十回のノルマというか上限を早々に使い切ってしまった……。絶望に暮れつつも回数を誤魔化してもう一度封塔に入ろうとした僕をいとも簡単に制圧してみせたナナさんに引きずられて、ルルイアスのどこかへと向かっている。
いやほんとどこなんだ。ルルイアスって仲間と連絡とって封将減らしていかないといく以外にできることが少ないし、わざわざ移動する必要なさそうだけど。
……さてはクリオネちゃんから離したいだけだなこれ。
「くっ……もうちょいで捕食モーション引けそうだったのに」
「否定:最初の一回以外の全ての挑戦でそのセリフを聞きましたの」
「いやまぁ毎回迷うモーションは出せてるからね」
そこから長いんでしょうにみたいなジト目を向けられて、早々にディスカッションに負けた僕は一旦諦めて今後の方針へと思考を持って行く。
「疑問定期:今後の行動方針はいかがいたしましょうか」
「えぇ……やっぱとりあえず引っ張りだした形だったわけです」
「肯定:」
僕とナナさんだけでクターニッドに勝てるとは思っていない。いやまぁある程度戦えるようにはなったと思ってるけれど、それだけだ。
「まぁさすがにライブラリ派遣のプレイヤーと合流しないことにはなんともなんないよね」
今回はある程度グループごとに信用できる者を呼んだみたいだし(リベリオスが信用できるプレイヤーに入っているのは正直少し謎な部分だが)、味方を募るために特殊なことをしなくちゃいけないってことはない気がするんだよなぁ……と思いながら僕を引きずるナナさんの方へと顔を向けようとして、
「……! 【迸る雷律】ッ!」
パチン、と指を鳴らしてイメージを固めて【迸る雷律】を発動させる!
「ナナさん、上!!!」
「!! 了承:一旦退避行動に入りますわ!」
「おうよ!」
ナナさんの頭上、大口を開いて忍び寄っていたゾンビ鮫が小さな電撃を頭に受けて一瞬スタンした。そうだよな鮫系モンスターに電気は弱かろうが効果あるよなそのまま痺れてろ!
僕を離したナナさんが僕を蹴り飛ばしつつ彼女もその牙の先から逃れた。流石過ぎる……!
感謝の想いを飛ばしつつも手は淀みなくコンソールを開いている。今回のルルイアスは前回より忙しいなおい!
「食い合いには自信があるんだよッ!【異形術・鯨呑】!」
んが、と異形の鯨に変化した頭部がゾンビ鮫の大口よりもさらに大きく開く。
「goGA!!!?」
悲鳴とも咆哮とも取れる声。だが既に勢いはついており、自分よりも大きな口が待ち構えているとしても動き出した身体を止めることはできない。急ブレーキがゲージ技でしか存在しないことを学ぶのは水中戦の第3歩目だ!
「ちなみに一歩目は武器選びで失敗しないこと……!」
オススメは槍。
言い切ると同時にゾンビ鮫を捉えた歯を閉じる。頭部が潰れたことで悲鳴を上げることもできないゾンビ鮫が暴れるが、既にそこまで織り込み済み。
大きく開いた口に放り込んだポーションと鉱石を噛み砕きつつもその異形術の名を叫ぶ!
「【異形術・竜金喰らい】ッ!!」
普段であれば蛇化した腕のさらなる補強として使うこの異形術を、今回はより強く噛み砕くための顎として使う!
コレを実験でやったときは鯨頭の口部分のみが竜のモノに変わるキモさにナナさんと導師モドキがドン引きしていた。おいぶっ飛ばすぞ導師モドキなんでお前もドン引きしてんだアンタのせいで僕は……!!!
怒りを込めて噛み千切る……のではなく、鯨状態で口に入れた頭部よりもさらにその先の腹部に竜の牙をつきたてた。
ゾンビ鮫からポリゴンが溢れ出す。
「nnnnngx!!」
最後の足掻きの一撃、だが僕の口内は既に手持ちの鉱石の中でもトップレベルの硬度を誇る(かわりに追加効果なし)ものに変質している。
その足掻きは金属音を響かせて止まり、ゾンビ鮫の肉体はその全てをポリゴンに変えた。
「ふー……鯨呑と竜の組み合わせは中々強いんだけどなぁ」
その弱点は効果時間の短さだ。消費アイテムを使った強化であるにも関わらず1分にも満たない効果時間、さらに【金喰らい】と同時使用でなければ抵抗による雑攻撃を食らった僕のHPは軽く全損し得る。
「んんん、弓もまだ完璧とは死んでも言えない、改善点は多いな」
「否定:水中で戦うモノとしては人間種の中では上澄みではないかと思いますの」
「クターニッドに勝てるかってのが論点だから」
「………………」
「んはは、まぁそうなんだよな……最強種相手に一対一は結局しんどい」
そんな会話をしている最中……突如としてその僕の頭を掠めるように矢が飛来する。
奇襲の多い日云々以前にさすがに人間による強襲だ。一瞬、僕の脳内を前回ルルイアスで遭遇したPKプレイヤーが過ぎった。
「むしろ望むところだ……!」
あの状況を切り抜けられるぐらいの戦力を得るのが目的。ならばこの程度の連戦、軽々と対処できるようにならねば!
