」

 

「もちろんです……のッ!」

 

 僕に半魚人を近づけないよう立ち回ってくれるナナさんにいつも通りの感謝を込めつつ、新武器を取り出した。

 

・共鳴の雷杖弓

黒雷竜の力を得たことにより、より雷を増幅することに特化した杖。

雷系統の魔法が全てを「矢」として出力されるようになるが、その他の魔法をこの杖によって使用することが不可能になった。また、元から矢状の魔法には大幅な補正が入る。

短杖の頃から使用されていた雷竜の宝核と新たに組み込まれた黒雷竜の喉笛が反応することで弓杖に雷の弦が形成され、雷魔法を矢として放つことが可能になっている。

 

 

 外見は弦のない弓と杖を合わせたようなものだ。

 威力の上昇もありがたいが、その本質はやはり雷の魔法を矢として出力する部分。つまり、つい最近まで鍛えていた弓使いの強化魔法やスキルが雷魔法に乗るのだ。

 

 ……この武器、多分わりと新しい概念をシャンフロに作り出すと思う。だってあれだろ?「弓使いが槍を使い始めたら弓の先に刃がついた」みたいな話だろ? たしかそういう形状の弓が現実にもあったはず。名前は忘れたけれど。

 

「【加算詠唱】」

 

 さてこの杖、普通の魔法を発動する分には問題ないのだが、一つ大きな疑問点がある。それは、【エリア・サンダー】なんかの広範囲に長時間影響を及ぼす魔法がどう発現するかという話だ。

 

「正直あんまり検証は進んでない、ここで試させてもらう! 【エリア・サンダー】」

 

 杖弓に雷が装填される。発動するは魔法【衝撃の1矢】。王国弓兵部隊の矢筒の効果も受け、バチバチと音を立てる雷が撃ち出されるときを今か今かと待ち侘びている。

 同じく雷で出来た弦を引き、狙いを……定める必要ないか。できるだけ大きな範囲が巻き込まれることを祈りつつ……放った。

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

 ドン、と着弾点かれ衝撃が吹き荒れ、雷が広がる。

 強化の恩恵だろうか、前よりも範囲が明らかに広く、バチバチと音を立てる雷のフィールド内にいる10体前後の半魚人にスタンがかかっている。

 

「いやいやいやいや……」

 

「疑問提起:この威力は……いえ、任務を遂行いたしますわ」

 

「うん」

 

 なんだよ異形術ってどうするんだよこの威力出せるのにいつ使うんだよあの弱強化。あれ発動した状態で弦は引けるのか?? 本当か??

 ま、まぁね、別にね、言うても【エリア・サンダー】だし? キリキリ舞いさんがスパスパ斬ってた半魚人すら倒しきれる訳じゃないみたいだし? まぁ凄いけどぶっ壊れってほどでは? ないか??

 広範囲に影響を及ぼす魔法が仕込み矢みたくなることが分かったのは大きい。うん。

 

「つっよ……とかいってる場合じゃないか」

 

 ちょっと、いや、かなり楽しくなってきた。

 弓を持っていない手で至金の歯車・密を叩く事で、カチカチと音をたてて歯車が回った。それはつまり詠唱のスキップ、番える矢はもちろん……!

 

「【暴虐の雷獣】ッ!」

 

 バチバチと金色に輝く雷の獣が杖弓に装填された。まだ半魚人は無数にいる。全部は相手にしていられない以上、クリオネちゃんまでの道のりにいる半魚人を吹き飛ばせば良い!

 

 「共鳴」効果、【特殊エンチャント:火鳥撃】、「追撃の矢筒」、「スローダウン・アロー」、「ダーティーショット」

 ありったけをぶち込み、僕の最大火力を発現させる!

 

「喰らえッ!!」

 

 思いっきり引いた弦を離した、同時に腹の底から抉られるような雷鳴と共に獣の咆哮が響き、雷獣は半魚人共へと喰らいついた。

 半魚人達の間を駆け抜けるように、しかしその道中の全てを吹き飛ばしながら獣は進む。

 

「…………やっべー」

 

「肯定:出禁になりそうです」

 

 ……ほぼ全滅である。

 うん。威力はまぁ。これだけの強化を含めた【暴虐の雷獣】の詠唱には何分かかるか分からないほどのものなわけで、まぁ、これぐらいはしてもらわねば困るぐらいである。

 

 左手につけた歯車の宝石を擦る。そうだね。その詠唱時間を消せるこのアイテムは普通にこの世の終わりのアイテムだね。嘘じゃん……?

 ていうかコレ倒しきったからここまでの威力を持ってるのにまだ追加効果の【特殊属性:至金】発動してないんだよな……え、やっぱ嘘でしょ???

 ちなみにまだ【この一矢にありったけの勇気を】なんかの強化魔法も残っている。終わりだぁ……。

 

 バチバチと未だに帯電し……一部金になっている深海の家屋が「反転」により巻き戻し再生のように修復されていく。あ、金化も解除された。

 

「いやいやいやいやいやいや……ねぇ?」

 

 えっと……これもしかして僕強い?

 

「否定:世界にはまだ見ぬ数多の強者が存在します」

 

「そりゃそうだ」

 

 シャンフロを始めたばかりの頃に出会った何本もの剣を扱う戦士を思い出す。ああアレ剣聖か。……うーん勝てる気しない。

 避けられて剣でボコられるか至金の歯車・密を使う前にボコられるかだな。全然だ。

 

 進路上の半魚人はほぼ全滅させたとはいえ、まだまだ半魚人は残っている……いやちょっと僕と戦うのは躊躇ってるように見えるけど。ボヤボヤしている暇はないと、ナナさんの道案内についていくため走り始めた。

 

 うん、至金の歯車・密はスキップした詠唱時間の長さに応じてリキャストタイムが伸びる。それでバランス取れてるんだろうきっと。

 にしてもコレ普通の火力魔法が主な僕だからなんとかバランスとれても、習得してる魔法によってはグリッチ手段になり得るでしょ。怖。

 

 

 

 

「あれ、リベリオスさん」

 

 道中、あまり会いたくない人に出会ってしまった。

 

「…………シュテルメア君ですか。どこへ向かっている最中なんです?」

 

「クリーオー・クティーラの封塔」

 

「僕も同行しましょう」

 

「んーいらねぇ……」

 

 カチャリと音をたててリベリオスさんが剣を見せるように手をかけた後、ついつい本音の漏れた僕に心外だと言うように眉を寄せた。

 

「この剣はユニーク武器ですし、剣の腕にも自信がありますが……それでもですか?」

 

「いや別に戦わないし」

 

「???」










・補足
今話で使った強化込み【暴虐の雷獣】の威力は0.8アルマゲドンぐらいの想定です。魔力喰うのもあって本人が思っているほど多用はできません。
本当にやばいのは威力じゃなくて射程と速度。

ちなみに杖弓化の参考資料はルティアさんの剣にも刺突武器にも格闘武器にもなるトンファーブレードです。くっそかっこいい。
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