「おいそれいくらすると思ってんだ!」
【異形術・金喰らい】の防御力が乗っているはずの竜頭が翡翠色の剣に軽々と切り落とされた。亀の甲羅盾もそうだが異形化した部位が僕のHPとは別枠でカウントされるのがあまりにもありがたい。
「くっそ……ッ!」
【爆水】起動……のモーションは既に見せた、ここまで熟練の狩人ならばこれだけで何の動きをするのか察するだろうという予想に賭けて、起動モーションだけに留めて一歩さらに前へ踏み出す。
「!!!」
「っし!」
【爆水】に追い縋ろうと向こうも一歩踏み込んでいたことで剣と僕の身体がすれ違った、前衛職に魔法職が1合切り抜けただけでも僥倖! さぁ次の動きを予想してみろ!
振り向きざまの【爆水】起動モーション! タツノオトシゴ男の、【爆水】に合わせるべきかそれをブラフとした動きに合わせるべきかの逡巡を利用してさらに一歩後ろへ、前衛のステータスならばこの程度の間合いあってないようなもの、だがここまで引けば……!
「切り札一つ目!」
異形術用のポーションを取り出す、瞬間取り出された弓に撃ち落とされた、おいこれも高いんだぞという怒りを一旦横に置き、さらに一歩下がる、弓を手にしている以上僕がより距離を置こうとする動作を咎めないという予想は外れ、弓を手放したタツノオトシゴ男が矢筒から引き抜いた矢を投擲する。
「いや、おい、クソッ!」
甲羅盾は辛うじて間に合い、だがそのモーションは致命傷。剣の間合いに再び入られ、いつの間にか手にしていた翡翠色の剣が振り上げられる。
「一族の仇……!」
「感情を出した時点で暗殺者としては不合格なんだよ!」
剣の間合いで僕にできることがなにもないとでも!?
顔を歪めたタツノオトシゴ男の剣が迫りくるのを左腕の盾で防いだ。甲羅は限界を迎えて弾けて生身の腕が露出する。弾かれた剣が一瞬宙を泳いでいる、次撃の準備ができるまでの一瞬が僕のターンだ!
盾があるかのように構えた右腕に掠らせるように拳を突き出し……ッ!
「喰らっとけ、【異形術・魂魄撃】ッ!!」
これも見たことないだろという叫びを心に貯めながら放ったこの一撃はタツノオトシゴ男の腹に直撃した。
クソがッ! ここまでしてなお倒しきれていない、吹き飛ばしたことで距離こそ空いたものの、もう弓を構えてやがる。優秀過ぎる!
……だが!
「歯車が周る音は聞こえなかっただろうなぁ!?【轟雷の矢】ッ!」
腕をかすらせたときに起動してたんだよ!
こちらも構えた杖弓に雷を装填したものの本命はそちらではなく追加で起動したスキル「追撃の矢筒」!
引き絞られた弦から同時に矢が放たれた。威力はどう見てもコチラの方が上! 次の行動への余裕は僕が貰う!
放つ前から明らかだったその威力差に、タツノオトシゴ男がすぐさま弓を捨てて剣を持ち、コチラへと距離を詰めようとしているが、【轟雷の矢】の後ろを飛ぶ数多の矢がそれを許さない。
【轟雷の矢】を避けての追撃から、後方へ下がることによる退避行動へ切り替えた。おいおい剣の間合いからまた遠ざかったぞ!良いのか!?
異形術ポーション使用!!!! さっき見せ損ねた切り札を見せてやるよ!
「アドバンテージ! 【詠唱短縮】!!」
威力ではコチラが勝っているものの、それが上手く決まっていないせいで詰め切らない。向こうは近接が上手く行かず詰め切っていない。
さらにまだ見せていなかった【轟雷の矢】と至金の歯車・密の「特殊状態:金化」のかけ合わせにより範囲を見誤ったタツノオトシゴ男の左腕が金化した、右に逸らせば剣も封じれていたのは痛いがそれでも弓は引けないだろ!
「【ライトニング】!」
装填された雷を速射、スキル「ダーティーアロー」起動! 状態異常中の敵への火力上昇、しかしその雷はタツノオトシゴ男が展開した海の歪に阻まれた。雷の余波まで含めて完全無効とかクソ技……いやここまで温存するあたり回数制限あり系のはず、ここは畳み掛けて枯らすべき場面だろッ!
「おいおいおいこれも初見か!? 【異形術・」
近接能力と遠距離能力を掛け持ちしたせいか、タツノオトシゴ男に搦め手はもう少ない、はず!
対してコチラは残りの隠し札まで搦め手ばっかだ。導師モドキめ!!!
先程飲んでおいた切り札その1の異形術用ポーションを用いて、魔法を……
「深淵覗き】!!!!!」
起動!
金化により腕の重量を突然増やされたことで失速していたタツノオトシゴ男のステータスが下がり、その速度は更に落ちる。
おいおい僕はその間に詠唱するけど!?