ナナさんの射撃方向予測に基づいて家屋に転げるように入り、壁に張り付くことで次の射撃を防ぎつつどう戦うかを決め、体勢を整える。
「報告:矢の回収には成功しました。明らかに人工物ですの」
「だろうね。とりあえず……【魔法待機】【加算詠唱】」
【エリア・サンダー】を待機させる時間を得れたのは大きい。向こうは詠唱の時間などないかもしれないが、コチラは毎矢毎矢装填に時間がかかるのだ。ノータイムで撃てる矢2本(魔法待機と至金の歯車・密)が勝利の鍵になってくる。
「ソナー起動」
「おぉ……よく考えたら初の射撃戦か……」
動画にでも撮って置けないだろうか。本職の弓使いの立ち回りの勉強になりそうだ。
対人戦なら威力は必要ないだろうと威力強化アクセサリーを一つ取り外して代わりにナナさんから手渡された通信用のアクセサリーを装備、そのナナさんのソナーが敵を捉え……、
「いやいや、嘘だろ!?!?」
「推奨:二手に分かれましょう」
ソナーによりコチラの場所が割れたせいか、僕等が潜んでいた家屋ごと吹き飛ばされた!
弓矢の威力じゃなさすぎる……ってのはどの口で言ってるんだよ案件過ぎるけれど、とはいえだろ家を一矢で吹き飛ばしてんじゃねぇよ!
「おーけー、ナナさんは移動とソナーによる探知を僕に教えてくれ! 僕は隠れつつ【ライトニング】でもぶち込む!」
「了承:提案:当機の援護射撃」
続けて二矢目が近くの残骸を吹き飛ばした。もう迷ってる暇はないか……!
「各個撃破されるぐらいなら僕だけが矢面に立つほうがマシだ! モンスターの体力相手ならともかく対人でそこまでの火力は必要ない!」
「了承:ご武運を」
「ナナさんもドジを踏まないように頼む!」
二矢目が放たれる前に家の残骸から飛び出し、ナナさんの前回のソナーにより割れた敵の位置付近を目視で探る。いーやいない。障害物まみれのこの戦場は明らかに不利、いっそ全部吹き飛ばすか……!?
「いや! 【詠唱短縮】……!」
棒立ちでは的になるだけだ。できるだけ動き回りつつ装填のはやい魔法を詠唱を始める。
『ソナー起動:座標転送』
……!
切りよく魔法の詠唱が終わり、敵の位置は僕から見て30°右、壁貫の難易度は矢と魔法で大きく違うってのをみせてやるよ!
「おーけーありがとうナナさん。【ライトニング】」
雷が杖弓に装填され、立ち止まる……前にポーションを3つ取り出した。
「【異形術・蛇】!」
杖弓を持たない手が蛇のそれに代わり、いつも通りの動きで他2つを飲み込んだ。
「もいっちょ【異形術・竜亀】」
左腕が甲羅状の盾に異形化し、蛇はより強靭になった。
竜頭の内二つで杖弓を構えさせ、真ん中の竜頭て弦を引く。矢が雷で当てるのがまだ簡単だからこそできる曲芸射撃。練習回数0回ぶっつけ本番だがここでアドバンテージを稼ぐ!!!
弓を持っていない手を盾に変えたことで、イベントリから取り出した深海の短杖を持っていることはバレていないはず、小声での詠唱開始と共に竜頭が引き絞った雷を放ち、家屋にある塀裏に潜む敵を撃ち抜いた。
同時に飛来した矢を甲羅で防ぎつつ状況確認、いや予感がするこれは倒せていない。
魔法待機解除の手札をここで切る、というかもうこれと次の魔法で決着をつける!
仕込み矢もどきの【エリア・サンダー】が装填され、雷が直撃したことでできた砂煙より少し右に雷フィールドを作製することで次の動きを左側への移動に絞る!
予想通り生きていたらしく、大量の矢が飛来した。
ナナさんから送られてきたソナー結果もまだ敵が生きていると伝えているがそれよりもこの矢をどう凌ぐか……!
詠唱中である以上、追加の異形術は使えない。速度の追加も防御の強化も不可。
というわけで【爆水】起動、後方へ吹き飛ばされるように移動することで敵が放った雨のような矢は地を貫き、コチラ側の隠し札である水系統の魔法が発現する。
「【水竜の怒撃】!!」
威力よりも範囲にリソースを割り振ったこの魔法は、そこそこの範囲の瓦礫や煙幕代わりの砂埃を押し流す! 先程レーダーに写った存在を貫いたにも関わらず、未だ敵が生きている理由を解明しなければ勝機はない……!
「……!」
深海の短杖をイベントリに仕舞い、代わりに取り出すのは更なる異形術用のポーション。
家屋も敵も全て押し流された先、2体のゾンビ化したモンスターと1人の……人なのかモンスターなのか分からない存在が弓を構えている。
人と……タツノオトシゴを合成したみたいな?
「やっと顔を拝めたな……! 【異形術・金喰らい】!」
甲羅盾で急所を守りつつ、竜頭を伸ばして弓を使うことの牽制、敵が放った矢は甲羅盾に弾かれて地に落ちた、
「ぶっ飛ばしてやるよ、【加算詠唱】!」
僕が魔法の詠唱を開始すると同時にタツノオトシゴ男がマントを閃かせ、手品かのように消えた。
「おい嘘だろ……!?」
視界の端になにかが写った。盾で防ごうとするが逆側!
おいコレ位置取りわざとだろ上手いな殺し慣れすぎてる!!
「海の化身、殺してやる……!!!」
またお前かよ、と海の化身を呪う暇もない。
竜頭の一つが切り落とされ、翡翠色に輝く剣が海の流れを乗せて転がりながら甲羅盾を構える僕に襲いかかった。