「急げよな、僕は冤罪に厳しいんだよッ!」
「知るかよ! 父様と母様を返せ!!!」
あーね。誤解を解きたい所だが、この状況ではコイツを制圧するか僕が死ぬかだ。別にリスポーンしても問題はないが、負け癖をつけたくない。
だがあいにく手加減とか言いながら勝てる存在じゃあない。全力で峰打ちしなくては!
「後悔しろよその選択……!」
「クソッ、【衝撃の一矢】」
「はぁ……!?」
聞き手とは言え投擲に弓矢に使う魔法を乗せる気かよ、人のこと言えないけどそれは曲芸だろ!!
パン、とどこからか銃声が響いて投げる直前のタツノオトシゴ男の手からポリゴンが上がった。ナイス援護射撃ナナさん!!!
『肯定:後で直接褒めていただきますわね』
「もちろんだ! 【加算詠唱】!!」
再び手品かのようにタツノオトシゴ男の姿が視界から消える。金化はともかく【深淵覗き】は消えた! くっそせっかくデバフ漬けにしたのに……ッ!
速さと瞬きの隙でも利用したなんらかの「技術」だと思った僕が馬鹿だった! ここまでの遠近両立に暗殺者ビルドまでとは……!
だが既に詠唱は始めた、消えるのを確認したナナさんがソナーを撃ちつつ退避行動を始めた。後衛が狙われる可能性がある以上最適解、伝えられたソナー情報には一瞬ナナさんへと詰めようとしてコチラを狙い直す動きを確認……!?!?!? おいお前それもお前の仕業かよ……!
ゾンビ鮫3体による僕への強襲!!!
あのタツノオトシゴ男、基礎の硬さのわりに多芸過ぎる!!
「【ライトニング】!!!」
杖弓に番えた雷を即発射、3体とも一瞬のスタンが入った。ここで逃がしたらコレ以降常に襲撃に怯えることになる。そうはさせない!
ゾンビ鮫のスタン時間を利用して再び異形術の蛇、竜、亀を起動。
「g.g.g.Gaaaa!!!!!!!」
「クソッ、【魔法待機】」
竜頭が襲い来るゾンビ鮫に絡み付き噛みつく。雷はともかく毒はあんま効果なさげだと判断した僕に再び放たれたソナー情報が伝達されると同時、僕へと躍りかかったゾンビ鮫を貫いて矢が飛来した。
なんとか盾で弾いたが、なんらかの魔法の効果が乗っていたらしく吹き飛ばされる。おいクソどこにこれだけのリソースがあるんだよ!!
「あっっっb……ッ!!!!」
急いで顔を上げれば降り注ぐ矢、どれがどういう効果を持てっいるかも分からない矢を避けない訳にも行かないため、最後の【爆水】ストックを使い後ろへと飛ぶことで回避。
だがもうすぐ次のストックは貯まる上これは装備しているだけでタツノオトシゴ男の動きを限定できる、アクセサリーは変更することなく、なんとか【魔法待機】に【エリア・サンダー】をセット完了した。
もはや偶々詠唱が途切れなかっただけだが僥倖!
タツノオトシゴ男の矢をフレンドリーアタックを食らったことで瀕死だったゾンビ鮫を手早く処理し終えた竜頭に弓を加えさせつつ、甲羅盾の下でポーションを飲むモーションを見せる!
「はいきたぁ!」
先程の雨のような矢による面制圧ではなくポーションの破壊に狙いを絞った一矢!
どうやって金化を治したか分からないのは痛いが、ポーションを割られる代わりに方向の把握に成功した。
表面上はダメージなし、状態異常なし、異形化の僕に有利だが、その実態は真逆だ。
基礎の上にある程度の搦め手と言った感じのタツノオトシゴ男に対して僕は搦め手の上に搦め手が立っている。つまり……まぁ簡単に言うとそろそろ新しい手札が切れる。
その上僕は今即座に出せる攻撃手段、防御手段が極端に少ない。基礎力での戦いになれば確実に負けるだろう。
至金の歯車・密で倒しきれなかったのが悔やまれる。
「…………【詠唱短縮】」
勝てるか?という不安は口に出さず、長文詠唱へと入った。次の一撃で決められなければ実質負けだろう。ナナさんがソナー後の動きを僕への一矢から予測して援護射撃をし続けてくれている。
『肯定:シュテルメア様から見て右方向へと誘導しておりますの。それと、【暴虐の雷獣】を構えた時点で最後のソナーを撃ちますわ』
ソナー機能って消費アイテムなんだ……?
「───蒼穹よ陰れ、暗天に嗤え、轟々たる喝采はなお及ばず、其は天より下る裁きの鉄槌」
先程までの激戦が嘘かのように単発の銃声だけが響き渡る世界で、当然詠唱文を読み上げるシュテルメアの声はタツノオトシゴの魚人族にも届いている。
……最後の攻防が始まろうとしていた。
いつの間にやら総合ポイントが900を超えていました。大変嬉しい限りです。
今後も頑張って投稿していきますので、よろしくお願いします。